ゴルゴンの謎
リモートNOVA『今回は最初からクライマックスだ』
ダイアンナ「前回で、フォーティは蛇の王コブラクスを倒したんだね」
NOVA『そして今回は引き続き、〈ゴルゴンの墓所〉のボスとも言うべきゴルゴンとの戦いから入るわけだけど、コブラクスとゴルゴンの関係がよく分からない』
アスト「前回は、蛇神コブラクスの巫女にして妻だと言っていたようだが?」
NOVA『ゲームブック本編では、そういう記述がなくて、当ブログ用にアレンジした。じっさいは、ゴルゴンの方が格上で、コブラクスの方が番犬代わりの番蛇かもしれない。何しろ、コブラクスもゴルゴンもゲームブックでセリフがあるわけでもなく、ついでに「モンスター事典」のシリーズにも掲載されていない。コブラクスはともかく、ゴルゴンが載っていないのは意外だった』
ダイアンナ「本作で初登場ってこと?」
NOVA『いや、「火吹山ふたたび」で登場しているんだが、FFシリーズではゴルゴンではなく、メデューサ名義で登場していることが多い』
アスト「どっちでも一緒だと思うがな」
NOVA『厳密には、メデューサがゴルゴン3姉妹の末娘で、メデューサは個人名、ゴルゴンは家名もしくは種族名になるか。ゴルゴン3姉妹の長女はステンノー、次女はエウリュアレーだが、姉2人の名前がモンスター名として扱われることはないな。D&Dでは、ゴルゴンは石化ガスを吐く牡牛型の怪物だが、基本的には、どちらも蛇の髪の毛を持つ魔女然とした怪物で、その顔を見るか、視線によって石化の魔力を発動する。
『メデューサ初登場は「死の罠の地下迷宮」で、石化以外の戦闘力はあまりない(技6、体5)。一方、ゴルゴンは「バルサスの要塞」で、バルサスが魔法で変身した姿として初登場。メデューサよりもゴルゴンの方が格上の能力を持っている印象だ。現に、本作でもゴルゴンの技術点は10、体力点も10で、なかなかの強敵に仕上がっている』
ダイアンナ「どちらも直接目視しての戦いを避ける都合上、技術点にペナルティを受けての戦闘になるから、あまり強くし過ぎると、ゲームバランスがキツくなるんだね」
NOVA『目を閉じることで2点のペナルティを受けると考えると、実質的に相手の技術点が+2加算されるようなもの。メデューサが8になるなら、そこそこ手強い程度だが、ゴルゴンの技術点が12と換算すると、ほぼ作品内のラスボス級の手強さだ。本作のコブラクスとゴルゴンは能力的に対等だが、石化を防ぐためのペナルティを考えると、ゴルゴンの方が格上となる。さらにコブラクスは蛇の王という小神クラスの双頭蛇であることからして、ゴルゴンも神クラスと言っていい。ギリシャ神話の原典に準えるなら、メデューサの姉2人は末娘と違って不死身だとも言う。
『現に本作のゴルゴンも、死んで復活したモンスターとして扱われており、封印はできても、完全に滅ぼすことはできない不死怪物の一種なんだろう。いろいろ盛られた設定だとも思うが、半神として扱うのが妥当なんだろうな。タイタン世界のゴルゴンの扱いをどう受け止めるべきか、公式のモンスター事典にも載っていないので、本作の記述を元に俺解釈を散りばめていると思って欲しい』
アスト「言い換えるなら、封印された半神程度なら普通に倒せるのがフォーティのヒーロー性ってことだな」
ダイアンナ「悪魔に会ったら悪魔を斬り、神に会ったら神を斬り、実はとんでもなく英雄然とした主人公ってこと?」
NOVA『まあ、オーガーをビンタ一発で吹き飛ばす腕力の持ち主なので、ギリシャ神話のヘラクレス並みの英雄として描かれているのかもしれないが』
アスト「一般人グースの目から見たら、神とか悪魔とかと渡り合える英雄的な勇者の偉業にいつの間にか関わってしまい、夢物語にも似た高揚感を覚えているだろうな」
NOVA『そういうグースだって、「アランシア一の射手」と自己紹介していたじゃないか』
アスト「それは自分を売り込むためのハッタリに過ぎない。あるいは、グースの狭い世界観の中では自分以上の射手には会ったことがないから、そう信じ込んでいるのかもしれないが。それでも、フォーティ兄貴の英雄ぶりに間近に接して、一般人と英雄の違いを初めて知るに及んだというか」
