月岩山地に入る
リサ(ダイアンナ)「親愛なる仲間たちとの哀しい別れを経て、いよいよ、このあたし、リサ・パンツァの一人旅、本ゲームブックの最終クライマックスだ」
アス・ラル(アスト)「一人旅とは言え、愛剣のオレがいるから寂しくはないはずだ。どこまでも付いて行くぜ、お嬢」
リサ「ところで、一つ提案があるんだ、リバT」
リバT『何でしょう?(イヤな予感。また何か変なことを考えてそう)』
リサ「リサ・パンツァと、シャリーラが一体化したことを表現するために、シャリーラの一人称が『わたし』→『あたし』に切り替えたんだが、リサもあたし、シャリーラもあたしだと、少しややこしくないか?」
リバT『少しどころか、思いきりややこしいですよ。読者さんが読む際に、これはリサの心情なのか、シャリーラの心情なのか、はっきり区別できないのではないか、と思います』
リサ「その辺は、シャリーラの色変えで表現したり*1、リサとシャリーラで思考や感情がない混ぜになったのを表現したり、〈雪の魔女〉のように冷酷なリサと、愛に不慣れな情の濃いシャリーラのキャラ性の入れ替わりを描写したつもりなんだが、上手く行っているかは結局、読み手次第だからな。単に錯綜して読みにくいだけとも考えられる」
リバT『書き手の意図が伝わるには、受け手の資質も大事ですからね。一応、書き手さんは後書きで意図を解説したり、インタビューや評論記事で補足説明したりする機会もありますが、受け手さんがそこまで追っかけるとも限りませんし、作品内で伝わるのがベストなんでしょうね』
アス・ラル「そういう書き手が表現力を駆使した(工夫した)文章でも、受け手が意図に気づかず、創り手が空回りするケースはあるが、この場合、受け手はプロでないから仕方ない。料理の隠し味とか、厳選された食材とか、いかなる調理技法で創られたかは、グルメを自称するマニアには重要な審評眼の表明だが、単にアラ探しして、作品の好き嫌いの感情だけで貶めて立派な評論しているつもりのエセ評論家も、ネット社会ではいろいろ可視化されたからな」
リサ「ただの個人の感想と、評論の違いは何だろうか」
リバT『簡単です。その作品の歴史的もしくはジャンル的意義をしっかり踏まえながら、作品の影響力や可能性などまで言及して論じているのが評論。個人の主観が剥き出しで、面白いかつまらないか、満足か不満足かのお気持ち表明なのが感想です。まあ、それすら行わずに、アラ探しとネタツッコミ、ただ揚げ足取りで叩くだけなのは、感想の域にも達していないクズ文章ですけどね』
リサ「クズ文章とは、ずいぶんな言い方だな」
リバT『一見評論家ぶってるだけで、言葉遣いだけは賢しらにマネをしていながら、中身がクズなのがクズ文章です。まあ、クズでもネタが面白くて笑えれば、一過性の娯楽にはなりますが。こんな感じに』
リバT『ネタツッコミは、評論とは別ジャンルなんですけど、浅はかな素人さんはネタツッコミしてるだけなのに、評論をしているつもりになって大上段に構えて、笑えないジョークになって痛いですから。しょせんはネタツッコミと割り切って、場を盛り上げる題材や話題として便利、お笑いコミュニケーションの材料とわきまえれば、ネタツッコミから叩きの材料に発展して有名作品を駄作認定して悦に入っている愚かしさから脱却できるのですけどね』
リサ「評論と、ネタツッコミは意味が違う、と」
リバT『ネタツッコミは、おふざけ芸の一種で、肩の力を抜いて、その場で笑えたらそれでいい。一過性のお笑い以上の価値はないわけです。だけど、変にマジメになり過ぎて、それだけで立派に評論している気になって、態度まで強弁する構えに入ってしまえば、場の空気がギスギスしてしまう。笑えてコミュニケーションするのが目的のネタツッコミ芸が、下手に扱うとコミュニケーション破壊に至るという、そういう勘違いした輩の書きがちなのがクズ文章と申しましょうか。まあ、クズの世界も奥が深いものだとは思いますがね』
リサ「寄り道脱線で、いつまでも本筋を見失ったままなのも、読者さんの期待はずしのクズ文章だと思うけどね。そんなことにならないよう、あたしたちは読者さんの読みやすさを考えて、こう考えた」
