ビーストの更なる被害者(5シーン目、ディオーネ)
GM(NOVA)「さて、みなさんがそれぞれビーストの調査を開始した日の夜、ビーストの更なる被害者が出ることになりました。シーンプレイヤーはディオーネさんですが、その夜、シスター瑠璃伽と話をつけようってことになってます」
ディオーネ(ダイアンナ)「シスター瑠璃伽と話している間に、新たなビースト事件が発生するってことか」
GM「とりあえず、『更なる被害者チャート』を振って下さい」
ディオーネ「あまり、被害は大きくない方がいいんだが……1」
ディオーネ「2の5だと?」
GM「蒼き星のマーリン……ですね」
アキラ(晶華)「マーリンさんは私のコネで、魔法の訓練をしてくれた師匠に当たります。もしかして師匠がビーストに殺されるの?」
GM「それはない。ええと、ビーストが街の人を襲撃しようとしていたところに、マーリンさんが割って入る。激闘の末に、ビーストは撤退。マーリンさんも痛手を負って、これ以上の干渉はできなくなったというところでしょうか」
ディオーネ「そこに、あたしが駆けつけたってことだな。マーリンとは顔見知りってことでいいかな」
GM「コネでないから、特別に親しいってわけではありませんが、魔術に携わる以上は、その世界の有名人であるマーリンのことは普通に知っているでしょうね。ええと、特撮ヒーロー好きが円谷英二や石ノ森章太郎の名前を知らなかったら、おかしいレベル? 基礎教養の部類だと思う」
ディオーネ「若すぎると、知らないってことも有り得るけどね。少なくとも、あたしは八手三郎の名前は知っているが、顔は知らないほどのニワカだ」
GM「八手三郎の顔なんて、俺だって知らねえよ。とっさに、そのネタが出て来る辺り、十分マニアックじゃないか。まあ、初代の八手三郎は、故・平山亨プロデューサーのペンネームだったらしいが」
ユイ(翔花)「平山亨さんって?」
GM「漫画原作者の石ノ森章太郎さんに並んで、特撮ヒーローの仮面ライダーの生みの親と称される偉人だな。そもそもの企画主と言ってもいい。仮面ライダー1号・本郷猛が役者の事故が原因で一時降板、作品世界で殺されそうになったところを、『子供たちの夢であるヒーローを殺してはならない』と断固主張して、外国に行ったという設定に切り替えて、2号ライダーとの交代劇、そしてWライダーの登場から後のシリーズ化につながる歴史を紡ぎ上げた功労者と言ってもいい。
「原作マンガでは死んで、庵野さんのシン映画でもそちらを採用されて散ることになった本郷猛だが、TVのシリーズで健在なのは、平山さんのおかげなんだろうな。とにかく、昭和の東映特撮ヒーローの立役者と言ってもいい」
GM「エンディングの最初に名前が挙がるのが平山さんで、OPの作詞が原作者の石ノ森さんなのに対し、EDの作詞の八手三郎は平山さんだそうだ。すると、バロム1の作詞も平山さんになるのかな」
ニック(ヒノキ)「新兄さん、特撮ヒーロー話に脱線したい気持ちは分かるが、今はTRPGのGMに専念しないか。ビーストと戦って深手を負ったマーリンがどうなったんじゃ?」
GM「ああ、そうだった。ええと、マーリンは深手を負ったので、やむなく外国へ旅立つことになり、能葉市の平和はマーリン2号こと神名アキラに託したってことだな」
アキラ「弟子だけど、2号じゃないし。あっ、花粉症ガール2号なのは、その通りだけど」
ディオーネ「大体、これはアキラちゃんじゃなくて、あたしのシーンだ。マーリンさんと話しているのは、あたしってことで、『しっかりしろ、マーリン。あんたほどの人がそれほどの傷を負うとは、ビーストの戦闘能力は侮れんな』と助け起こす」
マーリン『おお、そなたは確かブライアンの弟子か。ブランシュタード家の当主じゃったな。アキラのことをよろしく頼む(ガクッ)』
