『巨人の影』はクリアしたものの
リモートNOVA『記事書きする前に考えることができた』
ダイアンナ「何を?」
NOVA『この作品は、「アランシアの暗殺者」と同じFFコレクション3に収録されているんだが、当ブログのFF時間軸から考えると、ずいぶんと未来の話になってしまうんだなあ、と思ってな』
アスト「確か、火吹山の魔法使いザゴールの遺産の巨人が暴れる話だったな」
NOVA『「火吹山の魔法使い」は言わずと知れたFFゲームブック第1作(1982)で、その続編が10年後の1992年に出たFF50作記念の「火吹山の魔法使いふたたび」なんだが、日本では33巻のアーロックで翻訳が止まったために、2021年のFFコレクション1集で初めて邦訳出版されたことになる』
アスト「つまり、邦訳までに30年かかったってことだな」
NOVA『で、来年2月に出る「ザゴールの伝説」改め「火吹山の魔法使いの伝説」は、93年に出たFF54巻だが、一応、1巻、50巻、54巻まで合わせて、ゲームブックのザゴール3部作と言われている』
ダイアンナ「ザゴールについては、これで完結ってことかな」
NOVA『まあ、未訳小説のザゴール・クロニクル4部作があるんだがな。リビングストン名義で、カール・サージェント(キース・マーティン)が書いたそうで、各巻のタイトルが「ファイヤーストーム(炎の嵐)」「ダークスローン(暗黒の玉座)」「スカルクラッグ(ドクロ岩)」「デーモンロード(魔神の王)」となっている』
アスト「どんな内容なんだ?」
NOVA『英文のあらすじを流し読みしただけなんだが、ゲームブック「ザゴールの伝説」を膨らませた話で、舞台は異世界アマリリア。でも、3巻で不死身のザゴールを完全に打ち倒すために、アランシアに赴くことになり、ヤズトロモの塔が出て来たり、スカルクラッグに出向いたりする。スカルクラッグは、FF66巻「危難の港」で前半の宝探しの舞台となった月岩山地の岩山洞窟なんだが、実はザゴール小説とリンクしていたんだな』
アスト「つまり、『ザゴールの伝説』は小説とセットで初めて全貌が分かるってことか」
NOVA『一応、ゲームブックの「ザゴールの伝説」は小説の2巻「ダークスローン」の原案になっていて、小説の登場人物をプレイヤーキャラとして扱う仕様。そして、この「ザゴールの伝説」および小説のクロニクルズの完結までが、リビングストンにとってのパフィン版FF最後の仕事となったわけだ』
ダイアンナ「ああ。ザゴールで始めて、ザゴールで締めくくる形だったんだね」
火吹山(1巻)のその後
NOVA『さて、ザゴール本人は直接登場していなくても、火吹山という地名はFFゲームブックでも時々登場している。まずは「雪の魔女の洞窟」でクライマックスの舞台になっているな』
ダイアンナ「非常にインパクトある舞台設定だと思う」
NOVA『そしてスカラスティック社でのリビングストン作品は、新作にも過去のゲームブックとのリンクを絡めて来て、火吹山も必ず話題に上がっている』
アスト「『危難の港』『アランシアの暗殺者』そして『巨人の影』か」
NOVA『最新作の「ブラッド島の地下迷宮」はどうか知らないけど、とにかく旧作とのリンクを感じながら、新旧ゲームブックを解いているのが現状。ただし、「アランシアの暗殺者」で火吹山に用事があると言って旅立った騎手(パラグラフ326→303→153)を「巨人の影」の主人公にしようかな、と想定していたら、時系列的に無理ということが分かった』
ダイアンナ「どうして?」
NOVA『当ブログのゲームブック時系列だと、「アランシアの暗殺者」の次にリサ・パンツァの「死の罠の地下迷宮」→「雪の魔女の洞窟」と続いて、リサは当面、ストーンブリッジに滞在しているわけだな』
ダイアンナ「ああ。その後は『恐怖の神殿』を予定しているからね。ストーンブリッジにいる主人公に、ヤズトロモさんがマルボルダスの脅威を伝えに来るところからスタートだ」
NOVA『そこに「巨人の影」を絡めると、ストーンブリッジが巨人の襲撃を受けてしまうことに』
