ウルトロピカルな⭐️GT(ゲーム&トレジャー)島宇宙

南の島と上空の宇宙宮殿を舞台にTRPGや特撮ヒーローなどのおしゃべりブログ。今はFFゲームブックの攻略や懐古および新作情報や私的研鑽メイン。思い出したようにD&Dに触れたりも。

「真夜中の盗賊」攻略準備編

作者について

 

アスト「では、FF29巻『真夜中の盗賊』のキャラ作りを行うぞ」

 

リバT『なお、この機にまた新カテゴリー「SJ and IL以外の作家作品」を立てました。SJはスティーブ・ジャクソン、ILはイアン・リビングストンですが、それ以外のFF作者はこうまとめておきます』

 

ダイアンナ「今のところは、『魂を盗むもの』『天空要塞アーロック』『奈落の帝王』の3作だね。それに今回のグリーム・デイヴィスが加わった、と」

 

アスト「念のため、『魂を盗むもの』はキース・マーティン、『アーロック』はマーティン・アレン、『奈落の帝王』はポール・メイスン&スティーブ・ウィリアムズの合作だ」

 

ダイアンナ「『奈落の帝王』は合作だったんだね。ポール・メイスンの名前ばかり強調していたけど」

 

リバT『ポール・メイスンさんは、近年、GMウォーロック誌にシナリオ記事を寄稿されていたので印象深いんですよ。スティーブ・ウィリアムズさんはメイスンさんの相方という以外、よく分からない。ネットで検索しても、同名のプロレスラーさんや音楽家さんの名前が引っ掛かって、あまり知られていない作家となります。一応、今日開催されたFFフェスタ5では相方のメイスンさんと一緒に顔を見せていたみたいなので、友人関係が続いてはいるようですが、作品数があまり多くないですからねえ』

 

ダイアンナ「ゲームブックの共作って時々あるけど、どうやってるんだろうね。マンガだったら、ストーリー担当と作画担当がいるらしいし、TRPGだったらルール担当と世界設定担当に分かれるらしい。だけど、ゲームブックの場合、小説と同じで複数の作者が1つの作品を作るのってイメージしにくいんですけど?」

 

アスト「最初の『火吹山の魔法使い』は、前半の川までがリビングストンで、後半の川以降がジャクソンらしいけどな。あと、舞台の火吹山ってタイトルはリビングストンが主張して、敵の魔法使いを主張したのはジャクソンらしい(『タイタン』のまえがきより)」

 

リバT『『謎かけ盗賊』も『奈落の帝王』も、メイスンとウィリアムズの共作だけど、どちらが何を担当したかは不明ですね。作風から推測しようと思っても、考える材料が足りないですし。せめてメイスン1人で書いた『クリムゾン・タイド』と『メイジハンター』をプレイすれば、メイスンの特徴が分かるかもしれませんが』

 

アスト「推測するに、カラメール周辺の陰謀物語と、異世界の奈落の物語で雰囲気が切り替わるので、その辺りで担当が変わったのかもしれないが、どっちが担当かまではな。考える材料がないのに、主観の思い込みで決めつけるのはバカのすることだから、証拠が見つかるまでは推測にもならないってことで、グリーム・デイヴィスに話を切り替えよう」

 

ダイアンナ「この人は、FFシリーズでは本作だけだね」

 

アスト「ゲームブックは寡作だが、雑誌のウォーロック(本国版)では多数の記事を書いているし、D&Dのシナリオやサプリ、ウォーハンマーのシナリオやサプリなど、英語圏アナログゲーム業界では大いに知られているベテランだ。例えば、ウォーハンマーの最新の第4版のルールブックにもライターの一人として名を連ねていて、80年代でも(邦訳は92年)短編シナリオ集のこれに7本中2本を書いたりしている」

リバT『アナログゲームのシナリオ作者って、ルールのデザイナーと違って、日本ではあまり目立たないんですよね。海外ではシナリオ書きも、ゲームデザインの一部として高く評価されているみたいですけど、日本ではシナリオがあまり売れないという理由で、ルールブックに比べて出版点数が絞られた経緯もありまして』

アスト「日本では、リプレイ書きが小説に次ぐ評価を与えられていて、アナログゲームシナリオライターコンピューターゲームと比べても露出が多くない。しかし、ゲームブックもソロアドベンチャーというシナリオの一形態だからな。シナリオから分かる癖というのもあるかもしれない」