リバT『クズな考えでないことを期待してみます』
リサ「シャリーラがあたしを真似して、一人称『あたし』になったなら、リサはちがう一人称『ぼく』に切り替えようと思うんだ。ほら、赤ツバメさんの影響ってことでさ。愛した彼氏の影響を受けて、女が変わるってこともあるわけだしさ」
アス・ラル「つまり、お嬢が『ぼくの名前はリサ・パンツァ』と言うわけか」
リバT『物語の途中で、一人称が変わるのは、かえって読者さんが混乱します。どうしても変えたければ、物語が終わって、エピローグで変えて、次回作(エピソード)で完全にイメチェン仕切り直すぐらいでよろしいか、と』
アス・ラル「大体、シャリーラとごっちゃになって紛らわしいってことなら、シャリーラが消えれば問題ないのでは?」
リサ「いやあ、今作でシャリーラのことが気に入ってしまってさ。このまま消し去るのがもったいない。いっそのこと、公式ボスキャラを、背後霊みたいに扱えないかって思い立ったんだよ」
リバT『カオスの素だとは思いますが、今後の方針について、ディレクターに事前打診したものと受け取っておきます。でも、一人称「ぼく」については、次回作で採用。今作では「あたし」から切り替えない方向でお願いします。コロコロ性格が変わる主人公って、読者さんがついて来れなくなるのがオチですからね』
リサ「うん。リサらしさはきちんと残すようにするよ。だけど、主人公の成長と変化も、物語の醍醐味だと思うからさ」
アス・ラル「成長なのか、堕落なのか、判断しかねるが、まあ、いい。エンタメは、面白さが正義だ。あまり深刻すぎて、面白さをスポイルすることだけはないようにな」
リサ「マジメにシリアスなのもいいけど、軽妙さも忘れずにってことだね。さあ、月岩山地にワクワク突入だ」
リバT『死の呪いの深刻さを忘れないで下さいね。ワクワクなんて言える現状ではないはずですから。パラグラフ30番で、レッドスウィフトさんの亡骸を埋葬した直後に、癒し手クエストが開始されます、この辺、急展開で山に向かうのですが、行き先で道が2つに分かれます。川沿いにまっすぐ東へ進む東ルート(46)と、目前の橋を渡って南から山のふもとをしばらく進む南ルート(385)のどちらを選びますか?』
リサ「当たりは東だと分かっているので、南はIFルートってことで、東に向かうよ」
東の山道
リバT『異教平原渡りから、ストーンブリッジ、そして仲間との別れまで物語は一本道でしたが、ここから屋外ダンジョンという流れに入ります。考えてみれば、リビングストン作品で山地帯を旅するのは、これが初なんですね*2』
アス・ラル「森、都市、地下ダンジョン、ジャングルの島、雪山、大陸地域の平原……と来て、雪ではない山か。月岩山地は、その後のゲームブック作品でもよく言及されるが、ゲームブックの舞台になったのは、本作が初だった、と」
リサ「あたしとしては、父さんと母さんの出会いの地って聞いていたから、いつか行ってみたいとは思っていたんだけど、最初に西の都会ブラックサンドに行ったわけで、東の山地は今回が初訪問なんだよ」
リバT『ゲームブックの新作が出るたびに、冒険する世界が広がり、形作られて行く初期の創造の楽しみがあったわけですね、80年代リアルタイムだと』
アス・ラル「ゲームブックやTRPG、そして異世界ファンタジーといったジャンルそのものが未開拓で、発展性に満ちていたからな。それが21世紀になると、ブームが一巡して、今度は懐古と新展開が入り混じりながら、新たなスタンダードの模索。今は一世代が経過して、オールドマニアと新規ファンの参入障壁をどうブレイクスルーするか、とか、熟成のワインを新しい器に盛り直すタイミングになっている、と」
リサ「完成された世界の再探検ってことになるかな」
