今回は完全に空想妄想の産物
リバT『前回で攻略記事は終了しましたが、今回はエンディング後の後日譚をオリジナルで描いてみることになりました』
アスト「ローレス王子がラスカルに洗脳されて、テラク信仰を捨てて、イシュトラの使徒に悪堕ちする話か?」
リバT『それは、後日譚ではなくて、IF妄想って奴です。ここの作者のグラマスNOVAがいくら悪堕ちネタが好きだからって、後日譚でそんな話にするはずがありません(たぶん)』
ダイアンナ「それに、ダディが好きな悪堕ちは女性キャラ限定で、男が悪堕ちしても萌えないんじゃないだろうか」
アスト「だったら、サマルトがTS(性転換)して*1、美少女キャラになって、ローレス王子を裏切って悪堕ちって展開は?」
ダイアンナ「却下だ。そもそも、プレイヤーのあたしが花粉症ガール2号のアッキー様(粉杉晶華)が悪堕ちして、吸血花粉症ガールのバットクイーン(アンナ・ブロシア)になったのを、紆余曲折を経て、ダイアナ・ジャックと融合して、光咲きした存在なんだ。わざわざゲームブックのキャラで悪堕ちを描かなくても、自前のオリジナル設定でTS悪堕ち成分は十分だろう」
カニコング「まあ、本作は敵ボスのラスカルが悪堕ちした裏切り者設定なので、悪堕ちを描くなら、そこを掘り下げるべきでごわそう」
リバT『だから、ラスカルさんは美少女キャラではないですし、おじさんが悪堕ちしても萌えないって話じゃないですか』
アスト「だったら、ラスカルが死んで、その魂がイシュトラの手で転生して、あらいぐま美少女ラスカルになる(TS獣人化)って話はどうだ?」
リバT『たぶん、本作「最後の戦士」のファンがこの記事を読んだとして、主人公の正当な後日譚を読みたいという需要はあっても、ラスカルさんの物語の続きやIFを求めるファンはいないと思うのですよ。普通は、ラスカル? 誰それ? と本作を解いたプレイヤーにも印象の薄いマイナー悪役だと考えます』
アスト「とにかく、悪堕ち抜きのローレス王子の正当派な後日譚って趣旨だな。ゲームブック本編では、テラクの奇跡で黄金戦士1000人の部隊を召喚できるようになった主人公が、これだけの力があればヴィモーナを救うことができるだろう、と戦意マシマシになって、テラクの信仰戦士として凱旋を果たそうとする形で終了。ある意味、『運命の森』同様、これから大きな戦いが待っているって匂わせで、やや尻切れトンボ感のある幕引きだったからな」
リバT『その後のストーリーを補完する程度の内容です』
あれから1年後
俺がサマルトといっしょに、テラクの神剣探索の試練を果たして帰って来てから、1年が経った。
俺たちが留守にしている間に、国が滅亡していたらどうしよう? と心配していたが、それは杞憂だった。母上、ペリエル女王はよく持ちこたえ、希望をつないで見せていた。
帰りしなに、ホワイト・アイ老師に再会できたのも幸いだった。
「精霊から聞いたぞ。お主が探索を見事に成し遂げた、とな」
そう言って、俺たちを迎えてくれた老師に、ラスカルの死も含めた顛末を簡潔に語って聞かせると、翌朝、再び転移門を開いてもらい、俺とサマルトは瞬時にヴィモーナに帰還することができた。
朝の軍議の席で、司令官らしい厳しい表情を浮かべたまま、生き残った将校にテキパキと指示を下す母上の表情が、俺たちの唐突な出現に驚愕の色を浮かべたのは、傑作だった。
転移門が開かれるや、すわトカゲ帝国の奇怪な魔術か!? と慌てふためく将校たち。
女王を守ろうととっさに動いた近衛の隊長はさすがだな、と思いながら、俺は転移酔いにふらつく姿勢を何とか整えて(そばのサマルトは着地に失敗して転倒したが、俺にも支える余裕がなかった)、ざわつく場内を鎮めるように口を開いた。
「母上、ローレス、今ここに無事、帰還いたしました」
呆けたような母上の表情が、喜色に輝いてから、わずか数瞬で威厳を取り繕うように、凛としたいつものそれに戻る様は、今も忘れない。
母上の喜びの表情を見たのは、いつ以来だったか。少なくとも、父が戦死してからは見たことがない。
配下へのねぎらいのために、取りつくろった笑みを浮かべることはあっても、真に解放された心からの笑顔を見せたことは、あれ一度きりだ。
俺が息子ではなく、一介の騎士だったら、あの笑顔を見るためだけに、忠義と愛を尽くして戦うだろう。
ざわつく議場で、俺がどのような報告をしたかは、よく覚えていない。
倒れたサマルトが立ち上がって、俺の拙い報告をあれこれ補足してくれたのは覚えているが、とにかく俺は簡潔な説明の直後に、攻めて来たトカゲ兵を迎え討つべく出陣したのだ。
サマルトと2人で。
その後の戦場での展開は、細かく記す必要もないだろう。
1000騎の黄金騎士(乗騎は馬ではなく、金色の獅子だ)を従えた俺たちは、トカゲの軍勢を圧倒し、先立っては逃げ出さざるを得なかった4本腕の巨大トカゲ戦士の指揮官でさえ、数の暴力で粉砕した。