 

リバT『「さまよえる魂」の中では、2つめの「街道にて」と4つめの「三つ羽根亭の眠れない夜」がデイヴィスさんの担当ですね。前者は、ゲストヒロインのネコ娘と遭遇しつつ、その後でキャンペーンのキーキャラ幽霊との邂逅を果たす話で、全体の仕込み回みたいな感じ。後者は、一夜の宿で様々な事件がバラバラに生じて翻弄される、タイムスケジュールの管理が大変なシナリオ。いずれも、ゲーム的な凝ったアイデアが散りばめられた話と言ったところでしょうか。デイヴィスさんの作品は、アイデア性が面白くて、その辺を安田社長は評価していたようです』

 

アスト「定番のマンネリではなくて、アイデア豊かな短編タイプの作家ってことになるかな。トリッキーという意味では、リビングストンよりもジャクソンに近いと思うけど、ゲームブックでは、いかにも盗賊らしさを描いていて、異色作扱いされている。ただ、異色ながらも完成度が高ければ、評価されるわけだな。何だかんだ言って、80年代からずっとゲーム作家であり続けるのは、凄いことだと思うし」

リバT『ライターとしてのデビューが、1982年にホワイトドワーフ誌でD&D記事を書いたことで、そこから雑誌記者を続ける一方で、TRPGウォーハンマー初版からのメインスタッフの一人としてサポートし続けるかたわら、87年に書いたFFゲームブックが「真夜中の盗賊」。つまり、メイン舞台はイギリスでD&Dをプッシュしながら、ゲームズワークショップの主戦力の一人としてウォーハンマーを展開させたエースデザイナーの一人ということになります』

 

アスト「その後の経歴を見ると、21世紀に入ってD&D3.5版のエベロン世界を舞台にした小説を書いていたり、イギリスTRPG界の重鎮スターデザイナーの一人となっているわけだな。ゲームブック作家としては1作のみで、邦訳作品は決して多くないけど、AD&D2版でケルト関連のサプリを書いたり、GURPSバイキングを書いたり、いろいろマニアックなツボを刺激される経歴だ」

 

ダイアンナ「冒険者剣士として、世界を脅かす悪の魔術師や魔王を倒す系の話が多いFFゲームブックで、盗賊ギルドの入団試験をテーマにした作品ってだけで、マニアックな作者というのは分かる気がするよ」

 

アスト「なお、顔見せゲストとして、橋の下のニカデマスさんも登場するし、アズール卿の宮殿に侵入して殺されることもできる。実は、ブラックサンドが舞台になるゲームブックは、これが3冊めだ。1作めが『盗賊都市』で、2作めが『恐怖の神殿』。そちらは砂漠に行く前に立ち寄る場所ってことだな。そして、3作めの本作は、ブラックサンドの地元民の立場で、宝石探しの情報を集める都市での散策と、宝石の隠されたダンジョン探検の物語だが、盗賊技能を駆使した様々なイベントが楽しい。ゲームとしての特徴では、TRPGっぽく選択肢が多くて、いろいろできる。ただ、正解ルートはほぼ一本道なので、自由度の高さがあまり生きていない感じがする。試行錯誤で正解を見つけるパズルみたいな作品といったところか」

 

キャラ作り

 

アスト「今回は、盗賊ギルドの見習いということで、勇者ではないから技術点12というのは違和感があるよな。まあ、平均より優秀ということで、技術点10、体力点20、運点10で始めようと思う」

 

ダイアンナ「サイコロを振って決めないのか?」

 

アスト「一応、振って高い出目が出たら、それを採用するというプレイヤー有利の原則で考えるか。(コロコロ)5、7、1と来たので、技術点だけ11に上がって、体力20と運10を採用。さすがに、運の悪い盗賊というのは勘弁願いたい」

 

リバT『戦闘よりも、技術判定と運だめしの機会の多いゲームですからね』

 

アスト「装備品は、いつもの剣じゃなくて短剣1本なんだよな。革の上着とすね当て背負い袋携帯用のランプ松明1本火口箱。夜の職業らしく明かりが充実している感じだな。金貨5枚食料10食。やはり、食料があると安心できる。そして、飲み薬は幸運ポーションだ。ここまでは盗賊らしいマイナーな変化はあっても、おおよそいつもの通り。問題は、盗賊らしく素早い動きが必要なので、持ち物に個数制限があることだな」