ダイアンナ「あっ、それは困る」
NOVA『「危難の港」は、ザンバー・ボーンの件で「盗賊都市」より後。スロムの遺産がどうこう言っているので「死の罠の地下迷宮」より後。マンゴが健在なので「トカゲ王の島」より前。ビッグレッグを探しているドワーフがいることで「運命の森」の直前らしいことが分かる』
アスト「『アランシアの暗殺者』は、邦訳時点では『危難の港』の後日譚だとSNE公式に言われていたが、最後にスロムが登場したことで『盗賊都市』→『アランシアの暗殺者』→『死の罠の地下迷宮』→『危難の港』が正解だというのが妥当だな」
NOVA『まあ、うちではスロムの遺産云々は時間軸の矛盾として、リーサンの思い違いという形で処理されたけどな。一応、「盗賊都市」の主人公と「危難の港」の主人公は別人扱い(「危難の港」の主人公はザンバー・ボーンのことを知らなかったため)だが、「アランシアの暗殺者」はザンバー・ボーン殺しの件でアズール卿の恨みを買ったので、「盗賊都市」か「危難の港」のどちらかの主人公と同一人物ということになる』
ダイアンナ「あと『雪の魔女の洞窟』は、ビッグレッグの件で『運命の森』の前日譚ということになるね。結果的に、『雪の魔女の洞窟』→『危難の港』→『運命の森』となる」
NOVA『「雪の魔女の洞窟」と「危難の港」はどちらが先かは断定できないので、タイミング的には同じ時期かもしれないけど、当ブログでは明確に、「危難の港」が先で、「雪の魔女」が後。「運命の森」はリサが死の呪いの解除をしている間に、別の主人公がジリブランのハンマーを見つけて、ストーンブリッジの英雄になったという設定になった』
ダイアンナ「その後、『運命の森』の主人公が火吹山に向かったという形だね」
NOVA『リーサン・パンザの物語だと、(盗賊都市)→「危難の港」→「アランシアの暗殺者」→(娘のリサの物語挿入)→「謎かけ盗賊」および「奈落の帝王」となる。一方で、リサの物語だと(真夜中の盗賊)→「死の罠の地下迷宮」→「雪の魔女の洞窟」→(運命の森コラボ)→「恐怖の神殿」(予定)となる形だ』
アスト「細かい矛盾は、謎かけ盗賊やロガーンの介入などで適当に辻褄合わせしている形で、何とかなっているわけだな」
NOVA『問題は、「巨人の影」の設定をどう挿入するかだ。「巨人の影」は、火吹山のふもとの街アンヴィルからスタートする。アンヴィルは「火吹山ふたたび」で初登場した街だが、その時は復活ザゴールのせいで陰鬱な小村となっていた。設定上は、ドワーフの鉱山が近くにあって、かつてはストーンブリッジとも縁深い交易都市だったらしいが、ザゴールのせいで火吹山に魔の物が多く集うようになったらしく、鉱山採掘もままならない時期があったようだ』
ダイアンナ「どちらかと言えば、お宝探しの冒険者がよく訪れるらしいね」
NOVA『そんな命知らずがどれだけいるかは知らんが、10年後に復活したザゴールを倒した後の火吹山は、おそらく魔の物もストーンブリッジのドワーフたちを中心に追い散らされたようで、鉱窟としての機能も次第に取り戻されたらしい。そして、アンヴィルから、ストーンブリッジ、そして西の街カアドまで交易路が設けられ、「巨人の影」の時代には非常に発展した陸の交易都市になっているんだな』
アスト「だけど、巨人のせいで大惨事になった、と」
NOVA『最初、「巨人の影」は「アランシアの暗殺者」の続きとして、リーサン・パンザの物語の一環として攻略記事を書こうかと考えていたんだが、リサの物語との辻褄合わせを考えると、遠い未来の時代設定にするべきと考え直した。さらに来年のFFC5で「ザゴールの伝説」が登場するなら、「火吹山」→10年後に「火吹山ふたたび」→「ザゴールの伝説」→30年ぐらい経って「巨人の影」という流れになる』
ダイアンナ「つまり、『巨人の影』だけ時代設定が大きくズレて来るわけだね」
