リーサンのキャラ能力と、今回のルール
リモートNOVA『それでは、リーサンの新たな冒険譚を開始しよう。まず、彼の能力だが、「アランシアの暗殺者」をクリア時は、技術点11、体力点18、運点12となっていたが、その後の冒険を経て、今回は技術点12、体力点20、運点12に成長したことにする』
ダイアンナ「『雪の魔女の洞窟』でのリサ・パンツァと同じだね」
NOVA『個人的には、技術点は11ぐらいがゲームとして面白いと思うんだな。と言うのも、運だめし以外の判定では、技術点以下を出せば成功というのが多く、技術点12だと失敗の可能性がゼロなので、わずかながらでも失敗する可能性がある方がダイスを振る際にドキドキする。しかし、あまりに失敗の可能性が多かったり、敵の技術点が高い場合は、攻略そのものが厳しいので、やはり技術点は11から12が欲しいわけで、ジレンマなんだな』
アスト「まあ、失敗によるペナルティーが少ないゲームだと、技術点は9か10ぐらいが楽しいと思うがな」
NOVA『ただし、「死の罠の地下迷宮」以降のリビングストンは、技術点12がデフォルトだと思う。11でギリギリ。10以下だとデッドリー過ぎて仕方ない。なお、本作の敵はリビングストン作品に比べると、能力値的にはそれほど強くないので、技術点11、運点11でもクリアできたが、攻略記事としては、改めて文章を書きながらリアルタイムでダイスを振ることにしたので、やはり12にしておく』
アスト「敵が強くないなら、技術点11でもいいんじゃないか?」
NOVA『いや、それがだな。技術点での判定が、他のゲームブックだと技術点以下で成功なのに、本作では技術点未満で成功。技術点ぴったりだと失敗扱いなんだよ』
ダイアンナ「つまり、出目12は失敗になるわけか」
NOVA『そう、技術点11だと、約10%で失敗する。本作の技術点判定は、失敗すると割と致命的なことが多いので、失敗率は36分の1に留めておきたい。6ゾロで失敗だと、運が悪かったと諦めもつくが、6と5でも失敗だと、攻略記事を書きながら何となく納得できないと感じるだろうな、と。とりわけ、夏場のピリピリ環境で、そういう気分にはなりたくないわけで』
アスト「それじゃなくても、本作は陰鬱そうなゲームだもんな」
NOVA『アーロックみたいなイラッとさせられる話じゃないけど、とにかく陰謀劇とか、知り合いがどんどん死んじゃう描写があって、楽しい物語じゃないんだよな。だから、キャラの能力でガーンと落ち込む展開にはしたくないわけで、この時期の自分の精神衛生上のことも考えての能力値だ』
ダイアンナ「死んだら死んだで、その時だって考えたりは?」
NOVA『いや、リアルプレイだと、何度も死んでるんだって。本作は一筋縄ではいかないからな。ちなみに、バッドエンド・パラグラフの数は44個だ。ここで攻略した中での過去最高は「モンスター誕生」の46回だけど、あれは460パラグラフ中の46回で10%。しかし、本作は400パラグラフ中の44回だから、11%に達するわけで。ぶっちゃけ、敵の数値的な能力はそれほどでもないのだけど、パラグラフ構造とか罠とかがとにかく意地悪すぎて、しかもジャクソンみたいなクスッと笑える鮮やかさがない。やられた(苦笑)じゃなくて、えっ、何? こんなので死ぬわけ? どうなってんだ、これ?(呆然)って感じの死に方。まあ、さすがにアーロックみたいな、死にやがった(嘲笑www)的な文章じゃないのでイラつきはしないんだけど、予想外のバッドエンドで???を感じさせることが何度もあったな、と。やはり、バッドエンドの文章の書き方に作者の個性が出ますよ、これ』
アスト「『謎かけ盗賊』の作者だから、死に方も謎めいているということか」
NOVA『本作独自のルールは、時間点。確か27巻の「スターストライダー」が初だと思うけど、記憶違いの可能性もある。ともあれ、時間点が20点貯まると、バッドエンド・パラグラフの326番に行って、「荒野を当てもなくさまよっているうちに、カラメールは敵の手に落ちる。任務に失敗した恥ずかしさのあまり、アランシアから逃げ出す。アランシアの英雄としての、君の冒険は終わった」的なエンディングだ』
