ウルトロピカルな⭐️GT(ゲーム&トレジャー)島宇宙

南の島と上空の宇宙宮殿を舞台にTRPGや特撮ヒーローなどのおしゃべりブログ。今はFFゲームブックの攻略や懐古および新作情報や私的研鑽メイン。思い出したようにD&Dに触れたりも。

「雪の魔女の洞窟」&「運命の森」コラボEX

運命の森の後始末

 

※前註:本記事を読むに当たって、前回までの「雪の魔女の洞窟」攻略紀行の他に、「運命の森」攻略感想を読むと、より楽しめるかもしれません(あるいは他のFFゲームブック攻略記事なんかも)。たぶん、きっと、ロガーン神の導きがあれば。

 なお、運命神ロガーンは謎の多い方ですので、読んだけど訳が分からないという可能性もございますが、そこはそれ、神意は不可解なものということで。

 

 あたしの名前は、リサ・パンツァ……ではない。

 リサ・パンツァはあたしが戦場で会った英雄の一人で、彼女は突然、天から降ってきた。

 2人掛かりのトロールに苦戦中、正直死ぬかと思っていたあたしだったけど、突然、空から斬撃一閃。

 1体のトロールが脳天から斬殺されて、その直後。

 天から降臨した女剣士は、あたしなんかが及びもつかない華麗な舞いで、もう1体のトロールをたちまち血祭りに上げた。

 ブンブン唸りを上げる鋭い魔剣を軽やかに扱い、熟達の剣士、いや魔剣士といった風情で戦場に降り立った彼女の第一印象は、赤い旋風(レッドゲイル)の如し。

 あたしは圧倒されて、戦場だというのに地べたに腰を落としたまま、すぐには立ち上がれずにいた。

 ただただ天の使いのような彼女の戦いぶりに見惚れて、しばらく自分が戦士であることを忘れた。

 運だけで生き延びてきたあたしなんかとは違う、本当に運命に選ばれた女勇者の姿がそこにあった。

「すごいなあ。奇跡だなあ。ドキドキするなあ」惚けたまま小声でつぶやく。

 

 彼女の瞳は赤い光を帯びていた。

 彼女の肌は白く輝いていた。

 まるで、氷の国からやって来たかのような佇まいでいながら、その戦いぶりはあくまで獰猛な獣のそれ。

 凄絶なおかつ美麗。

 生命に満ちた躍動感と、大人の女性が醸し出す妖艶さが同居しているようだ。

 そして、彼女の側には、神秘的な赤い羽の鳥が付き従っていた。彼女に横から襲いかかるトロールを空中から牽制すると、

「ありがとう、赤ツバメさん」見た目の予想よりは幼い感じの声で、彼女がペット? 相棒? それとも使い魔か何か? の鳥さんに礼の言葉を投げかけ、

 たちどころに牽制されたトロールを切り刻む。

 まるで躊躇がない常人離れした戦いぶりに、あたしは魔物を見たような気になって、少しガタガタ震える自分を感じた。

 戦場の風に誘われた魔界の王女か何か?

 人の姿をしているけれども、本質は人間など及びもつかない邪悪と混沌の使者で、ただ世界に死を振りまくために現れた地獄の住人?

 

 自分を助けてくれた恩人に、そんな失礼な想像をかぶせながら、ふと辺りが静まったのを感じた。

 戦闘は遠くでまだ続いている。

 ドワーフトロールの決戦は、なおも激しい怒号と打撃音が、地面の振動とともに感じられた。

 だけど、あたしの周りの敵は、彼女が一掃してくれて、今や一息つく余裕が生まれた。

 もちろん、彼女が敵でないとして、だけど。

 

 彼女は周囲にトロールがいなくなったのを確認すると、優雅な仕草で刃を一振りし、濡れた血を振り払うと腰の鞘に納めた。

 赤い鳥(ツバメって言ったかな? あたしの知ってるツバメよりは一回り大きいみたいだけど)が彼女の右肩にとまる。実に慣れた姿に、クスッと彼女の笑いが漏れ聞こえた。

 その笑い声に、あたしは思わず安心した。

 戦う姿の凄絶さに魔性っぽさを想像したけど、自然の鳥(かどうかは分からないけど。全身、赤いツバメなんて見たことがないし)と仲良く振る舞う姿は、人の少女っぽい(あたしと同年齢ぐらいの)親しみやすさを感じさせた。

 彼女はあたしに目を向けて、軽やかに駈けて来た。赤い鳥は邪魔にならないよう、再び宙に舞う。

「君、大丈夫? ケガしてない?」彼女が差し伸べた手をおずおずとつかんで、あたしは立ち上がった。

 

 それがあたしと、有名な英雄リサ・パンツァの出会いだった。

 

もう1人の女剣士の話

 

 彼女はリサ・パンツァ。

 あたしは名もなき女剣士で、彼女みたいな英雄とは程遠い、一介の冒険者

 それでも、あたしなりの勲しは持っている。南の王国サラモニスの冒険者ギルドにも所属しているし、冒険仕事が手隙になったときに、一つの噂を元に、この北の地にやって来た。

 噂っていうのは、あの〈火吹山〉のこと。一攫千金の魔法使いの財宝の噂は、よく耳にしたけど、生きて一財産築いた者の話は聞かない。誰も帰って来ていないそうだが、どうして帰る者のいない迷宮に宝があるって分かるんだろう?