NOVA『邦訳の時間のズレもあるし、「危難の港」と「アランシアの暗殺者」、それに新作の「ブラッド島の地下迷宮」は、FFのシリーズ1桁代の物語や時代設定と大きくリンクしている。言わば、リアルだと80年代FFの過去の時代につながっているわけだが、「巨人の影」は老剣士のマリクが若いころに「トカゲ王の島」の反乱奴隷の一員として戦友のハロルドとともに戦ったという記述があって、明確に1世代ぐらいのズレがあるようだ』
アスト「ああ、ザゴールがすでに過去の人になっているだけでなく、トカゲ王の軍と戦った若者が年をとっているのか。20代の若者が50過ぎになっているぐらいの時差があるわけだな」
NOVA『同じ40周年記念作の「サラモニスの秘密」が、「バルサスの要塞」や「モンスター誕生」の前日譚であるのに対し、「巨人の影」は未来の話。つまり、「アランシアの暗殺者」の続編として「巨人の影」を位置づけるのは難しいわけだ』
アスト「だったら、どうするんだ?」
NOVA『「奈落の帝王」となったリーサンが、自分の分体を送り込んで「巨人の影」に挑むという時空を超えた設定を考えてみたが、無理やりつなげるのは諦めた。改めて「巨人の影」用の新キャラを用意する方がいいだろう』
ダイアンナ「つまり、当ブログでの『巨人の影』の主人公は、リーサンとは縁もゆかりもない人物ということだね」
NOVA『キャラ名は40周年記念ということで、フォーティでいいかな、と』
アスト「安易な」
バルサスの要塞(2巻)の前後
NOVA『火吹山に比べると、明確に続編が描かれていないのがバルサスだな』
アスト「ジャクソンがリビングストンに比べて寡作だからな」
NOVA『小説の「トロール牙峠戦争」は、ザゴール、バルサス、ザラダンと、ヤズトロモ、そして女神リーブラまで登場するが、ゲームブックとは別の時間軸を持ったパロディゲームの世界観だ』
ダイアンナ「確か、ロガーン様がディレクターをしている対戦型ボードゲームで、リーブラ様が冒険者のチャダ・ダークメインのパトロン役として魔術師リッサミナのロールプレイをし、バルサスを支援する神と、ザラダンを支援する神との三つ巴のバトルを展開していた、というオチだったね」
NOVA『ゲームブックの設定とは矛盾点がいろいろ発見されるんだけど、ロガーン様が勝手に改変した別シナリオだと思えば、まあ納得と。それよりも、この作品の1番の辻褄合わせは、「魔術師リッサミナの自己犠牲で異次元に閉じ込められたバルサス」が異次元から帰還後に、ゲームブックおよびAFFシナリオの「バルサスの要塞」が改めて開始されるというサプライズだな』
アスト「つまり、公式では『サラモニスの秘密』→『トロール牙峠戦争』→『バルサスの要塞』という時間軸になっているわけか」
NOVA『ただ、ザラダン・マーの方は、「トロール牙峠戦争」でダークメインと半ば無理心中みたいな形で倒されたんだが(ガレーキープからザラダンの鏡とともに覚悟の墜落をするも、ダークメインはリーブラの加護で救われる)、「モンスター誕生」でモンスター(元ガレーキープの船長)に倒される物語とは矛盾する。まあ、小説とゲームブックはパラレルと考えればいいのだが、一応、「バルサス」のゲームシナリオが小説設定とも上手く辻褄合わせをしようと努力している様には感心させられてな』
ダイアンナ「バルサスの名は、『地獄の館』で異世界の悪魔として扱われているし、『サイボーグを倒せ』のタイタンシティでは、『火吹山の魔法使い』の本もお店で売っているし、この辺の作品リンクが面白いね」
NOVA『ただ、バルサスの続編はないんだな。山本さんのAFFリプレイ「タイタンふたたび」で、「バルサスの要塞ふたたび」が派生的な後日譚として扱われているが。あと、笑ったのが「謎かけ盗賊」のシナリオでも、バルサスがFFシリーズの悪人代表として扱われていた』
アスト「TRPG版のFFおよびAFFは、リビングストンではなくてジャクソンが監修しているから、やはりジャクソン作のキャラに重点が当たるんだな」
