ソーサリーの話
ソーサリーがそのゲーム性だけでなく、ストーリー性においても傑作であることは、論を待たないと考えます。
いずれ解き直すときに楽しみは残しておきたいとも思いますが、本記事の前置きとして、あらましを触れたく。
クライマックスの盛り上がり+1。1巻のマンティコア戦、2巻のカーレの北門の開放、3巻の大蛇ボスともいうべき〈時の蛇〉の脅威と華麗な逆転劇、そして言わずと知れたマンパンの大魔王。どの巻をとっても、アイデアに満ちたクライマックスで印象的でした。
どんでん返しは、巻数によります。全体的にはストレートな王道冒険ですが、どんでん返しは4巻に集約されると思います。裏切り者のサイトマスターや、逆に大魔王への反抗活動中のバードマン。誰が味方で、誰が敵か分かりにくい陰謀渦巻くなかで、究極魔法ZEDの秘密、という謎の解明が、シリーズ4冊の締めくくりに相応しい時空操作の大仕掛けで衝撃的な物語でした。まあ、伏線的に、3巻のボスキャラが〈時の蛇〉になっていたりもして、時間操作という概念がつながっていることもいいですね。とりあえず、シリーズ全体で考えて、どんでん返し(意外な謎の判明)にして燃えるクライマックスへのお膳立てが心地いい。この「どんでん返しで盛り上げる」というのが+1で、サプライズの結果、しらけてしまうのは失敗と。
段階的な盛り上がりについては、言うまでもないでしょう。敵地へ向けての長い旅という構成だけで十分+1ですね。もちろん、各巻ごとの構成は、また分析する必要もあるでしょうが。
印象的なイベントについても、言うまでもありません。ここでは詳細を省きますが、カーカバードでは数多くのイベントがありました。+1。
作者のセンスについても言うまでもありませんね。ソーサリーは、スティーブ・ジャクソンの勇名を轟かせて、『火吹山』が始祖なら、こちらは最高のキャンペーン大作とも言えます。アルファベット3文字で表される48種類の呪文というアイデアだけでも豪華な設定で、さらにパラグラフ・ジャンプの仕掛けも、本作で定着させたと言っていい。+1。
合計5点満点の、シリーズ最高峰、◎評価の一大傑作です。
今年の後半は覚悟を決めて、この作品のプレイ記事に楽しく挑みたいと思います。
改めて、ジャクソンのFFストーリー振り返り
④地獄の館
『さまよえる宇宙船』から別レーベルの『ソーサリー』シリーズを経て、パフィンブックスの10巻めで英ジャクソンが帰ってきました。その間に同姓同名の米ジャクソンの8巻『サソリ沼の迷路』で紛らわしいことになっていましたが。
ともあれ、SFの次は現代ホラーで、FFシリーズにまた新たな風を吹き込ませました。
ジャクソンは作品を発表するたびに、新規開拓の異色作となるのが面白いですね。今度は一体、何をするのか? というアイデアに期待される作家。
そして、クライマックスの盛り上がりは、館を脱出する前の最終決戦がしっかり用意され、謎解きとバトルのバランスがすごく良い作品に仕上がっています。
いや、本作ではむやみやたらに戦っていては、体力点よりも先に恐怖点でゲームオーバーになってしまいますので、必要なイベント以外はスルーして回るのが最適解というのが、ジャクソンのスタイルになっていますが。
何にせよ、恐怖に怯えっぱなしの主人公が、聖剣クリスナイフの霊力で、地獄の悪魔を成敗する快感は、印象的なラスボス戦と言って間違いない。+1。
どんでん返しも、「ラスボスと思われたキャラが、実は前座だった」という展開は、リビングストンの『トカゲ王の島』が初出ですが、物理的には無力な不意打ちキャラだったゴンチョンに比べ、こちらは無力と思われていた従者が実は大ボスだったという仕掛けで、間違えて屋敷の主人を先に攻撃すると、正体を表した真のボスに殺されるという最後の最後で衝撃的な展開。しかも、真のボスは非常に強いのを、聖剣パワーで対抗できるという。
弱点を突けば、ボスが弱体化するというのがこれまでの定番でしたが、今作はその点も逆で、こちらが一気にボーナス込みで強くなるという燃える展開に。
弱い者いじめ的な話ではなく、力VS力の王道決戦にラスボス戦を昇華させたという意味でも、怯えすくむ最弱主人公の姑息な、知恵と工夫を駆使したプレイスタイルが一転、窮鼠猫を噛む的な逆転劇が爽快感を与えてくれます。