 宝よりも、その謎が気になって、ある日、あたしはフラリと旅だった。

 冒険者なんて、そういうものだと思う。

 もちろん、王国の冒険者は組織化されていて、国の傭兵稼業斡旋所みたいなところがある。腕に覚えがある者が(戦士だろうと魔法使いだろうと忍びの者だろうと)お金を払って登録し、騎士や神殿のお偉方が手を出しにくい下々の汚れ仕事や、市内や村落の細々した面倒ごとを解決しては小銭を稼ぐ、何でも屋とか便利屋といったようなのが、サラモニスの王国が定義する冒険者ギルドだ。

 でも、それって本当の冒険って言えるのかな?

 

 王国斡旋の職業冒険者の制度は、確かに便利だ。あたしみたいな冒険者に憧れる若者にとって、手軽に冒険者の技能や仕事の段取りなんかを習得できる(もちろん、そのためのお金は必要だけど)職業訓練の場にはなっているし、そこで生活の糧を細々と蓄えながら、ある日、国の一大事に華々しい活躍を示して、名高い英雄やその介添人として謳われることもあるのだろう。最近も、そういう少年の話を聞いた。

 だけど、冒険者ギルドに所属しているからと言って、いつでもそういう英雄の登竜門みたいな事件に出会えるとは限らない。

 だから、あたしはある程度、お金が貯まった頃合いを見計らって、ギルドにしばらく休暇を申し入れた。申請はすんなり通り(あたし程度の代わりの冒険者は何人だっている)、あたしは自由な旅の剣士として、未知の北国に向かった。

 目指す先は〈火吹山〉。そこに向かう途中で、チャリスの街に立ち寄る。酒場で有名な冒険者の話を吟遊詩人に所望すると、お宝探しの冒険者が残飯漁りに落ちぶれたのが、宝の地図を入手して、月岩山地で素晴らしい宝と愛する女性を見つけて、一生幸せに暮らしましたって、いかにも作り物っぽい昔話を聞かされて、現実の冒険者はそんな童話みたいなわけにはいかないわよ、とツッコミ入れながら、小銭を投げ渡す。

 すると、吟遊詩人は、実はこの話には別の逸話もついて来まして、と言いながら、金貨をもう一枚頂ければ、ご披露しますが、と言い放つ。冒険の話は好きなので、金貨でなく、銀貨で半分支払った。話が面白くて満足できれば、もう半分払うって約束で。

 その続きの話は、お宝探しの話よりも血生臭い。件の残飯漁りの冒険者は、どこかの街の領主を怒らせてしまい、暗殺者に次から次へと狙われるのを、バッタバッタと返り討ちにして、ついには自分の命を狙った領主の元に乗り込んで、最後の決着を果たすそうだ。そして、愛する女性と今度は南の国へ旅立ち、彼の地で一生幸せに暮らした、という。

 一生幸せに暮らす話しかないの? と酒飲み気分でツッコミ入れたら、

 冒険の途中で、無惨に命を落とす話がご所望ですか? と逆に尋ねられ、それはない、とかぶりを振る。

 そう、わざわざ冒険話を長々と聞いて、冒険途上で目的を果たせずに命を落とす話なんて、がっかりだ。たとえ、現実がそうだったとしても、物語の中では派手な冒険の後で、しっかり生き残って、幸せに暮らしたい。

 そのことに改めて気付かせてくれたお礼に、金貨を1枚、後金で払った。

 ええ、やっぱり冒険の旅は、ハッピーエンドじゃないと。

 

 チャリスから、北に向かわずに、東の月岩山地に寄り道してみた。

 例のお宝探しの残飯漁りくんが、どんな道を辿ったか、見てみたくなったからだ。

 そして……道に迷った。

 土地勘もなく、地図も持たない都会人が、自分は冒険者ギルドのメンバーで今まで上手くやって来た、という空自信だけで道を進めば、こうもなる。

 山の天気は変わりやすいし、曇り空が続いたので、方向感覚も怪しいし、散々迷いながらも、これぞ本当の冒険だとあたしは楽観的に構えていた。

 都会の冒険者が経験したことのない、ガイドのいない未知なる冒険。

 何が起こるか分からないスリルがあるからこそ、それを乗り越えると充実した思いになれる。

 そして、5日ほど山をさ迷い、太陽が見えたタイミングで何とか正確な方向を確認し、来た道を西に戻るようにすると、さらに5日。

 チャリスを出発して、10日めが経過する頃。

 あたしは狩りで捕まえたウサギを焚き火であぶって、夕食にしている最中だった。

 10日近くも山道をさすらえば、アウトドアの技能もそれなりに身につくものだ。まあ、それで身につかないとしたら、食事も取れずに死ぬだけなので、最初から冒険者向きじゃなかったのだと諦めるしかない。