GM「そう言って、マーリンは煙のように消えた。本人ではなく、幻影で作られた分体だったようだ」
ディオーネ「そうなのか。紛らわしいマネをしてからに」
瑠璃伽『全くです』
ディオーネ「うわっ、瑠璃伽。お前もいたのか」
瑠璃伽『ええ。蒼き星の異名を持つ大魔術師の力がどれ程のものか観察させてもらいましたが、所詮は分体。ビーストを抑える程度のことしかできなかったようですね。まあ、おかげで彼の監視の目は届かなくなった。これはチャンスです』
ディオーネ「お前、何をするつもりなんだ?」
瑠璃伽『もちろん、ビーストを捕獲して、実験材料にするつもりですよ。そのためにも、ビーストの潜伏場所を知っている娘さん、ええと名前は如月今日子さんでしたわね。引き渡してくれませんか? それで、あなたへの貸しはチャラにして差し上げます』
ディオーネ「お前が欲しいのは情報であって、彼女の身柄ではないはずだろう? 情報を聞き出すのは、あたしたちに任せてくれないか?」
瑠璃伽『任せてよろしいのですか? わたくしが捕獲する前に、あなたたちが退治に動いたりはしないという保証は?』
ディオーネ「う〜ん、保証はできないが、今はただ信じてくれ、としか言いようがない」
GM「では、瑠璃伽の信用を得られたかどうか、情報収集判定を行いますか」
ディオーネ「【理知】5に……(コロコロ)出目8だから13だな。目標値は15だったか。あと2点、何とかならないかな」
GM「なりますよ。財産ポイントを支払うことで、情報収集にボーナスが得られます」
ディオーネ「財産ポイントは3あるので、2払って判定を成功させる。そうだな、ブランシュタード家に伝わる宝石を信頼の担保に差し出すとしよう。これがあたしの誠意の証だ。我が家名にかけて、こちらの得た情報は必ず伝える」
GM「だったら、プライズチャートをどうぞ」
ディオーネ「2」
GM「人間への復讐がビーストの目的ということで、プライズポイントをD6点獲得して下さい」
ディオーネ「1。これで合計10か。あと4点必要と」
GM「では、瑠璃伽さんが少しだけ、情報を補完してくれます。如月今日子は一般人だが、彼女の父親がFC社の社員だった。そして、今回のビースト事件で、ビーストがFC社から脱走する際に、最初に殺害された研究員の一人でもある。その研究内容は極秘だけど、もしかすると日記か何かを残しているかもしれない。その日記を娘が入手したのではないか?」
ディオーネ「なるほど。如月今日子の親の遺した日記か」
GM「今、思いついたアドリブなんだけどな。ええと、父親の名前はランダム表を振って、タケシ。よし、如月猛だな。IQ600の天才で……」
ニック「いきなり、キャラ立ちさせるな」
GM「しかし、如月猛は改造人間でもないし、クエスターでもないので、IQ600の天才頭脳も虚しく、ビーストに敢えなく殺されてしまったのだった。惜しい男を亡くしたものだ」
ディオーネ「それにしても、IQ600の男の書いた研究日誌か。ビースト事件に関係なくても、貴重な研究データがいっぱい書いてあるのだろうな」
GM「研究日誌じゃなくて、個人的な日記だろうな、家にあるのは。さすがに研究データの書かれた資料は自宅に持ち帰ったりしないだろう」
アキラ「遺品整理のときに、その日記を読んだキサキョンがビーストのことを知って、いろいろ思い当たることがあって、調査を開始したってこと?」
GM「まあ、そんな感じに話をつなげてみたってことで、次のシーンに行こう」
狙われたキサキョン(6シーン目、アキラ)
GM「ええと、プレイヤー4人各人のシーンが一巡したので、次は最も登場回数の少ないキャラのシーンってことだが、アキラになるな」
アキラ「どんなシーン?」
GM「さあ。いろいろ考えられることはあるが、とりあえず、イベントチャートを振ってから決めようか」
アキラ「4」