映画『ターミネーター』なんかでも最初は怯えすくむだけのヒロインが、試練を経て、鍛えられたバトルヒロインに覚醒するような80年代のSFやホラー映画のノリが当時の流行なわけですよ。
これが超能力ヒロインなら、イヤボーンと表現されたわけですが、言葉自体はたぶん死語でも、展開自体は今も普通にありますね。最近作では、ジークアクスとか。
段階的な盛り上がりも、屋敷の住人の謎が少しずつ解ける展開と、それを邪魔する恐怖点のジレンマで、少しずつ死と再プレイを繰り返しながら、正解ルートを探す試みが、ホラーというジャンルに上手くマッチしているな、と。
広大な宇宙や、荒野の旅まで広がった風呂敷を、一軒の幽霊屋敷からの脱出に限定して、世界観は明らかに縮小しているに関わらず、謎は奥深い。
元々、ホラーというジャンルは爽快感とは無縁で、じわじわと来る緊張感が醍醐味なので、ジャクソンの気質とも噛み合ったようなハマりようですな。謎ときの過程を楽しむミステリー的な感覚もあって+1。
イベントの数々は、これも『さまよえる宇宙船』同様、面白いイベントを見れば攻略不能ルートに入ってしまうという問題で、しかも恐怖点のルールが縛りをかけているせいで、プレイ中に楽しみきれないのが災いします。
それに、恐怖イベントが結局、プレイ中のマンネリ感につながるだけなので、中盤以降は退屈なことに。
デッドリーなゲームは、物語を楽しませるということに対して逆効果だったりもするなあ、と。点数なし。
最後に、ジャクソンらしいゲームだとは思いますね。謎ときパズルが豊富だったり、トリッキーな仕掛けが多かったりして、それをクリアすると、ストーリーも解けて、快感を得られる。解くべきゲームとしての味わいは豊かな佳作です。+1。
まとめると、「脱出目前で立ちはだかるボスとの決戦+1」「ボスの正体と、最弱主人公の快感逆転劇というどんでん返しで+1」「謎の解明を通して、段階的にストーリーがじわじわ盛り上がるミステリー要素で+1」「ジャクソンらしいパズル性で+1」の合計4点。◎です。
⑤サイボーグを倒せ
面白いイベントが、ゲームの攻略の筋道とは外れた場所にある。このジレンマを解決するための手法として、正解ルートが選んだキャラによって4通りあるようにすればいい、という考えで見事に成立した作品です。
4種類の能力を持ったアメコミスーパーヒーローが、街の平和を守るため、多くのヴィランが引き起こす事件や災害などを解決し、最後に大ボスの大掛かりな計画を未然に防いで、英雄としての使命を全うする、またも新たなジャンルの開拓作品。
キャラが変われば、物語の攻略法も変わって、ストーリーも変化が生じる。米ジャクソンの『サソリ沼の迷路』の善中悪の3ルート構成を受けて、それをさらに発展させた作品とも言えます。
キャラの死やバッドエンドで、くり返し遊びを推奨するスタイルから、能力の異なる複数キャラの使用で、多様なルート選択を楽しませるようにした快作と評価します。
ラスボスとのバトルは、恐怖結社の秘密会議の日時や場所などを探す謎とき(これがメインのゲーム性)と、弱体化アイテムを入手後のボーナスみたいなものですが、スーパーヒーローの究極ボスにふさわしい強豪ぶり(技術点17)で、弱点を活用せずに、まともに戦うと決して勝てないというインパクトがいいですな。
体力ヒーローの技術点13も、プレイしていて爽快感がありましたが、力押しではどうしようもないラスボスに、どう挑むかというゲーム性。「ボーナスアイテムの入手をゲームの一環にすればいい」という手法で、前作のクリスナイフ同様の位置づけにあるのが〈回路妨害器〉ですな。
こうして、ジャクソンのゲームブックでは、きちんと弱点のある敵ボスという設定で、バトルそのものよりも、弱点探しの方に比重を置いた作りになっているわけです。+1。
ここで、リビングストンも『トカゲ王の島』なんかで弱点のあるボスを設定してますし、ボスを倒すのにアイテムが必要というケースもしばしば見られます。
だから比較するなら、ボスよりも中盤過ぎの通常バトルにすべきかもしれません。
この場合、リビングストンの敵キャラは割と力押しで排除できる相手が多いですが、ジャクソンの作品では単独処女作の『バルサスの要塞』から、通常戦闘のルールでは倒せない難敵が頻繁に登場して、その都度、特別な対処法を求められることになる。いわゆるガンジーみたいなケースですな。