NOVA『じっさい、技術点11とか12ってのは世界有数の英雄なんだろうがな。それでは、パラグラフ198番、神に通じたゴルゴンとの対決を始めるとするか』
魔人の決断
ダイアンナ「前回、コブラクスは倒された後、人間や人の創造主ロガーンに呪いの言葉を発するとともに、その最後の魔力を部屋の奥の扉の先に眠るゴルゴンの棺に注ぎ込んだ。そして、トウィクシルが怯えたかのような声を発する」
トウィクシル『何て強烈な魔の臭いだ。ご主人さま、扉の向こうには、とんでもない魔物が目覚めようとしています』
アスト→グース「とんでもないって蛇の王以上の敵がまだいるってのか?」
NOVA→フォーティ『やれやれ。一難去って、また一難ってところか。巨人を倒す前に、神とか悪魔とかを相手するなんて聞いていないぞ』
トウィクシル『どうするんですか、ご主人さま』
フォーティ『もちろん、ドラゴン勇士団の名にかけて、アランシアの平和を守るための障害はすべて斬るさ。ヒーローの物語ってそういうものだろう?』
トウィクシル『……ご主人さまって本当に凄い人だったんですね。思っていたよりも凄い物語に触れられて、ぼくの心は打ち震えています。ランプの魔人として召喚されて以来、こんなにワクワクドキドキしたことはない』
フォーティ『俺の従者になって良かったろう?』
トウィクシル『最高です』
フォーティ『では、最高の戦いを始めようではないか。そう言って、魔の気配が漂う奥の扉に向かう』
グース「へへっ、何やらとんでもない事件に巻き込まれちまったが、あの巨人の脅威を見てから、オレの人生は英雄伝説の世界に突入したようだな。英雄の介添役として、『偉大な赤き射手』みたいに謳われるような勇気を示すとするか。逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」
ダイアンナ「扉を開くと、そこは戦士やエルフなど数多くの石像が立ち並ぶ部屋で、奥にゆらりとガウンを着た女性のような人影がうっすらと見える。それがゴルゴンであることは、身にまとう魔の気配だけで察することができるだろう」
フォーティ『まともに姿を見てはいけないんだな。バンダナ代わりのハンカチをグースに渡す』
グース「兄貴、これは?」
フォーティ『お前が使え。俺は鏡代わりの盾で、奴の姿を映して戦う。だが、お前はそういうわけにも行かないだろう? ハンカチで目隠ししても、うっすらと動く輪郭程度は追えるだろうし、音や気配で察知すれば、矢も当てられるだろう。ただし……間違えて俺に当てるなよ』
グース「分かった。兄貴が、あの魔女とオレの射線上にうっかり入らないように動いてくれれば、誤射する可能性は減らせると思う」
フォーティ『上手く回り込んで、挟み撃ちになるように動けばいいってことだな』
ゴルゴン『ホホホホホ。迷い込んだ愚かな人間が2人、我が愛するペットの蛇を倒したみたいだけど、その報いを受けさせてやるわ』
グース「ペットだと!? あんたは蛇の王の巫女にして、妻ではなかったのか?」
ゴルゴン『世迷言を。蛇の虚言に騙されおって。妾が仕えし神は魔王子シス様に決まっておろう。コブラクスはシス様の遣い、ただの獣僕に過ぎぬが、妾の美貌に懸想したと見える』
グース「蛇にとっての美貌は、人にとっては恐怖を伴うだけだ。その姿を見ずに、声を頼りに当てる!(ビュン)」
ゴルゴン『狙いを定めぬ矢が当たるものか』
グース「今のは牽制。本命は……」
フォーティ『俺の剣だ。覚悟!』
ゴルゴン『小癪な。盾の鏡像を頼りに斬りかかるとは考えたつもりだろうが、それで本気の剣技は使えまい』
盾がなければ、ゴルゴンに対しては5点のペナルティー。
盾があっても、3点のペナルティーを負うことになって、不利は否めません。
しかし、その時、ドラゴン勇士団のもう1人が支援に動きます。
トウィクシル『ご主人さま、それに下僕後輩。今から、ぼくが全ての魔力で君たちに特殊魔法〈魔人の嗅覚〉を掛けてあげる。目を閉じていても、嗅覚で魔の臭いを嗅ぎ分けて、ペナルティーなしで戦えるはず。お願いだから、ぼくの魔法に抵抗しないでよ』
フォーティ『お前、そんな魔法を使えたのか!?』