 あたしは10日のサバイバルを一人で生き延びたので、自信がついた。

 そして出会ったのだ。

 ストーンブリッジのドワーフ、ビッグレッグに。

 

 彼と出会った後の話は、有名なので、たぶん、あなた達も知っているはずね。

 そう、『運命の森』として知られるダークウッドのハンマー探しの冒険譚よ。

 その主人公にして、ハンマーを見つけ出したストーンブリッジの救世主が、他ならないあたしってわけ。

 噂によると、この『運命の森』の物語も、リサ・パンツァの勲しの一つと語っているものもあるとか。リサ・パンツァは確かに、トロールとの戦争に天から舞い降り、あたしたちを助けてくれた。

 だけど、ジリブラン王のハンマーを見つけ出したのは、このあたし。

 え? 名前を教えろって?

 イヤよ。

 あたしはリサさんほど有名になりたくはないもん。有名になり過ぎた彼女がどんな苦労をしたか、知らないあなた方じゃないでしょ?

 あたしは彼女みたいに強くないから、彼女のマネはできない。

 彼女と同じ冒険に巻き込まれたら、たぶん、今こうして生きて話ができていなかったでしょうね。

 でも、ジリブラン王のハンマーを運良く見つけたのは、あたしの数少ない功績の一つだし、だからこそ、その思い出は大切に残しておきたいの。

 そして、リサさんと出会って、本当の英雄ってものを知った感動もね。

 プロの吟遊詩人じゃないけれど、それぐらいの話なら、あたしにだってできる。だって、自分自身の思い出話だから。

 

二人の剣士

 

「君、大丈夫? ケガしてない?」彼女が差し伸べた手をおずおずとつかんで、あたしは立ち上がった。

「ありがとう」そうお礼を言って、土に汚れた膝下辺りをパンパンと払う。そうして、足の震えを何とか抑え込んでから、恐る恐る自己紹介しようとした。「あたしはサラモニスの……」

「ふうん、君も自分のことをあたしって言うんだ」突然、彼女が口をはさんだ。「あたしの周りは、あたしばっかりで頭がおかしくなっちゃう〜。よし、決めた。今から『ぼく』を使わせてもらうよ。いいでしょ、赤ツバメさん」

 上空の赤い鳥が鳴き声で応えた。

 彼女は鳥の言葉が分かるのだろうか? そう訝しんでいると、彼女が先に自己紹介してきた。

「ぼくの名前はリサ・パンツァ。この南のダークウッドの森の出身だけど、家はもうない。ブラックサンドのギルドにも所属していたけど、そこにももう帰れない。ファングの街の〈死の罠の地下迷宮〉にも潜って、氷指山脈での冒険で〈雪の魔女の後継者〉にもなったりして、死の呪いから回復したばかり。君は?」

 リサ・パンツァと名乗った女性は、一気にまくし立てたけど、情報量の多さに面くらって、あたしの頭ではうまく処理できなかった。それでも、あたしは自己紹介しようと口を開く。

 名前を告げてから、最近の勲しを誇らしく宣言しようとする。それでないと、今、この戦場にいる理由が話せない。

「ストーンブリッジのドワーフ、ビッグレッグさんがあたしに頼んだの。ジリブラン王のハンマーを見つけてくれって。その時、あたしは運命を感じたわ。これがあたしの冒険だって。何だかよく分からないけど、志し半ばに倒れた冒険者たちの記憶が、あたしの中に既視感(デジャブ)のように流れ込んで、きみこそ英雄だって声が聞こえたような気もして……こんなことを言うと、頭がおかしくなったって思うかもしれないけど……」

「そうか、君がビッグレッグさんの選んだ英雄なんだ」リサさんはあたしの言葉をそのまま信じてくれた。英雄その人みたいな彼女が、あたしを英雄って認めてくれた。ちょっとした誇らしさを感じる。

「ビッグレッグさんはどうなった? 彼の連れのスタッブ君は?」

 あたしがビッグレッグさんの死を伝え、スタッブという名前は聞いたことがないけど、ビッグレッグさんの仲間は全滅したみたいって話をすると、それまで元気いっぱいって感じだったリサさんの表情が不意に陰りを帯びて、「やっぱり……」と憂いのつぶやきを漏らした。

 彼女は、戦場を見回す。

 あたしたちの周りは死体だらけ。

 彼女がいっぱい倒したトロールたちに混じって、あたしと共に戦ってくれた勇敢なドワーフさんたちの遺体が5人ばかり。

 そう、彼らのおかげで、あたしは生きている。

 もしも、リサさんが空から降臨しなければ、自分の力量も顧みずに、ドワーフさんの戦場に加勢しようと張り切ったあたしも、同じ運命を辿っていたろう。

 冒険と戦争は違う。

 力と運の足りない者は死ぬという事実は同じでも。

 この場で、生きている命は3つだけだった。

 あたしと、

 リサさんと、

 空を飛んでいる不死鳥のような赤いツバメ。

 後で、リサさんが正確にはアマツバメだって教えてくれた。

 人里離れた海辺や高山で見られるらしい。

 へえ、アマツバメって赤いんだ。

 あたしは一つ学んだと思った。

 