リバT『ここで大事なのは、読者さんにとって何がツボかって話ですね。重厚長大な歴史や世界観ってものに憧れた、脳内イメージだけが稀有壮大なだけの素人作家さんは、自分の作品世界も同じように雄大無辺なものとして打ち出したくなりがちだけど(中身もないのに形だけマネた自己満足)、実のところ、そういう壮大なものに憧れるのってマニア(あるいは予備軍)なんですね。で、想定読者の彼らは目が肥えていますので、ハリボテはすぐに分かる。壮大を謳いながら、中身がショボいと期待外れに終わる。まあ、その辺は結局、書き手の力量次第なんですが、今いるプロの皆さんも、最初は島一つとか、街とその周辺地域だけとか、狭い世界で生き生きとしたキャラの日常掛け合いを面白く描くことから始めました』
アス・ラル「その点、二次創作だと、みんなが知ってる有名世界を使えるから、世界観構築に手間をかける必要がなくなるわけだ」
リサ「世界を作ることよりも、世界に生きるキャラを生き生きと描くことが主題なんだね」
リバT『世界の謎というのがテーマであれば、世界観構築に手間暇かけるのもありですが、今どき、世界観だけを売りにした作品は需要がありません。世界の謎よりも、世界の日常がどれだけ楽しいかに21世紀はシフトしましたから』
アス・ラル「楽しい日常がまずあって、それを脅かす事件があって、謎は広い世界ではなくて限定された事件の方にある、という構図だな。狭い枠での濃密な人間模様とか、守りたい日常が何なのかとか、そういう話を経てからの物語が発展する中での広がる世界ってことか」
リバT『アランシアも、そして三大陸のタイタンも、そういう下積みを経て、世界が少しずつ構築されてきたわけです。世界観が魅力というのは、やはり80年代から90年代のゲーム界がワールドデザインを売りにした時代だったからこそ』
リサ「今は、世界の魅力よりも、キャラの魅力が重視ってこと?」
リバT『壮大な世界観を魅力にしたければ、美味しいものは小出しにしろってのが戦術ですね。完成品をバーンと提示して、消化不良を起こさせるよりも、まずは食べやすいサイズに切り分けて、小粒でも美味しい掌編で「奥の深そうな日常の魅力」を売りにする。大言壮語は、日常をしっかり描けたその先の話です』
アス・ラル「つまらない日常をぶっ壊して、新たな日常を構築するとか、日常脱却的なストーリーもあるけどな」
リバT『いずれにせよ、世界観というものは、描きたい物語に貢献できるような設定でなければなりません。そして、読者としては、リアルタイムで発展する未完成の世界にこそ、愛着が湧くわけで、最初からすごい世界設定を示しても、それが物語と有機的に結びついていなければ、その世界は張りぼてと何ら変わりありません。
『例えば、戦記もので世界の国家間の関係性が重要な場合は、先にどんな国があって、と語るのも手ですが、受け手が一度に把握できるのは、せいぜい2つか3つまで。主人公の自国と、敵対国と、どっち付かずの中立国で、戦記ものの基本構造は成立します』
リサ「中立国は必要か?」
リバT『国じゃなくても、どっちに転ぶか分からない第3勢力って奴ですね。敵と味方だけでは、物語が単純で膨らまないし、交渉の面白さを考えるなら、敵国との交渉が成立するだけだと話が終わってしまうので、第3勢力と交渉して敵との戦いを有利にするのがドラマの面白さのポイントになります。まあ、第3勢力が敵側に付けば、ピンチを演出できますし、そうなれば、また別の勢力を用意して状況打開を図る展開もありますが、その場合も第4勢力という言い方は不思議としませんね』
アス・ラル「確かにな。やはり、3つぐらいが話を理解しやすくするポイントの数字ということか」
リサ「すると、あたしの仲間も赤ツバメとスタッブの3人だったし、今もアス・ラルとシャリーラが付いて来て……」
アス・ラル「ちょっと待て。シャリーラは仲間じゃなくて、敵だろう?」
リサ「敵じゃなくて、あたしだよ」
リバT『紛らわしい状況を何とかするためにも、話を進めます。要は、世界設定にしても、人間関係にしても、いきなり複雑に混み入ったものを作者から提示されても、受け手は困る。だから、その混み入った結果の完成形ではなく、混み入る前の過程の話を面白く語れるかが、作品の面白さに通じるわけで、作者はプロット段階で結果が見えているはずだから、物語に必要な設定にスポットを当てて、不必要な要素は背景にあっても当面は語らないとか、必要に応じて適切なタイミングで語る工夫がいるわけです』