そして、本作でもスーパーヒーローのそれぞれの特殊能力に合わせて、勝てる相手と、勝てない相手がしっかり決まっている。スーパーヒーローと言えど、決して無敵というわけではなく、有利に戦える相性のいい相手と、自分の能力では倒せない相手を見極めながら、できるだけ多くの事件を解決しつつ、恐怖結社の秘密会議の情報を確保しなければいけない。
この事件解決の道順を、4種類の攻略ルートそれぞれで見つけ出すというプレイバリューの非常に高い作品だったのですね。
1つのヒーロー物語では、目立ったどんでん返しはありませんが、あるヒーローで解決できなかった事件を、別のヒーローなら見事に解決できて、しかもよく分からなかった事件の背景や全貌が明らかになるという、多面的な視点での発見が本作ではいくつもある。
マルチエンディングではありませんが、途中展開がヒーローごとにいろいろと「そういうことだったのか!」と謎が解ける爽快感があって、複層的な楽しみができるのは別シリーズの『ブラッドソード』を思わせる面白さです。
複数視点で見えてくる物語、事件の様相が変わってくるのは、プレイヤーにとってのどんでん返し的な感覚で、いかにもゲームならではのストーリー体験で+1。
段階的な物語演出は、やはり時間制限のある物語なので、日数が進むにつれて、事件の様相も大掛かりになっていくような感じですね。最初は銀行強盗とか、恋愛関係のもつれによるハイジャック犯とか、海岸でのサメ騒動とか、そんな話だったのが、終盤は大統領暗殺計画とか、スポーツ競技場での大規模テロとか、軍事基地の襲撃とかにエスカレートして行く。
ヒーローとしては、どの事件を解決しようか迷いながら、次々と勃発するトラブルに東奔西走しつつ、私生活では上司に遅刻を怒られたりしながら、正体を明かさない二重生活のコミカル悲哀をも経験する。
まあ、ヒーローとして失敗も重ねながら、日夜頑張る姿に感情移入しながら、「がんばれ、俺(ジーン・ラファイエット)、負けるなシルバー・クルセイダー」って気分になれるゲームです。
そう、個々の事件の解決に失敗しても、バッドエンドはそれほどなく、話が続けられるのも、本作の試行錯誤を楽しめる要因ですね。もちろん、失敗したら最後まで行けなくなる事件もあるわけですが、そもそも選択ミスだけでアウトだったりするし、だけど、ヒーローとしての事件解決劇をあれこれ堪能しながら、最適解を探すゲームは楽しいのです。
もっとも、放射能犬に噛まれて死ぬという非常に運の悪いマヌケな事故もあったりするのが、今だに忘れられないネタですけどね(苦笑)。
事件の数が豊富で、個性的なヴィランも数多く、イベント数で+1。
そして、上手くストーリーがつながる時は、ある事件を解決すると別の事件に関連する情報をもらったりして、連続ストーリー的な様相を呈するのも、段階的に話が盛り上がるということで+1。
個別の事件が散漫なだけでなく、やがて一本の縦筋が見えて、つながった時に、クライマックスの恐怖結社の陰謀が見えてくる。良く言えば、こういうドラマ性が浮かび上がるのが(しかも4通りのルートで)、自分がこの作品を推す大きな理由ですね。
もちろん、緻密に仕掛けを盛り込んだ英ジャクソンの職人ぶりに惚れ込むばかりです。+1。
まとめると、「ラスボスに至るまでの情報収集と、ラスボスの弱点となるアイテム入手を経ての、強敵ラスボス戦のクライマックス+1」「主人公の能力ごとに解決できる事件やルートが異なる、多面的なストーリー展開+1」「多数のイベントやヴィランの個性が面白くて+1」「事件が連鎖的につながったりもしながら、次第に大規模に拡大していく構成に+1」「それらの要素を巧みに紡ぎ上げつつ、スーパーヒーロー個人の私生活をペーソス豊かに描いたジャクソンのセンスに+1」の合計5点。
ゲームと物語の融合としては、独自性も非常に強い◎です。本作の特長を受け継いだ作品は、他に知らないものなあ。ソーサリーのオマージュはいろいろあるけど、『サイボーグを倒せ』と『モンスター誕生』のプレイ感覚を見事に継承していると思しき作品は知りません。この辺はもうマネできない領域なのかなあ、と感じつつ。