 リサさんの恋人の、赤ツバメさん(と彼女は説明した。英雄の趣味は変わっている)が甲高い鳴き声を上げて、その声を聞いたリサさんは得心したかのようにうなずいた。

「うん、あっちが決戦の地みたい。ジリブラン王と、トロールの王ガリブリンが対峙しているそうよ」

 鳥の言葉が分かるの? と尋ねると、リサさんは「まさか」と答えた。でも、分かっているようにしか思えない。

 すると、リサさんは手品の種明かしをするように、こう説明した。

 リサさんには、赤ツバメさんの言葉が分からないけど、腰の魔剣に宿る精霊アス・ラルには分かるらしい。何でも、アス・ラルが赤ツバメさんの魂を宿していたことがあって、だから、アス・ラルには赤ツバメさんの言葉が分かる。

 そして、リサさんは魔剣と心で会話できるから、赤ツバメさんの言葉を通訳してもらえるのだと。

 全部聞いても、あたしには仕組みがよく分からなかった。

 分かっているのは、リサさんがあたしなんかとは全然違う、凄い英雄だってことぐらい。

 このダークウッドの森の探検で、いろいろと不思議な経験をしたつもりでいたけれど、リサさんの冒険はあたしなんかよりも全然、凄さや脅威度が違っているんだろう。少なくとも、あたしの倍は厳しい冒険生活を切り抜けたように思えた。

 

「あた……ぼくは、ジリブラン王ってドワーフを助けに行くけど、君はどうする? ケガしているみたいだし、ここで休んでいても……」

 リサさんは気遣ってくれたけど、あたしだってサラモニスの冒険者。独りきりじゃないなら、せめて英雄の介添人として、この戦争の終結まで見届けたい。

「リサさんが行くなら……あたしも行くよ」

 一瞬、足手まといは来るな、と言われるかと思ったけど、リサさんは笑顔を向けた。

「そう来なくっちゃ。ビッグレッグさんが選んだ、王のハンマーを見つけた冒険者だもんね。ストーンブリッジの救世主は、ぼくではなく、君だよ。今回の主人公は君だ」

 まるで、運命神みたいなことを言う。

 だけど、リサさんの言葉に勇気をもらって、あたしは決戦の戦場に向かう覚悟を決めた。

 ハンマー探しの冒険の結末を最後まで見届けたい。

 そう言う気持ちも抱きながら。

 

トロールとの決着

 

 ハンマーを取り戻したジリブラン王は精強だった。

 だけど、まだまだトロールの軍の方が、数が多かった。

 トロールだけじゃない。ゴブリンやオークがうじゃうじゃ、トロール王(ガリブリンだっけ? リサさん情報によれば)の周りに群がっている。

 どうやら、これはただの一部族の小規模な小競り合いではなく、このアランシアの善の勢力と悪の勢力の大決戦みたいなものだったらしい。

 少なくとも、敵側はそれだけの布陣で攻めて来ていた。

 誰が裏で糸を引いていたかは知らないけど、トロールドワーフのいつもの部族抗争なら、魔法のハンマーを取り戻したジリブラン王が出陣すれば、簡単に勝てただろう。

 だけど、敵はドワーフたちが想定していたよりも強大だった。

 これを迎え討つには、善の勢力、人間やエルフが連合して、ドワーフたちを助けなければいけない。

 だけど、あたしたちには手が足りない。

「どうやら、英雄(ヒーロー)の出番のようだね」

 リサさんは物怖じせず、歩みを進める。その普段は褐色っぽい切れ長の瞳が、赤い光を放っていた。

「で、でも、こんな数、あたしたちが手を出したって……」

 どうしようもない……って言えなかった。

 逃げた方がいい……とも言えなかった。

 ここでドワーフたちが負けたら、ストーンブリッジが攻め滅ぼされ、アランシアが闇の軍勢の脅威にさらされる。

 たぶん、あたしが逃げる場所はどこにもない。

 覚悟の決め時だって悟った。

「大丈夫。ここにいるのは、あたし……いや、ぼくたちだけじゃない。ぼくには魔神の友だちが付いているからね」

 そう言って、空を見上げる偉大な英雄。あたしもつられて空を見た。

 さっきまで晴れていた空が、にわかに曇り始めて、嵐の気配を帯びていた。

「ジン君、出番だよ。命令する気はないけど、好きにして。暴れたいんでしょ」

「心得た、我が女主人」空の上から威厳ある声が雷のように轟いた。魔神ってマジ? リサさんって、ただの魔剣士じゃなくって、魔神の力を操る大魔女ってこと? そう言えば、〈雪の魔女の後継者〉がどうこう言っていたような気がする。

 あたしみたいな一介の冒険者剣士とは格が違いすぎる。一口に英雄といっても、その実力はピンキリ格差があるのだろう。

 