GM「また、トラブルかよ。どんなトラブルか、D6だ」
アキラ「2」
GM「また、マーセナリィチーム? 警察が動いているのかな」
アキラ「いいえ。キサキョンを狙う悪の組織の戦闘員が彼女の自宅を襲撃する。そんなこともあろうか、と見張りに就いていた私が華麗にザコを退治して、キサキョンの信頼を得て、秘密を教えてもらうシーンってことで」
GM「悪の組織の戦闘員って、ええと、じゃあ、悪の狐ナインライブズ一族の手先ってことにしよう。ビーストの秘密を狙っているのは、シスター瑠璃伽だけではなかったってことだな」
アキラ「昼間のシスターとの遭遇の後、私は体調を崩したキサキョンを家まで送りました。ただ、虫の予感がして、キサキョンの護衛が必要と判断したわけです。すると、案の定、その夜、襲撃があったのでバトルする」
ユイ「そういうことだったら、わたしも登場する。登場判定は成功」
ニック「ワタシも成功です」
ディオーネ「あたしはその時間、マーリン(分体)や瑠璃伽と絡んでいたので、登場しない。まあ、味方がピンチになったら、真打ちらしく遅れて駆けつけるってことで」
GM「じゃあ、お試し戦闘をしてみるか。ええと、敵の種類は(ルールブックを見ながら)マーセナリィリーダーが1体、配下のマーセナリィチームが10人ってところだな」
アキラ「ちょっと、数が多すぎない?」
GM「マーセナリィチームは、10人まとめて1つのデータのモブとして扱う。つまり、ゲーム的にはリーダーとザコ集団の2体という形だな。それじゃあ、如月家の外で、謎の戦闘員が出現し、見張りに立っていた君たちと交戦することになった」
ユイ「結界を張ったら、全員無力化されましたってことはない?」
GM「そこまでのザコじゃないだろう。ええと、結界を無効化するアイテム、〈狐のお札〉みたいなものを持っていて、すでに対策済みということにしよう。それと、敵の工作員を殺害してしまうのは物騒なので、HP0は重傷を負って戦闘不能。後の始末は、君たちを支援してくれるFC社のエージェントが取り計らってくれるので、気にしなくてもいいってことで」
ニック「ファンタジー世界と違って、現代社会だと敵の遺体を放置するのは問題が大きいからのう」
アキラ「では、戦闘開始ね。何から決めるの?」
GM「敵味方の配置と、行動順だな。分かりやすく、敵集団は1エンゲージで、味方も1エンゲージでいいだろう。その距離は10メートルってことで」
ユイ「エンゲージが固まっていると、範囲攻撃の対象ってことね。相手の範囲攻撃の的にならないためには、エンゲージを分けるといい、と」
ニック「ただ、味方の範囲支援やカバーリングを受ける際も、同一エンゲージが条件ってケースもあるし、仲間の能力に応じて考えないといけません」
GM「では、イニシアチブプロセスだ。【行動値】の順に行動することになる」
1.ニック(13)
2.アキラ(10)
3.ユイ(9)
4.敵リーダー(9)
5.敵チーム(8)
ニック「できれば、アキラの支援をもらってから行動したいところだが、待機を宣言すると、行動がラウンドの最後に回されるから、先に動くとしよう。マイナーアクションで《タイプ:ビッグボディ》に変形し、バトルフォームのロボ形態になる。そして驚いた敵集団にメジャーアクションで《奇襲攻撃》じゃ。範囲攻撃のできる銃火器ブレイクガンを乱射し、命中は(コロコロ)12。低いので、オートアクションで《マインドロック》。未来の記憶から敵の動きを先読みして、よし、命中18。どうじゃ?」
GM「回避は……リーダー15、チームは16で、どちらも当たりました」
ニック「うむ。《マインドロック》を使って正解だったようじゃ。まあ、この攻撃でMPを一気に9点も使ったので、残り5点しかないのじゃがな。後で回復しなければ」
GM「ダメージをお願いします」