リサ「当初のプロットにはなかったはずなのに、書いているうちにキャラが膨らんで、単純なプロットがこんがらがるケースもあるよね」
リバT『それで主人公が役割を果たさなくなれば、本末転倒なんですけどね。主人公以上に活躍するサブキャラというのは、本来、作品の整合性という意味では失敗なんですが、創作上の事故はプロでもベテランでも起こすものですから』
リサ「事故ってるのにプロを名乗れるのか?」
リバT『その事故からの立て直しで面白く魅せるのも、またプロの技術です。事故は予定調和と異なるサプライズとも言えて、それもまた創作を面白くするスパイスです。これがゲームになりますと、ダイス目の事故から生まれる思いがけないトラブルと、それをどうきっちり感動のエンディングに落とし込むかです。それでは、ここまでの旅で体力点を1点減らしてください』
リサ「何、その唐突感?(残り体力点10)」
リバT『ここまでの長い寄り道創作談義坂で、読者さんのうんざり気分を反映してみました。山道を歩くだけで、生命力が消えて行くような疲労感がのし掛かって来ます』
リサ「うう、腹が減ったよ〜。最後の1食、食べていいかな」
アス・ラル「道はまだ遠い、お嬢。最後の1食だったら、ギリギリまで残しておくんだ。どこかに血をすすれる獲物がいるかもしれん」
リサ「血かあ。やっぱり、いざとなったら、吸血鬼になるしかないのかもなあ。安全に眠れる洞窟か何かを探しておくのもいいか」
リバT『洞窟ではありませんが、中が空洞になった大きな切り株が山道の途上にあって、太い蔦が切り株の根元に結び付けられて、もう一方の端は空洞の中に垂れ下がっています。蔦を引っ張りますか、それとも蔦を伝って空洞に入りますか、それともスルーしますか?』
リサ「中に何がいるか分からないから、とりあえず警戒して、蔦を引っ張ってみる」
リバT『すると、蔦の先端には肉ウジがうじゃうじゃとたかっていました』
リサ「わ〜い、美味しそう……とはまだならないので、あたしは正気」
アス・ラル「亡者化が進行していれば、ウジ虫でも平気で餌にしそうだからな」
リサ「ウジ虫は友だち、怖くない……とはならないので、あたしは正気。何だか手に這い寄って来たのがキモいので、慌てて振り払って、足で踏みにじる。このあたしの血を、ウジ虫ごときにくれてやるわけにはいかん。寄るな、身の程を知れい」
リバT『いかにも傲慢なセリフですが、この場合、比喩ではなくて文字どおりの意味ですからね。ウジ虫をうまく始末したので、運を1点回復してください』
リサ「何と。これは幸運のウジ虫か(運点12に回復)」
リバT『ウジ虫が幸運と言うより、うかつに空洞に入る判断をしなかったのが幸運ということです。中に入ってしまえば、ウジまみれになって最悪バッドエンド。良くて1Dダメージですから』
リサ「ウジにまみれて眠るのは、あたしの理想とする華麗な吸血鬼ライフとは程遠い」
アス・ラル「まだ吸血鬼になろうとしているのかよ。死ぬまで、生きるのを諦めないんじゃなかったのか?」
リサ「それは死ぬまでの話で、死んだ後はいかに立派な吸血鬼になるかも次善の策として考えないと。あたしは用意周到な女なんだから」
アス・ラル「どう見ても、行き当たりばったりにしか見えないが、ラッキーなのは認めてやろう」
リバT『次に山道を進んで行くと、主道の渓谷道(205)の他に、細い小道(168)があって森に伸びています』
リサ「クンクン。森に食べ物の匂いを感じて、そっちにフラフラと引き寄せられる〜」
アス・ラル「呪いのせいか、五感が研ぎ澄まされているのか? いや、匂いに敏感なのは、前からだったな。野生の本能を信じてみるか」
リバT『森の中には、一軒の木造の小屋がありますよ』
リサ「これは良い小屋だ。中の住人を追い出して、あたしの拠点にするのもいい。住人よ、出て来い。リサ・パンツァが接収に来た」
リバT『いくら空腹だからって、野盗みたいなマネは英雄とは程遠いですよ』