たった1日の奮戦で、ヴィモーナは解放された。
俺は日中の間、獅子に騎乗したまま、黄金剣を振るい続けたが、神の祝福に包まれているせいか、疲れることは全くなかった。
途中で、昼食の休憩をとる以外は休むことなく戦い続けたと思う。
先陣を切って敵軍を圧倒する俺とサマルトだが、遅ればせながら出撃した味方部隊を確認すると、そちらにも指揮を飛ばす。彼らには士気崩壊して逃げ惑う雑魚敵の掃討を任せて、俺たち2人と1000人(本当に1000人ではなく、半数以上は物理的な肉体を持たない幻霊らしいが、指揮している俺にも区別はつかないうえ、実体と幻影が絶えず入れ替わっていくので、対峙している側にとっては本物と大差ない脅威だ)は、強力な恐竜騎兵や狂戦士化したトロールなどを狙って仕留めていった。
こうして、ヴィモーナ包囲戦はテラクを讃える軍勢の完全勝利で終結した。
ただ、俺は女王の3日後の戦勝宣言を見ることはできなかった。
1日の大暴れの後は、4日間の昏睡状態に陥ったからだ。さすがに、テラクの奇跡を半日以上、活性化させるのは無理が過ぎたわけだが、一度高揚した気分では自制することも難しかったのだ。
それでも1日の大暴れで、主だった敵勢は殲滅に追いやることができたので、翌日に勢いに乗った味方兵士が残敵を一掃したら、生き残った敵兵は散り散りになって、もはや軍とは言えない有り様だった。
追撃するほどの兵力は、こちらにもないので、長く続いたヴィモーナとトカゲ帝国の戦いは一応の休戦状態となって、祖国の命脈は保たれた。
その後は、破壊された城壁の応急修理や、部隊の再編成、そして戦勝の式典が華々しくとは言えないまでも執り行われ、絶望の淵にあった人々の心も久々の平和な昼夜を満喫したらしい。
そして、俺がようやく目覚めた。
夢の中で、俺はテラク神からねぎらいの言葉をかけられて、彼の天空の宮殿も悪魔の軍の侵攻を完全に打ち破り、勝利した話を聞かされた。
人と神は、互いの健闘を讃え、感謝し合い、今後の共闘を約束し合うことになった。
その際にテラク神が俺に語った内容は、まとめると以下のようになる。
「黄金剣の神力は、ヴィモーナ決戦で使い果たしたので、しばらくは寝かせておいて再充填が必要なこと」
「トカゲ帝国は、こちらの応戦の勢いに侵略計画の変更を余儀なくされて、当面はヴィモーナに大規模な軍略を仕掛けてくることはないだろうこと」
「元々、帝国は南アランシアの各地に軍勢を派遣して、無茶な侵攻活動を繰り広げていたので、ヴィモーナ包囲の失敗が原因で、各地の戦線の歪みも頻発するようになっており、しばらくは休戦し、膠着状態が続くだろうこと」
「その間に、こちらも態勢を立て直し、次の作戦の準備を整えるのに十分な時間が確保できるだろうこと」
「帝国との戦いの全てが終わったわけではないし、敵味方ともに不透明で混迷した情勢がどう動くのか、神の目にも読めない以上、しばらくは様子見を続けるので、その間にゆっくりと英気を養えばいいとのこと」
「トカゲ帝国の支配者である魔王子イシュトラは短期間の間に、派手に動きすぎたので、蛇国の主のシスの不興を買ったうえ、策略の神ロガーンや別大陸のエルフたちもまた反イシュトラの動きを見せているらしいこと」
「未来はどうなるか分からないが(とりわけロガーンの動きが不確定だとか)、ヴィモーナを守り通したことで希望が見出されていること」
「だから、今はヴィモーナを再建して、地域の平和を守ることが守護神として望ましいこと」
以上は、目覚めてしばらくトランス状態になった俺が、口走ったのを記録した言葉だ。
ヴィモーナに関する話はともかく、神界や別大陸のエルフの話など、俺にもよく分からん内容だったが、神の予言として後から分かる日が来るかもしれない。
ただ一つだけ言えるのは、ヴィモーナ包囲戦が終結し、しばしの休息と再建の時間が与えられたことだ。
こうして俺たちは、未来を考えられるようになった。
戦勝1周年の儀に向けて
1年前のこの日、俺はテラクの神剣とともに、ヴィモーナに帰還し、トカゲ帝国の軍勢と一大決戦を行なった。
そして、女王が戦勝式典を開いた記念の日まで、あと3日。
今度の式典は、ヴィモーナ再興という意義も含めて、大々的な催しとなる予定だ。
王城の城壁は完全に補修が済み、1年前は打ち破られていたヴィモーナ市の外壁も順調に再建が進められている。
戦死者の遺骨も、街壁外の共同墓地区画にしっかり埋葬されて、式典では懇ろに街を守るために討ち死にした戦士や民兵、そして無辜の市民の犠牲を悼むとともに、神の加護で新たにつかんだ平和と未来への希望を謳うことになるだろう。
俺自身、奇跡の探索行と決戦の立役者たる〈最後の戦士〉として、女王の前座の演説を行わなければならない。この演説が成功すれば、いずれ国の再建を果たし終えた頃合いに、女王が退位し、俺がローレス・アレクサンドロス3世として即位する流れにもなろう。
