ウルトロピカルな⭐️GT(ゲーム&トレジャー)島宇宙

南の島と上空の宇宙宮殿を舞台にTRPGや特撮ヒーローなどのおしゃべりブログ。今はFFゲームブックの攻略や懐古および新作情報や私的研鑽メイン。思い出したようにD&Dに触れたりも。

「雪の魔女の洞窟」攻略紀行(その5)

心の声

 

リサ(ダイアンナ)「前回、あたしは紆余曲折の冒険の末、〈雪の魔女〉をついに倒した」

 

リバT『彼女の本名は、ゼンギス出身の巫女にして女魔術師シャリーラ。本名も含めた彼女の詳しい情報はゲームブックでは示されていませんが、本国では2年後の1986年に出版されたFF世界のワールドガイド「タイタン」において、その謎に満ちた背景の詳細が発表されました。本記事での〈雪の魔女〉像も、タイタンでの記述を参考にしつつ、多少のオリジナル要素を混ぜています』

アス・ラル(アスト)「日本語では『雪の魔女の洞窟』が初出版されたのは1986年。だけど、『タイタン』が初出版されたのは4年後の1990年だったな」

 

リバT『日本最後のFFゲームブックと言われた33巻のアーロックが出たのが1991年の春ですから、割とギリギリだったんですね。最初のAFFと、そのリプレイの第1部(著者は山本弘さん)までは出たのですが、友野詳さんがバトンを受け継いだリプレイ第2部は雑誌連載分のみで単行本化には至らず。また、ジャクソンのFF小説『トロール牙峠戦争』も当時、安田社長が相当に宣伝プッシュしていたにも関わらず、社会思想社の急なFF離れの決定によって、翻訳が出たのが本国での出版より30年以上が経過した2021年のことです』

 

リサ「2021年と言えば、FFコレクションの1集が出たのも、その年の夏だったね。それから3年の間にコレクションの4まで出て、これから5がいつ出るか、どんな作品が収録されるかの予想で、ファンがヤキモキしているのが現状。まさに30年の空白を取り戻すかのような勢いだ」

 

リバT『空白といってもゼロ年代に一度、ゲームブックの復刊ムーブメントはあったんですけどね。ただ、あまり長くは続かなかったうえ、雑誌などでの継続サポートが行われなかったために、それほど大きな話題にならず、一部読者のノスタルジーを掻き立てるだけでした』

 

リサ「今もノスタルジーじゃないの?」

 

リバT『ノスタルジーはありますが、それだけではなくて、「危難の港」に始まる新展開があるではないですか? TRPGのAFF2版も合わせて、新商品の翻訳も進んでいますし、最初の日本FF展開(1984〜1991)と同じく、7年間近くを頑張って続いてもらえれば、FFコレクションも35冊で社会思想社越えを果たせる。それまでは是非とも続いてくれたらなあ、と』

 

リサ「7年間ってことは2028年か。続くかな」

 

リバT『安田社長の健康状態にかかっていると思うのですが(他に熱意を持ってくれる翻訳&企画を推し進める後継者がいればよろしいのですけど)、ファンとしては期待しながら追っかけて行こうって気持ちですね。では、追っかけリプレイの続きです』

 

リサ「〈雪の魔女〉を倒したので、当面の目的は達成したんだよね。あっさり倒せたことに拍子抜けしつつ、次に何をしたらいいのだろう?」

 

アス・ラル「洞窟に隠されているという莫大な財宝を探したりはしないのか?」

 

リサ「あ、そうだった。お宝ちゃん、どこ?」

 

リバT『すると、部屋の奥の氷の壁に何かの影が映ったような気がして、誘われるように見に行きました』

 

リサ「クンクン。お宝の匂いだ。盗賊だから分かる〜」

 

リバT『「やれやれ、浅ましいものだね〜」と心の中で誰かがささやくような声がしました』

 

リサ「んっ? アス・ラル、何か言ったか?」

 

アス・ラル「どうした、お嬢?」

 

リサ「う〜ん、ロガーン様の啓示……とも違う声なんだよね。〈時間歪曲の指輪〉の副作用か何かかな?」

 

リバT『「リサ・パンツァ、今はまだ気にせずともいい。いずれ、その時が来れば分かる」と声は囁き、そのまま沈黙します。心の奥で感じたモヤモヤザワザワな違和感も鎮静化して、リサさんは声を聞いたことも忘れます』

 

リサ「ちょっ、何か心に入って来てる? もしかして……?」

 