ニック「ヒヒヒ。ダメージは《奇襲攻撃》の効果で+2Dされるのじゃ。リーダーに14ダメージ、チームに18ダメージと言ったところじゃのう」
GM「ええと、銃弾のダメージ属性は〈殴〉ですね。すると、リーダーは8点くらって、まだまだ元気。チームの雑魚は13ダメージくらって、残り2体が動けるといったところで」
アキラ「だったら、そのザコに《ファイアアロー》を撃ちます。(コロコロ)魔導18だけど、抵抗できる?」
GM「抵抗3のザコに無理難題を。6ゾロのクリティカルなら成功だけど……出目5なので失敗」
アキラ「ダメージは7点ね」
GM「はい、ザコはそれで全滅しました。残りはリーダーだけですね」
ユイ「じゃあ、リーダーさんはわたしが始末してあげる。マイナーアクションで《ルーンメタル》を召喚。輝く鎧を身にまとうや、たちまち敵のエンゲージに飛び込んで、鋭い刃のブレイドルーンでざっくり切り裂きます。命中は16」
GM「回避は12で失敗。『バカな。このような場所に、ルーンナイトがいるとは聞いてないぞ。ただの一般人の少女を拉致するだけの簡単な任務だったはず。それなのに、どうしてロボットとか、ルーンナイトが出現するのだ!?』と、うろたえていますね。ダメージを下さい」
ユイ「《猛攻》で1D6を加えて、合計19点」
GM「〈斬〉ダメージだったら、7点減らして、12点受けた。累積20点かあ。HPが残り少ないので、ここは撤退を宣言しよう。チーム全員、リーダーの命令に従って撤収します。一応、統制のとれた工作員なので」
ユイ「奈落じゃないなら、撤収させましょう」
ニック「ただ、FC社に連絡をとって、キサキョンの護衛をお願いした方が良さそうです。ワタシたちがずっと張りついているわけにもいかないでしょうし、組織には組織で対抗するのが一番です」
ユイ「うん。ブラックロータスさんに、その辺の手配はお任せしましょう。その際に、キサキョンのお父さんの猛さんが、FC社の元社員で、ビーストに殺された犠牲者の一人だって、教えてもらっていいかしら?」
GM「じゃあ、ブラックロータスさんが教えてくれました。ビーストの件と、如月今日子に関わりがあるという話は、彼には盲点だったようですね。だけど、シスター瑠璃伽や、ナインライブズといった連中に狙われているとなれば、放置はできないでしょう」
アキラ「イベントが終わったので、情報収集判定していい?」
GM「どうぞ」
アキラ「(コロコロ)12で失敗。こうなったら、加護《ミューズ》の力で、寝ているキサキョンを夢遊病状態にして、知っていることを洗いざらい吐かせます」
GM「ちょっと、いきなり何を言い出すんだ?」
アキラ「加護の力で、それぐらいできるでしょう? 《ミューズ》の説明を読むと、『対象がエキストラ、もしくはモブの場合はそのシナリオの終了まであなたの命令にしたがわせる。対象はあなたの命令ならば、どのような内容でもしたがう』って書いてあるし、キサキョンがビーストの居場所を知っているなら、直接聞いた方が早いはず」
GM「親友相手に催眠術を使って、情報を得ようだなんて、俺の美学には反する」
アキラ「私の美学には反しない。だって、親友でしょ? 私がお願いしたら、何でも言うことを聞いてくれるのが当然じゃない? そういう献身的な友愛こそ美しいって思うんだけど」
GM「お前は相手の言うことを何でも聞いてあげるのか?」
アキラ「事と場合によるわね。いくら親友の頼みだからって、お姉ちゃんやNOVAちゃんの命を奪えなんて言われたら、親友の縁を喜んで切るわ。大切な何かを傷つけるような者は、到底、親友とは言えないから」
GM「うむ。親友云々を口にするなら、相手の話のツボや逆麟になりそうなことぐらい把握しておけってことだな」