アスト「大丈夫だ。アランシアから逃げても、旧世界やクールがある」
NOVA『ある意味、凄いよな。恥ずかしいという理由だけで、大陸から逃げ出すってのは。なお、時間点が18点になると、パラグラフ57番でスズメバチ暗殺者(技術点5、体力点10)という刺客に襲撃されて、3点ダメージを受ける』
ダイアンナ「技術点5の暗殺者か。ザコいね」
NOVA『本編でイベント登場するときは、結構、脅威に感じたんだけどな。まあ、リーサンは暗殺者ハンターなので、文字どおり飛んで火に入る夏の虫なんだが』
アスト「特殊ルールは時間点だけか?」
NOVA『ああ。あとは冒険の装備品とか、以下のデータだな』
★リーサン・パンザ(奈落の帝王ver)
・技術点:12
・体力点:20
・運点:12
・食料:5
・金貨:5
・時間点:0
・装備:ファングセイン鋼の剣、革鎧、背負い袋
ダイアンナ「ポーションはないんだね」
NOVA『社会思想社の邦訳版も後期になると、ポーションをくれなくなるんだな。それはともかく、アランシアで名も知れた冒険者って設定の割に、所持金貨がたったの5枚ってところにツッコミを入れたい。ゲームの都合とは言え、それまで稼いだお金はどうなったんだ?』
アスト「戦争で物価が高騰して、生活費で使ったとか? あるいは田舎で人々を救済するために施した結果、名声が高まったとか?」
ダイアンナ「どこかの発明家に、気球を作らせるために投資しているとか、運命神の神官を知っているという人間に詐欺で騙し取られたとか、いろいろ考えられる」
NOVA『まあ、いくらお金を稼いでも、ラストで〈奈落の帝王〉になってしまえば、現世の金など意味がなくなるからな。宵越しの金など持たないって、ギャンブル好きの性格かも知れないし、実は金銭感覚が狂っているのかもしれない。稼いだ分、使いたがる性格で、貯金という概念がないとか』
アスト「現代社会だと、破滅型の性格をしているな、リーサン」
カラメールの宮廷会議
NOVA『リーサンの金銭事情はさておき、運と実力、そして名声はあるので、カラメールの宮廷からお呼び出しが掛かるんだな。国の密偵のソフィアに誘われて、国防会議に参加するわけだ。レディ・キャロリーナを中心に、国の重要貴族4人に紹介される』
- マッドヘリオス:キャロリーナのいとこの太った男。グルメにして、農林水産など食料関連を取り仕切る国の重鎮。イラストではハゲて、ランプの魔神風味のユーモラスな外見の巨漢。
- イクチャンのダンヤザード:カラメールで最も裕福とされる商家の女性。交易や経済関連を取り仕切る。キャロリーナに次ぐ、国のナンバー2っぽい采配を示す。
- 沈黙のシージュ:旧家の地を引く貴族の女性。堂々とした振る舞いに反して、声は小さく、ボソボソとした話し方をする。カラメールの伝統的な儀式や、様々な知識を有していて、呪術にも詳しいらしい。
- アシア・アルブドール:厳格な司法官の女性。控えめな態度を崩さないが、カラメールの法や裁きを公正に取り仕切る。
NOVA『マッドヘリオスと、沈黙のシージュがどんな仕事をしているかは、本編中に明記されていなかったが、後々の描写を踏まえて、こちらで補った。とりわけ、一番無能そうなのがマッドヘリオスで、いつも飯食ってるような描写しかない感じで、女領主のキャロリーナのいとこという血縁関係だけでここにいるように思える』
アスト「でも、食べ物にこだわりがあるからこそ、国の食べ物を管理する役職と」
NOVA『自分が食べるだけでなく、グルメだからこそ、食料関連の政策には気を回せるのだろう。自分がたっぷり美味しい食事をしたいからこそ、国の食糧事情も良くなるよう公私ともに身を入れて仕事して、それなりの才覚を見せているのかもしれん』
アスト「本好きが図書館管理をするようなものだな」
NOVA『これは当たり前だが、教育関連の事業に興味がない文部科学大臣とか、IT関連に無知な情報担当など、適材適所と呼べないような持ち回りだけの大臣制度はどうかと思うな』