 闇の軍勢に、リサさんが天から召喚した(あたしにはそう見えた)風の王の異名を持つ魔神の化身した大竜巻が襲いかかった。

 それがドワーフ軍にとって起死回生の一撃となった。

 敵は総崩れとなり、敵の大将ガリブリンは、ドワーフ王ジリブランの投げた魔法のハンマーの一撃で絶命した。

 後からの噂によると、ジリブラン王が魔法のハンマーの力で嵐を巻き起こし、闇の軍勢を討ち払ったとも聞くが、嵐とハンマーは無関係であることは、その場にいた者として証言しておく。

 ハンマーを見つけた者としては、自分の功績を尾鰭を付けて語りたいけれど、ここはあなた方も知ってる英雄リサ・パンツァの凄さを強調したい。〈運命神に選ばれた者〉とか(あたしの聞いたサラモニスの少年英雄もそう言われているそうな。運命神は英雄を選ぶのが趣味らしい)、〈謎かけ盗賊の娘〉とか、〈呪われた魔女剣士〉とか、いろいろな名前で呼ばれているけれど、ここに〈風の魔神王の盟約主〉という称号も足しておきたい。

 そう、最初に天から降臨してきた時も、〈火吹山〉の頂上から下界の危機を察して、風の魔神の力で飛来したそうだし、見る人が見れば、まるで女神のようにも見えるかも。

 もちろん、リサさんは謙遜して、「自分はそんなに凄くないよ。助けられなかった友だちもいろいろいるし、君と同じただの人間の冒険者だし」って言ってくれたけど、

 ただの人間の冒険者は、前人未到の〈死の罠の地下迷宮〉を突破したり、魔女のかけた〈死の呪い〉から生還したり、その他、数々の冒険で闇の勢力からアランシアの平和を守ったりはしないでしょう。

 そんな凄いリサさんと、ほんの短い時でもお近づきになれたことが、運とタフさだけが取り柄のザコ英雄でしかない、あたしの誇りになるわけで。

 

 戦いの趨勢が決して、闇の軍勢に対する奇跡の逆転勝利を勝ち得たジリブラン王が、あたしたちに気づいて、側近たちとともに、駆け寄ってきた。

「おお、ハンマーを取り戻した勇者どの。どうやら、ご無事だったようだのう」王はまず、顔見知りのあたしに声をかける。それから、肩に赤い鳥を乗せたリサさんに、訝しげな視線を向ける。「そちらの御仁は?」

 あたしが紹介する前に、リサさんが自分で名乗りをあげる。「ぼくの名前はリサ・パンツァ。こちらの村の戦士スタッブさんと縁ある身です。彼との約束を守るために、馳せ参じました」

「おお、リサ殿か」王の側近の一人が、進み出た。確か、最近、見習いから正式な司祭に就任したアリマ・センと言ったっけ。王の側で従軍神官として抜擢されたという。

「え、もしかしてアリマさん?」

 リサさんも反応した。王の側近の神官の知り合いともあって、あたしが紹介するまでもなく、リサさんの身元は証明された。

 さらに、リサさんはあたしも世話になった老魔法使いヤズトロモさんの知人でもあるらしい。偉人同士は、いろいろ縁してつながって行くものだなあ、と感じた。

 あたしは偉人じゃないけど、偉人たちの末席で、彼ら彼女らの会話を間近で聞く機会に恵まれて、ラッキーだと思っている。

 そのラッキーな英雄譚を、あなた達にもお裾分けしたいって気持ちだよ。

 

酒宴の席で

 

 こうして、ストーンブリッジ史上、いや北西アランシア史上に残る有名なトロール軍との決戦は、多くのドワーフ戦士の犠牲を経ながらも、善の勢力の崩壊には至らずに大禍なく終了した。

 探索行や戦場で散って、還らぬ人となったビッグレッグさんやスタッブさんなどの葬儀がしめやかに行われて、あたしはリサさんの瞳に涙がこぼれるのを見た。時折り人間離れした豪快な言葉を口にして、奇行も目につくけど、こういうところは人間らしいと思う。

 あたしは、ビッグレッグさんにそれほど感情移入していなかったけど、戦場であたしを守って死んでいった無名のドワーフ戦士さんたちのことは悲しかったし、彼らのことは心に刻みつけようと思っている。

 葬儀は、アリマ・センさんの主導の元で、厳粛に行われたけれど、スタッブさんはアリマさんの冒険仲間でもあったらしい。

 仲間かあ。

 ギルドで共に仕事をした同業者はいるけど、あたしはギルドっていう仕組みが、自分の理想とする冒険とはちょっと違う気がして、あまり親密に打ち解けて来なかった、と思う。

 スタッブさんの話は、リサさんやアリマさん、それから戦いが終わってからストーンブリッジに帰って来た鍛冶屋の老ドワーフ、バーノン・ブレイドスミスさんが思い出をいろいろと語ってくれた。

 このバーノンさんも、西の火山島というところで、トカゲ王という邪悪な爬虫類部族に捕まっていたところを、異世界から来た戦女神に救出され、激しい戦闘の末に(傷だらけの体を見れば一目瞭然だ)自由を勝ち取ったそうだ。