NOVA『火吹山のザゴールの方は、ジャクソンとリビングストンの共作だから、どちらも小説で登場させているけど、ジャクソンの場合はダークメインに協力して一時的に味方にもなってくれる一方で、リビングストンの場合は完全に魔に堕ちた敵役として扱われている。まあ、善人とは言えないけど、話せば分かるのがジャクソン版のザゴールで人間臭い。一方で、リビングストンの描くザゴールは誇り高い魔族って感じで、高みに立っている感だ』
運命の森(3巻)の前後譚
NOVA『善の魔術師代表のヤズトロモさんと、ドワーフの居住地ストーンブリッジと、冒険の舞台であるダークウッドの森。これらはFFのアランシアの世界観の中心として、後の作品にも大きな影響を与えているな』
ダイアンナ「火吹山は、ふもとの村しか周辺世界が描かれていない。バルサスは、サラモニス王国と柳谷、ヨーレの森とぎざ岩高地、地名はいろいろあるけど、探索するのは要塞内部なので、周辺の地形はあまり掘り下げられなかった」
NOVA『サラモニスはこの地域で一番、文明が発達した王国だというのに、それを実感したのは、本当に最近だもんな。文明の発達=税金をとられることと、職業安定所に登録するにも金がかかるとか、世知辛いという世の実情を感じた次第だが』
アスト「そんな王国から未開拓の土地に旅立ったのが『運命の森』の主人公で、FF冒険者の類型である一攫千金の冒険を探している『呑気で剛胆な旅の剣士』像が確立したわけか」
NOVA『「火吹山の魔法使い」の主人公は、「火吹山にはお宝がいっぱい眠っている」という噂でやって来たけど、「運命の森」の主人公は当てもなく広野をさまよっていたら、たまたま偶然、瀕死のドワーフのビッグレッグと遭遇してハンマー探しの使命を託される感じだな。森の探索も散歩みたいなお気楽さだし』
ダイアンナ「作品そのもののトーンが、開放的でのどかなんだね。敵も弱いし」
NOVA『南の「ヤズトロモの塔」からスタートして、間の森を探索して、北の「ドワーフの村」がゴールという展開は、ここまでのFFのアンチテーゼ的でもあるな。これまでは「村や国などの集落」からスタートして、探索の後で「敵ボスの魔法使い」のところにたどり着いて最終決戦なんだけど』
アスト「ジャクソンがFF第2作に魔法を導入するほどのアイデアマンだというのに対し、リビングストンはFF第3作にアイテムや野外冒険以外に、ストーリー構造を転換させるほどの別種のアイデアマンなのかもしれないな。『運命の森』はこれまでのボス退治のストーリーではなく、純粋にアイテム探しの冒険譚だし、この作品でFFシリーズのストーリーの幅も広がったと言える」
NOVA『その後、「雪の魔女」「恐怖の神殿」「甦る妖術使い」「火吹山ふたたび」「危難の港」に「運命の森」の要素が受け継がれている他、未訳分では「龍の目」も舞台がダークウッドの森だそうだから、やはり「運命の森」の文脈の上にある』
ダイアンナ「結構、重要な位置付けにある作品だね。『巨人の影』もストーンブリッジの話題が出る辺り、『運命の森』につながっているのでは?」
NOVA『あくまで仲間のグースから聞いた話だけだからな。ヤズトロモさんも登場しないし、つながりは浅いと思う。「巨人の影」は、発端となった「火吹山の魔法使い」を除けば、過去FFからのリンクは比較的少ない作品だな。重要人物のマリクが「トカゲ王の島」絡みの過去を持っているぐらいだ』
アスト「何にせよ、ヤズトロモ、ストーンブリッジ、ダークウッドの森という用語が出たら、それだけで『運命の森』に通じた作品と言えるだろうな」
盗賊都市(5巻)とのリンク
NOVA『盗賊都市ポート・ブラックサンドがFFシリーズ、アランシアでも非常に重要な都市であることは周知の事実だが、この作品の意義の一つは、FFシリーズで初めて海が登場したことだと思うんだ』
アスト「海か。確かに、これまでの作品は宇宙SFの4巻を除けば、陸地だらけだな。ブラックサンドで初めて海賊が登場したわけだし、シルバートンから始まり、悪徳都市への侵入劇という都市間の旅で世界の広がりも見せるようになった」
ダイアンナ「次の『死の罠の地下迷宮』の都市ファングも、その次の『トカゲ王の島』の漁村オイスター・ベイも、ブラックサンドを中心に位置関係が語られるようになっているね」