アスト「官僚制度が強化されると、大臣は官僚の仕事を邪魔しないだけで国が動くってのも事実だからな。近代国家と、個人規模の才覚で国が回る中世風ファンタジー国家を一緒には考えない方がいい」
NOVA『しかし、トップがその担当部署にあまりに無知だと露呈してしまうと、もっとマシなのがいないのかと思わなくもない。まあ、大臣が無能に見えても、事務次官が優秀ならいいのかもしれないが、やはり成長する国は上に立つ人間の優秀さをアピールしている感じがあるな』
ダイアンナ「で、この中に一人、裏切り者がいるわけだね」
NOVA『まあ、FF23巻「仮面の破壊者」以降、国を描くなら、裏切り者は当たり前のように出て来る感じがあるな。対外的な敵と、その敵と手を組んだ内部の敵と。逆に、敵勢力を切り崩す際にも、裏切り者はしばしば見受けられるんだが』
アスト「ぶっちゃけ、誰が裏切り者なんだ?」
NOVA『それは後の楽しみにしておこう。ラストがどうなるとか、誰が死ぬとかネタバレをそれなりに語ってきたわけだが、中盤の山場まで過程を全部語ると興醒めだろう?』
ダイアンナ「異界にいる〈奈落の帝王〉とコンタクトを取れそうな人間ってのが怪しいけどね」
NOVA『ただし、物語の開始時点では、〈奈落の帝王〉の存在自体、作品タイトルでしか明らかになっていないんだがな。しかも原題は「奈落の奴隷」だし、捕まっている被害者側が表看板のゲームブックもFFでは珍しい』
アスト「AD&Dゲームブックでは、『パックス砦の囚人』というのがあっただろう?」
NOVA『FFの基本は、「冒険の舞台」と「敵ボス」絡みのタイトルだな。最初の10巻で例外は、SFの「さまよえる宇宙船」のみだ。そして、11巻の「死神の首飾り」でアイテム名が作品タイトルになったのは、ソーサリー4巻の「王たちの冠」からの流れで、12巻の「宇宙の暗殺者」で初めて主人公の称号がタイトルに出て来る』
ダイアンナ「ゲームブックは主人公が無個性なケースが多いので、主人公名をタイトルにしにくい事情があるもんね」
NOVA『とりあえず、表紙を見ると、宇宙みたいな異空間を背景に、〈奈落の帝王〉らしき人物と、牢屋に捕まっているらしき人々と、透明っぽい怪生物が3体いて、ファンタジーよりもSFっぽさが濃い絵柄なんだけど、描き手はテリー・オークス。FFでは他に15巻「宇宙の連邦捜査官」や25巻「ナイトメアキャッスル」などを描いている。他に未訳が7本で、パフィンブックス版の後期の常連画家といった感じだな』
NOVA『あと、本編イラストはボブ・ハーヴィーって人だけど、全体的に不気味で萌えない』
アスト「いや、FFに萌えを期待するなよ」
NOVA『期待してはいないが、たまに当たりがあると印象的なんだよ。「盗賊都市」の女吸血鬼(イアン・マッケイグ)とか、「トカゲ王の島」の萌えガール2人(アラン・ラングフォード)とか当たりだし。本作のボブ・ハーヴィーは、11巻「死神の首飾り」とか16巻「海賊船バンシー号」、19巻「深海の悪魔」の人で、ちょっと変わった不気味な異世界って感じで、「火吹山」や「バルサス」の本文イラストで有名なラス・ニコルソンのユーモア・ファンタジー感覚よりは、写実的な印象。それだけに、スズメバチ暗殺者とか普通にグロくて怖い』
ダイアンナ「怖いんだ」
NOVA『俺、蜂が怖いんだよ。蜂女はいいんだけど、リアルにディフォルメなく昆虫人間を描かれると、ゾクゾクする。ワクワクはしない。ゾワゾワはするけどな。ともあれ、本編中に出て来る、キャロリーナ、ダンヤザード、シージュのイラストは全部萌えないので、感情移入には至らない。途中に、粘液まみれの女の子という萌えシチュエーションがあるのに、付いているイラストがちっとも可愛くなくて興醒めだったり。このシーンをアラン・ラングフォードが描いたら、と思うと残念でならない』
アスト「だから、FFに萌えを期待するなってことだ」