来年か、遅くとも再来年には、俺がヴィモーナ王になると考えられるが、そうなる前にするべきことが山ほどある。
それをここで整理しておこう。
まず、この1年、俺は王子として街の外を出て、旅をする機会がまったく与えられなかった。
だから、俺の名代として、はとこのサマルトを派遣して、旅の間に世話になった人たちへのお礼や各地の情報収集、そして外交などの仕事を託すことになった。
この1年で、線の細い少年だったサマルトの奴も、どんどん成長して、背も伸びて、1年前の俺のような逞しさを帯びるようになっている。
今は、サマルト公子と呼ばれているが、俺が国王に即位したら、同時にサマルト公爵として位を授けることになるだろう。おそらくは、カプラ周辺を治めてもらうのが良さそうだ。
サマルトに最初に出向いてもらったのもカプラだった。
カプラで、サマルトは2人の人物に出会った。俺の恩人である〈正真正銘のジュリアス・レカルテ〉と、彼の連れていたカッパータウン出身の少女斥候カチヤだ。
カチヤは俺が見た不思議な悪夢のままに、蛇人に捕まって荒野にさらされたのだが、夢と違って運よくレカルテに助けられたそうだ。
サマルトは、俺のはとこだとレカルテに自己紹介して、ヴィモーナ城に2人を招いた。
俺は城に来た2人を歓迎して、レカルテからは父の形見の弓を返してもらうと共に、代わりに城の武器庫にある上質の弓から気に入ったものを贈った。レカルテはまだ父親を見つけ出していなかったが、どうも蛇人どもにさらわれたらしい、という情報をつかんでいた。なおも探索を続けるか、それとも仇討ちのためにトカゲ狩りから蛇狩りに転向したものか、考え中とのことだった。
俺としては、レカルテに無茶をして欲しくないが支援はしたいので、ヴィモーナ国の王子直属の斥候として、蛇国周辺の調査任務を依頼してみた。優秀な冒険者の知り合いには、王国としても活躍してもらいたいからな。レカルテは快く了承してくれた。
カチヤについては、もう少し複雑だった。俺は彼女を夢で見たけれど、彼女は初対面の俺のことを知るはずもない。ヴィモーナに来たのは、彼女の故郷のカッパータウンへの支援要請のためだが、レカルテに命を助けられて、カプラで体力を回復している間に、局面が変わったらしい。カッパータウンを攻めていたトカゲ兵の一団は、ヴィモーナ包囲戦の敗北の影響を受けて、撤退したそうだ。
そして、トカゲが北部への侵攻を当面は断念したことで、どくろ砂漠の蛇人もトカゲを牽制する必要がなくなって、カプラ北部の偵察任務を終了したように思える。すると、カッパータウンを襲撃していた残りの勢力は山トロールのみとなったが、連中も元々はトカゲ帝国の侵攻に便乗してのタウン襲撃だったらしく、トカゲの撤退とともに、その近辺は平和になったそうなのだ。
よって、カッパータウンへの支援要請の任務が途中で立ち消えになり、代わりにトカゲ帝国の侵攻を見事に撃退したヴィモーナへの親書を届ける役回りになったわけだ。
俺は、カチヤと彼女の故郷の街の無事を喜び、もしも機会があれば、彼女と身分違いのロマンスを……と期待もしたけれど、そういう下心を表に出すのは控えておいて、代わりに「ヴィモーナは今、再建中だから、優秀な斥候や伝令はいつでも求めている。よければ、カッパータウンとヴィモーナをつなぐ定期的な伝令任務を続けてくれないか? 王子としては、各地の情勢も知っておきたいので、旅慣れた人間の率直な体験談を忌憚なく語ってもらいたいんだ」と提案するに留めておいた。
その後、彼女は定期的にヴィモーナを訪れ、見聞した領内の話を嬉々として語ってくれるようになった。
彼女が俺の運命の相手かどうかは分からないけど、少なくとも互いに憎からず想っている間柄にはなれたと思っている。王妃にはできなくとも、国王付きの斥候工作員として専属仕事を任せられるといいのではないだろうか。
次に、サマルトを送ったのは、ホワイト・アイ老師のところだった。
俺は老師の弟子になることを約束したが、城から出ることを許されない身で、どうすれば精霊魔術の修行を始められようか。
すると、ホワイト・アイ老師は、俺の代わりにサマルトを弟子にスカウトした。サマルトの才能も、俺に引けを取らないらしい。老師がサマルトに教え、サマルトが俺にその内容を伝えて、俺も少しぐらいは精霊魔術をかじられるようにする。
その提案に俺は乗った。
それと、俺はテラク神からもスカウトを受けた。テラクの使徒として、神術を学ぶ気はないか、と。テラクの神術は、祖父と母が習得しているが、父は術の才能がなかったようで、戦士たることに専念していた。俺も父同様に術の才能はないと最初からあきらめていたが、神託の夢を見た際に、急速に霊感が開花していったようなのだ。