アキラ「とにかく、キサキョンを助けて、守るのが私の使命。そのためにキサキョンの抱えている秘密が必要なら、本人の知らない間に、こっそり聞きとって、本人が気づく前にきれいに事件解決してあげるのが、私のクエスターとしての誠意なの。無理やり話を聞き出すよりも、ミュージックセラピーみたいに、イヤなことを感じぬままに苦痛を取り除く。いわゆる催眠療法って奴ね。人は全ての真実に耐えられるほど心が強くない。ましてや、主人公でもない脇役キャラなら、夜寝て起きたら悩みや悲しみが吹っ切れていたってぐらいが望ましい」
GM「そこまで力説されたなら、仕方ない。情報収集に成功したってことで、プライズポイントを決めるといい。4以上を出したなら、ビーストの居場所が分かって、ミドルフェイズが終了ってことにしよう」
アキラ「1。ダメ、失敗」
GM「累積ポイントは11点。あと3点必要だな。次の7シーン目は、もう一度、更なる被害者だ」
如月博士の日記(7シーン目、ディオーネ)
GM「次のシーンプレイヤーは誰がいいかな? 登場シーンが少ないのはディオーネなんだが」
ディオーネ「犠牲者が出るんだろう? あたしにいい考えがある。とりあえず、全員、あたしの屋敷に集まって、情報交換と行こうじゃないか」
アキラ「それは反対します。ディオーネさんの屋敷だとMP回復効果がないから、隣の私の家の方がいいです」
ディオーネ「ゴミ屋敷で散らかっているから、客は入れたくないんじゃなかったのか?」
アキラ「フッ、それは前日の話。一夜明けると、あら不思議。我が家はきちんと整理されて、すっきり整頓、きれいな佇まいになっていました」
ユイ「どういう魔法を使ったの?」
アキラ「我が家の雑然たる有り様を見兼ねた隣の屋敷の執事とメイドさんがやって来て、てきぱきと片付けてくれたのです。持つべきは優秀な執事とメイドさんね。アトスさんと、リベルタさんだっけ。2人に感謝の言葉を捧げるわ」
ディオーネ「人の屋敷の執事とメイドを勝手に使うなよな」
アキラ「私に協力してくれたら、親友で、今はシナリオが終わるまで私の頼みを何でも聞いてくれるキサキョンに頼んで、お父さんの日記を読ませてあげる。これをコピーして、瑠璃伽さんに送ってあげたら、あなたのクエストも達成できるのでしょ?」
ディオーネ「うっ、その誘惑には抗いにくい。さすがはミューズの加護を持つアーティストだ。その言葉は魔性の響きを伴い、我が心を魅惑する。アッキー様の仰せのままに」
GM「おおい、シーンプレイヤーはディオーネのはずなんだが?」
ディオーネ「あ、そうだった。それで被害者なんだが、ビーストを追っているシスター瑠璃伽が返り討ちにあったということで、どうだろうか? 表の中には、『シーンプレイヤーの大切な人』とか『シーンプレイヤーの任意』というのがあって、ダイスでランダムに振ってもいいし、自由に選んでもいいそうじゃないか。ここは、瑠璃伽に犠牲になってもらって、あたしは彼女への借りを返すために仇討ちを頑張ることで、クエスト達成という方向でどうだろうか?」
ニック「アキラといい、ディオーネといい、何だか腹黒いプレイに走っておらぬか?」
ディオーネ「クレバーな知恵と言ってもらいたいものだな。返さなければいけない借りがあっても、相手が不可抗力で死んだ場合は返さなくても済むという天才的な処世術だ」
GM「それは一つの真理かもしれないが、そんなことを公言している輩に喜んで貸してくれる友だちはいなくなるだろうな」
ディオーネ「とにかく、アキラちゃんの家に全員集まって、情報交換したいんだけど、この日は学校に行かないといけないんだよな」
GM「いや、昨日は土曜日、今日は日曜ということにしよう」
ユイ「だったら、ニチアサ。プリキュアとライダーと戦隊を見ないと。動き出すのはそれからってことで」
GM「この世界(ブルースフィア)にある玩具会社は、バンダイではなくて、サジッタ社みたいだから、ニチアサもそのままじゃないと思うが、似たようなヒーロー番組はやってるんだろうなあ」