リサ「うっ、今のはシャリーラが言わせたのであって、リサ・パンツァはそんなことを言わない」
アス・ラル「何だか英雄らしくない暴言は、全部シャリーラのせいにしようって腹か? シャリーラだったら、そんな優雅ではない振る舞いをしないはず」
リサ「うっ。心の中のシャリーラにも怒られる。ええと、とにかく、ここは盗賊らしく慎重に、窓から中の様子を覗き込む」
リバT『紫色のローブの老人がいて、揺り椅子に座って眠り込んでいます。後ろの壁の棚には、薬草やベリーの入った瓶が並んでいます』
リサ「いかにも森の薬草師って感じだね。癒し手かも知れないと期待して、中に入ってみよう」
リバT『小屋の扉を開けると、老人は片目を開けます。「何じゃ、お主は?」』
リサ「あたしはシャリーラ。かつては〈雪の魔女〉とも呼ばれていたが、今は探索行の途中だ、と尊大に自己紹介する」
アス・ラル「って、そっちで名乗るなよ。リサ・パンツァと名乗るところだろうが」
リサ「いや、魔法使い相手に、うかつに自分の本名を名乗るのは危険と考えるからな。とにかく、そなたは名高い癒し手どのか? と尋ねてみるが」
リバT『すると、老人は「雪の魔女がこのような南に現れるとは珍しい。いかにも、わしが癒し手じゃ。何か治療の要望か?」と尋ね返します』
リサ「うむ。そなたは死の呪いの話を知っておるか? と確かめるように聞く」
老人『何じゃ、たかが死の呪いごとき。そんなものは簡単じゃ。ほれ、特別に調合した薬を売ってやろう。金貨50枚を持っておるか、魔女どのよ?』
リサ「ここで金貨50枚で薬を騙されて買えば、体力点を3点失うことになるんだよね。シャリーラのあたしとしては、『たかが死の呪いごとき』と軽く言い放った時点で、こいつは素人の詐欺師だと理解した。ならば、少しぐらい手荒い真似をしても問題なかろう。嘘をつくなら相手を見てすべきだということを分からせてやる」
アス・ラル「何て的確に〈雪の魔女〉思考をたどっているんだ。さすがはお嬢。演技達者な〈謎かけ盗賊の娘〉も名乗っているのはダテじゃねえ。で、どうするんだ?」
リサ「刃を抜いて、老人に突きつける。脅すように、ブンブン震えよ」
アス・ラル「あ〜、ブンブン。爆上げっぽく震えてみる」
リサ「見よ、この剣は嘘に反応して、血を吸いたがる。そなたは詐欺師の類らしいな。さあ、どう言い逃れをする?」
リバT『魔女と名乗る女を騙せなかったことに、老人はガタガタ震え出しました。「すみません、わしは確かに薬草師で、癒し手というのは嘘ではない。しかし、死の呪いのことなど知らんし、その薬もただの栄養剤。それを金貨50枚もの高額で売ろうとしたのは、とっさに欲に駆られたゆえの出来心。騙そうとしたこと、許してくだされ〜」』
リサ「愚かよな。しかし、己の欲望に正直なのは、あたしも覚えがあるゆえ、許してやらなくもない。食料1食で大目に見てやろう」
リバT『それは寛大な処置、と感謝しつつ、老人は果実とパンを提供します』
リサ「むしゃむしゃと食べて、体力4点回復(残り体力14点)。本来なら、ここは痛み止めの丸薬をくれるところだったんだけど、まあ、同じ効果ってことでいいよね。老人には、今後は謙虚に、困っている人を助ける良い薬師になるよう説教し、小屋を後にする」
アス・ラル「こんな慈悲を与えて良かったのか?」
リサ「ここで殺して、小屋を奪い取るのは簡単なんだけど、寝覚めが悪そうだからね。恩を売りつけ、また次の機会があれば、高く回収するってやり方も世渡りの心得って奴さ。ブラックサンドで学んだんだけどね」
アス・ラル「さすがはお嬢。魔女じゃなくても、ずる賢い盗賊流儀。そこに痺れる、憧れる〜」
リサ「こうやって、食いつないで行けば、何とか生き長らえることもできるかな。さて、次の選択肢は205番。川向こうの空き地に焚き火をしている様子が見えるんだけど、川を飛び越えるか、それとも渓谷を歩き続けるかの選択肢だ」
アス・ラル「焚き火をしているのなら、当然、飯の匂い。だったら、お嬢の流儀だと当然、川を渡って、飯を奪いに行くはず」