トウィクシル『めったにないスペシャルサービスなんだからね。ご主人さまたちがもしも負けて、ゴルゴンに石像に変えられたりしたら、こんな退屈な場所にずっと取り残されるなんて、真っ平ごめんだし〜』
ということで、ゴルゴン対策の最適解は、〈真鍮のランプ〉に宿るトウィクシルを連れて来ていることでした。
そして、ペナルティーなしで、ゴルゴンと戦うことができます。
技術点10はそれなりに強敵ですが、フォーティが2差で勝っている以上、有利に立ち回れて、2ラウンドで4点のダメージを与えることに成功。
その後、イベントにより、グースの矢の一本がゴルゴンの肩に、もう一本が首に命中し、隙ができたところをフォーティがとどめの一撃を与え、戦闘が無事に終了します。
トウィクシル『本気を出したドラゴン勇士団は最高だね』
フォーティ『ああ。全てはお前の支援魔法のおかげだ』
グース「下僕呼ばわりは気に入らないが、今回ばかりは見直したぜ、先輩。これからも、よろしく頼むわ」
トウィクシル『……うん、そうしたいのはやまやまだけど、ぼくが手を貸せるのはここまでだ。今ので魔力を全部使いきったので、眠くて眠くて仕方ないんだよ。次に目覚めるのは何年後になるかな。ご主人さまがアランシアを救うのを目撃できないのは残念だけど、ランプはお願いだから捨てないで。目覚めたときには、ご主人さまとブラックサンドで新たな冒険をしたいし』
フォーティ『ああ、お前は捨てないさ。ずっと大切に持っているから、安心して眠るといい。ただし……ブラックサンドでの冒険は勘弁してくれ。好き好んで、悪名高い盗賊都市に行きたいとは思わない』
それとも、この物語の続編は、ブラックサンドが舞台になるのでしょうか?
そして、フォーティたちの時代にも、領主のアズール卿はまだ健在なのでしょうか?
その答えが未来に分かることを期待しつつ、今はトウィクシルの出番終了を惜しみながらも感謝の気持ちを捧げるとしましょう。
ありがとう、トウィクシル。楽しいランプの魔人だったよ。
ゴルゴン戦の後始末
ダイアンナ「さて、トウィクシルの犠牲の甲斐あって、ゴルゴンを撃退したフォーティたちだけど……」
フォーティ『いや、トウィクシルは犠牲になんてなっていない。少しばかり長い眠りについただけさ。次のエピソードがあれば、また元気に復活して、賑やかな姿……は見せないけど、声を聞かせてくれるはず』
グース「次のエピソードなんてあるのか?」
フォーティ『さあ、そこはリビングストンさん次第じゃないかな。「巨人の影」の後で、ストーンブリッジが大被害から復興している話が書かれたら、それを次のエピソードに認定したいと思う』
ダイアンナ「45周年(2027年)か50周年(2032年)に、そういう新作ゲームブックが書かれたらいいね」
グース「それまで作者さまには元気に創作活動を頑張ってもらいたいものだな」
フォーティ『45周年はともかく、50周年の時に、プレイヤーが健在とも限らないんだが。還暦過ぎてもゲームブック攻略を頑張ってる自分は少し想像しにくい』
ダイアンナ「作り手も受け手も健康を大切にして、意欲を維持できたらいいね」
フォーティ『ともあれ、トウィクシルがいない状況でのIF攻略を改めて考えてみたい。まず、盾も持たない技術点マイナス5ペナルティーだが、良くても技術点7か8(原技術点12+兜での攻撃力+1を想定)で戦わないといけない』
グース「最大でも2差で負けているのか。盾なしじゃ、死ねと言っているようなものだな」
フォーティ『一応、盾があっても、なくても、3ラウンド後に生きていれば、運だめしを行うことになる。成功すれば、グースの牽制射撃のおかげで隙ができたゴルゴンを、フォーティがとどめを刺す形で勝利できる』
ダイアンナ「能力差に関わらず、イベント戦闘みたいな形で決着がつくわけだね」
フォーティ『何だかんだ言って、グースの矢はボス戦で非常に心強いんだよ。もちろん、運が悪ければ石化してバッドエンド送りだが』
ダイアンナ「トウィクシルがいれば、確実にゴルゴンは倒せるけど、いなければ運任せになるってことだね」
フォーティ『そして、パラグラフ332番だが、その前にゴルゴンの頭の蛇の数は18匹という情報は何気なく書かれているので、メモしておいた方がいい』
グース「重要なキーナンバーなのか」