NOVA『まあ、砂漠に水を求めるが如しかもしれん。しかし、それだけに、たまにレアな可愛い系イラストに出くわすと、インパクトが大きいんだよ。いずれにせよ、想像力を掻き立てるイラストが当たりなんだけど、ボブ・ハーヴィーは可愛い系ではなくて、不気味系の想像力ばかり掻き立てるからな。それはそれで、シリアス真面目で異形な世界観を上手く体現してはいると思う。美とか華やかさとは違うので、お勧めとかツボにハマる絵ではないのだけどな』
ダイアンナ「絵の話はそれぐらいにして、ストーリーはどうなんだい?」
NOVA『キャロリーナは簡単にあいさつをかわすと、会議の中心として状況を説明してくれる。北のベイ・ハン国の侵攻に備えて、軍隊はそちらの国境に回しているから、現段階でカラメールは宮廷警護の騎士や衛士、素人の民兵程度しかいなくて兵数的に無防備である。海軍は健在だけど、あろうことか東の陸地から謎の敵が攻めてきて、村々から人が次々と消えているという情報が入ってきた』
アスト「殺されたのではなくて、消えたってのが謎だな」
NOVA『おそらく、東にあるクラック島の蛮人が上陸して、村人たちを拉致しているのでしょう、とキャロリーナは推測する。打てる手は、北に配備した軍に急使を送って、半分を東の警備に当てること。軍が帰って来る前に、街の防備を固める必要もあって、それには民兵を率いる経験豊富な傭兵、もしくは冒険者が最適なこと』
ダイアンナ「〈無敵のラメデス〉がうってつけだろうね」
NOVA『そのラメデスが、今はカラメールにいないんだ。キャロリーナの命で、神話に名高い至宝の探索に出かけていて、まだ帰って来ないままなんだ』
アスト「それこそ、トレジャーハンターのリーサンの仕事だろう?」
NOVA『まあな。リーサンが街にいたら、ラメデスから探索への同行を誘われていたかもしれないが、とにかくラメデス不在なので、リーサンも召集されたわけだ。ラメデスの代わりに、街を守る仕事を協力願えないだろうか、と』
アスト「リーサンは軍隊経験なんて持ってないだろう?」
NOVA『大規模なのはな。過去に、ザンバー・ボーンのアンデッド軍団に対して、大魔術師2人や嫁の支援で、少数精鋭のバトルを行なったことはある。その前に、ポート・ブラックサンドで投獄されたニカデマスさんを救出するために、囚人たちを扇動したことはあるが、ただの暴徒の集団で、軍事活動とは言えないお粗末なものだったな』
ダイアンナ「ルーサーだっているでしょ?」
NOVA『アルブドールの助手みたいなことをしている。宮廷の警護とか、近衛の騎士団の統率をラメデスの代わりにしていて、民兵までは手が回らないそうだ』
アスト「ラメデス不在で、ルーサーとソフィア、それにリーサンか」
NOVA『他に、名もなきモブ冒険者も合わせて全部で10人(リーサンを加えて11人)いて、国の指定した仕事に志願するようになっている。ここでパラグラフ1番の選択肢だ』
- 馬で北への急使となって、軍隊の半分を呼び戻す任務。
- 東へ向かって、敵の正体を探る任務。
- カラメールに残って、街の防備を固める任務。
アスト「正解は馬で北へ向かうことだな」
NOVA『最適解は東の偵察活動だよ』
アスト「しかし、オレだったら馬に乗る」
NOVA『まあ、それでも時間を多少無駄にするだけで、解けなくはない。そもそも北へ行ってから、改めて東へ行き直す選択でないと、見られないイベントがあるので、物語的には北→東を推奨する。ゲーム的な最適解は東の一択なんだが』
ダイアンナ「待機は?」
NOVA『あっさりゲームオーバーになる一利なしルートだ。そちらを選ぶと、カラメール内部の防備施設があまりに脆弱で、敵軍に対して籠城戦をするにも勝ち目がなさそうだと分かる。さらに鏡の向こうを見て、不気味な影が街を飲み込むような幻を見て、恐怖心に駆られて、やはり街に待機するのは間違いではないか、と感じるようになる。北か東を選び直してもいいし、このまま待機し続けてもいいが、後者だと次のパラグラフで早くもバッドエンドだ。1→288→174→182で、3パラグラフ進んだだけでゲームオーバー。ゲームオーバーの文章はこんな感じ』