そこで問題が生じる。
テラクの神術と、老師の精霊魔術の両方を習得することは、ほぼ不可能に近いらしい。卓越した才能と修練によって、複数の魔術・法術を習得できた事例もなくはないが、俺にそのような才能も時間もないことは明らかだ。
そこで俺は神術を優先し、精霊魔術についてはまじない程度の小魔術のみを習い、本格的な魔術はサマルトに委ねることにしたのだ。
1人で何もかもできるわけではないし、そのために、自分にできないことを代わりにしてくれる仲間や部下との関係を大事にすることが、人を統べる者には重要なのだと母上にも教えられた。
サマルトがいてくれるからこそ、俺は王子として為すべきことに専念できるのだと思う。
サマルトとホワイト・アイ老師にもう一つ頼んだのは、ジャングルにいる未開人である〈豹の部族〉との折衝だった。
テラク神が言うには、彼らもかつてはテラクを信奉する一族ではあったが、カーネクの戦士たちとの不幸な諍いが原因で、関係が決裂したらしい。カーネクは〈魔法大戦〉時に生じた天災で滅亡に至ったそうだが、〈豹の部族〉は細々とではあるが生き永らえた。
彼らが良ければ、因縁あるカーネクが邪悪な者の手に落ちないよう、守護の任を依頼できないだろうか、と考えてみたのだが、話はそう簡単には進まなかった。
ホワイト・アイ老師と、〈豹の部族〉の長が何とか話せるまでには漕ぎつけたのだが、密林に暮らす部族が山岳地帯のカーネクに派遣できるほどの人員の余裕もなく、土地柄が変われば、生活習慣も大きく異なるために、都合よくカーネクの守り手をスカウトできるはずもなかった。
街暮らしの俺から見れば、密林も山岳も未開地であるという点では大差ないと考え違いをしていたが、サマルトが言うには、植生も違えば、住んでいる動物だって全然違うので、移住そのものが簡単なことではない、というらしい。
いずれにせよ、〈豹の部族〉とヴィモーナの折衝は、お互いに不干渉なのが望ましいが、トカゲの侵攻が再勃発した際には、協力して撃退するという形で収まった。
文明人と未開人の接触はなかなか難しいが、互いに戦士としての矜持を持ち合わせた同志である、という理解で、当座の交渉はまとめておくことにする。
さて、こうなると気になるのは、カーネクの廃都をどう扱うか、である。
テラクの聖地である以上は、きちんと保全して遺跡の研究活動を行えるようにしたいところだが、あのような秘境に好き好んで在住したい者がいるわけでもなく、とは言え、トカゲ帝国がまたちょっかいをかけて来るかもしれないわけで、どうしたらいいか、と考えあぐねていた。
レカルテの伝手で、遺跡探索の冒険家を呼び込むとするか?
しかし、下手に大勢が入って、荒らし回られても嫌だし、どこかに歴史研究に興味があって、遺跡保全に力を注ぎながら、貴重なお宝や史料の発掘に興味を持ってくれる冒険学者なる人物がいないだろうか?
「そんな連中がいるとしたら、北のサラモニスまで足を運ばないといけないだろうな」と、世知に長けたレカルテが教えてくれた。
「聞くところによると、冒険者ギルドって組織を結成しているらしいが、わしもカラメールの商人から噂に聞いただけだ」
カラメールかあ。
美しい港があって、我がヴィモーナと同様に、夫を失った未亡人が君主をしているらしいけど、最近、北のベイ・ハン国との間で、戦争が勃発したらしい。
「その情報は、少し古いな」と、レカルテが修正してくれた。
女君主は何者かに暗殺されて、混沌の侵攻で国が崩壊の危機に瀕したらしいけど、リーサン・パンザという名で知られた北方出身の英雄剣士が黒幕を倒して、国を救ったものの、本人はどこへとも知れず姿を消したとか。
「そのリーサン・パンザってのも、冒険者ギルドに所属していたのか?」
気になって尋ねてみると、
「そこまでは知らねえよ。ただ、〈謎かけ盗賊〉ってのと深い関わりがあるとか、暗殺者殺しとか、どうもきな臭い噂が多いし、真っ当な人間とは違いそうだ。王子さまが関わる世界の人間ではないと思うがね」
「あんただって、最初に会ったときは、うさん臭いと思ったがな」
冗談めかして言うと、レカルテもニヤリと返して、「わしだって、お化けトカゲに乗って駆けてきた若造が、まさかの王子だなんて思いもしなかった。危うく射殺してしまうところだったが、そうならなくて良かったぜ」
その時の話は、それで一段落したが、しばらく経って、〈リーサン・パンザの使い〉と名乗る曲者が、夜中に俺の部屋を訪問しに来た。
夜中の盗賊
夜の明かりで、雑多な報告資料に目を通していると、窓をノックする音が聞こえた。
俺の部屋は城の3階にあるので、最初はノックと思わずに、気のせいか、あるいは強風で飛ばされた小石か何かかと思ったんだが、さすがに嵐の夜でもあるまいし、風で小石が3階まで飛ばされることはないだろう、と気がついて、何者だ? と声をかけた。