リバT『プレイヤーのご想像に任せます。リサさんは忘れて、気にせず振る舞ってください。今はお宝のことで頭がいっぱいになります』

 

リサ「そうだった。お宝、お宝〜。氷の壁の中に隠されているのかなあ」

 

リバT『はい。氷づけのトランクが見えます。蓋が開いていて、金貨や宝石でいっぱいですね』

 

リサ「氷は溶かせない? 〈雪の魔女〉は死んだんだから、氷が溶けてもいいんじゃない?」

 

リバT『さすがに、すぐには溶けませんよ。ええと、ゲームブックには「剣で氷を切り刻み」って書かれてありますね』

 

リサ「よし、アス・ラル、出番だ」

 

アス・ラル「イヤだ。敵でもないのに、氷なんて切りたくねえよ。それより、持ってるんならハンマー使えよ、ハンマー。適材適所って言葉もあるだろう。氷を砕くんだったら、絶対にそっちの方がいいって」

 

リサ「だったら、ハンマーで氷を叩き割ります。光になれ〜って感じで」

 

リバT『ゴージャスな黄金気分で輝きながら、氷を割り砕き、ようやくトランクが取り出せるようになります。最初に手にしたのは、黄金像でしたが、それがポンと巨大化して宝の番人の黄金戦士センティネル(技9、体9)として襲いかかって来ますよ』

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リサ「あたしのお宝ゲットの邪魔をするなら、ハンマーでぶっ壊す!」

 

アス・ラル「やれやれ。今回もオレの出番じゃなさそうだな。頑張れ、お嬢!」

 

お宝ゲットだぜ

 

 技術点9は決して弱くない。

 しかし、お宝を目の前にしたリサ・パンツァの前に、番人センティネルは一矢を報いることなく、たちどころに粉砕された。

 恐るべきは、人の欲望が発揮する底力である。

 

リサ「この番人の破片も、お宝になるかなあ」

 

リバT『そんな破片を集めなくても、十分な量のお宝にはなりますよ。一人では持って帰れないぐらいにね』

 

リサ「十分な量って、どれくらい? 〈死の罠の地下迷宮〉の優勝賞金と同じ金貨1万枚?」

 

リバT『いいえ、さすがにそこまでは。ええと、ざっと数えて金貨600枚って書いてあります』

 

リサ「しょぼっ。莫大な財宝って言うから、どれぐらいかと思えば、たかだか金貨600枚? こんな軍資金でアランシアを支配しようだなんて、〈雪の魔女〉ってのは、どれだけ世間知らずなのよ? さすがは、こんな田舎の雪山に引きこもっているだけのことはあるわね」

 

リバT『「やかましい」と心の中で声がして、リサさんは何だか申し訳ないような気がします。そう、お金よりも大事なのは美であり、芸術である、と。芸術的価値は、金銭的価値じゃ計り知れないと誰かが囁く声が聞こえて、そうかもしれないって気持ちになります』

 

リサ「ん? だけど、この宝石は悪くないわね。色といい、デザインといい、一見地味だけど、洗練された職人の技術を感じるわ。その点では、シャリーラの美的センスはそれほどバカにしたものじゃないかも。ただ、あの鼻輪はいただけないけど」

 

リバT『「あの鼻輪は、氷魔神のセンスよ。私だってイヤだった」と一瞬、嘆き悲しむ女性の声が脳内に響き渡りますが、すぐに「忘れよ」と声の記憶がうっすらとかき消えます』

 

リサ「ええと、心の声に戸惑いつつも、魔剣ガールとか、運命神に導かれたり、指輪パワーで未来視とかやってると、よくあることなので気にしない。きっと、お宝を前に心が浮き立っているだけね。とにかく今は、金貨600枚相当のお宝ゲットだぜ、とキャラクターシートに書き込むってことで」

 

リバT『あっ、ちょっと待って下さい。この600枚を一人で全部持って行くことはできません。金貨50枚ごとに、手持ちのアイテムをここに捨てて行くように指示されています』

 

リサ「1アイテムにつき、金貨50枚ってこと? だったら、アストラル・ソードを……」

 

アス・ラル「ちょっと待て。オレを捨てるな。いくらハンマーが便利だからって、魔剣ガールからハンマーガールに転職したりはしないだろうな」

 

リサ「捨てるわけにはいかないので、いらないものの見極めを慎重にしないと」

 

 結局、捨てて行くアイテムは以下のとおりに。

  • 白いマント
  • 古いバラ
  • 魔法のフルート
  • 銅の指輪
  • ニンニク

 