⑥モンスター誕生
英ジャクソン最後の傑作と長年言われてきた作品。
82年末に『火吹山の魔法使い』でデビューして、86年の本作で、ゲームブック作家としては一度筆を置いた形ですが、その後は89年の小説『トロール牙峠戦争』を発表して以降は、同シリーズの新作には関わらず、盟友のリビングストンと後継作家たちに後を任せて……2022年の40周年に『サラモニスの秘密』でようやく新作を発表したわけですな。
デビュー4年でキャリアを終えたゲームブック業界に、40年めで帰ってきたというのは、ファンにとっての快挙でありますが、先にかつての最終作の評価をば。
まず、クライマックスのザラダン・マーに対しては、戦闘というよりも、モンスターである主人公の誕生の秘密を明かされる場面として、印象深い。
ザラダン・マーを倒すには、鏡の向こうの次元門を開くキーナンバーを入手して、〈水晶の棍棒〉を所持していて、〈対魔法の粉〉を浴びているという3つの条件を満たしていれば、自動的に物語が進むわけで、強いのか弱いのかもよく分からない相手なんですが、
ライバルと言われるバルサスの武闘派ぶりに対して、知略に長けるマッドサイエンティストぶりが印象的。
単純にバトル要素だけを抜き出すと、『盗賊都市』のザンバー・ボーンのようなガッカリボスなんですが、非常に用意周到な大物っぽさを表明していて、最初の背景での持ち上げぶりや、ボスの元まで到達するまでの難易度の高さと相まって、他にない印象的な演出ボスと言えますな。
ただ、リアルタイムで本作を初めて解いたときは、最後にバトルが発生しないこと、異界にいるザラダン本体を直接倒せずに、現世との交信手段である鏡を破壊しただけに留まったこと。できれば、続編が欲しいエンディングなのに、結局、続編が描かれていないことで、非常に不満を覚えた最終展開だったんですな。
その初見の気持ちを大事にして、ガッカリボスのザラダンには点数をあげられません。
後から考えると、異界のザラダンを追いかけてボコボコにする手段を、主人公は持っていないことと、このゲームの目的は「ザラダンを倒すことではなくて、主人公の正体を明らかにして、自分自身を取り戻すこと」だから、それを妨害するザラダンをこの世から放逐しただけで十分だとか、自分なりに納得はしているんですけどね。
ボスキャラを異界まで乗り込んで行って、殴り倒して、自ら神になるという物語は『奈落の帝王』で満たせたし、
異世界の悪魔と融合したザゴールは、これから何とかするつもりでいるし、
ザラダン・マーに対する昔日の不満は、別の作品で晴らすといいでしょう。
で、そのザラダン・マー本人の顛末の続きということで期待した『トロール牙峠戦争』はパラレルワールド的な物語で、ザラダンも主人公と相打ちしての墜落死(鏡だけですが)……と思わせて、主人公は本作のヒロインをアバターに持つ女神リーブラに助けられて、世界の秘密を知るという超展開で終了。
小説のザラダンは、ゲームブック版とはまた違う領主としての顔を持っておりますね。よりアクティブな性格になってるわけですが、媒体が違えば、キャラの印象も違うということですか。
同じく続編として期待した『サラモニスの秘密』は、実は前日譚だったので、ゲームブックと小説のどちらに準拠したザラダンなのか、当作だけでは判断しにくいのですが、小説の続きはジャクソン本人ではなく、マーク・ガスコインに委ねられたらしいので、そちらでも英ジャクソンは長続きしなかったのか、と。
小説を書きたいから、ゲームブック作家をやめる宣言をしたジャクソンのその後は、86年にボードゲーム版の『火吹山の魔法使い』を製作した後、88年にFIST(ファンタジー・インタラクティブ・シナリオbyテレフォン)という企画を展開、ゲームブックからデジタル分野に進出してみたり、92年にバトル・カードというトレーディング・カードゲームを(『マジック』以前に)立ち上げたりしていたそうです。
日本ではほとんど知られていなかったけど、非常に先見の明あるジャクソン健在、という印象。ただ、バトル・カードは上手く売れずに、1年ほどであっさり終了。しかし、その数ヶ月後に『マジック』が大ヒットをして、ジャクソンは「非常に複雑な思いをした」そうで。