NOVA『ブラックサンド自体がふたたび冒険の舞台として登場するのは「恐怖の神殿」だけど、それまでにブラックサンドを中心にしたアランシアの世界観が構築されていく流れがあるわけだ』
アスト「ブラックサンドの北にファングが位置し、南にオイスター・ベイ。その後、ファングの北が氷指山脈で、ファングの南に火吹山およびストーンブリッジと地理関係がつながって行き、東の月岩山地まで旅したのが『雪の魔女』だと」
NOVA『大体、「雪の魔女」と「恐怖の神殿」まででアランシア(北西部)の大枠が完成したけど、ジャクソンとリビングストン以外でアランシアを舞台にしたゲームブックは、29巻の「真夜中の盗賊」までないんだよな』
ダイアンナ「そうなのか?」
NOVA『アランシアは大体、リビングストンが展開し、サラモニス周辺のみジャクソンが描き、他のゲームブック作家は新大陸のクールを中心に開拓して行ったんだな。その後、31巻の「最後の戦士」と、シナリオ集「謎かけ盗賊」および32巻「奈落の帝王」において南アランシアでの冒険が描かれるようになったものの、そこで最初の邦訳展開が終わって、南アランシアや、さらに東アランシアへの広がりは日本では語られず仕舞いだった』
アスト「アランシアと言っても、ジャクソンやリビングストンがタッチしていて、日本でもよく知られているのは北西部で、84年の『雪の魔女』から85年の『恐怖の神殿』の間に名称や設定が確立。一方で、ジャクソンは83〜85年のソーサリー4部作で旧世界の設定を構築。ワールドガイドの『タイタン』は何年だったかな?」
NOVA『86年だな。第3の大陸クールは、そこで初めて設定されたようだ。最初にクールという新舞台の作品として登場したのが23巻の「仮面の破壊者」だが、それ以前の「サソリ沼の迷路」「海賊船バンシー号」「サムライの剣」も後付けでクール大陸が舞台という設定になった』
ダイアンナ「FFコレクションでは、次の第5集で初めてクールを舞台にした作品が出るんだね」
NOVA『「サソリ沼の迷路」で、米ジャクソンが登場だな。「仮面の破壊者」も収録されると予想していたが、今回は見送りになった。クールと言えば、何よりも最初に「仮面の破壊者」だと俺は考えていたが、それよりも米ジャクソンを優先したようだ。と言うのも、アメリカのスティーブ・ジャクソン・ゲームズがこの度、イギリスのファイティング・ファンタジーを自社ブランドで再出版するとの契約を結んだらしい』
アスト「同じ英語圏でも、国が変われば出版スタイルも変わるってことか」
NOVA『安田Xポストによれば、スティーブ・ジャクソン・ゲームズが50作品のFFゲームブックを出版するとの契約を結んだらしいので、日本も負けてられないなと言いつつ、現在が25作品なので残り25作品をどうするか、という話になってた』
ダイアンナ「FFコレクションを10集まで出すって話か」
NOVA『日本のことは確定情報ではないけど、米ジャクソンがそれだけFFシリーズの展開にノリ気なら、「サソリ沼」以降の彼の2作品(「深海の悪魔」「ロボット・コマンドゥ」)の復刻も確実だろうし、もしかすると米ジャクソンの新作ゲームブックが登場する可能性もゼロじゃないかも』
アスト「現段階ではあくまで願望だが、米ジャクソンが本格的にFFシリーズに再参入というニュースは、なかなか刺激的だな」
NOVA『ともあれ、「盗賊都市」の物語は、「危難の港」「アランシアの暗殺者」に受け継がれて、そこから「死の罠の地下迷宮」の再展開に至っているのが現在だ』
死の罠の地下迷宮(6巻)の続編
NOVA『これは21巻の「迷宮探検競技」と、さらなる続編の36巻「死の軍団」(未訳)で3部作を築いていたんだが、「アランシアの暗殺者」でサカムビット公の再登場を経て、最新作の「ブラッド島の地下迷宮」に至る流れだな』
アスト「まさか、『死の罠の地下迷宮』のさらなる続編が40周年で登場するとはな」