ここで、いきなり窓を開けると、壁を登って来た暗殺者に奇襲攻撃を受けて、バッドエンドを迎えるという物騒な話を聞いたことがあったので、慎重に構えるようにした。
こんな夜中に、窓から来訪する者が、真っ当な相手のはずがない。
『ローレス王子』曲者の声は意外と高かった。女ではないが、役者か吟遊詩人を思わせる、よく響く芝居がかった声。
「こんな夜中に、俺に用があるのは何者だ? 用件なら、そこで言え。俺の命が欲しいなら、相手してやるが?」
『後の質問から答えさせてもらうと、殿下の命は今回、求めていない。少々、時間はいただきたいがね。用件は部屋の中で話したいので、窓を開けてくれませぬか? 贈り物も差し上げたいのですよ。それと、何者かと問われたら、〈カラメールの英雄〉にして〈奈落の帝王〉リーサン・パンザの使いと答えておきましょうか。私自身は〈謎かけ盗賊〉と名乗ってもいるんだけど、今回は我が主ロガーンとは別の用向きなのでね。知人のリーサンに頼まれて来たので、盗賊仕事は今回の用向きではないということで』
それでもわざわざ自ら盗賊と名乗るのは、実に大胆不敵な男だ。
だけど、レカルテから聞いたリーサン・パンザという名と、〈謎かけ盗賊〉の名が噛み合って、俺は相手の要望に応じることにした。
窓を開けてやると、上から垂れ下がったロープにぶら下がった仮面の男が、器用に身を翻すと、部屋に飛び込んで来た。
「どうなってるんだ?」好奇心に駆られて、男よりも先に窓の外を見ると、黒くて大きな風船のようなものが浮かんでいた。
『気球さ。〈謎かけ盗賊〉は気球に乗って現れるって聞いたことはないかな?』
「初耳だ。だが、空を飛べる仕組みは面白い。これで、トカゲ帝国の翼手竜と戦ったりはできるだろうか」
『ああ、それは無理だろうね。戦闘用には作ってませんから。もしも、空中戦がお望みなら、東方のガレーキープか、あるいはパンガリアがいいと思うのですが、ここからはずいぶん遠いでしょうな』
ガレーキープとか、パンガリアとか、知らない言葉が出て来て、一つ一つ問いただしたいとも思ったが、その前に、さっきの問いかけの答えを求める。
「それで結局、何の用だ? 贈り物とは何だ?」
『ふうん? 英雄王子さまはさすがに肝が据わっているというか、この私を前に無警戒というか、ずいぶんと冷静なんですね』
「お前には殺気を感じないからな。うまく殺気を隠したとしても、テラクが警告してくれる。テラクが何も言わないということは、盟約でもできているのかな? そちらの神のロガーンとは?」
『なるほど、テラクの使徒だね。真っ直ぐ過ぎて、小手先の策略が通じにくいから、下手に手を出さない方がいい、と主から聞いていた通りだよ』
神の代理人の相手をするのは、意外と簡単だ。
神格が何か分かっていれば、その行動動機や振る舞い方も想定できるからだ。
テラク神は、ロガーンがトカゲ帝国の侵攻に対して、反抗する動きに出ると言った。
ならば、ロガーンの使徒が、トカゲ帝国にとって邪魔者であるヴィモーナ王子に対して危害を加えることはあるまい。
「リーサン・パンザの使い、とか言ったな。その名は聞いたことがあるが、どうして彼が直接来ないんだ? お前のようなうさん臭い男を使いによこすなんて、普通は相手にされるはずがあるまい」
『だけど、ローレス王子は私の話を聞く気になった。普通じゃないってことですか?』
「だからこそ、英雄に選ばれたんだろう」堂々と言ってのける。「リーサン・パンザという男も英雄だそうじゃないか。だったら、表からそう名乗って、尋ねて来たら、歓迎しようと思っていた。その英雄譚を聞かせてもらいたいからな」
『そう聞くと、リーサンも喜ぶはずさ。何しろ、トカゲ帝国の侵攻から神剣を振りかざして、真正面から堂々と迎え討った稀代の英雄王子に名前を覚えてもらっているんだから。おおい、リーサン、喜べよ。王子さまが君の話を聞きたいってさ』
「リーサンが近くにいるのか?」俺は窓の外をもう一度見た。
『いいや、彼がいるのは、この世界と違う異世界、奈落と呼ばれる場所さ。何せ、〈奈落の帝王〉の後継者になってしまったもので、そこから出られないという運命に陥ったんだからねえ。絶大な権力や能力と引き換えに、自由というものを失った囚人状態さ』
「……その気持ち、分からなくはない」俺はそうつぶやいた。異世界の話はよく分からないが、王の後継者として権力を持ったものの、自由に旅をすることもできず、重い責任に縛られた状態というのは他人事ではない。
『リーサンは奈落にいるけど、この世界の人間の何人かと連絡を取り合って、神の視点で地上に影響力を持とうとしている。奈落には、地上の動向を観察できる魔法の鏡があって、前はカラメール周辺しか見ることができなかったんだけど、最近、ヴィモーナ周辺も観測できるようになって、王子の活躍も異世界から見ていたみたいなんだな』