ディオーネ「では、ニチアサ後に作戦会議を行いたい」
アキラ「はい。昨夜、キサキョンの家が襲撃されました。ディオーネ先生とは連絡がとれなかったんだけど、敵と結託してるんじゃないでしょうね」
ディオーネ「どうして、あたしが疑われるんだ?」
ユイ「豊城瑠璃伽って闇のシスターと結託している、とブラックロータスさんが教えてくれました」
ディオーネ「誤解があるみたいだな。結託ではなく、情報収集しながら牽制しているんだ。そういうブラックロータスこそ、キサキョンの父親がビーストの犠牲者だって隠していたそうじゃないか。動きが怪しいのはFC社だって似たようなものだ。それよりも大切なのは、如月猛の日記だ。IQ600の天才科学者の書いた日記に、ビーストに関する手掛かりがあるそうなので、至急、それを手に入れないといけない」
アキラ「『キサキョン、日記は持ってる?』と私が声を掛けると、物陰から虚ろな目をしたキサキョンが『はい、アキラ様。大切な物なので肌身離さず持っています』と言って、差し出してくれる。その動きはまるで操り人形のようにぎこちない」
GM「おいおい。完全に洗脳されているじゃないか?」
アキラ「事件が解決するまで、夢遊病状態でいてもらうわ。協力してもらうにしても、クエスターの正体を明かす気はないし、説明がややこしくなる」
GM「いや、俺は大事な友達だから秘密を明かして、以後、協力者になってもらうつもりでいたんだが?」
アキラ「大事な友達だからこそ、危険な秘密には近寄らせたくないの。大体、学園新聞部のお喋りな友人なんだから、クエスターの秘密を黙ってくれる保証はない。私の平和なJKライフのためにも、キサキョンに深入りさせるわけにはいかないの」
GM「じゃあ、キサキョンは事件の記憶を消される方向で処置されるってことか」
アキラ「魔術師連盟だったら、そうするように勧告するはずよね。キサキョンがクエスターに覚醒するのならともかく、一般人が知りすぎるのは危険が大きい、と私は自分の経験から熱く語ります」
ディオーネ「IQ600の天才科学者の娘だから、いつクエスターに覚醒しても不思議じゃない素養は秘めていると思うが」
アキラ「だけど、それは今回のシナリオじゃない。続きの話があるなら、キサキョンが常連NPCになるかもしれないし、場合によってはプレイヤーキャラになるかもしれないけど、今回はキサキョンをこれ以上、巻き込みたくない。さっさと、日記の内容を解読して、ビーストを倒しに行きましょう。はい、ディオーネ先生、日記の解読をお願いね」
ディオーネ「お、おお。先生に任せるんだ。日記を受けとって、ディレッタントの博識を利用して、ビーストの謎を探るぞ。(コロコロ)出目12。完璧だ。ビーストの居場所の見当はついた」
GM「それで完璧かどうかは、プライズポイントで決まる。D6で3以上を出せたなら、クライマックスフェイズに突入できるようになるぞ」
ディオーネ「よし、6出た」
ニック「ほう、なかなかやるではないか、ダイアンナ。そのダイス運を、うちのゲンブに分けてもらいたいものじゃ」
GM「では、ビーストに関する情報を整理すると、元々はナインライブズの研究班が開発した人体実験の産物だったんです。それが脱走して暴れたので、クエスターに退治された。しかし、驚異の生命力で復活し、FC社に確保されたわけですな。FC社はビーストを殺害する方法、もしくは元の人間に戻す方法を見つけるために、如月博士を中心に研究したんだけど、結局、凶暴なビーストに研究施設を破壊されて逃げられた。そして、如月博士の日記には、ビーストの生態や弱点についても細かく記載されています」
アキラ「ちょっと待って。自宅にある日記でしょ? そこまで詳しく書いてあるの?」