フォーティ『このダンジョンを脱出するためのな。続くパラグラフ332番だが、たったの1つの項目で情報量が非常に多い。一つ一つ確認しないと、何だかダイジェストみたいに物語が流れて、感情移入が乏しくなる。よって、ここではポイントを箇条書きにしつつ、情緒面をプッシュするために、原作ではあっさり風味な部分を膨らませたい』
・目的のラスト・ビートルはメデューサ撃退後に、壺に入っているのを発見。2つの木箱に詰めて、グースとそれぞれ持ち運ぶ。
・入って来た扉は一方通行で閉ざされ、2人は脱出不能状態に陥る。
・ゴルゴンの部屋を探索して回るが、グースが金の偶像を見つけたぐらいで、脱出の方法は分からないまま。
・半ば絶望状態で、「もう真夜中だろうし、一晩眠ってから考えよう」と主人公が提案。
・睡眠中に外から物音が聞こえて、即座に武器を構えて目覚める2人。遅れて来たマリクが部屋に入って来て、救世主到来かと思いきや、入り口の扉は再び閉ざされることに(苦笑)。
・マリクの背中には3本のダーツが刺さっており、力尽きた彼はあっさり死亡。何しに来たんだ、と思わず、ツッコミを入れたくなる。
・マリクはグースの見つけた偶像とセットになる白大理石の偶像を持っていた。
・偶像をセットする仕掛けが部屋の中に見つかって、出口に向かう隠し扉が開く。
・マリクの遺体に感謝しながら、2人は遺体を放置してダンジョンの出口に向かう。
フォーティ『……と言った話が、1つのパラグラフで一気に語られ、マリクの死が余韻も何もなく、あっさりと処理される。せっかくの新キャラで重要人物と思われた彼を、こんなにあっさり使い捨てして良いのですか、リビングストン先生(涙目)と初見では思ったものだ』
グース「その辺のお涙ちょうだい劇は、プレイヤー個人個人がそれぞれの心の内で自由に展開しろってことだな。マンゴの死や、ズート・ジンマーの死もあっさりしたものだったぞ」
ダイアンナ「サミュエル・クロウ船長の死も呆気なかったな」
フォーティ『強敵と戦って致命傷を負って、主人公に後事を託したマンゴの死や、重要アイテムを託して死んだズート・ジンマーや、暗殺者の情報を伝えてくれたクロウ船長は、物語上で重要な役割を果たしたと言っていい。しかし、マリクさんはなあ。巨人の弱点の情報を教えてくれるだけで良かったのに、わざわざダンジョンまで乗り込んできて、ほとんど何も助けてくれずに、登場したその場ですでに致命傷って何?』
グース「死にに来たとしか思えないな」
ダイアンナ「一応、脱出用のアイテムを運んで来たという役割があるんだが?」
フォーティ『せめて、再会してから死ぬまでに数パラグラフぐらいの段取りが欲しかった。あまりに性急すぎて、はい? 死ぬの早すぎない? もっと活躍して見栄えよく散ってもいいのよ、というのが個人的感想だ。この「巨人の影」の攻略記を書くうえで、このマリクさんの描写についての不平不満を自分なりに昇華して見せなければ、俺の中の「巨人の影」は終わらない、と感じた次第』
グース「では、オレとフォーティ兄貴で、ゴルゴンを倒して、必要アイテムは入手したが、部屋から出られなくなったところから会話劇をスタートだな」
もう一つの別れ
グース「畜生。恐ろしい蛇女を倒したってのに、こんなところに閉じ込められちまうとはよ」
フォーティ『迂闊だったな。元々は、ゴルゴンを封印していた場所だから、中からは開けられない仕掛けになっていることぐらい、想定しているべきだった』
グース「せっかく見つけたラスト・ビートルも、巨人相手に使えないなんてよ。こんな金の偶像も宝の持ち腐れだし」
フォーティ『壁か扉が鉄製なら、錆びさせれば開けられる。あるいは、ハンマーで叩き壊すか?』
グース「無理だろう」
フォーティ『あきらめたら、そこでゲームオーバーだ。何か使えるアイテムはないか? おっと、これがあったな』
グース「何だ?」
フォーティ『困ったときの導きアイテム、デスティニーマップだ。運命の地図よ、この部屋に脱出のための隠し扉がないか?』
ダイアンナ「あるよ。偶像が鍵だ、と表示が出た」
フォーティ『運命神に感謝だ。どこかに偶像をはめられる仕掛けがないか、探してみよう』
グース「地図に聞いたら、どうなんだ?」