1995年からはゲーム関連の記者として活動し、97年からはリビングストンと共に、Lionheadというコンピューターゲーム会社に参入して、2001年に『Black and White』という「神として、小島の部族民の文明を発展させるべく操作して、邪神や敵対神に対して世界の覇権を勝ち取るゲーム」のシナリオを主導する役割を果たしたそうですが、同社が2006年にマイクロソフトに売却されて、ジャクソンも退社。
2006年からは、大学のコンピューターゲーム・デザインの講師を務めたりしていたことまでが、こちらのブログ記事に記載されています。
それと同時に、ウィザード・ブックスによるFFゲームブックの復刻を経て、その後は、アリオンゲームズでAFF2eの監修アドバイザーなんかで、TRPG版のFFに大きく関わっていたようですね。
とまあ、『モンスター誕生』以降の作者の経歴のあらましを語ってみたわけですが、この辺の情報をFFコレクション4の解説なんかで欲しかったです。まあ、今さら補完ってことで。
改めて話を戻すと、『モンスター誕生』のストーリー的どんでん返しは、物語の最初からモンスターとして冒険者を襲うという幕開けから、すでに衝撃的なんですな。単にモンスターを演じるだけでなく、理性を持たないランダム行動しかできず、プレイヤーのコントロールを外れている主人公が、理性と言葉を習得して、少なくとも今までどおりのプレイがまともにできるようになるまでと、ダンジョンから外の世界に出るまでの2つの転機を経て、ザラダンの親である〈ドリーの三魔女〉の導きで、ザラダンを倒す使命を与えられる。
悪の手で悪を倒すという様相で、実にドラマチックな物語ですが、醜く凶暴な怪物なれども義侠心は持つという風にプレイすると、重要な仲間を得て、パラグラフ・ジャンプでどんどんストーリーが解けていくという劇的な展開。
パラグラフ・ジャンプを伴わないルートだと、いろいろなところにバッドエンドが転がっていて、非常に危険極まりないゲームですが、一度軌道に乗ると、どんどん道がつながってくる、正に文字どおりのどんでん返し展開です。+1。
盛り上がり演出は、ハーフオークのグロッグさんが担ってくれますね。普段の冒険者視点では、小悪党でしかないハーフオークが、モンスター主人公にとっては、非常に知恵者の有能な相棒に映る。
視点の変化がドラマチックな展開を紡ぎ上げて、その死に至るまでが実に情感を刺激してくれます。こういう境遇の主人公だからこそ成立する物語に、感じ入る次第ですよ。+1。
一方で、サイ男の兵士の悲劇の脱出行に付き合うとバッドエンドに流れる、別サイドのドラマも印象的。バッドエンドの中にも、しみじみとした趣きがあるのが本作の秀逸なところだと思えたり。
印象的な小イベントは、「本能で動かされるモンスターの心理」「言語パズルに仕込まれた、いろいろなキャラの背景事情の手がかり」「実に巧妙に仕掛けられたダンジョン内のトラップの数々」「ダンジョンから初めて地上に出たときの解放感」「バッドエンドルートながら、地上の訓練施設での充実感」など。
冒険を楽しむというより、モンスターという役割で世界を見るという、想像力を掻き立てる描写が好みですね。
あとは、OPで語られる長い背景ストーリーが、ゲームブック本編の伏線として上手くリンクして、世界観が解きほぐされる様子も素晴らしい。
まとめると、「いつもと異なるモンスター視点から、徐々に人間性を獲得する中で解き明かされる謎の数々に、どんでん返しを感じた+1」「謎が解けるごとに、ストーリーが進展するような段階的な盛り上がり+1」「背景ストーリーともリンクしたイベントの数々がいずれも印象的+1」「ジャクソン最後の作品として、ゲームだからこそ味わえる謎ときストーリー感覚が素晴らしい+1」と言ったところ。
ラスボスとの対峙が、ただの種明かしで、バトル的に盛り上がらなかったことを除けば、合計4点で◎。
でも、最終作は変化球より、王道物語で感動を味わいたかったな、というのが、今だからこそ言える本音です。
⑦サラモニスの秘密
そして、36年ぶりの記念碑的な最新作です。
ベテランが初心に還ったようなゼロからの再出発的な物語。