リサ「ニンニクは前回、〈雪の魔女〉相手に使ったけれど、消費はしていないという解釈で今回、捨てアイテムに加えたの。ルーン文字の棒は、魔女の心臓を貫いた際に、魔女の肉体といっしょに消失したということで。しめて金貨250枚。ビッグ・ジムからもらえる報酬の5倍分。ところで、金貨250枚あったら、この世界では何が買えるのかしら?」

 

リバT『ゲームブックの作品にもよりますが、一晩の宿賃が金貨1枚という相場がありますね。ワールドガイドの「タイタン」では、長剣1本が金貨30枚という相場で、結構高い。ハンマーはもっと高くて金貨35枚ですが』

 

アス・ラル「畜生。オレはハンマー以下かよ」

 

リバT『魔剣ですから、ただの長剣よりも高額のはずですけどね。あと、普通の馬は1頭、金貨40枚です』

 

アス・ラル「そうか。馬はハンマー以上か。よしよし」

 

リサ「ハンマーを基準に考えると、金貨250枚はハンマー7個分ってところね」

 

リバT『タイタン世界のウォーハンマーがずいぶんと高額なのは、やはり、リビングストンさんの関連会社がそういうタイトルのゲームを作っている影響かと思われます』

アス・ラル「今のD&Dだと、ロングソードとウォーハンマーは同じ金貨15枚で同等価値だもんな」

 

リバT『とにかく、タイタン世界の武器価格は、短剣(ダガー)がたったの金貨1枚なのに、ダガーとソードの価格差が異常に大きいですね。D&Dのダガーは金貨2枚で、長剣は7〜8倍なのに、タイタン世界だと30倍にもなるという』

 

リサ「あたしたち冒険者は、何気なく剣を扱っているけど、剣1本がこの世界では結構、高額ってことか」

 

リバT『もちろん、TRPGのAFFだとまた違った相場が設定されているのでしょうけど、寄り道が長くなったので、さておくとしましょう』

 

リサ「うん。金貨250枚あれば、半年ぐらいは遊んで暮らせそうということは分かった。金貨1万枚だと20年以上は遊べそうだし、この世界の平均寿命は一部の魔法使いや魔女を除けば、決して長くないだろうから、大人になってからの20年だと一生遊んで暮らせると言ってもいいかもね」

 

アス・ラル「実際には、一生遊ぶってのは飽きると思うんだよな。何か実になることをしたいじゃないか」

 

リサ「例えば?」

 

アス・ラル「そりゃあ、世のため人のための冒険行とか、己を磨く武者修行の旅とか?」

 

リサ「まあ、金貨250枚の使い道は後で考えるとして、とりあえず、ここでの用事も済んだから帰るとするか」

 

リバT『すると、トンネルの方から走ってくる足音が聞こえて来ます。複数ですね』

 

アス・ラル「敵か? 返り討ちにしてやる」

 

リバT『広間の入り口に姿を現したのは、ドワーフとエルフの2人組ですね。満面の笑みを浮かべて、友好的に話しかけて来ますよ』

 

リサ「ドワーフとエルフってことは、敵じゃなさそうね」

 

リバT『もちろん、この後しばらく世話になるお仲間ですよ』

 

2人の仲間

 

エルフ『友よ、君があの魔女を殺したんだな! おかげで我々は自由だ。【服従の首輪】の効果が消えたのを感じたのさ。そのうち外せるようにもなるだろう!』

 

リサ「ええと、最初に会ったマウンテンエルフさん?」

 

リバT『いいえ、別人ですね。ドワーフも先ほど会ったアリマさんではありません』

 

アス・ラル「とりあえず、自己紹介しないか?」

 

リバT『そうですね。ゲームブックでは、先に洞窟から脱出しようって話になって、道すがら自己紹介する流れなんですが、ここでは自己紹介を先に済ませましょう。エルフはレッドスウィフト、ドワーフはスタッブです』

 

アス・ラル「却下だ。スタッブはともかく、レッドスウィフトは長すぎる。『雪の魔女の洞窟』は国内では86年に発売されたゲームだから、キャラ名は4文字までしか受けつけない」

 

リバT『4文字って、コンピューターゲームじゃないんですから』

 

アス・ラル「リサは『りさ』、オレは『あすらる』だから問題ない。スタッブは、濁点を1文字扱いすると『すたぶ』にすればいいし、旧訳でもスタブだからな。しかし、レッド何ちゃらは『あかはや』にしないとダメだろう。馳夫をストライダーにすると、旧来の指輪ファンが複雑な表情を見せるのと同じで、レッドスウィフトは〈赤速〉にしないと、受けつけないオールドFFファンは数多い。それとも、レッド君と呼ぶかね、そこのエルフ」