 

ダイアンナ「え? 何でもかんでも持って行けるわけじゃないの?」

 

アスト「リビングストンの場合は必要アイテム多すぎ問題があるから、個数制限を課されるとゲームが成立しなくなる。本作は、アイテムが6個までしか持って行けない。食料は10食で1個分、飲み薬も1つ分になるので、残り4つまでだ。武器や防具、明かり系と金貨は個数制限に含まれないが、他の入手アイテムは持っていくかどうかを慎重に吟味しないといけないわけだ」

 

盗賊の技能

 

アスト「本作のルール最大の特徴は、7種類の盗賊技能だ。7つから3つの技能を選択しないといけない」

 

  1. すり
  2. 錠破り
  3. 壁登り
  4. 忍び足
  5. 姿隠し
  6. 感知(隠し扉や罠を見つける)
  7. 目利き(秘密の印などの意味が分かる)

 

リバT『好きな技能を自由に選んで、キャラごとに異なる物語を楽しもうって作品かと思いきや、最初の選択で必要な技能を持っていないと、詰むことがあるんですね。とりあえず、〈感知〉か〈目利き〉が必須で、お勧めは使いどころの多い〈感知〉ですね。いつもなら技術判定か運だめしで気付ける状況でも、今作では〈感知〉がないと気付かない局面が結構あります』

 

ダイアンナ「鈍感な盗賊じゃ、生き残れない、と」

 

リバT『必要な情報が入手できなくなるんですね。グランドマスターの初プレイでは、盗賊らしく〈錠破り〉〈壁登り〉〈姿隠し〉を選んで、攻略失敗に終わりました』

 

ダイアンナ「選んだ技能による有利不利があるのは分かる。しかし、選ばなかった技能によって、攻略不可に陥るのでは、好きな技能を選んで自分らしくキャラをカスタマイズって遊びには不向きだな」

 

アスト「これはスキル制のTRPGあるあるだよな。パーティーの誰もが、必要な技能を持っていなくて、シナリオが詰むとか。GMはそのシナリオを解くのに、最低必要な技能が何かをチェックして、シナリオ開始時に誰かにそれを習得するよう勧めないといけないわけだ」

 

リバT『あるいは、その技能を持っているNPCを用意しておいて、彼もしくは彼女に話しかけることで情報が手に入るようにしておくとか、パーティーの状況に合わせたシナリオアレンジですね。まあ、シナリオによっては全ての扉を開けなくても目的達成できますが、やはり開かない扉があると気になって先に進みたくないプレイヤーもいますから』

 

アスト「攻略必須な扉だったら、後で鍵が入手できるとか、扉を開ける魔法の巻き物とか、火薬を入手して扉を爆破できるとか、いろいろな仕掛けを仕込めるわけで」

 

ダイアンナ「今は開かない扉だけど、ストーリーが進めば開くようになるとか、そんな感じだね」

 

リバT『レベルアップで必要な技能を習得できたから、前のシナリオの謎が解けるようになったとか、キャンペーンだとそういう楽しみもありますね。ただ、ゲームブックだと「これが必須技能だと分かったから、次のプレイではそれを選ぶようにする」という解き直しプレイを要求されることがありまして』

 

アスト「必要アイテムが入手できなかったから、再プレイでは違うルートを選んで、正解の選択肢を見つける作業がゲームブックの基本だからな」

 

ダイアンナ「それを見つける過程を、失敗も込みで記事にすることもできるが、今回はどうするんだ?」

 

アスト「失敗譚も語りつつ、基本は正解ルートを選ぶようにする。ただし、ダイス目だけはリアルタイムで振って、戦闘その他の判定は臨場感を持たせる形だな。よって、運が悪ければ、正解を知っているのに攻略失敗する可能性もゼロじゃないってことだ」

 

リバT『初プレイでリアルタイム攻略ですと試行錯誤も面白いですが、本ブログでそれをしたのって「火吹山の魔法使いふたたび」「危難の港」「運命の森」「魂を盗むもの」「さまよえる宇宙船」「地獄の館」「サイボーグを倒せ」「天空要塞アーロック」「アランシアの暗殺者」「モンスター誕生」「サラモニスの秘密」の10作ですね』

