バッドエンドにあらず
ダイアンナ「前回は、あたしが演じる〈雪の魔女〉シャリーラが勝利を収めた、素晴らしいゴールだったんだが。『雪の魔女の復活』完、と幕引きをしてもいいぐらいに」
アスト「シャリーラ・ファンは大喜びだな。ザゴールも、バルサスも、ザラダン・マーも、ザンバー・ボーンも、歴代ボスキャラがFF新作で名前が言及されたり、ふたたび登場したりするのが昨今の風潮だから、『雪の魔女ふたたび』的な新作ゲームブックが公式に登場すると、界隈が盛り上がると思うんだ」
リバT『「トカゲ王ふたたび」よりはウケそうですね』
アスト「トカゲ王の場合、実は31巻の『最後の戦士』が間接的な続編と言えなくもないと思うんだな。火山島よりも広大な南アランシアのヴィモーナ市周辺地域を舞台に、侵略者のトカゲ帝国を迎え撃つために、神に選ばれた〈最後の戦士〉と称される主人公の物語」
リバT『トカゲ王など小物に過ぎん。本当に強大なトカゲ帝国は南に存在していた、ということですね』
アスト「世界観としては、トカゲ王の発展拡張版が『最後の戦士』と思われるんだけど、それに相当するような作品が『雪の魔女の洞窟』にはない」
ダイアンナ「だけど、1冊で『雪の魔女ふたたび』と『雪の魔女の復讐』の続編を交えた3部作をまとめている感があるよ」
- 雪の魔女の洞窟:氷指山脈を舞台に、氷魔神や死の神と契約した吸血魔女の洞窟に侵入して、莫大な財宝を探し出せ。
- 雪の魔女ふたたび:雪の魔女は死んでいなかった? 新たに登場した2人の仲間と共に、ダンジョン脱出を図れ。罠に次ぐ罠を切り抜けて、君は生き延びることができるか。
- 雪の魔女の復讐:2人の仲間とともに、ついに君は洞窟を脱出した。しかし、雪の魔女の死の呪いは君と仲間を蝕む。広大なアランシアの旅を経て、君は伝説の癒し手を見つけることができるか? 雪の魔女3部作ついに完結。最後の舞台は、あの火吹山だ!
ダイアンナ「……と、中編ゲームブック3部作に分けても良さそうだ」
リバT『そう考えると、今回が2部のクライマックスなんですね。クイーンがシャリーラに妙に肩入れしなければ、予定どおり前回で2部が終了していたはずですが』
ダイアンナ「だって、原作ゲームブックどおりにプレイすると、シャリーラって1回めも2回めも、あっさり倒せるんだよ。特に2回めなんか、ジャンケンで負けて霊体消滅という何それ? 感だ。ゲームにはなってるけど、物語としては盛り上がらない。特に、主人公に対しての因縁のなさが寂しい」
リバT『そりゃあ、リビングストンさんの主人公は無色透明剣士が基本ですからね。ボスが主人公と特別な会話を交わすこともほぼありませんし。「火吹山ふたたび」の復活ザゴールや、「アランシアの暗殺者」の物語ボスのアズール卿のように、主人公に一定の敬意を示す作品は稀です』
アスト「リビングストン作品で、主人公に一番最初に敬意を示した物語ボスって、『死の罠の地下迷宮』のサカムビット公だもんな」
リバT『ジャクソンさんだと、バルサス・ダイアが敬意を示して、部下にスカウトしようとしましたね。バルサスが大物っぽいのは、自分を倒しに来た主人公の力量を認め、正々堂々と迎え撃ちながら、同時に懐柔策も試みる柔軟性というか、将軍としての懐の広さを感じる点です』
ダイアンナ「『お前の力量は気に入った。部下になれ』と言える敵将って、一介の剣士としては認められた感があって、ゾクゾクするんだね。まあ、『だが断る』と返すのが筋だけど」
アスト「主人公をある程度は持ち上げつつ、それでも自分が格上だとアピールする強ボスムーブだな。アニーの演じるシャリーラもそういうのを狙ったのか?」
ダイアンナ「ゲームブックのままだと、狡猾だけど威厳はないなって思ったんだよね。部下の生命もあっさり切り捨てる冷酷さで、虚無的というか、執着性のなさを感じた。シャリーラ自身がデーモンとか邪神の操り人形にされている感があって、ただボスを演じているだけって思った。それだけだと深みのないキャラなんだけど、『タイタン』での背景記述で深みが補完された感じだったので、氷デーモンの傀儡から解放された真の人間としてのシャリーラを演じた次第だ。まあ、相当歪んでいるのは間違いないけど」