 スタッブさんの鍛治の師匠に当たるそうで、弟子の死に号泣していたのが印象的だったけど、あたしには彼の話から、世界はいろいろなところで、さまざまな人との縁や関わりでつながり、歴史が紡がれて行ってるんだなあ、って感じた。

 あたしは旅先でビッグレッグさんと出会ったから、今回の事件の当事者になったし、

 リサさんとアリマさんは〈雪の魔女の洞窟〉ってところで知り合ったという。そして〈雪の魔女〉の奴隷にされていたスタッブさんをリサさんは助けたけれど、このストーンブリッジに到着した際に別れたという。

 

「本当はあたし……いや、ぼくもスタッブ君に付いて行きたかったんだけどね」葬儀の後の宴席上でほろ酔い気分になって(どうも泣き上戸の気があるようだ)、リサさんは思い出を語ってくれた。「魔女の呪いで弱っていたから、呪いを解除するまでは足手まといにしかならなかったし。今なら、スタッブ君を絶対に死なせなかったんだけどなあ」

「いかなる英雄も、全ての命を救うことはできぬものよ」この場の最長老のバーノンさんが重々しい口調で慰めるように言った。「わしの恩人の戦乙女どのも、島に渡ってからいきなり親友の船乗りを魔物に殺されてな。その魂を呪具たる短刀に封じながらトカゲ王打倒の使命を果たし、最後は封じた親友の魂を自然に還して、己が世界に帰って行ったよ」

 まるで違う世界の神話伝承を聞いているかのような不思議な話。

 リサさんも、バーノンさんも、あたしとは及びもつかない英雄譚を経験して来たんだろうなあ。

「正直、魂がどうこうというのは、わしには眉唾でのう」そうバーノンさんが言うと、アリマさんが聖職者らしい説教を語り始めようとした。

 しばらく堅苦しい話が展開されて、うんざりしたリサさんが一言、「じゃあ、アリマさんはスタッブ君の魂が今どこにあるか分かるわけ? 聖職者だったら、永劫輪廻って言葉も知ってるでしょ?」

「それは……ドワーフの哲学じゃない」

「エルフの哲学よ。あた……ぼくはそれが正しいことを証明できる」

 あ、リサさんの目が赤く染まっている。本気モードだということが分かる。下手な反論をすると、アリマさんの命が危ういのでは?

 そういう緊迫感を覚えたりすると、さすがは年の功というか、バーノンお爺ちゃんが話を引きとった。

「魂の行方など、小難しい話はわしにはできんが、鍛冶屋は己の魂の一片を鍛えた武具に捧げる。戦士だってそうじゃろう。剣心一体、違うか?」

「剣心一体か。それが全てではないと思うけど、その意味するところはよく分かる……と思う」リサさんは神妙にうなずいた。

 残念ながら、あたしにはさっぱりだ。魂を捧げるほどの名剣に出会えていないから? 凄い人の会話をただ聞くだけに留める。

「後で、その剣の刃を研がせてくれ。スタッブが研いだという剣に、彼の魂が残っていないか触れて確かめたい」

「お願いします」リサさんは素直に頭を下げた。「それと刃を研ぐ技術も伝授してもらえませんか? スタッブ君の技を真似してみたけど、どうも上手くいかない感じで」

「スタッブの弟子見習い……みたいなものか。しばらくストーンブリッジに留まってもらうぞ」

「はい」リサさんは朗らかに答えた。「この村に、しばらく厄介になりたいです。自分の家を建てて、ここを第2の故郷にできればいいなあって。自分の実家は焼かれたそうだし」

「おお、それじゃ。リサ殿。母上に渡してくれと頼まれた金貨25枚。渡せなかったので、返しておかねば」

「律儀だなあ、アリマさん。だったら、そのお金は村の復興資金に用立ててよ。あたしもここに世話になるんだし、トロールの先遣部隊に焼かれた家とかもあったりするんでしょ? あたし、いや、ぼくも金貨200枚ほどは持ってるし、自分の新しい家を作りたいからさ」

 金貨200枚って、凄いなあ。

 サラモニスだったら、税金でどれだけ持って行かれるんだろう?

 文明国特有の世知辛い発想に心の中で苦笑しながら、この田舎のストーンブリッジの大らかな、それでも刺激的な冒険感覚あふれた風情に、これこそあたしが求めた夢の世界だ〜なんて思いながら、あたしは夢の世界に微睡んで行った。

 飲み慣れないお酒、それもドワーフさんたちのペースで相伴していたんじゃ、最後まで付き合えないのは分かりきっていた。

 その夜の酒飲み話は、幸せな夢と入り混じって、あたしの心に残っている。

 

次なる冒険の幕開け

 

 その後もしばらく、あたしとリサさんはドワーフの村のお世話になった。

 戦争の後で、多くの人手を失ったストーンブリッジだけど、元より交易が盛んで、豊かな自然の実り、そして手先の器用なドワーフの工芸品や細工物が名産で、闇の勢力の台頭が見られなくなった以上は、村に活気が戻るまで時間は長く掛からなかった。

 リサさんは率先して周囲のパトロールを志願し、あたしも付き合った。赤ツバメさんが空から偵察し、見つけたゴブリンどもは手早く片付けていった。トロールはあたし一人じゃ危険だったけど、リサさんは難なく倒してのけた。

「リサさんは、いつまで村にいるつもりなの?」あたしは気になって尋ねた。

「う〜ん、お腹に子どもがいないって確信できるまでは、旅に出られないよね」

 まさか、こんな答えが返って来るとは思わなかった。天から降臨した英雄にしては、生々し過ぎる。

「彼と一夜を共にしたから」と言いながら、空を見上げる。そこに舞うのは赤い鳥。

 鳥と人間で一夜を共に……って、どういうこと?