リサ「それをすると、2分の1の確率で、ジャンプに失敗して川に落ちて、なかなか酷い目にあうんだよ。川を渡らないと決めたうえで、試しにダイスを振ってみる。3が出たので、川ぽちゃ展開だ。盾が流されて技術点マイナス1になって、運だめしとかあれこれさせられて、難儀するパターンなので、安全コースの115番の方を選びます」
リバT『すると、待望のエルフ兄上、アッシュさんとの対面に移ります』
レッドスウィフトの兄アッシュ
リバT『では、リサさんは木々の間を歩きながら、何かに導かれるように、彼の姿を見出します。耳の尖った金髪で、長身のレッドスウィフトとよく似た外見のエルフ』
リサ「(レッドスウィフト! これは天の計らいか。彼があたしのために蘇ってきた!)と、あたしの中のシャリーラがざわつきます。一方、リサとしては、何をバカなことを。赤ツバメさんはあたしが葬ったんだから、こんなところにいるわけないじゃない、とクールに逸る心を抑えるってことで」
アス・ラル「そうとも。彼のエッセンスは、オレの中にあるんだからな。あれはオレの兄貴だ」
リバT『(兄貴であっても、あたしにとってはいっしょだ。イケメンエルフをプリーズ!)と、リサさんの中のシャリーラは大興奮。思わず、よだれがジュルッと』
リサ「発情霊は鎮めるのが大変」
アス・ラル「よし、オレが何とかしてやろう。ちょうど、エルフに『剣を抜いて攻撃する』という選択肢もあるわけだし」
リサ「それはそれで、バッドエンドだから却下。アッシュの弓矢があたしの心臓を貫いて、弟の仇討ちと吸血鬼の呪いを消し去って、めでたしめでたし。こうして『雪の魔女の呪い』完……って、これはこれで上手くまとまったような気がする」
リバT『そんな終わり方で本当にいいのですか?』
リサ「B級ホラー映画でたまにあるのよね。魔女に憑依されたヒロインを、彼女に殺された恋人の兄弟が主人公となって、退治して終了って。ファンは清純なヒロインが憑依によって魔女らしく妖艶悪堕ちする演技を堪能しながら、結局、殺された悲劇のヒロインを勿体ないと思いつつ、あれこれ妄想を膨らませる類の作品」
アスト「一般ウケはしないな。メジャー路線なら、悪堕ちしたヒロインが最後には救われるようでないと」
リバT『それだと、ホラーマニアは満足できないのですね。ありきたり過ぎて。やはり、ホラーの最後は、事件解決と思われた、しかし……というサプライズエンドこそが様式美だというマニアは数多いと思われ』
アスト「まあ、ゾンビだらけの島から脱出した、と思ったら、世界中にゾンビ感染が広がっていたとか、感染系の怪物を撃退して、何とかカップルが脱出した、と思ったら、主人公かヒロイン、あるいはその両方が怪物化というオチとか、とにかくキレイに終わるとホラーじゃない、という印象はある」
リサ「だけど、本作はホラーゲームブックではないし、リサ・パンツァは未来が欲しい。バッドエンドをチラ見だけして、何とか色情霊と血に飢えた魔剣を抑え込んで、アッシュさんに話しかけます。『あなたがアッシュさん?』」
アッシュ『どうして、人間の女性がわたしの名を?』
リサ「あたしの名前はリサ・パンツァ。実は、かくかくしかじかと、ここまでの経緯を話します。ただし、あたしと弟さんが抱き合った夜のことは明かさない」
アッシュ『……確かに、君からは弟の匂いがするようだ』
リサ「ドキッ。見破られた?」
アッシュ『……それと呪われた者の臭いもする。複雑な事情が絡んでいるな』
リサ「鋭いエルフの追及に心臓が高鳴ります。これは……セカンドラブ?」
アス・ラル「セカンドラブ? じゃねえだろう、お嬢。どれだけ惚れやすいんだよ。イケメンエルフなら誰でもいいのか!?」
リサ「いや、誰でもいいんじゃなくて、死んだ彼氏の兄で、顔が似てるってことなら、ドキッとしたりもするわけで。すべてはシャリーラが悪い」
リバT『シャリーラが悪いのは確かですが、それを嬉々として演じたのもクイーンですし、今はリサ=シャリーラなんだから、責任逃れはできませんよ』
リサ「とにかく、レッドスウィフトさんの最期を見とったのはあたしです、と告白する。残念ながら、彼の命を救うことはできませんでしたが、不死の呪いは祓ったはずです」