冒険者に憧れる少年が、田舎から憧れの都会に出てきて、お金がないので、その日暮らしの労働者生活みたいなことをしながら、何とか冒険者ギルドへの加入を果たす。
その前に『危難の港』で残飯あさりをしながら、落ちぶれ冒険者の悲哀を感じたりして、何だか赤貧生活というのが板についているのが、スカラスティック版の御大2人の新作って感じなんですけどね。
とにかく、冒険者になる前からのスタート、というのは、そう来たかって内容でした。
何だかTRPGのキャラ作りチュートリアルみたいな話、冒険者入門的な物語をベテラン作家から提示されるとは。
懐かしくも新しい、この雰囲気がいいなあ、と。
しかし、冒険者ギルドで訓練して、各種スキルを学ぶと、ギルドに掲示された仕事の依頼を自由に選んで、取り組むことができます。
FFシリーズで、冒険者ギルドという日本のTRPG的な、あるいは近年のコンピューターRPG的なシステムがあったとは。
きっとサラモニス限定で、国家の支援で創られていたのでしょう。
自分の記憶では、冒険者ギルドという単語の初出は、『ロードス島戦記』のリプレイ第2弾(87年)からで、それまでは盗賊ギルドや商人ギルドはあっても、冒険者ギルドはなかったと思うなあ。
ロードスと言えば、最近、作者の水野良さんがアメリカのアナログゲーム式典Originで、2025年のHall of Fame(有名人殿堂)に表彰されたそうで。ロードスのリプレイの功績が、アメリカでもTRPGの普及に貢献したと認められたそうな。
まさか、日本のリプレイ文化が海外のオリジンで評価される時代が来ようとは、と昔からのファンとして感無量だったり。
で、「冒険者ギルド」という用語を、英ジャクソンが使ったことに対して、今では英語圏でも当たり前のように定着してるんだ、と。
何だか、今風のゲーム事情に、ジャクソンがサラモニスの世界観をアップデートしたような感覚ですな。
そんな冒険者ギルドの新人として依頼をこなし、収入を得て、税金を徴収されたりしながら、日々の仕事を頑張っているうちに、国家レベルの騒動に関わることになって、行方不明の王子を助け出したり、襲来する魔物の群れを退治して、ラストはその群れの女王と対決して、国の英雄として祝宴を開いてもらう話です。
何というか、よくある普通の英雄物語なんですが、たった一冊でゼロから英雄に駆け上る王道物語がFFでは珍しかったものだから、非常に新鮮でした。
しかも、変化球の名手だったジャクソンがきちんと直球を投げて、ストレートに面白い物語になっている。
いや、時々、ロガーン様の影響なのか、『火吹山』の夢を見たり、女神リーブラなんてゲームブックでは懐かしい固有名詞を聞いたり、なのは積み重ねてきた歴史を感じましたが。
ジャクソンはTRPGのAFFに関わって来たのだから、リーブラの司祭は普通に選択できるキャラとして問題ないけど、どうもリーブラは旧世界独自の神という印象が強くて、ゲームブックのアランシアって信仰活動がいまいち見えにくかったから。
それでも、『トロール牙峠戦争』ではリーブラって普通に登場していたからなあ。リッサミナって魔法使いのアバターを操作して。
ともあれ、ジャクソン久々のゲームブック作品なので、リビングストンの構築し続けてきたアランシアのイメージに、ジャクソンの今のイメージを結びつけるのを自分の中では苦労した記憶があります。
それでも、ロガーンはいろいろ便利だなあ、と思いながら。
ストーリーのあらましは以上として、内容評価に移りましょう。
まず、ラスボスですが、叫ぶ骸骨魚シュリーカーの女王という魔物ですね。こいつとの戦いで特筆することは、魔物の特性よりも、集団戦というシチュエーションです。敵は群れで攻めてきて、迎え撃つのは主人公と、同行する冒険者やエルフの女戦士たちという乱戦。
最終バトルは主人公とボスの一騎打ちというのが常態のFFシリーズにおいて、集団戦は非常に珍しい。他には『危難の港』ぐらいしか思いつきません。と言うか、ジャクソンさんは久しぶりのゲームブック執筆に際して、同作をかなり意識したようにも思えます。
物語序盤の赤貧生活と、終盤の仲間たちと共闘して骸骨関係の敵集団と戦った後、英雄の勝利を称える宴エンドまで要素が割と重なる。
もちろん、途中経過は全然違いますが、冒険中に知り合った、あるいは世話になった先達や美女剣士と肩を並べて戦い、ラスボスとの決着をつける燃える展開は、+1に値します。