アスト「主人公に対峙するボスとして、因縁を持たせながら、主人公並みに解像度を上げたわけだな」
ダイアンナ「『タイタン』の記述で一つ気に入らないのは、シャリーラのことを『悪魔のような醜い女』と書いてあることだね。まあ、そばに例の鼻輪で大口開けてるイラストが付いているから、醜いと言われても納得なんだけど、リビングストンさんはゲームブック本編で『白い毛皮をまとった美しい女』と書いていて、公式に矛盾しているんだよ。あたしはシャリーラ美人説を推す」
リバT『美女だけど、内面は醜いということであれば、両方の記述に矛盾はないんですけどね。イラストによっても、イメージがいろいろ違っているキャラなので、人によってもシャリーラ像が異なっていてもおかしくありません』
ダイアンナ「だから、当リプレイのシャリーラは当然、あたし解釈ってことで、膨らませてみた。でも、感情移入はここまでだ。やはり、この物語の主人公はリサ・パンツァなので、シャリーラはリバTにお返しするよ」
リバT『では、いよいよ主人公の逆襲が始まるんですね』
ダイアンナ「実はゲーム的には、リサは全く負けていないんだよ。体力も運もマックス状態で、データ的には健康体。ただ、ゲームのデータとは関係なく、演出で心が折れかけているので、主人公らしく奮い立たせなければならない。あたし一人では無理なので、2人にはプレイヤーとして協力してもらいたいんだ」
リバT『私めも、まだプレイヤーなのですか?』
ダイアンナ「もう少しだけ、あたしがディレクターを務めることにする。さあ、行くよ」
リサを支える絆たち
ダイアンナ「ここはリサ・パンツァの精神世界。〈雪の魔女〉シャリーラに肉体を奪われ、愛剣アス・ラルの意識を封じられ、さらに冒険で出会った2人の仲間さえ、魔女の奴隷として屈服した現状、水晶球の魂と一体化して力を増したシャリーラの意志力の前に、さしものリサの強固な精神も限界に達しようとしていた」
シャリーラ(リバT)『いつまで空しい抵抗を続けようと言うんだい? レッドスウィフトも、スタッブも、今やわたしのものだ。そなたも屈服して、わたしのものになるんだよ。わたしと心身を共有して一つになれば、幸せになれる。そなたは十分戦った。誰もそなたを責めないよ、愛しき娘よ』
リサ(ダイアンナ)「あたしは……あんたの娘なんかじゃない!」
シャリーラ『確かにね。わたしも娘を持つことはなかった。血の奴隷なら何人か作ったんだけどね。心を持たない操り人形は娘と呼べない。だけど、わたしには妹がいた。妹に子どもがいて、その子孫がそなたであれば……血筋を辿れば十分可能性はある。そなたはゼンギスの血筋だからな。遠い姪っ子は、時を隔てた娘も同然と言えよう』
リサ「だったら、あんたはおばさんになるのか。遠い親戚のおばさん。ふうん、おばさんね。お・ば・さ・ん!」
シャリーラ『つまらない挑発だけど、繰り返されると、何だかムカついて来たね。生意気な姪っ子には躾が必要なようだ。これでもくらえ! わたしの知性度と同じだけのダメージを耐久度に受けるといい』
リサ「キャーーーッ。それはゲームが違う!」
アスト「元を正せば、同じ社会思想社なんだがな。FFシリーズと、T&Tと、あとウォーハンマー」
リバT『「混沌の渦」も忘れないでください』
リサ「マニアックな寄り道脱線はこれぐらいにして、リサ・パンツァの精神力はどんどん削られて行った。何も抵抗できないまま、もうダメか、と思われたとき……アスト、このセリフを読んで」
アスト「何だ、こんなメモを用意して。ムッ、これは?」
リバT『何ですの?』
スロム(アスト)『お前はこんなところで倒れるほど、弱くはなかったはず。〈死の罠の地下迷宮〉のことを思い出せ、リサ・パンツァ!』
リサ「その声は……もしかして、スロム? あんたは確か死んだはず」
スロム(アスト)「うちのリプレイでは、『実は生きていた』ということになってるんだけどな。まあ、そんなことはどうでもいい。リサの記憶の中にあるスロムが、リサを激励するってことでいいんだな」