アッシュ『その剣を貸してくれ。どうやら、弟の気を宿しているようだからね』
リサ「そんなことも分かるの? はい、アス・ラル。いい子にしてるのよ」
アス・ラル「子供扱いするな。とにかく、黙って、兄さんの手に握られよう。聞き分けのいいただの名剣のように振る舞う。ブンブン唸ったりはしない」
リバT『アッシュは、アス・ラルを太陽にかざして、祈るような言葉を唱えます。すると、アス・ラルの中に宿っていたレッドスウィフトのエッセンスがスーッと抜けました』
アス・ラル「え? テキトーに言った設定を拾うの? オレの中の赤ツバメが消えて、心にぽっかり穴が空いたように感じるぞ。何だか寂しいので、ブンブン震えて、お嬢のところに帰りたがる」
リバT『震える魔剣をリサさんに返すと、アッシュは「弟が愛した女性は、わたしにとって妹も同然。ならば、その呪いを祓うための手伝いをさせていただこう」と親切に提案してくれます。「弟の想いを故郷に連れ帰ってくれた恩人でもあることだしな」』
アス・ラル「ずいぶんと察しがいいんだな」
リバT『これも、アストさんのおかげですよ。「レッドスウィフトのエッセンス」を宿してる、と妄言吐いてくれたおかげで、アッシュさんもそれを受けてのロールプレイができますし。弟さんの魂の言葉が通じたなら、まあ、理解が早いでしょう』
リサ「すると、アッシュさんはあたしのお義兄さんになる、と」
アッシュ『弟は、変わり者の自由人だったからな。フラリと旅立ち、危険な冒険の果てに、可哀想な死に方をしてしまったようだ。おまけに、愛した女性が異なる種族の者とは。どう受け止めていいか、正直、わたしも戸惑っている。弟の趣味がわたしには理解できない。失礼に聞こえるかもしれないが、人間とエルフという異種族恋愛に、わたしは反対の立場だ。義兄や妹と言っても、弟の気持ちを尊重したうえでの形式的なものと受け取ってくれていい。わたしの方で、貴女に対して親愛の情は一切ないので、誤解はしてもらいたくない』
リサ「ええと、一言で言えば、このお兄さんは慇懃無礼で、人間差別主義者ってこと?」
リバT『人間社会に出て来ないエルフとしては、これが普通ですよ。赤ツバメさんが種族の変わり者ってだけの話です。まあ、お兄さんもまだマシだと考えます。普通のエルフなら、人間とそういう関係になるとは、何てふしだらな、一族の恥晒しめ……って反応になってもおかしくありません』
アス・ラル「つまり、弟の選択にケチはつけないけど、自分は人間に特別な好意なんて抱いていないんだから、勘違いするなよな……って話だな」
リサ「何だ、ツンデレ君か」
リバT『アッシュさんは、極力、感情を交えることなく、冷静に、事務的な口調で語ります。「どうやら、一刻も猶予がなさそうだから、急いだ方が良さそうだ」 その言葉のとおり、体力点がまた1点減ります』
リサ「くっ、残り体力13点。確かに、恋バナに現を抜かしている場合じゃなさそうね。癒し手さん、つまりペン・ティ・コーラ老師のところに連れて行ってくれるかしら?」
リバT『「その名を知っているとは、いろいろ調べてきたみたいだな。いいだろう。ついて来るがいい」と、道案内をしてくれます。彼の後について山道を無理のないペースで進んでいくと、やがて川を渡る吊り橋に到達します。しかし、渡っている最中に、後ろから丘トロールが2体現れて、吊り橋の紐を切ろうとします。渡りきれたかどうか、運だめしして下さい』
リサ「7で成功(残り運点11)」
リバT『橋が落とされる前に、無事に向こう岸まで渡り終えました。失敗したら、川に落ちて、もう一度、運だめしに失敗したら溺死エンドの危機でした』
癒し手のもとへ
リバT『アッシュさんの案内で、癒し手のところへ向かう途中、小高い丘を登るわけですが、もう一度、体力点を1点減らして下さい』
リサ「衰弱がますます激しくなるんだね。残り体力が12点だ。腹ごしらえしておいた方がいいかな」
リバT『「そんな余裕はなさそうだ」とアッシュさんは空を見て、死の鷹デスホークの襲来を警告します。素早く弓を構えて、矢を放ちますね。アストさん、彼の技術点9以下を出して下さい』