長い年月が過ぎて、カラメールの街は廃墟となっていた。
廃墟から発掘されたファングセイン鋼の剣をネタに、市場の露店主と農夫が会話している。
この剣の持ち主は、カラメールの街と運命を共にしたらしい。
街と戦士は無惨な最期を迎え、君の死体は街の残骸の中に埋まっている。
アスト「いきなり、話が未来に飛ぶのかよ」
NOVA『最初に読んだときは、呆気にとられたな。何が起こったんだって。要するに、街の防備を固めても役に立たなかったって話だ。「夏草や兵(つはもの)どもが夢の跡」的なエンディング。死に至る様子を描写するのではなくて、すでに死んでいるという歴史の1ページとして語られるバッドエンド。新鮮な演出ではあったと思う』
北への伝令任務
NOVA『それでは、引きこもり籠城作戦が役に立たないと運命神から幻の啓示が示されたようなので、援軍を求めて北へと向かうリーサン・パンザだった。パラグラフ92番で、キャロリーナから軍の司令官ユナン宛ての指令書を託される。ついでにキャスティス神の加護を祈られたが、そんな名前の神様は聞いたことがないなと思いつつ、調べてみると、幸運と運命の女神シンドラの異名らしい』
ダイアンナ「運命神はロガーンじゃないのか?」
NOVA『ロガーンは中立神で、古き神。シンドラは光の神(善神)で、新しき神という区分けだな。古き神は創造神や自然神で、新しき神は人の文化や精神活動を司る神々。神話的には、神々の大いなる大戦の時期に登場したのが、新しき神で、現在のアランシア人の多くは新しき神をよく信仰しているらしい。ソーサリーで有名な女神リーブラも、新しき神に分類される』
ダイアンナ「つまり、アランシアの一般人は、幸運をロガーンではなくて、シンドラに祈るのが普通ってことなんだね」
NOVA『シンドラも、地域によっていろいろな異名があるわけだな。太陽神がアポロンだったり、ヘリオスだったり、ラーだったり、アマテラスだったり、いろいろな呼称があるのと同じで、種族や民族によって神の名にヴァリエーションがあるのがリアルってことだな』
アスト「まあ、そうやって神の呼称を体系化させるのは、神学者や宗教学者の仕事だろうけどな」
NOVA『とりあえず、神や宗教をテーマにした物語を描きたいなら、その宗教の神さまおよび超越的存在が、何を司って、どういう教えを推奨しているのか、説教で語れることが必須なんだな。まあ、本来はこういう教えなんだけど、うちの教団は改革派なので、この矛盾についてはこう解釈しているなんて話ができると、お話づくりに幅ができる。同じ神さまを信じていても、神学の解釈によって矛盾が発生し、異端の説と見なされて派閥が複数できるのは、まともに宗教の歴史を勉強すれば、当然なんだからさ』
アスト「唯一神の教えだって、たった一つってことはないって話だな」
NOVA『結局、神さまの教えだって、人がどう解釈しているかって話で、対話と説法で神学を語り合うのが聖職者の仕事であり、それをまとめて分かりやすく民に伝えるのが説法師。だから、そこまで宗教を突き詰めて考えたくないけど、ファンタジー宗教を描きたければ、不良説法師としてキャラ設定するのが無難だな、と』
アスト「ある意味、聖闘士星矢の女神アテナ自身、オリンポスの神の中では異端扱いされてしまうオチだったからな。人間の価値基準に染まり過ぎたというか」
NOVA『俺自身は、宗教ってものは人間の文化活動の中で発生したものだと考えているから、唯一絶対の教えというものに懐疑的だが、科学と同じで人間の生活文化を豊かにするものを取捨選択していけばいい程度に思っている。まあ、あまりに無軌道に、何でもいいとなってしまったり、基準があやふやになれば、教えとは言えないだろうけど、根底的な価値観さえ重ね合わせれば、異なる宗教間の対話も可能だろう。そもそも対話軽視で、自己の価値観は絶対で妥協は一切しませんって考えは、凝り固まった人間のエゴみたいなもので(宗教者は自己の正義に固まりがち)、そういう柔軟性を持たない宗教はキツいんだけどな』