フォーティ『いや、トウィクシルのことを考えると、この地図にも魔力切れというのがあるかもしれない。本当に大切な導きが欲しいときに、魔力切れに陥ったら大変なので、自分たちで解決できることは人事を尽くした方がいいと思うんだ』
グース「よし、偶像がはめられる仕掛けを探せばいいんだな」
そうして、2人は部屋をくまなく探して、ついに見つけ出した。
フォーティ『ゴルゴンが眠っていたらしい石棺に、こんなくぼみがあったとはな。きっと、これに違いない。グース、偶像をはめてくれ』
グース「金の偶像は2つ。くぼみの数は3つあるぜ。どれにはめたらいいんだ?」
フォーティ『罠に気をつけながら、適当にはめろ。パターンは3つしかない。あらゆる選択肢を試せば、そのうち正解が見つかるはずだ』
グース「一通り試したけれど、ちっとも反応しない。もしかして、偶像はもう一つあるんじゃないか?」
フォーティ『どこに?』
グース「そんなのオレが知るか!」
フォーティ『とにかく探してみよう。こんなときにトウィクシルが起きていれば、匂いで見つけられるかもしれないんだが……』
2人は部屋をくまなく探したが、もう一つの偶像は見つからなかった。
フォーティ『仕方ない。運命の地図よ、もう一つの偶像はどこに?』
ダイアンナ「火を吐くドラゴンの口の中に、と表示が出た」
フォーティ『しまった。そこは未探索だ。悪魔ルートを選んでしまったからな』
グース「だったら、どうするんだ?」
フォーティ『今から、ドラゴンルートを調べ直すのは無理だろう。必須アイテムが未入手だから、バッドエンド確定だ。こうなったら、時空魔法ZEDを使って、時間を巻き戻す』
グース「兄貴は魔法使いだったのか?」
フォーティ『あ〜、俺は戦士だから、ZEDの魔法なんて使えない。噂に聞いただけだ。誰か、俺たちのために、キーアイテムの偶像を届けてくれ。お困りのときに現れてくれる調達屋の力が今ほど必要だと思ったことはない』
グース「オレには兄貴が何の話をしているか分からない。調達屋なんて、都合のいい人物がこんなダンジョンに現れるなんて、ありえないだろう!?」
だがしかし、運命に選ばれし者が願えば、時として叶うこともあるのがファンタジーの世界である。
マリク『君たち、お困りのようだね』
グース「ん? 誰だ、あんた? もしかして、噂の調達屋?」
フォーティ『バカ、恐れ多い。この方を誰だと思っている。我らドラゴン勇士団の後見役、その名も高きマリク・オム=ヤシュ殿だ』
グース「おお、兄貴のお師匠さまか」
マリク『いや、私は弟子など持った覚えはないが?』
フォーティ『今からでも遅くない。俺の師匠になって下さい。でも、その前に、その開いた入り口の扉、閉めずにおいて下さい』
マリク『ヘッ?』
ガシャン! 扉はふたたび閉ざされた。
フォーティ『ああッ! 師匠、何をやってんですか!? せっかくの脱出のチャンスをみすみす逃すことになるなんて』
マリク『一体、何の話か、私には分からないが、とりあえず、こういうものを見つけて持って来たんだけど?』
フォーティ『そ、それは大理石の偶像! どこでそれを?』
マリク『ドラゴンの頭像の牙の間に挟まっていたんだが、何となく役立ちそうに感じたので持って来たのだ』*1
フォーティ『さすがです、師匠。その偶像は今、我々が最も必要とするキーアイテム。それを持って来ていただいただけで、感謝感激雨あられってもんですよ(感涙)』
マリク『そこまで喜んでもらえるとは、頑張って追いついて来た甲斐があったってものだ。しかし、どうやら私の体力もここまでのようだな』
フォーティ『師匠、何を言ってるんですか……って、何ですか、その背中に刺さった3本のダーツは?』
マリク『来る途中でドジを踏んでしまってな。なあに、大丈夫。少し休めば回復するさ。致命傷とは程遠い。ウッ、ゲホゴホグホッ』
フォーティ『吐血しているじゃないですか!? このままだと死んでしまいます。ほら、ここに【癒しのポーション】があります。これを飲んで体力を回復して下さい』
マリク『いや、それは巨人との戦いで必要になるかもしれん。大事にとっておきたまえ』
フォーティ『師匠の怪我を治す方が大事です』