 

アスト「他の作品は、先に攻略を終わらせたり、一通りのパラグラフ解析をしてから、後でリプレイ用に物語を脚色して、回顧風味にしたり、再プレイで正解ルートを辿ったりしているわけで」

 

リバT『試行錯誤の過程を記事の題材にするか、それとも攻略の結果を後から分析するかですね。基本的には、初プレイの新作をゼロから丁寧に攻略を進めるわけですが、最近は先に攻略を終えて、改めて分析しながら記事書きすることが増えています』

 

アスト「今回の『真夜中の盗賊』も、パラグラフ解析はすでに済ませたが、ダイスを振っての実プレイはしていない形。正解ルートは分かっていても、ダイス目事故が発生し得る状態での記事ってことで、技能選択にも必須技能が存在する。とりあえずは〈感知〉と〈すり〉とあと1つと言ったところか」

 

リバT『実のところ、〈錠破り〉〈壁登り〉〈忍び足〉〈姿隠し〉の4つは探索中に入手できるアイテムで補うことができるんですね。だから、残り3つの〈感知〉〈すり〉〈目利き〉を最初に覚えれば、全てを身につけたパーフェクト盗賊になることも可能』

 

アスト「だから、最適解は〈感知〉〈すり〉〈目利き〉を選び、他は盗賊の技能アイテムを入手できるパラグラフをしっかり進んで行くことだ。まあ、一部の技能がなくても少し苦労するだけで解決できるイベントも多いんだが、最高の盗賊はいかにリスクを最小限にして、ミッションを達成するかだから、攻略記事としては、そういう手引きだと思ってくれたらいい」

 

★盗賊見習いピート

 

・技術点11

・体力点20

・運点10

 

・盗賊技能:〈すり〉〈感知〉〈目利き〉

 

・食料10食

・金貨5枚

・装備:短剣、革衣、明かりセット

・背負い袋の中身(6つまで):食料、運の薬(残り4つ)

 

背景

 

 オレの名前はピート。

 ケチなスリだ。

 生まれは盗賊都市ポート・ブラックサンド。親はいないが、物心が付くまでは叔父貴に育てられた。父も叔父貴も、どうやら盗賊ギルドのメンバーだったらしい。

 ……らしいというのは、自分でそう打ち明けたりはしなかったからだ。叔父貴は乱暴者だったが、オレみたいなガキ相手にはそれなりに優しかったな。口調はぶっきらぼうだったが、ごろつきなりに街で生きる術なんかを仕込んでくれた。

 叔父貴が仕込んでくれたのは、ちょっとした護身術と逃げ方。そして、危険を察知する勘みたいないもの。叔父貴は技をいろいろ持っていたけど、オレにそれを伝授する前に、オレのドジに巻き込まれる形で命を落とした。

 叔父貴の口癖は「兄貴も、俺も、鈍いところがあるからな。お前はもっと機転を利かせて、危険には敏感になれ。そうすれば長生きできるだろうさ」といった感じ。

 だから、危険を察するための観察力は磨きに磨いた。

 あとは手先の器用さで、罠に気づいたら外すぐらいはこなせるようになった。

 道具さえあれば、鍵開けもできたかもしれないが、専門的な技術を学んだわけじゃないし、ギルドの一員でないと、プロフェッショナルな技は教えてもらえない。

 叔父貴がギルドのメンバーであることを知ったのは、オレが勝手にギルドから叔父貴に送られた指令書を読んだからだ。

 叔父貴は不用心な男で、オレと住んでいる小屋に暗号で書かれた手紙を置きっぱなしにしていた。暗号だから読めないとタカをくくっていたのだろうが、プロの密偵なら簡単に読める程度の符号だ。

 プロじゃない10歳のガキだったオレでも、読めたんだからな。

 そう、オレは学こそないが、文字や暗号は誰から学ばなくても、すっと読むことができた。地図なんかに興味があって、叔父貴に何て書いてあるか聞くと、簡単な字の読み方を教えてくれて、そこから後は街の店の看板や家にあった手書きの文章が全て教科書代わりだった。