非常に華々しい英雄譚のクライマックスとして王道展開と言えましょう。
どんでん返しはありませんね。
強いて言えば、シュリーカーと共に現れる謎の男が、実は行方不明の王子で、邪神官の呪いを受けてシュリーカーの群れを引き寄せることになったから、王都に戻れずに洞窟に身を潜めざるを得ない……という秘密が終盤に明かされて、それを解決するために「王子の呪いを解く」「シュリーカーの群れを撃退する」ことが最後の仕事になるという展開が、どんでん返しと言えなくもない。
シュリーカーを操る黒幕と思われた謎の男が、実は呪われた王子で、彼を救うことが主人公をただの冒険者から国を救う英雄として昇格させる重要イベントになるわけですな。
他には、〈ヨーレの森〉でユニコーンを殺すことなく振る舞えたなら、ハーフエルフの部族の信頼を得て、大魔法使いヴァーミスラックスの弟子として修行することを提案されるシーンも、そう来たか、と感心したイベント。ただし、その場で弟子入りを決断すると、本作は物語途中で終了し、『バルサスの要塞』の主人公になるという展開に。
自分としては、弟子入りをひとまず保留して、『サラモニスの秘密』の事件をまず解決して、その後で改めて弟子入りを受諾したという物語を攻略記事で構築。
ともあれ、これらのイベントは、物語を終盤に突入させる契機であったり、他作品とのリンクになる驚きイベントと言えましたが、割と予定調和の一環であったようにも感じられて、王道英雄譚の一部だと判断します。
どんでん返しとは少し違うかな、と。
段階的な盛り上がり演出にはなっていて、そちらで+1。
印象的で楽しいイベントは、冒険者ギルドで引き受ける一つ一つのミッションが面白いですし、冒険者になる前の金稼ぎにあくせく働いたり、乞食になろうとしたり、詐欺行為に手を染めたり、といったイベントもなかなか新鮮。
『モンスター誕生』もそうでしたが、いつもの冒険者とは違う視点の物語は強い印象を残しますね。
そこから始まって、王道冒険者→国の窮地を救う英雄の一人に昇格する展開は、『モンスター誕生』で感じてた不満(これが最後だと思うと、しっくり来ないな。最後は王道で締めて欲しい)を上手く昇華したな、と現段階で考えています。
もちろん、さらなる新作があれば、それは喜んでプレイしたいとも思いますが、本作の執筆にかけた苦労(難病のために、ジョナサン・グリーンの介助が必要だった)を知ると、作者に無理をさせたくないなあ、とも感じます。
ともあれ、この作品のイベント群に+1、作者の奮闘に+1。まとめると、以下の通りです。
・仲間と共闘する集団戦で、ラスボスと決着をつける燃えるクライマックス+1。
・どんでん返しとまでは行かないが、意外な事実判明で物語が収束する展開の冴え(+1と判断できるかもしれないけど、自分は見送る)
・段階的に盛り上がるストーリー構成は、「無職の少年→冒険者→国の英雄」という王道英雄譚として見事に結実+1。
・王道英雄に至る前の、フリーター時代の各種イベント、そして冒険者として請け負うミッションの数々がそれぞれ面白い+1。
・本作を完成させるための作者の苦労に敬意と感謝を表明しての+1。
以上、4点で◎評価です。
どんでん返しで、もう+1でもいいのですけどね。ただ、王道に帰結するのは、きれいな予定調和に感じられて、無難に着地したという印象がぬぐえなくて、そこは厳しく付けさせてもらいました。
ここまでのまとめ
以上をまとめると、こうなります。
- 5点(◎):ソーサリー、サイボーグを倒せ
- 4点(◎):火吹山、バルサス、地獄の館、モンスター誕生、サラモニスの秘密
- 3点(◯):さまよえる宇宙船
『サラモニスの秘密』に関しては、5に近い4という判断ですね。
若いときより目が肥えてしまって、どんでん返しの衝撃を受け止めにくくなっているのかもしれません。
ああ、よくあるパターンだな、と思ってしまうと、ちょっとぐらいのどんでん返し(意外な展開)には動じにくくはなっているわけで。
そして、ここまでの面白さ累計をジャクソン分だけまとめておくと、こうなります。
次回からは、リビングストン作品を2記事分に分けて、続ける予定。
(当記事 完)