マリク『だから、怪我は致命傷じゃないんだ。ただ、この吐血は、かねてから不治の病に冒されていてな。どうせ、もう長くない命なんだ。若いときを思い出して、今さらながら冒険にしゃしゃり出て見たはいいが、ブランクが長いと、どうも上手くはいかんな。勘は鈍っているし、体力も続かん。これじゃ、ただの足手まといだ。私はここで休んでいるから、君たちは先を急ぎたまえ。ラスト・ビートルは手に入れたんだろう?』
フォーティ『ええ、ゴルゴンを仕留めて、入手しました』
マリク『ゴルゴンを仕留めるなんて、並みの剣士にはできんだろう。私が君に剣の道で教えることは何もないと思うんだが?』
フォーティ『剣術以外にもさまざまな冒険の心得とか、トレジャーハンターとしての秘宝知識とか、教えていただきたいことはたくさんありますよ』
マリク『ならば……その【竜の剣】の継承者として、フォーティ、君を我が弟子として認めよう。だが、その前に世界を脅かす巨人を倒してくれ。手助けしたいのはやまやまだが、今の私には若者について行くだけの体力がない。見事、巨人を倒した暁には、君にあれこれ教えてみたいものだな。今は、少し眠らせてくれ。私は疲れた……』
フォーティ『……師匠。全てが終われば、迎えに来ます。【竜の剣】を師匠の心と思って、共に戦って来ますから、今は安らかにおやすみなさい』
こうして、ドラゴン勇士団は眠れるマリク・オム=ヤシュをその場に残して、先を進むのだった。
ゴルゴンの石棺に、もう一つの偶像をはめ込むと、石棺がスッと滑るように動いて、下への階段が現れる。
キーアイテムを届けてくれたマリクに、改めて静かな感謝の想いを捧げると、2人の若き勇士は階段を駆け下りる。ダンジョンから脱出して、巨人に挑むために。
墓所からの脱出
フォーティ『ここから後の脱出物語は、おまけみたいなものだな。小説だと割愛してもいいくらいだ』
グース「それじゃあ、攻略記事として不十分じゃないか?」
ダイアンナ「パラグラフ44番では、牡牛の仮面の番人がいて、時が止まったかのように静止したポーズで部屋の中央に立っているんだね」
フォーティ『選択肢は、堂々と中央を通ろうとするか、こっそり忍び足で端を回って、奥の通路に入ろうとするかだけど、後者だと何の問題もなく敵をスルーして通り抜けられると分かっているのに、わざわざ技9、体9の守護者と戦いたいと思うか?』
グース「いや、守護者を倒せば、お宝が手に入ったりは?」
フォーティ『しない。ここはスルーするに限る。はい、次』
ダイアンナ「スルーされた守護者が内心、シクシクと悲しんでいる声も知らず、2人は先を急ぐ。通路いっぱいに広がる大きな穴があって、天井近くにロープが吊り下がっているのを、フォーティはあっさりロープを使って乗り越えた」
グース「オレは?」
ダイアンナ「例によって、ドジキャラなグースはワーッと悲鳴を上げて、ロープから落下、穴に落ちた」
グース「ワーーーッ」
フォーティ『さらばグース。お前のことは忘れない』
ダイアンナ「穴の深さはそれほどでもない。グースはちょっと打ち身をした程度で、骨を折ったわけでもなさそうだ」
グース「ということだ。兄貴、悪いが引き上げてくれ」
フォーティ『仕方ないな。ほれ、この手につかまれ』
ダイアンナ「するとその時、この先の通路の入り口の天井がゴゴゴゴゴと下がって来る。グースを助けていると、通路が完全に塞がって通れなくなるね」
グース「兄貴、オレのことはいいから、兄貴だけでも通路の先に進んでくれ。このままだと、2人とも閉じ込められてしまう」
フォーティ『バカ野郎。師匠に続いて、お前まで残して行けるか。俺はお前を見捨てない。お前なしだとこの先、生きてはいけない、と感じるんだ』
グース「兄貴、そこまでオレのことを……」
フォーティ『勘違いするなよ。これは愛なんかじゃない。仲間を見捨てたら、この先の通路で岩ウジに食い殺されたり、別の穴に落下して腰の骨を折ってしまい、穴の底で疫病ネズミの餌食になってしまうバッドエンドの予感がプンプン臭ってくるんだ。これはきっと、トウィクシルが俺に仲間を見捨てるな、とメッセージを送っているにちがいない。俺は俺が生き延びたいために、お前を助ける。ただ、それだけだ』