 

リバT『ブンブン不快な音を立ててうなっている魔剣を見て、エルフは戸惑っていますね。そして、言い訳がましくこう言います』

 

エルフ『ああ、ええと、先に自分の名前について弁明させて欲しい。レッドスウィフトのレッドは確かに「赤い」という形容詞で、赤でも問題ないんだが、スウィフトは「迅速な」という形容詞ではない。ぶっちゃけ誤訳だ。「赤くて速い」だったら、まるで某・赤い彗星みたいじゃないか』

 

リサ「あたしには、あなたが何を言っているのかよく分からないんだけど?」

 

エルフ『ああ、エルフの言い回しは、人間には分かりにくいか。つまり、昔から、わたしの名前は誤解されやすいって話なんだよ。エルフの名前は、エルフ語で長くて発音しにくいので、人間たちの間では通り名で自己紹介するのが常なんだ。わたしの兄はアッシュ、地方によっては秦皮(とねりこ)とも呼ばれるらしいが、それは間違えていない。しかし、わたしのスウィフトは古の言葉でアマツバメというのが正解だ。つまり、わたしを地方語で呼ぶなら「赤アマツバメ」と呼ぶのが正しいということになる、自分の名前を間違えた意味で呼ばれるのは、屈辱って気持ちは分かるだろう?』

 

リサ「ええ、分かったわ。あなたが妙なこだわりを持った、面倒くさいエルフだってことが」

 

アス・ラル「『赤アマツバメ』だと? それでも4文字を越えて長いじゃないか。ええい、だったら妥協して、『赤燕(アカツバメ)』ってのはどうだ?」

 

リサ「一つ質問」

 

エルフ『何かな、人間?』

 

リサ「あたしのことはリサと呼んで。普通のツバメと、アマツバメって何が違うの?」

 

エルフ『アマツバメは鳥類最速とも言われ、そんじょそこらのツバメとは一線を画すレアキャラだ。ツバメはスズメの仲間で、喉と額が赤い。アマツバメは独立した種族だが、ヨタカの仲間という説もあるな。人里に現れるツバメと違って、アマツバメの生息地は高山や海岸など人里離れた地域が多く、より野生的で誇り高いと言えよう』

 

リサ「うん、でも、あなたのことは『赤燕』って呼ぶね。赤蕪(アカカブ)みたいで美味しそうだし」

 

エルフ『誰が赤蕪だ!?』

 

リサ「あなたに選択肢を与えます。赤燕と赤蕪のどっちがいい?」

 

エルフ『そりゃあ、カブよりもツバメの方がいいに決まっている。いや、別にカブに恨みはないが』

 

リサ「決定。あなたのことは、これから赤燕(アカツバメ)って呼ぶことにするわ。本名レッドスウィフトさん、俗名は〈赤速〉さん。だけど、あたしにとっては赤燕さんってことで」

 

赤燕『いや、そう言われても……』

 

リサ「もう、遅い。あたしはその名であなたを登録したわ。よろしくね、ツバメさん」

 

赤燕『赤を付けて下さい』

 

スタッブ『ハッハッハッ。そこの嬢ちゃん、リサと言ったか。さっきから黙って聞いておったが、そこの口うるさいエルフをやり込めるとは、なかなかやりおるわい。〈雪の魔女〉を倒したのが、どんな豪傑かと思うておったが、機転の利く聡明なお嬢だったとはな。これは道中、楽しくなりそうだ』

 

リサ「あなたがスタッブ。ストーンブリッジのアリマ・センさんから、話を聞いています」

 

スタッブ『ホッ? アリマの知り合いか?』

 

リサ「魔女の奴隷になったスタッブとバッキーって仲間がいるって聞いていたけど、解放されて何よりよ。バッキーさんは?」

 

スタッブ『別れ別れになってしもうた。アリマはどうなった?』

 

リサ「たぶん、脱出できたと思うけど。あたしたちも脱出しましょ?」

 

赤燕『ああ。それなんだが、入り口から脱出するのは無理だと思う。魔女の信者のゴブリンやオークどもがいっぱいだからな。我々の仲間のエルフやドワーフが戦っているが、多勢に無勢。いつまで保つかは分からない。我々は魔女を倒した英雄どのを脱出させるために、選ばれてここに来たんだ。さあ、秘密の脱出路へ案内しよう』

 

リサ「秘密の脱出路! そんなものがあるの?」

 

スタッブ『入り口が秘密なら、脱出路も秘密。ここはいろいろと秘密だらけじゃ』

 