 リサさんの話では、あの赤いアマツバメは、元々エルフのレッドスウィフトという冒険者だったのが、呪いの影響で死んだ後、鳥の姿に転生したそうな。

 だから鳥が彼氏で、という説明は何とか納得したけど、エルフが死んだら鳥になるって話は初耳だった。まあ、妖精が死んで草花になるとか、魔法で樹木になるとか、童話のトロールは死んで岩になるとか、異種族は不思議な話をいっぱい聞くから、エルフが鳥になるって話も有り得るのかもしれない。

 だけど、英雄の周りには不思議なことがいっぱい起こるんだなあって思った。

「それで鳥がもう一度、人の姿になったりはしないの?」

「たぶん無理。でも、魔法を使えば、もしかするとって思うけど、そういう不自然な魔法は、彼、嫌がると思う」

 いや、死んで鳥になる方が、あたしにはよほど不自然なんですけど?

 それを聞いて、リサさんは笑った。「だけど、エルフの世界では自然の姿に転生って時々あるそうだし、ぼくは赤ツバメさんが帰って来てくれただけで嬉しいし。先のことを考えるのは、それからでいいよ。今はもう少し、落ち着いて考えることのできる場所と時間が欲しいし、そのためにスタッブ君のストーンブリッジが元どおりに復興する手伝いをしたいんだ」

「……一夜の契りで子どもができていたら?」

「たぶんないと思うけどね。自分がお母さんなんて信じられないし、それでも万が一を考えると、家ぐらいは作りたいし。でも、ロガーン様はあたしに冒険をさせたがるはずだから」

 リサさんは、運命神の強い信者みたいだ。あまりにトリッキーな神さまで、秩序を重んじるサラモニスでは公式な神殿が設けられていないけど、どこかの闇に神殿が隠されていたり、選ばれた英雄の夢に干渉したりするとか。

 ただ、ロガーンに選ばれると、数奇な運命を辿らされると聞く。

 英雄の運命って、あたしみたいなただの冒険者には凄いって思えるけど、自分の人生を過酷な試練に振り回されるのは勘弁かな。それほどの大事に巻き込まれずに、楽しく適度なスリルを経験して、生きていくのに十分なお金を稼ぐことができて、人から多少は尊敬されるような生き方(崇拝まではされなくたっていい)だったら……あとは少々、自分が愛し、愛される彼氏と出会って、とか、美味しいものが食べられて、とか欲を言い出せばキリがないけど、程々の才能に見合っただけの程々の幸せと充実感があればいい。

 まあ、その程々がなかなか満たされないから、苦労しているんだし、今を懸命に生きたり、時々はだらだら過ごしたりしながら、手持ちのお金の残りを数えて、何かいい仕事はないかなあ、と噂話に聞き入ったりするのが日常かな。

 それに比べて、リサさんの話を聞くと、本当の英雄は放っておいても冒険が向こうから降りかかって来るらしい。最初はちょっとした仕事かな、と思っていても、突然、アランシアの危機だって話に巻き込まれたりして、時には人を巻き込んだりしながら事件の解決に奔走するのだとか。

 失敗すれば、世界が滅びるなんて事件を、自分が当事者になったりすると、緊張感が半端ないと思う。それを楽しめるようになれば、本物らしいけど、リサさんもまだそこまでの域には至ってなくて、自分と、自分の大切な知り合いが生き延びるのに必死なだけだそうだ。

 リサさんみたいな人が生き延びるのに必死な冒険って、どれだけなのよ、と聞くからに震えが止まらない。

「……だったら、今の平和は満喫しないとね」リサさんに同情しながら言うと、

「実はロガーン様から夢でお告げがあったんだよね」と、また凡人には不可解なことを言い出す。リサさん、神秘すぎ。

「ぼくにもよく分からないんだけど、『マルボルダスに気をつけろ』だって。知ってる?」

 丸ぽんたん? そのマルなんちゃらって言葉に聞き覚えはなかった。人の名前なのか、怪物の名前なのか、それとも地名?

 サラモニスでは聞いたことがないって言うと、リサさんは別にがっかりすることもなく、むしろにっこり微笑んだ。

「君が知らなくて良かったよ。もしも知っていたら、それが新たな冒険の始まりになって、休めなくなっちゃうし。たぶん、その名を聞いたときが次の冒険の始めどきなんだと思う。逆に言えば、その名がぼくの人生に関わって来るまでは、ゆっくり休んでいられる。きっと、ロガーン様は『マルボルダスが出現するまでは休んでいろ。ただし警戒は怠るな』って意味で言ったんだと思うよ。だから、マルボルダスよ、来るなら来い、でも今は来るな、という気持ちでしばらくいるつもり」

 この人の思考も時々ぶっ飛んでいる。

 普通、神さまから警告を与えられたら、もっと深刻にならない?