アスト「だけど、タイタンの宗教ってのは、作品によってもバラバラのイメージがあるんだが?」
NOVA『ジャクソンもリビングストンも、元々はそこまで厳密に宗教を描こうとしていなかったんだよな。D&Dが、基本クラスに聖職者がいるせいで、ファンタジー宗教に踏み込み過ぎた傾向があるけど(それをさらに推し進めたのがルーンクエストの多神教・多文化ワールド「グローランサ」)、ややこしい宗教設定に深入りせずにシンプルに考えるなら、要は「良い神様と悪い神様がいて、善悪二元論で十分、物語は描ける」って考えで、後は地方ごと種族ごとに様々な信仰形態があって……と背景世界で体系化された神話観は、後からマーク・ガスコイン(ワールドガイド「タイタン」の編集者)がまとめ上げた』
アスト「しかも、聖職者のルールは、AFF2版(2011)になって初めて設定されたみたいだしな」
NOVA『FFゲームブックでも、魔法使いや盗賊が主人公になる作品はあっても、聖職者が主人公になる作品はないわけだ(邦訳されている限りでは)。まあ、魔狩人とか、神の啓示を受けた戦士(要はパラディンみたいな聖戦士)はいても、ファンタジー世界では珍しいぐらい、神や信仰の世界がテーマになることが少なくて(魔界とかは設定されているのに)、D&Dが信仰問題でいろいろ面倒な状態になったのを反面教師にしているような節さえ見られる』
アスト「でも、『タイタン』というワールドガイドが出版されると、多少は神話に合わせた宗教の描き方も模索するわけだな」
NOVA『それに、ジャクソンが「タイタン世界は、天上の神々が楽しんでいるゲームの世界」であるというメタ構造を小説で示したがために、あくまでゲームの材料としての神話宗教であると強調したようにも思える。その辺は、種族や地域によってもバラバラの信仰観をタイタン世界は提示していて、でも、それだとTRPGでゲームとして扱うには不便なので、AFF2版で整理し直した感じもある』
アスト「とにかく、ジャクソンが『サラモニスの秘密』で、文明化された都市には万神殿的な場所があるけど、ロガーン神殿は公式に祀られていなくて、影に隠れているって描いたのは、面白い設定だなと思って」
NOVA『小説では、ロガーンがボードゲームの審判をしているように描かれて、ジャクソンは割とロガーン好きに見える。まあ、ゲームに勝ったのはリーブラなので、リーブラも(ソーサリーでの生みの親として)好きなんだろうけど。そもそも、ロガーンは人間の創造神なのに、人間が表立って信仰しておらず、神学によっては「もっとまともな神が人間を創造したと語られることもある」と公式に書かれていて、笑った』
ダイアンナ「公式に、まともな神扱いされていないロガーン様って……」
NOVA『モデルが北欧神話のトリックスター神のロキだからな。もう、問題行動だらけのトラブルメーカーが創造主ってどうよって。まあ、ギリシャ神話も、最大のトラブルメーカーが主神をやってるし、ルーンクエストもオーランス・カルトを中心に考えたら、やはりトラブルメーカーだ』
アスト「確かに、ファンタジー神話の神さまのエピソードをいろいろ見てたら、神さまってのがいかにトラブルメーカーか分かるな」
NOVA『だから人間臭いって言われるんだろうけど。さておき、馬を駆って、時間点を1点確保して休憩を取ろうとしたタイミングで、運だめしを要求される。(コロコロ)8で成功して、運点残り11点。ええと、馬がつまづいて転んだ』
アスト「馬ァァァッ!」
NOVA『運だめしに失敗していたら2点ダメージだけど、幸い、リーサンは上手く着地してノーダメージだ。しかし、馬は足の1本をひねってしまい、もう走れないので、近くの村に連れて行って、別の馬に交換してもらうことにする』
ダイアンナ「そんな簡単に交換してもらえるものなのか?」
NOVA『馬を連れて、とぼとぼ街道を歩いていると、夕刻前に何とか近くの村に到着した。そこの村長に、領主の伝令だがと協力を求めると、キャロリーナの人気は高いようで、それならと喜んで村で一番速い馬に交換してもらえた。その後、少しでも遅れを取り戻すために先を急いでいると、道の前方に黒い塊が転がっていた。気になって調べてみると、ブラックサンドのソフィアの死体だった』