赤燕『だけど、秘密を探り明かすのは、わたしたちの種族の得意とするところ。さあ、時間がない。付いて来てくれ』

 

リバT『そう言うと、エルフの赤ツバメさんは、奥の壁をじっくり見つめると、ある一点に目星をつけました。そのまま歩みを進めると、スッと壁の向こうに通り抜けていきます』

 

リサ「なるほど、幻影の壁ね」

 

スタッブ『問題は、この通路、わしらも使ったことがないということじゃ。どんな危険が待ち構えているか、見当もつかん』

 

リサ「大丈夫。危険な通路は慣れているから」

 

3人と1本の探索行

 

アス・ラル「やれやれ、にぎやかな道中になりそうだ」

 

リサ「まるで、スロムと出会ったときのことを思い出すわね。今回は人数がもっと多いけど」

 

アス・ラル「お仲間が増えたのなら、少しオレは眠らせてもらうぜ。お嬢も剣とブツブツ話してばかりだと、奇異の目で見られるだろうからな」

 

リサ「お気遣いありがとね。だけど、あんたはあたしの変わらぬ相棒よ」

 

アス・ラル「そう言ってもらえると嬉しいね。用事があったら、いつでも呼んでくれ。今は寝るZzz」

 

リサ「閉じる目もないのに、剣がどうやって眠るのかしら? ……って早く2人を追わないと」

 

リバT『赤ツバメとスタッブは、短いトンネルのT字路で待っていました。左右どちらに向かうかで悩んでいるようです』

 

リサ「ちょっと待って。未来を読むから」

 

赤燕『未来を読むだと? 君はそういう力を持っているのか?』

 

リサ「全てが読めるわけじゃないし、運命も一つじゃない。だけど、強い意志といくつかの選択の可能性の交わった先に、時として正解が見出せる。大事なことは、自分の望む運命を手繰り寄せるだけの精神の力と、観察し洞察する知恵のひらめきよ」

 

スタッブ『まるで、占い師か巫女神官みたいなことを言いおるの?』

 

リサ「……そうね。今の言葉はどこから出たのかしら? 昔、読んだ魔法使いの本か、それとも、あたしの中のゼンギスの血筋かも」

 

赤燕『ゼンギス! 聞いたことがある。東方の神秘的な土地で、強力な魔術師を輩出するとか。君はそこの出身なのか?』

 

リサ「あたしは違う。でも、母がそこの出身なの。母は野外の行動に長けた忍びなんだけど、もしかすると魔法の才能を持っていたのかもね。それよりもエルフさんこそ、魔法に詳しいはずでしょ?」

 

赤燕『わたしの専門は野外でこそ発揮される。こんな洞窟の中は専門外だ。洞窟の中だと、ドワーフが専門家だと聞いたが?』

 

スタッブ『わしか? わしの専門は掘ることと殴ること。探ることは得意ではない』

 

リサ「だったら、武器はこれを使って。ハンマーよ」

 

スタッブ『おお、これがあれば戦える。さすがは英雄どの。準備がいい』

 

リサ「たまたま偶然よ。エルフさんはスリングを使える?」

 

赤燕『弓があれば申し分ないんだが、ある物で間に合わせるしかないだろうな』

 

リサ「弾が2発しかないのよね」

 

赤燕『スリングなら、道中、小石でも拾えば役立つだろう。慣れていないから支援程度にしかならないだろうが』

 

リサ「間違えて、あたしやスタッブに当てさえしなければ大丈夫よ」

 

赤燕『そうならないよう気をつけるよ。ともかく、チームリーダーは君で決定だな。わたしとスタッブとでは、どうもソリが合わないのか、話がうまくまとまらん。君の指示に、わたしは従うよ』

 

スタッブ『わしもじゃ。〈雪の魔女〉を倒したというのも大きいが、わしらに必要なものを上手く手配する才覚も持ち合わせておるようじゃしの。このハンマーにかけて、親愛と忠義を尽くそう』

 

赤燕『人から借りたハンマーを賭けるのか、君は? 賭けるなら、自分の持ち物にしたまえ』

 

スタッブ『何を、この赤ツバ! いちいち、人の宣誓の揚げ足をとるでないわ。そういうお前さんなら、何に賭けると言うんじゃ?』

 

赤燕『大げさに賭ける必要はないだろう。言葉は虚しく移ろうもの。だけど、想いと行動が伴えば、実を得る。結果で伝われば、それで十分だ』

 