神の視点か。
ホワイト・アイ老師が精霊の力を借りて映し出す水鏡の術みたいなものか。
すると、今もリーサンは異世界から、この俺の様子を覗き見しているわけか。
何だか一方的に見られていると思うと、気味が悪くもあるが。
そう感想を口にすると、
『大丈夫さ。リーサンが見ることができるのは、自分が知り合った縁深き人間と、凄い魔力や神力を発動した事件とか、この私のように特別に許可を与えてやっている場合に限るというか、魔法の鏡もそこまで万能じゃないって話だ。だから、今、リーサンが見ているのは、私であって、私の視界に映る王子の姿なんだ。王子の私生活がいつも覗き見されていたわけじゃない』
それを聞いて安心した。
リーサン・パンザという男は、別に覗き見趣味の変態というわけではないらしい。
「で、贈り物とは何だ? リーサンにまつわる情報か?」
『いいや。リーサンが王子に直接話がしたいと言ったから、異界と通信できる魔法を付与してあげたいと思ってね。鏡か、何か透明で光る物があればいいんだけど。他には、魔法の水晶玉とか』
「それなら……」父の遺産の〈明かりのガラス玉〉を取り出した。そろそろ明かりの魔力も枯渇しかけているが、冒険の記念なので大事に保管していたのだ。
『ほう、これは精巧な工芸品でございますな。では、チチンプイプイ、と』〈謎かけ盗賊〉がテキトーな呪文を口にして、指先をガラス玉に向けると、そこから一条の光線が放たれた。
『よし、調整終了、と。これで1日30分は話せるはず。それでは、私の用事は無事完了いたしました。あとは英雄どうしで仲良く話すとよろしいか、と。合言葉は、「奈落の帝王リーサン・パンザ、話がある」ってことで。それでは、これにて、おさらば御免』
芝居めかした口調でそう言うや否や、いかなる魔法を使ったか、〈謎かけ盗賊〉の姿は部屋から霞のように消えた。
俺はしばし唖然とした後で、慌てて窓の外に目を見やると、彼の気球が早くも飛び去って行くのが分かった。
神出鬼没というのは、このことを言うのか。
敵に回すと、恐ろしい奴。
リーサン・パンザ
〈謎かけ盗賊〉が止める間もなく飛び去ったあと、俺は気を取り直して、新たな魔法が込められた父の遺産のガラス玉に向けて、聞いたばかりの合言葉を唱えた。
「奈落の帝王リーサン・パンザ、話がある」
すると、ガラス玉がぼうっと輝き、うっすらと映像を浮かび上がらせた。
だけど、画面が小さい上に、不鮮明なので、人影がぼんやり見える程度。リーサンという男の顔もよく分からない。
かろうじて何やら話しかけてくる声はしているが、耳にガラス玉を当てないと、よく聞きとれない。
『ああ、ああ、こちらリーサン・パンザ。ローレス王子、こっちの声が聞こえるか? もしもし〜』
「お、おお。何とか聞こえるようだ。あんたがリーサン・パンザか」
『よし、これで〈奈落探偵団〉に新たな英雄が加わった』
「何だ? その〈奈落探偵団〉って?」
『それに関して、詳しい話はこちらを参照だ』
「こっちは画面が小さくて読めないんだから、言葉で説明してくれよ」
『一言で言えば、アランシアの平和を世界の裏でこっそり守る英雄たちの互助協会というか、ネットワークってところだな。あるいは別次元の神に近い立場になったリーサン・パンザが、地上の情報を集めたり、英雄および英雄候補の冒険者を支援したりする裏組織?』
「〈謎かけ盗賊〉もうさん臭い男だったが、あんたもそれに劣らないな、リーサン・パンザ。到底まともな相手には思えん」
『初対面の相手に、ずいぶんな物言いじゃないか、ローレス王子』
「初対面っていうか、俺の方からはあんたの姿がよく見えないんだけど? 声しか分からん」
『何で、そんな小さなガラス玉に術をかけたんだ、リーバーの奴は? 鏡か大きな水晶玉にかけろって言ったのに』
「まあ、声が聞こえるだけでもいい。それで俺に何の用だ? わざわざ〈謎かけ盗賊〉を使いに寄越して、連絡して来るんだ。どういう用向きなのか、話を聞きたい」
『その前に、こっちの冒険譚を聞きたいって言ってなかったか?』
「1日30分しか話せないんだろう? 長い話は後回しだ。手短かに用件を話せ」
『じゃあ、端的に言うとだな。そっちの国にあるカーネクの遺跡の管理を、〈奈落探偵団〉に任せてくれないかな? あそこはまだ十分な探索がされていないと思うし、こっちの本職はトレジャーハンターだ。古代遺跡の専門家にも伝手があるし、探索中に見つかった宝や文献資料などをまとめて報告書を作れる人材だっている。ラスカル個人でやっていた研究を、〈奈落探偵団〉ならもっと効率よく、組織的に引き継ぐことができる』
「それは願ったり叶ったりな申し出だが、あんたの見返りは何だ?」