グース「兄貴。そんな妄想を言い訳にしてまでオレのことを。兄貴の愛を感じながら、その手をつかむ」
フォーティ『何だか妙に熱いグースの視線を感じながら、引き上げてやる』
グース「ふう、兄貴、助かったぜ。それより、通路の天井は完全に塞がっちまったな」
フォーティ『時間が経てば、また通れるようになるのか。それとも来た道を戻って、どこかに隠し通路がないか調べるか……』
グース「こういう時こそ、デスティニーマップの出番じゃないか?」
フォーティ『やむを得んな。魔力切れになってないよう祈りつつ、ここから脱出する方法を聞いてみる』
ダイアンナ「穴の底に隠し通路が、という文字が浮かび上がるけど、その文字が点滅して消えた。どうやら魔力が本当に枯渇したようだ」
フォーティ『マジかよ。デスティニーマップまで使えなくなってしまうとは。トウィクシル、マリク師匠、それにマップまで、これまで俺を導いてくれたものがみんないなくなってしまうなんて、この先、俺はどうやって生きていけばいいんだ!?』
グース「大丈夫だ。兄貴にはオレが付いているから」
フォーティ『いや。いつまでも誰かに依存してちゃダメだな。自分のハンドルは自分で握れ、と届け屋さんの声が聞こえて来た。そうだ、俺は1人でもこの先、進まないといけない』
グース「だから、オレがいるって言ってるだろうが」
フォーティ『やけにベタベタ絡もうとするグースから距離を置いて、穴に飛び込む。穴の底の壁をガンガンとハンマーで叩いて、音の違いから隠し通路の存在を確認する。動く壁があったので、そこを押すとビンゴだ。デスティニーマップの最後の導きに従い、狭い通路を先に進む』
グース「兄貴の背中を追うぞ。後ろ姿も格好いいと思いながら、ヒーローに憧れる少年のような気持ちで。これぞサイドキックの生きる道」
ダイアンナ「通路の先に行き止まりの部屋があって、そこにはガラスの珠(オーブ)が台座の上に乗っている。珠の中には紫の煙が渦巻いているのが見えるよ」
フォーティ『一瞬、ハンマーで珠を叩き壊してやろうかという衝動に駆られたが、そんなことをしたらバッドエンドだ、というヒーローの予感がしたので、そっと優しく珠に手を当てる』
ダイアンナ「すると、珠の中に不気味な頭蓋骨の映像が浮かび上がる。『〈ゴルゴンの墓所〉を出ようとするのは何者だ?』と低い声が脳裏にこだまする」
フォーティ『おお、変な声が聞こえる。新たな導き手か? 仮にスカル師匠とお呼びしよう。スカル師匠、俺の名はドラゴン勇士団のフォーティ。一瞬、違う名を名乗ろうかという衝動に駆られましたが、師匠には正直であろうと思い立ちました。どうか俺を導いてください』
グース「さっきから兄貴が何を言っているのか、よく分からなくなっているんだが? 兄貴がどんどん遠くに行くような気がして。変な珠に魅入られているんじゃないか? 兄貴を珠から引き離そうとするが」
フォーティ『やめろ、グース。いくら大事な弟分のお前でも、俺から師匠を引き離すことは許せん』
グース「兄貴に名前を呼んでもらい、大事な弟分と言ってもらって、それだけで満足するぞ。ああ、兄貴はやっぱりオレのことを大事に思ってくれたんだ〜と、顔がニンマリするのを抑えられない」
ダイアンナ「2人の関係性が急速におかしな方向に流れていくのに戸惑いながらも、話を進めよう。『二枚舌には蛇化の呪いをかけてやろうと思ったが、正直な人間のようだな。では、汝、フォーティよ。我が問いに答えよ。そうすれば出口を示してやろう』と頭蓋骨はフォーティに話しかける」
フォーティ『ゴルゴンの蛇の数なら18匹です。パラグラフ18番へGOします』
ダイアンナ「いや、それで正解だけど、質問する前に答えられると、いかにもチートしてるって感じで興醒めなんですけど?」
フォーティ『スカル師匠の心を読みました。いかにも、こういう質問をして来るだろうなって』
ダイアンナ「何そのチートな言い訳は? 観察力を確かめるための質問なんだけど、心を読まれると、観察力どころの話じゃないような……」
フォーティ『ちなみに18という数字を覚えていない場合は、コイントスで裏と宣言すれば脱出できる。表と宣言したら、グースともども蛇になってしまい、バッドエンドだ』