スタッブ『フン。虚しく移ろうのは、その言葉に誠がないからじゃ。わしらドワーフの言葉は大地のように堅く確かなものゆえ、風に巻かれて、フワフワ軽々しく漂ったりはせん』

 

リサ「……って、リバT、そのエルフとドワーフの口論をあたしはいつまで聞いていたらいいんだい? ディレクターの一人ロールプレイ劇場はそろそろお開きにして欲しいんだけど?」

 

リバT『あっと、失礼しました。脳内回路に登録されているエルフとドワーフの思考パターンを再現しましたら、ついつい熱が入ってしまって。ええと、1人劇を避けるために、アストさん、スタッブを代わりに演って下さいませんか? アス・ラルがちょうど眠りに就いているようですし』

 

アス・ラル→スタッブ「こうか? まあ、キャラが増えると、会話劇がゴチャゴチャすると思ったから、引っ込もうと思っただけなんだがな。スタッブならいい。これが〈赤速〉だったら、またスロムやマンゴみたいな目にあうからな。NPCを演じるたびに、悲劇に陥っていたんじゃ、NPCキラーの呼称をいただいちまう。スタッブなら、大丈夫だろう」

 

リバT『では、パーティーが再編成した段階で、左右どちらかを決めましょうか。どっちへ向かいますか?』

 

リサ「左だね」

 

リバT『分かりました。では、右は後ほどIFルートで再確認するとして、トンネルを歩きながら、寡黙なスタッブさんに比べて、饒舌に話しかけるのはレッド……いや、赤ツバメさんですね。スタッブさんとは、〈雪の魔女〉の奴隷として知り合った後、ゴブリンやオーク、ネアンデルタールと話すよりはマシということで、ソリが合わないながらも、諦めない不屈な闘志と友情を備えた仲間としての信頼は感じているわけですよ』

 

スタッブ(アスト)「リサさんにそんなことを語るエルフを、珍しいものを見たかのように横目で覗くぞ。わしら二人きりの時は、友情とか仲間とか絶対に口にしない奴だったが」

 

リバT『赤ツバメさんも、スタッブさんの寡黙ながら率直な物言いに、少しずつ感化されているんです。もちろん、感化した当人に対して、そういう態度をとるほど素直な間柄ではないですけどね。それが第三者のリサさん相手だと、自然に漏れ出るというか』

 

リサ「ああ。当人同士だと、素直な本音が出せなくて憎まれ口を叩くけれど、他人から見れば、お前たち仲がいいなあって関係性だね」

 

リバT『親に説教された反抗期の子どもが、ふてくされて口では反発するけど、親の言いつけはしっかり守ろうとするとか、言葉と思いがうらはらな描写って、演出するのがすごく大変なんですね。書く方も、読者にちゃんと伝わるかとか、あまりにもあからさまで白々しくなっていないかとか』

 

スタッブ「言葉足らずだと読者に伝わらないから、白々しくなってもいいので、しっかり心理描写は書き過ぎる方がいいぐらいだな。そのうえで、不必要なところは後から削るぐらいでいい。ところで、せっかくスタッブを演じるなら、したいことがある」

 

リバT『何でしょう?』

 

スタッブ「機を見て、リサ殿の剣を研いでやろうと思う。ちょっとした武器の手入れぐらい、できるということでいいな」

 

リバT『それはご自由に。だけど、今は話を進めます。赤ツバメさんは、スタッブがストーンブリッジの出身で、自分はもっと先の月岩山地から来た、と打ち明けます』

 

リサ「そうか。だったら、彼も森エルフではなくて、山エルフってことになるね」

 

リバT『モンスター事典の説明を読むと、森エルフの方が魔法に親和的で、人間ともまだ交流しているみたいです。山エルフの方はずっと田舎者で、粗野な生活をしていて、魔法よりも自然なものを好むとか』

 

リサ「山エルフは呪術とかはあまりたしなまない?」

 

リバT『たしなむとしたら、自然を尊ぶドルイド術とかの系統でしょうか。少なくとも、〈雪の魔女〉のたしなむ闇とか死の魔術については、強い嫌悪感を示しますね。エルフの一般イメージに反して、魔法への好奇心は薄いというか、畏れとか恐怖心を抱いているようです』

 

リサ「分かった。自然の魔術は崇拝するけど、自然の摂理に反する力は否定するのが、赤ツバメさんだと」

 

リバT『そうです。あたかも、そのことを証明する事件が起こりました。スタッブさん』

 

スタッブ「何じゃ?」

 

リバT『リサさんとエルフが何やらよく分からない魔法談義をしているなか、つまらないなと思いながら先頭を進んでいるあなたは、通路に転がっているオーブを見つけます』

 