 たぶん、きちんと勉強すれば、学者か書類を扱う仕事の才能を持っていたのかもしれないが、人は才能だけでは生きていけない。才能を伸ばすには、プロの技を見せてくれる教師が必要だ。

 ある日、オレは人混みで一枚の手紙をスリ取った。スリの技だけは、街中を観察していれば、教師役はいくらでもいる。何しろ、ここはブラックサンドだからな。まんまと成功したスリもいれば、失敗して相手に見つかって路上で制裁を受けた実例もいる。生きた実例や、死んだ反面教師のやっていることを観察すれば、自己流で練習してコツぐらいはつかめるだろう。

 ただし、スリには相手との相性もある。金目の物を持っていない相手からは盗めないし、たまたま手に触れたものが財布でなく、もっと重要な価値を持った手紙だってこともあるわけだ。

 金よりも重要な情報に、オレはたまたま偶然、出くわしてしまい、その価値も分からないままに持ち帰ったせいで、叔父貴は殺された。

 叔父貴が正体不明の連中に殺害される危険を見とったオレは、スリとった手紙を持って、その場を逃げ出した。行く当てがなかったので、叔父貴がひいきにしているらしい仕事仲間の酒場に飛び込んだ。

 ガキの来るところじゃないのは分かっていたが、叔父貴が何者かに殺されて、その原因がオレのスリとった手紙かもしれない、と半分妄想じみた訴えをすると、酒場の主人がとり合ってくれて……後は大人たちが解決してくれた。

 

 叔父貴の死と、その背景にあった事件の顛末はともかく、こうしてオレは運と度胸と才能を秘めた見込みある若造という形で、ギルドに関わるようになった。

 ギルドの徒弟として、数年の間にそれなりの訓練を施され、いよいよ正式なメンバーに選ばれようとしている。

 ギルドの秘密の集会室で、街の多くの裏稼業の住人たちに見られるなか、オレは初めてギルドの長ラニックと対峙した。

 鋭い眼光で睨みつける長に、軽く会釈するだけで、見つめ返す。礼儀知らずは相手を怒らせるが、ビビっているのが明からさまだと見下される。相手がこちらを観察するなら、こちらも同じく相手を観察するのみだ。

「うむ」長は顎ひげを軽く撫でた。同じアクションで返そうかと一瞬思ったが、オレに髭は生えていないので、軽い敬意のハンドサインに留めておいた。

 長のラニックはニヤリと笑みをこぼしながらも、「下手な動きをするな」のハンドサインで返してくる。

 了解の笑みで返すと、ラニックは納得したかのように、部屋の中央に進み出て宣言した。

「この場に集まりたる者の中で、この利発ながら小生意気な若き徒弟がギルドの伝統にしたがって、最後の試練を受けることに不服の者はおるか?」

 緊張の数瞬が過ぎたが、特に反対する者はなさそうで、オレは安堵の息を漏らした。叔父貴の死の件で、ギルドをややこしい危険に巻き込んだという過去の事情で、反対する者がいやしないかと気にかけていたのだ。

 

 この後、ラニックは最後の試練の概要を語った。

 ブラスという商人が、街の中、あるいは周辺のどこかに隠したという宝石〈バジリスクの瞳〉を今夜一晩で探し出すこと。

 そのために、慎重に行動し、修行時代に身につけた技を駆使するように、と。

 

 オレはケチなスリで、まだまだ若輩者。

 見習い盗賊で、ギルドの徒弟に過ぎないが、この試練を果たしたとき、一人前の盗賊として認められ、子どもには隠された秘密も明かされることだろう。

 そう、物心つく前に死んだ父親のことや、叔父貴の死の原因となった例の手紙の話とか、一人前になって知りたい自分の因縁はいろいろありそうだが、その前に〈バジリスクの瞳〉の在りかを突き止めないとな。

 物事には順番がある。

 順番を飛ばして急いても、秘密の扉は開かない。

 秘密のベールをはがすには、対象をよくよく観察し、目に入る情報をしっかり吟味し、その上で慎重かつ手際よく正確に手先をしっかり動かす。

 これがオレがギルドで学んだことさ。

 後は試練を果たす過程で、学びとることもあるだろう。

 

 こうして、一人前の盗賊になるための一夜のささやかな試験が開始された。

(当記事 完)