アスト「ちょっと待て。いきなり死んでいるのか?」
NOVA『ここで唐突に思い出すんだが、彼女は東の偵察任務に向かったはずなのに、一体どうして、こんなところでいきなり死んでるんだ? って疑問が湧いて出る』
アスト「確かに、東へ向かった彼女が、北に行く途中の道で死んでいるのは、方向感覚からしておかしくなるな」
NOVA『この辺は、地図を見て、脳内補完できた。カラメールは半島にあるので真北は海だ。北へ向かうためには、一度、東の街道を通って、それから北に折れる形になる。途中までは北も東も通る道は同じなんだ。要はともに北東に向かっていたと考えていいだろう』
アスト「つまり、ソフィアが道を先行していたわけか?」
NOVA『こちらは馬なので速いはずなんだが、途中で馬が走れなくなったから、その間にソフィアが先行していたんだろう。しかし、先行した彼女がどうして死んだのか? 何だか下半身が灰色のねばねばした物体に食い尽くされていて、無惨な死に方なんですけど?』
アスト「敵が誰だか分からないが、仲間として仇は討ってやらないとな」
NOVA『ゲームブックだと、ろくに会話もなく、いきなり死んじゃった知り合いという話だったが、その辺は「謎かけ盗賊」事件をともに解決した仲間という形で補完した。で、このソフィアが誰に殺されたかは、ゲームブックでは明らかにされていないんだけど、AFFサプリメントの「超・モンスター事典」の79ページ、スズメバチ暗殺者の項目に書かれてあったわ。〈奈落の帝王〉の手先の命に従い、「ブラックサンドの女冒険者ソフィアの暗殺」も行ったって。まあ、手先の名前とかネタバレ情報もしっかり書いてあるわけで、副読本としていい本です』
NOVA『スズメバチ暗殺者は、特殊能力として1日に1回、酸性の灰色の粘液を吐きかけることができるそうで、可哀想なソフィアは、その刺客の手で無惨な亡骸に変わったんだな(涙目)』
ダイアンナ「いきなり人が死ぬゲームか。とにかく、まだ犯人の手がかりはないんだね」
NOVA『ああ。この後の選択肢は3つ』
- このまま任務を続けて、北に向かう。
- ソフィアの任務を引き継いで、東に向かう。
- 一度、カラメールに戻って報告する。
NOVA『実は、これで正解は3番めの報告なんだな。1つめは、すぐにバッドエンド。2つめは、必須アイテムが入手できなくて、詰む。一度、カラメールに戻って、ソフィアの任務を正式に引き継ぐ以外の正解はないわけで』
アスト「北へ進み続けると、バッドエンドってのは、どんな感じだ?」
NOVA『伝令任務は成功して、ユナン司令官に指令書を届けると、彼は軍隊を半分ずつに編成し直し、その片方の指揮権をリーサンに委ねてくれる。リーサンは部隊長として、軍を率いてカラメールに帰還することになる。そして、数日かけてカラメールに帰還するんだが……次のパラグラフがやはり182番』
ダイアンナ「すると、奮戦むなしくカラメールは滅び、リーサンも討ち死にするわけか」
NOVA『こうして、まともに軍隊を率いても、謎の敵には対処できないということが分かって、そいつの正体を探るしかないって話だ』
謎の敵を追って
NOVA『北に向かい、ソフィアの無惨な死に遭遇して、報告のためにカラメールに帰還した。そこまでで時間点が2点貯まったわけだが、夜間にダンヤザードに報告することができた。彼女は北への伝令任務を別の者に託し、ソフィアの代わりに東の偵察任務をリーサンに正式に託してくれる。ここでさらに時間点を1点増やして、140番へ進むことになるわけだ』
アスト「ここまでで時間点3点か。最初から東を選んでいれば、時間を無駄にしなくて済んだろうがな」
NOVA『直接、東の偵察任務を選んだときのパラグラフは104番。こちらだと、5人の貴族との食事会イベントが入ってくる。まずは、マッドヘリオスから「軽はずみな行動を慎んで、必ず生きて帰って、報告するように」と当然の警告を受ける。ダンヤザードからは「途中の宿はフォーガ神殿を使うといい。それから街道沿いからは離れない方がいい」と忠告された』