スタッブ「わしとしては、不気味なものに触りたくない。後ろの2人を呼ぶぞ」

 

リサ「あたしとしては、好奇心を示すわね。何それ、キレイって」

 

リバT『確かに美しく見えます。ガラスでできた宝珠が、洞窟内の薄明かりを受けて、さまざまな色が渦を巻いて輝きを発しています。しかし、エルフさんは顔をしかめて、「放っておこう。そんなものは必要ないし、罠の可能性もある」と断言します』

 

リサ「まるで、スロムみたいなことを言うのね、と昔を思い出すわ。そして、好奇心のままに床から拾い上げます」

 

リバT『赤ツバメさんは仰天して、「やめろって言ったのに。早く手を離した方がいい」と訴えますよ』

 

スタッブ「わしは黙って、リサさんの判断に任せるとしよう。ヤバいと思ったら、すぐにハンマーで珠を打ち割る構えをしながら、様子を見る」

 

リバT『オーブを手に持っていると、だんだん暖かくなって、色の変化が激しく明滅を繰り返すようになりました。なおも珠を持ち続けるか、それとも床に置くか、爆発の危険を感じて遠くに投げるかの3択です』

 

リサ「この珠は持ち手の意思に忠実に応じるみたいね。爆発するから危険だと思えば、本当に爆発するし、何も起こらないようにと願って、そっと置けば何も起こらない。そして、今のあたしの欲しいもの。体力点と運点が減っているから、回復してちょうだい」

 

リバT『オーブはリサさんの意思に応じて、癒しの力を発動しました。体力点3点と、運点1点を回復して下さい』

 

リサ「わあい。これで体力点がフル回復、運点は11よ。エルフさんとドワーフさんにもオーブの回復効果をおすそ分けしてあげるわ」

 

スタッブ「ほう、さすがは英雄どの。なかなか肝が据わっておるわい。こういう恩恵がある魔法石とはのう」

 

リサ「あら、ちょうど効果切れみたいね。光が消えたわ」

 

赤燕『リサどの。君はこのオーブがこういう効果を示すって、最初から分かっていたのか?』

 

リサ「もちろんよ。この洞窟にあるものは、手に取るように分かる。だって、わたしは……と言いかけて、自分の言葉の先につながる言葉を慌てて言い淀む。あり得ない、と呟きながら」

 

スタッブ「どうしたのじゃ、リサ殿。幽霊でも見たように、顔が蒼白じゃぞ」

 

雪の魔女の真の目的

 

リサ「ええと、ディレクターのリバTに相談です。〈雪の魔女〉シャリーラの肉体は確かに滅びた。だけど、シャリーラはそれで満足した笑みを浮かべた。その後、あたしの心の中で、魔女の声らしい言葉が聞こえてくるようになった。それって、つまり、そういうことだよね」

 

リバT『おや、思ったよりも早く気づいたみたいですね。ならば、プレイヤーのクイーンには打ち明けましょう。〈雪の魔女〉は、某・呪われた島の灰色の魔女よろしく、自分の肉体を滅ぼしたリサさんの肉体に霊魂となって憑依しています。ゲームブックでの描写とは少しアレンジしていきますが、大筋において変わらないものと考えます』

 

リサ「あたしの中にシャリーラがいる。リサ=シャリーラになりつつあるってこと?」

 

リバT『その辺の解釈は、プレイヤーさんが仕掛けに気づいた時点で、物語の流れに合わせて相談して行こうと思いました。今のところ、リサさんと、シャリーラは別人格ですが、少しずつ心が蝕まれようとしています。この憑依状態をどう克服するか、あるいは第2の〈雪の魔女〉シャリーラの魂を受け継ぎし者として覚醒に至るかが、当リプレイ独自の仕掛けにして行きます』

 

リサ「それって、かなり難しいロールプレイを要求していない?」

 

リバT『クイーンなら可能ですよ。プレイヤーがそういう状況の経験者じゃないですか』

 

リサ(ダイアンナ)「確かに、あたしはダイアナ・ジャックと、バットクイーンのアンナ・ブロシアの融合した身だけどさ。そんなウルトロピカルができる以前の古いネタを持ち出されても、今の読者さんは付いて来れないだろう」

 

リバT『まあ、気になる読者さんは、こちらのクロスオーバー創作をご覧ください』

リサ(ダイアンナ)「言っておくが、純粋にゲームブックの攻略リプレイ記事のみを楽しみたい読者さんは、こんなカビの生えた古いエピソードを読む必要は一切ないんだからね。FFコレクションが復活する以前の話なんだから」