『見つけたマジックアイテムのうち、そっちが不要と考える半分をこちらに譲り渡すこと。報告書類については、きちんと報酬を渡すこと。そっちの国に、遺跡管理を担当する役所を設置して、〈奈落探偵団〉の有志が国の依頼で活動していることを明示する腕章とかを配布すること。あと、あの遺跡はテラク神の聖地だから、こっちが勝手に荒らすと、神罰を受ける可能性があるからな。その辺はきちんとテラク神に話を通して、悪意で探索しているんじゃないと伝えて欲しいんだ』
俺はリーサンの提案を検討してみた。
こちらに不利な点はなさそうだ。
カーネクの廃都を管理してくれる者がいて、そいつは自称トレジャーハンターで、異世界にいながらにして、俺の知らない冒険者に連絡をつける手段を持っていて、いろいろな世界を観測することができる。
そう、いろいろな世界だ。
確かに、テラク神は天上界の神々の戦いについて語り、俺の視野を広げてくれた。
しかし、戦神だけあって、その視点は戦いに偏る傾向がある。
必要があれば、神の意思を体現する戦闘マシンになることを拒むつもりはない。テラクが正義であり、邪悪なイシュトラの勢力を駆逐すれば、世界が平和になって、ヴィモーナが繁栄すると信じればこそ、俺は身を犠牲にして〈最後の戦士〉の役割を全うするつもりだ。
だけど、ヴィモーナだけでなく、もっと広い世界を見てみたい。自分の目で直接見れずとも、広い見聞を持った旅人や冒険者から様々な話を聞いて、見識を広げたい。
自分の抑えがたい好奇心って奴を、このリーサン・パンザという男は刺激し、満たしてくれる。
「あんたの〈奈落探偵団〉って組織だが……」俺は気になることを聞いてみた。「もっと、真っ当な名前に変えられないか?」
『名称は(仮)だが、どうもメンバーの間では不評なようだな。何かいい案はないか?』
「〈黄金戦士団〉というのはどうだ?」とっさの思いつきを言ってみる。
『ゴージャスすぎて、実情にそぐわない。もっと密かに暗躍する感じが欲しい』
密かに暗躍ねえ。だけど、奈落はないだろう。
異世界の神々に関わって、冒険者を応援するネットワークかあ。
少し考えを巡らせる。
「〈夢幻の英雄団〉(ドリームヒーローズ)ってのはどうだ?」
『! ドリームヒーローズかあ。さすがは王子。良いセンスをしているなあ。ちょっとワクワクしてきた。よし、早速、メンバーに打診してみて、好評なようなら正式に採用しよう。いやあ、君と交信できて良かったよ』
ネーミングセンスをほめられて悪い気はしなかった。
「で、あんたの組織なんだが、どれだけの規模に広がっているんだ?」
『これからってところだ。今はまだ、カラメール周辺と、最近、ヴィモーナ周辺にまで観測の目を伸ばせるようになった。できれば、故郷の北アランシアにまで、交信したいんだがな。ヤズトロモって魔術師に連絡がとれないか、と試しちゃいるんだが、まだまだ鏡の力を使いこなせずにいる。それでも、順調に広げていくことはできると信じてる。妻や娘の姿だって見たいしな』
「あんた、子持ちだったのか」
俺と同じ年齢層だと思っていたが、もっとおっさんだったらしい。
『話はややこしくなるが、いつの間にか時間がねじくれて、娘ができていたらしい。俺、まだ30代なのによ、娘がティーンエイジャーって信じられるか? リサ・パンツァって言うらしいが』
「可愛いのか?」
『知るかよ。会ったことも、見たこともないんだし』
何やら、複雑な家庭事情があるらしい。
詮索したい気持ちもあったが、初対面の相手(会ってはいない、声だけだが)にそこまで踏み込むのも無作法だと思ったので、社交儀礼だけ返しておく。
「リサ・パンツァという名前、覚えておこう。もしも、ヴィモーナに来る機会があれば、歓迎するし、その際はあんたに連絡を回す。そうでなくても、知り合いの斥候に聞けば、何か情報を持っているかもしれん」
『おお、そうしてくれるか。さすがは王子、頼れる男だ。〈奈落探偵団〉、いや、〈夢幻の英雄団〉(未定)にスカウトして良かった。王族というから、お堅い御仁だと思ったが、話の分かる人間で助かったよ』
この男、やたらと舌が回るな。
剣の腕は未知数だが、少なくとも、その如才ない話術と抜け目なさで、世渡りしてきた人物のように思える。
そこで、もう一つ、社交儀礼を返しておく。
「もしも、そのリサ・パンツァという娘が、可愛くて有能なら、俺の嫁候補にしてもいいか?」
『! ……ダメだ。君は素晴らしい英雄かもしれんが、娘を政略結婚の材料にはやれん。これだから、王族や貴族って連中は……』
「冗談だ。将来の王妃候補を探せ、と周りがうるさいんでな。その癖、俺が見初めた娘は、身分がどうの、しきたりがどうの、ダメ出しするし。異世界の帝王の娘ともあれば、それなりの格にもなろうが……」
『……世間では、〈謎かけ盗賊の娘〉って噂されているらしいが。いや、それを言ったのも、〈謎かけ盗賊〉のリーバー自身なので、どこまで信じていいものやら疑わしいんだが、何ぶん、娘の話はこっちにもはっきり伝わって来ないものでな。情報提供してもらえると、助かる。少なくとも君は、リーバーよりは信用できそうだ』