ダイアンナ「フォーガって何の神さま?」
NOVA『誇りと復讐の神だな。プライドが高くて、キレやすいという悪口で引き合いに出されることも多い。どうも、未開の地の多いアランシアでは、気取った誇りはあまり美徳とは見なされていないらしい』
アスト「お前はオレの誇りを傷つけた。だから死ね、という世界観か。確かに蛮族信仰って感じだな」
NOVA『で、イベントとしては、食事会の途中に、ある小姓が秘密の手紙を渡してくれるんだけど、その場で開いてはいけない。余計なことをしたせいで、その小姓ジャナス君が殺されてしまうから。手紙は後で人知れず、読む方がいい。中には「多くの監視が付いている」という警告が書かれていて、思わせぶりな演出だな。そして、140番に合流すると、沈黙のシージュさんが道中の旅を祈って、幸運をもたらすにおい玉(ポマンダー)をくれる。眠気覚ましにもなるお守りだが、これは攻略必須アイテムなのでなくしてはいけない』
アスト「なるほど。シージュはお守りをくれるいいキャラなのか」
NOVA『実は、このお守りを持っている間は、眠ることができずに睡眠不足になるというペナルティーもあるわけだが、とにかく、再び馬に乗って東に向かい、その日の夕方になる。これでまた時間点が1点加算されて、4点めだ。におい玉がなければ、運だめしが必要だが、におい玉があると野宿中に、夜間の奇襲を免れる』
ダイアンナ「暗殺者の多いゲームだね」
NOVA『暗殺者への対処は慣れているからな、リーサンは。3人の刺客が近づいて来たところを、いち早く飛び起きて警告を示すか、ギリギリまで引き寄せて逆に奇襲するかの選択肢が出るが、暗殺者は死すべしの考えを持ってるリーサンは後者を選んだ。前者だと敵があっさり逃げてノーリスク、ノーリターンだが、やはり暗殺者相手だとサソリのペンダントをゲットしなければ攻略不能に陥るからな』
アスト「それは違うゲームじゃないのか?」
NOVA『とにかく、暗殺者を返り討ちにして金品を奪う。それがリーサン・パンザの生きる道だ。暗殺者の正体は黒エルフ。1人は不意を討たれて、一撃死。残り2体(技7、体6)を無傷で撃退し、金貨17枚と、拳型の小さな像をゲットした。フッ、このプロの暗殺者ハンターに夜襲を仕掛けてくるとは命知らずの奴らめ、とうそぶきながら』
ダイアンナ「だけど、黒エルフはソフィア殺しの犯人じゃないみたいだね」
NOVA『結局、こいつらはただの野盗みたいだな。ともあれ、次のパラグラフは163番だ。夜が明け、翌日も1日何事もなく経過して、ハスラーという小さな街に着いた。ここまでの旅でまた時間点が1つ増えて、5点めになる。このハスラーの街にはフォーガ神殿があるんだが、そこで一夜の宿を求めるか、それとも、もう少し先まで進むかの2択で、今回は終えておこう』
アスト「ずいぶんと中途半端なところじゃないか」
NOVA『このフォーガ神殿が少し話がややこしくなるからな。進み続けてもややこしくなるので、これぐらいにして』
カラメールの街に暗雲をもたらす陰謀と裏切りの気配。
謎の侵略者の正体を探ろうとする者に次々と襲いかかる暗殺者の影。
果たして、リーサン・パンザのダイス目は、滞りなく攻略を進めてくれるのか?
謎は解けているし、ラストがどうなるかも分かっている以上、トラブル要素はダイス目のみ。
もちろん、読者さんとしては、〈奈落の帝王〉とはどんな奴か? また、彼と結託した裏切りの貴族は誰か? ということも気になるかもしれない。
そういう部分にも興味を持ってくれると、幸いだと思いつつ、リーサン・パンザの人の英雄としての最後の冒険を楽しんでいただければ。
(当記事 完)
★リーサン・パンザ(奈落の帝王ver)
・技術点:12
・体力点:20
・運点:11/12
・食料:5
・金貨:22
・時間点:5
・装備:ファングセイン鋼の剣、革鎧、背負い袋、におい玉、拳型の小像