 

スタッブ(アスト)「一応、オレたち、ここを主に取り仕切っているプレイヤー(ブログ時空の登場人物)の背景を知りたければ、『クロスオーバー創作』のカテゴリーで昔のエピソードを発掘することもできるって話だからな。ここでのゲームブック攻略記事は、2022年の6月にスタートしたに過ぎんし、それ以前はD&DとかパグマイアとかTRPGメインに追っかけていたブログに、時々、オレたちとブログ主の妄想創作を混ぜていたわけで」

 

リバT『ゲームブックの読者さんは、そういうカテゴリーの記事だけを読んでくださればいいのです。それだけでは物足りない、クイーンや私め、アストさんらの過去の物語を知りたい人だけが望んで深みにハマればよろしいかと。まあ、ずいぶんと物好きだと思いますけどね。私めやクイーンはともかく、アストさんの過去を知りたいだなんて』

 

リサ(ダイアンナ)「話をゲームブックに戻すよ。『雪の魔女の洞窟』本編と違って、シャリーラはプレイヤーキャラのリサの肉体に憑依して、復活しようと企んでいるんだね。それを、このあたしにロールプレイしろ、と言うわけだ」

 

リバT『ええ、それでいて、なおかつゲームブックの物語と大きな矛盾なく、上手くまとめるようにというグランドマスターNOVAの指示です』

 

リサ「つまり、さっきの話につなげるなら、こういう描写になるわけだ」

 

 

「もちろんよ。この洞窟にあるものは、手に取るように分かる。だって、わたしは……」

 心の中の声が囁くように、あたしにある名前を押し付けようとする。

(わたしは〈雪の魔女〉シャリーラだから)

 無意識に言いかけた名前を慌てて否定する。

 あたしはリサ・パンツァ。ゼンギス生まれの魔女なんかじゃない。

 氷の魔神と契約した過去も、死の神と契約して吸血鬼になった現在も、そして自分に近しいゼンギスの血を引く、魔剣と運命神に魅入られた少女に憑依して、新たな〈雪の魔女剣士〉として融合覚醒する未来も……あたしのものではない。

 

 シャリーラの真の目的をあたしは理解した。

 しがらみに満ちた古き肉体を脱ぎ捨て、新たな肉体に着替えるための儀式。

 そのための憑代として、あたしはこの〈水晶の洞窟〉に誘われた。

 そうとも知らず、あたしは英雄気分で、〈雪の魔女〉の古き肉体を自らの手で滅ぼし、彼女の魂を己が身に招き入れた。

 冒険中に手に入れた〈ルーン文字の刻まれた棒〉は、その憑依儀式のための魔道具だった。

 すべてはシャリーラの計画どおりだったのだ!

 

 シャリーラの記憶が、あたしの心に浸透する。

 あたしがあたしでなくなり、わたしになったとき、二つの魂が融合する。

 それはシャリーラが望んだ未来。

 それはリサ・パンツァが望まない未来。

 どちらの意志が勝つのか、運命神にも予測できないのではないか。

 だって、運命神は自分の振るダイス目を操作したいとは思わないから。

 神の振るダイス目は気まぐれだ。

 そして、神は英雄の意志に挑戦するけれど、英雄の意志を尊重もする。

 だから、あたしにもまだチャンスはある。

 あたしの中のシャリーラを追い出し、彼女の思惑に従わない、あたし自身の未来をつかみ取るチャンスが。

 運命神と死の神の紡ぎ出すゲームはまだ続いている。

 誰が勝者になるかは分からない。

 

 分かっているのは、今のあたしがリサ・パンツァ。決してシャリーラとは異なる、あたし自身を貫きたい、そう決めた強い覚悟があるってことだ。

 あたしの心も、体も、未来も、あたしのもの。

 アズール卿にも、サカムビット公にも、そして〈雪の魔女〉シャリーラにも、あたしの自由は奪わせない。

リサ・パンツァ

・技術点12

・体力点20/20

・運点11/12

 

・食料残り5食

・金貨:250枚

・所持品:アストラル・ソード、時間歪曲の指輪、幸運ポーション、背負い袋、戦槌(ウォーハンマー)、白いマント、【勇気のお守り】(技術点+2)、古いバラ、魔法のフルート、スリングと鉄の玉2つ、金の指輪(冷気抵抗)、銅の指輪(戦士召喚)ニンニク、ドラゴンの卵4つ、(青字は今回入手したアイテム)

(当記事 完)