仮面の盗賊なんかと、信用度を比べられてもなあ。
ともあれ、こういう軽口まがいの会話をかわしながら、互いの人となりを探るうちに、俺はリーサンという男が好きになった。
顔も分からぬ、声だけの付き合いだが、世の中の上も下も見極めたような幅広い経験を感じさせる。大体、奈落という恐ろしげな異世界にいながらにして、陰鬱に浸ることもなく、あれこれ活動し続けるバイタリティは尊敬に値する。
話し込んでいるうちに、制限時間が来たのか突然に通信が切れたので、翌日の夜にもう一度、合言葉を唱えると、再び話がつながった。
「昨夜の件だが……」
『おお。〈夢幻の英雄団〉(ドリームヒーローズ)だが、メンバーには好評だったので、正式に我々の組織名に採用だ。名付け親になってくれてありがとう、ローレス王子』
「お役に立てて何よりだ、リーサン帝王」
『帝王はよしてくれ。前任者が勝手に名乗った称号を引き継ぐ形になっちまったが、こっちは他国を侵略するつもりなんて、これっぽっちもないんだから。呼ぶなら、ただのリーサンでいい』
「だったら、対等で行こう。俺のこともローレスと呼んでくれ。王子王子と言われ続けて、そのうち国王陛下と呼ばれる身だが、敬称抜きで呼び合える相手は貴重だ、リーサン」
『分かった、ローレス。とにかく、そちらが受け入れてくれるなら、ヴィモーナに〈夢幻の英雄団〉の冒険者を送り込もうと思うんだ。そのうえで、カーネクの遺跡の調査活動について、細かい手はずを彼らと打ち合わせて欲しい。現場仕事は連中に任せるしかないが、こっちは監視とバックアップに回るつもりだ』
思った以上に行動が早い。
リーサンがどんな連中を送り込んで来るかは分からないが、〈夢幻の英雄団〉〈リーサン・パンザの使い〉〈カーネク遺跡の調査〉という3つのキーワードで、俺と面談できるように取り計らうことにした。
それに、リーサンの手の者が信頼できるのか(能力的にも、人柄的にも)見極めるためには、こっちも何人か同行させた方がいいのだろうな。
サマルトと、レカルテに頼めるだろうか、とあれこれ考えながら、リーサンと事務的な打ち合わせをする。
要は、戦場の部隊編成みたいなものだ。違うのは、俺自身が現場に出ずに後方で采配と報告を受けとる将軍みたいな役割を果たさないといけないこと。現場の指揮官なら慣れているが、王としてはいずれ後方からの管理仕事にも慣れておかないといけないのだろうな。
リーサンと共同で行うことになる〈夢幻の英雄団〉の組織運営というものに、俺は前向きに取り組む気になっていた。
その後、月に一度の満月の夜にリーサンとは定例交信会という形で、あれこれ連絡を取り合い、〈夢幻の英雄団〉のカーネク遺跡調査チームも順調に軌道に乗るようになった。
ラスカルの調査資料も回収されて、それと俺たちの探索、さらにリーサンの観測に基づく地図作りが行われたが、地下に散らばった死体の扱いをどうするか、崩壊した建物は修復すべきか、それとも瓦礫を撤去すべきか、ただの探索以外にも考えることが多く、王都の再建に邁進している職人たちと相談したりする機会も増えた。
カーネクを都市として再建する計画も考えてはみたが、場所が場所だけに、建築家を送り込むこともままならないので、現実的ではないし、その前にカプラの交易所を都市化する計画の方が優先すべきだろう。
ヴィモーナからカプラ、そして北のカッパータウンまでの交易路を再建できれば、とか未来の国王として、考えることは山積みだ。
だけど、国をどう運営するか、未来のことをあれこれ考えることができること自体が喜ばしい。
トカゲ帝国の軍勢がヴィモーナの王城を包囲していた時は、今日や明日を生き延びることで手いっぱいで、それほど先の未来を考える余裕なんて持てなかったのだから。
とにかく、3日後の演説には、「未来を勝ち得た戦い」「より良き未来のために、今為すべきことをコツコツ仕上げることの誇らしさ」といったことをテーマに、上手くまとめようってイメージが湧いた。
そう、希望の未来を、ヴィモーナは勝ちとったんだ。
テラク神と、それから厳しい戦いを頑張ってきた国民たちへの感謝だな。
これからも、国を支える力になって欲しい。
そのために、俺もできることを懸命にこなしていければいいと思う。
〈最後の戦士〉は、2度と国を戦火に焼かせないようにするため、戦いを終わらせる誓いを意味する希望の称号なのだから。
(当記事 完)


*1:なお、その5にあるローレス王子と並び立つサマルト公子のイラストは、その3にあるカチヤのイラストを元にアレンジしたものである。それ以前のサマルトのイラストをローレスの絵と融合させる試みは、うまく行かなかったので、カチヤをサマルトっぽく要素改変した結果である。割とお気に入り。