アス・ラル「8だ。これでアッシュ兄さんがポンコツにはならずに済んだな」
リバT『見事な一射で鷹は絶命。その後、丘から東の峡谷を指差して「この先を真っ直ぐ進めば、不死鳥の頭部の紋様が刻まれた岩肌があるはずだ。その斜面の洞窟に癒し手のペン老師がいる」と伝えます。「癒し手殿は、治療を必要とする者以外には会わないので、わたしが付いて行くわけにはいかん。案内はここまでだ」と言い残して、愛想なく去ります』
リサ「一応、お礼は言うわ。人間は礼儀を知らないと思われるのもイヤだからね」
リバT『そして、峡谷を進むリサさんですが、ふと左側の木々の一本から縄梯子が垂れ下がっているのに気づきました』
リサ「クンクン。重要アイテムの匂いがする。縄梯子に登ってみるよ」
登ったところ、技8、体6の人オークと対面し、難なく撃退。
ロウソク1本と火口箱を入手。後で、癒しの儀式に使う予定。
リバT『次に、峡谷の途中で、眠りこけているバーバリアンを発見。こっそり横を通り過ぎないと、起こしてしまい、寝起きの機嫌が悪い蛮人と戦う羽目に陥ります。【エルフのブーツ】を持っていますか?』
リサ「持っていなくて良かった。ここでバーバリアンと戦わずに通り過ぎてしまうと、攻略必須アイテムが入手できなくなるんだよね」
リバT『実は、後からそれが勘違いだと発覚しまして。銀製品がないならないで、何とか攻略可能だということが判明。これまでの記事の勘違いを読者諸氏にお詫びします』
リサ「あった方が美しいイベントが拝めるので、銀製品は確保すべし、とは思うけどね。一応、あたしからも謝っておくか。リサではなくて、シャリーラ(リバT)が」
リバT『何で、シャリーラさんに謝らせるんですか?』
リサ「これまで散々悪いことをして来たんだから、反省して、謙虚な心を学ばせるためさ。謝るべきときに、謝らないようなのは、社会性の欠如だからね。引きこもりが社会復帰するには、そこからコミュ力を養う方がいい」
リバT『それは道理ですが、結局、私めに謝らせて、自分が謝らないのは理不尽なんですが、リサ=シャリーラさん』
リサ「とにかく、バーバリアンを倒して、アイテムゲットすれば同じことさ。攻略において支障がなければ、問題ナッシング。バーバリアンにひれ伏させれば、それがあたしの謝罪の代わりだ」
アス・ラル「何の理屈にもなっていないことで、寝起きを殺害されるバーバリアンを気の毒に思いつつ、たっぷり血をすすらせてもらうぜ。ウリィィィ」
こうして、呪われた吸血魔女剣士の急襲にあって、無体に惨殺された名もなき蛮人くん(技9、体8)でした。
一応、反撃で4点ダメージを与えて来たわけですが。
入手アイテムは、強さは力と刻まれた【銅の腕輪】(技術点+1)と、銀の矢尻3本。
これで、アイテムフラグ的には、攻略完全終了。ダイス目による事故も、ルール上はもう発生することなく、ゲーム的には終了したと考えます。
次はパラグラフ319番。いよいよ癒し手ペン・ティ・コーラのいる洞窟の前に到達しました。
アッシュの案内がなければ、うっかりここを通り過ぎてしまい、延々と峡谷内をさ迷い続けた挙句、死の呪いで息絶えるバッドエンドの可能性もあるわけですが。
次回は、このアッシュに会わないIFルートをチェックしたうえで、癒し手の呪い解放儀式まで描いて、感動の最終回に持って行くつもり。
いや、感動するかどうかは読者次第ですが。
作者としては、感動できる要素を仕込んで、後はまあ、上手く文章につづれたら幸いってことですね。
まあ、その前に、リサさんには最後の1食で、体力点を回復してもらいましょう。
(当記事 完)
リサ・パンツァ
・技術点12
・体力点12/20
・運点11/13
・食料残り0
・金貨:248枚
・所持品:アストラル・ソード、時間歪曲の指輪、背負い袋、戦槌(ウォーハンマー)、【勇気のお守り】(技術点+2)、スリングと鉄の玉1つ、金の指輪(冷気抵抗)、ドラゴンの卵、酸除けの盾(技術点+1)、ロウソク1本と火口箱、【銅の腕輪】(技術点+1)、銀の矢尻3本(青字は今回入手したアイテム)