 警告が形になってはっきりするまでは、ゆっくり休もうなんて言える?

 でも、まあ、よく分からない警告にいちいち悩んでばかりってのも、頭がおかしくなりそうだし、大事なことならイヤでも向き合うときが来るのだろう。

 そのための準備だけはしっかり整えておきたいけれど、平和な日常生活で気分をリフレッシュさせるのも準備の一環だと思えば、まあ。

「まずはドワーフさんたちに手伝ってもらいながら自分の家を作って、ヤズトロモさんに手伝ってもらいながらジン君を元の世界に送り返して、することいっぱいだしね。マルボルダスのことは後回しでいいって思う。一応、ヤズトロモさんにも相談してみるけど」

 うん、相談相手がいるのはいいことだ。

 そして、人に相談相手になってもらうには、日頃の信用が大事ってことだね。

 魔法のこととか、判じ物なんかは、頼れる魔法使いも近くにいるんだし、リサさんは自分の人生や人間関係をしっかり構築しようとしている。

 ふらふら自分の人生が見えずにいるのは、あたしの方だ。

 だから……しばらくはリサさんを手伝いながら、あれこれ学ばせてもらおうと思った。

 

 それからしばらくして、リサさんのストーンブリッジの家が完成し(鍛冶屋のバーノンさんの鍛冶場兼用の古家の近く。昔、スタッブさんが住んでいたところを、人間用に大きく改装した)、あたしはリサさんの妹分として居候。

 リサさん曰く、スタッブさんが結んでくれた縁らしい。あたしはスタッブさんと会ったこともないけど、彼の連れのビッグレッグさんを介して、リサさんと縁ができた。リサさんにとっては、それもスタッブさんつながりってことなんだろうなあ。

 そういうつながりを大事に考えるところが、リサさんらしい。

 あたしにとって、リサさんは尊敬する英雄であるけれど、もっと身近なお姉さんって感じもしてる。

 日々のパトロール(慣れてくると散歩みたいなものだ。ゴブリンとかトロールとかも、だんだん出現は稀になって行くし)のついでに、剣術の訓練を施してくれたりもした。

「うん、最初の君は技術点8ぐらいで正直不安だったけど、今だったら技術点10ぐらいだから、中の上ぐらいにはなったと思うよ」

 リサさんの言葉は時々分からないこともあるけど、それもロガーン様譲りの用語かな。とにかく、サラモニスの冒険者ギルドで多少かじった程度の剣術も、実戦を切り抜けたリサさんの指南で、自分でも驚くぐらいに上達した。

「元々、君はぼくよりもタフで、スタミナがありそうだから、スキル(技)を磨けば、一線級の冒険者にはなれる資質があるよ」

 そうお墨付きをいただいたようで誇らしい。

「それで、これからどうするの? サラモニスに帰る? それとも北の地をもっと旅して回る? ここでぼくを手伝ってくれるのは嬉しいけど、君には君のやりたかった冒険があるんじゃないかな? ストーンブリッジが君の目的(ゴール)ってわけじゃないでしょ?」

 リサさんは勘が鋭い。

 あたしのことも見透かされている。

 そのことを不快に思うことなく、むしろ本当の姉のように親身になってくれているようで、嬉しく思う。

「あたしは……」ここに来るに至った最初の目的を打ち明けた。「〈火吹山〉に行ってみたい。魔法使いの洞窟に眠っているという噂のお宝を手に入れたい。もう残っているかどうかは分からないけど、すべての冒険は〈火吹山〉に通ずって気がするんだ。だったら、せめて洞窟がどうなっているか覗いてみるぐらい」

「〈火吹山〉かあ。山頂からの見晴らしはきれいで、昇る朝日が眩しくてさ。あそこで、あたしも生き返ったって気もしたんだね。うん、いいところだよ、きっと。噂の洞窟までは、入ったことがないんだけど、良かったら、君、ぼくの代わりに探検してきて。行って帰って、中に何があったか、ぼくに教えてよ。今の君なら、きっと魔法使いでも倒せるんじゃないかな。たぶん、弱点をうまく発見できさえすれば。ロガーン様に、君の幸運を祈ってあげるよ。うん、〈火吹山〉探検の主人公は君だ!」

 

 こうして、あたしの新たな冒険が始まった。

 ストーブリッジと交流のある、山のふもとの村アンヴィルを目指し、そこで噂を仕入れてから、洞窟の中に侵入する心づもり。

 リサさんにとっては懐かしく、あたしにとっては新鮮な、始まりにして終わりの地とも言える〈火吹山〉に向けて、あたしは旅を再開する。

 いろいろな出会いや想いを冒険の力に変えながら。

 

(『雪の魔女の洞窟』および『運命の森』の後日譚、完結。『火吹山の魔法使い』の攻略感想・過去記事はこちらから