GM「事実と言うより小説っぽくアレンジされた文体で、背景事情を知らない者が読めば、ただのフィクションに見えるんだろうけど、ディオーネさんがそこから真実を読みとったってことだな。クエスターのことを知らないキサキョンは、この日記に書かれたことが父のただの妄想か真実かよく分からないまま、調査を開始したってことで。警察にも持ち込んだんだけど、空想小説みたいな内容は証拠にはできないから、本気にはされなかったので、自分で証拠を見つけるつもりになったんだな」
アキラ「可哀想なキサキョン。私と同じ境遇だったのね。ある日、突然、父親の秘密を知って、いろいろなトラブルに巻き込まれてしまった。違うのは、私がクエスターに覚醒して、彼女は覚醒しなかったということぐらい」
ユイ「だったら、彼女はこれからも悪の組織に狙われ続ける? 護衛を増やさないといけないのかしら」
ニック「いいえ。彼女自身には大した秘密がないと思われますので、今回のビースト事件を解決してしまえば、組織にとっても狙う意味がないはずです……と冷静な状況分析に基づいて意見するのじゃ」
ディオーネ「価値があるのは、彼女ではなくて、日記の内容だからね。この日記の内容を上手く改竄して、ビーストに関わる部分を上手く隠蔽すれば、問題ないかな」
ユイ「日記はブラックロータスさんに渡して、後の処理は任せるのが無難かも。一応、キサキョンの身の安全や、お父さんがいなくなった後の生活保証とかもFC社にお願いするとして」
GM「さて、ではビーストの能力ですが、昼間は実体化できずに、夜しか活動できないことが分かりました。幽霊みたいなもので、正式な呼称はスペクトラル・ビースト。退治する方法は、実体化している夜のうちに特殊な檻に封じ込めておくか、炎で焼き滅ぼすしかないようですね」
アキラ「炎で倒せるなら簡単ね」
GM「逆に言えば、無力化して、しっかり火葬しないといけない、アンデッドのような生き物。だけど、研究資料として保管するのは大変です。魔法の結界で封じ込めるぐらいしなければ、物理的な拘束は難しかったということにしましょう」
ニック「もしかして、新兄さん、ビーストの設定を今、即興で考えているのか?」
GM「ええ、ここまでのストーリーで浮かび上がったアイデアを言葉で紡ぎ上げるのに、脳みそフル回転ですよ。シナリオクラフトって結構、疲れますね。即興でネタ出しするのはともかく、整合性を持ってまとめる創作訓練になるというか、ここから正式なシナリオとして再編集するのも面白そうかなあ、と思ったりしますが、ボスキャラデータは今から考えないといけません」
ユイ「え? ボスキャラのデータはこれから作るの?」
GM「ああ。だから、すぐにはクライマックスに入れない。データをあれこれ見繕わないといけないので、少し休憩をとろう」
アキラ「じゃあ、私たちのキャラも夜に動き出す前に休憩して、MP回復ね」
アキラの家の回復効果で、ユイとアキラはバトルの使用MPを完全回復。
ニックだけは、MPポーションも使ったものの、出目が振るわずに4点しか回復できず、残りMP9点という状態で、クライマックスを迎えることになった。
ディオーネ「では、シーンが切り替わる前に、シスター瑠璃伽に連絡をとって、情報を回そう。潜伏場所とか、日記の内容の一部だけを語りつつ、相手は強敵だから自重するように、と忠告しておく。だけど、瑠璃伽はこちらの忠告を聞き流し、ビーストに単身挑んで、返り討ちに遭うんだな。愚かだけど、可哀想な女だ、ククク」
GM「(苦笑しながら)では、クライマックスの最初に、シスターがビーストにやられるシーンを挿入しましょう。駆けつけたあなた達の前で、シスターは重傷を負い、ディオーネたちに後を託せば、満足かね」
ディオーネ「ああ、そういう方向で」
ということで、ミドルフェイズの調査活動は、これにて終了。次からクライマックスです。
(当記事 完)