NOVA『「迷宮探検競技」の前日譚だとも聞いているので、俺が気にしている巨人に襲われたストーンブリッジの状況が語られることは、時系列的にもあり得ないと思うが、さておき。考えてみれば、サカムビットの兄弟のカーナス卿は「迷宮探検競技」のラスボスとして主人公に倒されているから、続編で登場することはあり得ないんだな。必然的に、彼の物語は前日譚にならざるを得ない』
ダイアンナ「だけど、ファンタジー世界だからアンデッド化して復活とか、神の奇跡で復活とか、いろいろあり得るだろう?」
NOVA『まあ、ザンバー・ボーンみたいなケースもあるだろうが、とりあえずリビングストンの旧作掘り起こし商法は、ファンの需要にも応えているわけで、北西アランシアの物語にも新たな解像度で堪能できているから個人的に満足だ』
アスト「オレとしては、『嵐のクリスタル』みたいな新展開ももっと増えて欲しいと思うけどな。ウィザードブックス版だと、10年間で6作品の新作が出たが、スカラスティック版だと?」
NOVA『7年間で新作は7作だから、ペースは現在の方が早いぞ。ただ、新人作家にジョナサン・グリーンみたいな連作を出すエースがいなくて、もっぱらリビングストン頼り(新作4本)なのがファンとしては嬉しいけど、シリーズの将来に不安も感じる要素だ。ともあれ、日本だとFFコレクション5つで、新邦訳が「火吹山ふたたび」「危難の港」「魂を盗むもの」「アランシアの暗殺者」「巨人の影」「サラモニスの秘密」「ザゴールの伝説」「狼男の雄叫び」「嵐のクリスタル」になるから、5年で9作というペースで快調と言える』
ダイアンナ「未翻訳作品がいっぱいあるから、まだ掘られていない宝の山があるってことだもんね」
NOVA『この辺は、米ジャクソンがどの作品を復刻させるかで、スカラスティック社の展開以外に日本での展開を先読みする材料が増えた形だな。米ジャクソンが考える傑作選と、安田社長が考える傑作選と、いろいろ比べてみるのもいいだろうし』
トカゲ王の島(7巻)の前後譚
NOVA『さて、歴代リビングストン作品の中で、過小評価されていたと思しき作品がこれだが、近年、再評価されつつあるな、と感じている』
ダイアンナ「どうして?」
NOVA『まず、「危難の港」でマンゴが登場して、懐かしいなあ、と一部のファンに思わせた点が一つ。次に、南の島のジャングル探検譚って実に昭和レトロなんだよな。80年代だと、少し古臭いロストワールドなノリだが、90年代以降のジュラシック・パークとか、その後のキングコングの復活とか、明朗快活なサバイバル冒険ってのが旬な時期に来ているんじゃないか。あるいは海洋冒険ものの一環として、無人島探検ものとかな』
アスト「確かに、80年代当時は、アランシアという世界の構築が評価されて、トカゲ王の火山島は世界の中心から外れた辺境扱いだった。一連のアランシア冒険譚においては重要度が低いと扱われても不思議ではないな」
NOVA『旧世紀の安田社長の評価では、「あまりにも物語にきちんと決着をつけ過ぎたために、世界が小ぢんまりとしてしまった=未完成っぽい盗賊都市の方がいい」という論じ方だったけど、近年では「島という閉鎖環境の方が、初心者には把握しやすい」という評価に変わっていて、物は言いようだなあ、と感じるとともに、安田社長の当時と今の状況を考えると納得できるんだよな』
ダイアンナ「どういうことさ?」
NOVA『昔の書評は、安田社長のグループSNEも最初の上げ潮期で、ロードス→アレクラスト大陸とか、世界をどんどん拡張していく機運があったんだな。それがTRPG冬の時代前の感覚だ。その中で、世界が小さく閉じてしまう「トカゲ王の島」は発展性の乏しい作品で、魅力が薄いということになる。レトロな秘境探検の面白さ、という作品の魅力は、当時の安田社長には伝わっていなかったと思う』
アスト「未完成の広がりや、その後の発展性を重視すると、『トカゲ王の島』にはそれがないと?」
NOVA『島という舞台を閉鎖環境と考えるとそうなるが、俺は少し違う意見だ』
ダイアンナ「島は閉鎖環境ではない?」