グース「兄貴といっしょに蛇になるなら、オレにとってはハッピーエンドとも言える。共にサーペントライフを楽しもう」
フォーティ『そうなったら誰が巨人を倒すんだ? アランシア全体にとってのバッドエンドなんだから、俺には蛇になる気は毛頭ない。仮面ライダー王蛇とか、ゴセイブラックとか、ヘビツカイシルバーとか、蛇モチーフのヒーローもいなくはないが、かなり少数派だ。ドラゴン勇士ともあろう者が蛇に身を落とすつもりはない』
ダイアンナ「『汝、ドラゴン勇士のフォーティよ。その妄想じみた想像力には、敬意を表するゆえ、ここから出ることを認めよう。我のことを師匠と呼ぶなら、弟子の汝にはもはや教えることは何もない。免許皆伝だ。新たな師匠を探す旅に出るといい。世界を巨人から救ったうえでな』と、珠の声は厳かに言って、出口の通路を開いてくれた。これで、無事に〈ゴルゴンの墓所〉を脱出できたよ。……何だか異様に疲れたんだけど」
フォーティ『ロールプレイに熱が入ると、たまによくある現象だ。現実と空想と妄想の区別がつかなくなって、自分が何を口走っているか分からなくなる』
グース「末期症状じゃねえか。少しは脳を休めて、冷静になれ」
ということで、フォーティとグースの2人は、何とか〈ゴルゴンの墓所〉を脱出することに成功した。
そのために犠牲になったものは数多い。
ランプの魔人トウィクシル。
老剣士マリク・オム=ヤシュ。
運命の地図デスティニーマップ。
そして、フォーティの正気?
…………。
ともあれ、妄想まみれのヒーロー志願者の最後の戦いが、いよいよ始まろうとしている。
果たして、ドラゴン勇士は真のヒーローとして、格好よく巨人を倒して、アランシアの平和を守ることができるだろうか?
それとも、ダイス目のグダグダに翻弄されて、妄想ギャグパロディの世界に落ち込むことになるのか。
書いてみないと分からない、最終決戦を楽しみに。
読者さんだけでなく、作者も楽しみです。
●〈ゴルゴンの墓所〉の地図(その2、完全版)
出口
↑
ネズミの穴エンド 頭蓋骨の珠
岩ウジエンドーl ↑
落とし穴ーー穴の底ーー秘密通路
↑
牡牛の仮面の守護者
↑
石棺の下の秘密通路
↑
ゴルゴン*2
↑
蛇の王コブラクス
↑
ゾンビの群れ
l
深淵の穴←ーーーー魔方陣のパズル
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ドラゴンの火炎通路 盾入手
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大岩の罠ー十字路ー叫ぶ悪魔ー移動王座
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ダーツの罠
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扉
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コウモリの群れ
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入り口
★ドラゴン勇士団団長にして、マリクの自称弟子フォーティ
・技術点11(盾の効果で攻撃力+1)
・体力点18/20
・運点8/11
・金貨148枚
・食料10食
・重要な持ち物:【竜の剣】、幸運ポーション、秘密の地図(特別な愛称・デスティニーマップ)、【混沌の王冠】のフレーム、ドラゴンのメダル付きペンダント、【幸運のお守り】、【力の指輪】(技術+1)、癒しのポーション、縺(もつ)れの指輪、癒しの指輪(技術+1)、鏡効果の鋼の盾(攻撃力+1)、ラスト・ビートルの木箱
・使用機会の終わった持ち物:短剣、コウモリ軟膏、熱冷まし剤、戦槌、金の護符、ゾンビの指輪、エルフのブーツ、真鍮のランプ(魔人トウィクシル)
・使う機会のない持ち物:骨入り革袋、青い蘭、金の首飾り、革手袋、銅の指輪、真鍮のベル、黒い絹のハンカチ、銀のヘアピン、鉄の合鍵6本セット
・情報:〈ゴルゴンの墓所〉でラスト・ビートルを入手せよ
巨人を倒し、アランシアの平和を守れ
・祭りイベント:パイの早食いコンテストに勝利
平手打ちコンテストに勝利
(当記事 完)