NOVA『島は広い海への入り口という認識だ。つまり、「盗賊都市」から「トカゲ王の島」につながることで、海という冒険の舞台が広がった結果、「海賊船バンシー号」や「深海の悪魔」にもつながるのだろうし、海洋冒険では島というのが重要な位置を占めたりもする。それにクラシックD&Dで野外冒険を始めたエキスパートルールで、最初の舞台となったシナリオは、やはり島だった』
アスト「リビングストンの作品では、森→都市→島という流れだな」
NOVA『島の前が「都市と地下迷宮」で、これはクラシックD&Dベーシックルールの焼き直しとも言える。そこからエキスパートに発展した「トカゲ王の島」は、海岸→密林→沼地→山岳地帯→川→鉱窟での奴隷解放→呪術師のいる火山→敵軍との戦争→敵の本拠地への潜入と決着まで、非常にダイナミックに舞台が切り替わっていく一大冒険絵巻となっている。1作にここまで多彩な地形を詰め込んだ作品は、それまでは宇宙探索の「さまよえる宇宙船」ぐらいじゃないか?』
ダイアンナ「ソーサリーが4部作かけて行なったキャンペーンを、たった1作で成し遂げたのが『トカゲ王の島』だと?」
NOVA『ついでに言えば、異種族との戦争という状況を初めて描いたゲームブックだな。「運命の森」では、ドワーフとトロールの戦争が背景として示されているが、プレイヤーは戦争に関わることなく冒険物語は終了した。しかし、「トカゲ王の島」はその発展形として戦争とその決着まで描き、FF初期10作の中では最も派手な冒険活劇として展開されたわけだ』
アスト「それでも『雪の魔女』の方が持ち上げられて、『トカゲ王の島』は格下扱いだな」
NOVA『D&D的冒険の正統進化にあるのが「トカゲ王」で、一方の「雪の魔女」は死の呪いの解除という後半ストーリーが独特というか、類型を外した展開が印象深くもあったわけだ。そして、後のリビングストンの十八番である旧作ゲームブックとの密接なリンクが見られて、懐かしキャラの再登場で物語世界をつなげる連作ストーリーとしての面白さを追求している』
ダイアンナ「トカゲ王はそれに至る過渡期だった、と?」
NOVA『トカゲ人という異種族との戦争物語は、その後、より規模を拡大して南アランシアの「最後の戦士」に受け継がれる。「トカゲ王」の前日譚に位置づけられるのが「危難の港」で、後日譚に位置づけられるのが「巨人の影」ということだが、マンゴとの出会いや、マリクの前歴というだけで、ささやかなつながりだな。それでも、海洋冒険への端緒と、戦争という構図を描いてみせたことと、ヴァラエティ豊かな野外冒険という魅力で、「トカゲ王の島」は一大傑作だよ、とプッシュしてみる次第』
アスト「惜しむらくは、マンゴの早すぎる死だったな」
NOVA『そこは個人的に補完したからいいとして、他の物語要素としては、敵に捕まった解放奴隷や囚人の反乱というテーマで、「トカゲ王の島」「雪の魔女の洞窟」そして「危難の港」が通じる要素がある。奴隷の解放というテーマは「迷宮探検競技」でも描かれるが、割とリビングストンが好きな題材なのかもしれないな』
今後のスケジュール
NOVA『ということで、今回はここまでだ。次回から「巨人の影」の攻略記事を始めたいが、この記事を書いているタイミングで、これをゲットした』
ダイアンナ「どんな内容だ?」
NOVA『まだ、じっくり読めてないよ。とりあえず、収録されているゲームブックの「暗黒の三つの顔」の攻略記事を書きたいと思うが、たぶん、ここではなくて別ブログになるだろうな。前に「モンスターの逆襲」の攻略リプレイも書いたので、その延長ってことで』
アスト「『王子の対決』もそっちでプレイするみたいなことを言ってたが、まだ書けてないじゃないか」
NOVA『アンドリュー・チャップマンの作品だから、先にこちらで「宇宙の暗殺者」などを書いてから……とかあれこれ考えていたら、後手に回っているな。やりたいことはいろいろあるが、とりあえず、ここで「巨人の影」を書いて、FF攻略記事20作記念にしたいってことで』
(当記事 完)