ダイアンナ「ああ。ここから、あたしオリジナルの『リサを復活させよう、魂の絆ゲーム』の開始だ」
リバT『魂の絆ゲーム? どんなルールですの?』
ダイアンナ「今のスロムの激励で、絆ポイントが1点貯まった。これまでにリサに関わったNPC1人がリサを激励するたびに、ポイントが1点加算される。それが10ポイントに達すれば、リサの魂がシャリーラを凌駕して、逆転劇が展開されるって寸法だ。ただし、リサの心に響くキャラでないといけない。心に響くかどうかは、リサのプレイヤーであるあたしが裁定する。さあ、リサを励ますキャラをあと9人、考えてくれ」
リバT『だったら、無難なところで、まずはリサの母親の某ゼンギスの忍びさんですね。ハ◯サンの娘を心配する気持ちが、リサさんの心を奮い立たせます』
アスト「それなら、父親もOKだな。リーサン・パンザの声が娘を応援する」
リサ(ダイアンナ)「あたし、父さんの声は知らないはずなんだけど、まあ、自分の想像の声ってことで。そうだ。あたしの血筋はゼンギスだけじゃない。父さん譲りの腹ペコの血が流れているんだ。吸血鬼に支配されて、不死者(アンデッド)になってしまえば、美味しい食べ物が味わえなくなる! 腹ペコパワーは命の証! 血を飲むだけでいいなんて、そんな生活はイヤ! 明日の美味しい食事のために、シャリーラには負けられない! 母さんの作ってくれた温かいシチューの思い出が心を満たしてくれて、両親の絆が2点加算された。絆ポイントが合計3点で、残り7点よ」
アスト「ところで、目標点数の10点に何か意味があるのか?」
ダイアンナ「ああ、考えた。『雪の魔女の洞窟』はFFシリーズ第9巻。それを凌駕するための絆ポイントは、9を越えた10ポイントでなければならない」
リバT『だったら、絆ポイントでザラダン・マーを倒そうと思えば、25点も必要なことに。それは厳しいですね』
ダイアンナ「絆ポイントは、ここだけの特別ルールなので、ザラダン・マー相手には適用されない」
アスト「まあ、そうだろうな。だったら、オレとしてはスタッブの分を足そう。頑張るのじゃ、リサ殿」
ダイアンナ「スタッブと赤ツバメは、現在、シャリーラに屈服しているので、絆としては使えない」
アスト「何だと? だったら、ヤズトロモさんはどうだ?」
ダイアンナ「それは、後のストーリーで〈癒し手〉さんと話を絡めたいので、ニカデマスさんともども、今は温存しておきたい。他に思いつかない場合に、最後の手段として特別に使用を許可する」
アスト「何だよ、それ? 他に誰かいるか?」
リバT『スロムの兄さんのクロムとか、迷宮探検競技のヌロムってのはダメですよね』
アスト「いや、相棒は確かフロムじゃなかったか?」
ダイアンナ「どっちでもいい。リサには関係ない名前だ」
リバT『会って話をしていれば、いいのですね。ええと、迷宮競技の参加者の女エルフさんは絆になりますか? 名前は知らないですけど』
ダイアンナ「この回だね。美味しい薬草入りパンをくれたから、リサは覚えている。絆1点獲得」
アスト「食べ物で覚えているのか。だったら、確か忍者のおっさんもいたな」
リバT『山久利剛次って名前がオリジナルで付けられましたね』
ダイアンナ「リサはよく覚えている。保存食の米をいただいたからな」
アスト「食べ物でしか覚えないのかよ。もっと大事なものをくれただろう?」
ダイアンナ「ああ、ダイヤモンドだ。宝石は重要アイテムだ。これがないと、死の罠はクリアできない。では、競技参加者の絆がリサを奮い立たせて、絆ポイントが5点に達した。残り半分だよ」
女エルフ(リバT)『残念ながら、私はここまでのようです。でも、あなたは死の罠を乗り越えてください。幸運を』
山久利剛次(アスト)「我を倒した小娘、いや、リサ・パンツァよ。我らの屍を踏み越えた汝が、こんなところで果てるとは、忍びの名誉にかけて許すまじ。疾く立ち上がり、忍びの道を全うせよ。心の刃は折れてはならぬ、ニン!」
リサ(ダイアンナ)「あの過酷な迷宮で散って行ったライバルたちの声が、あたしを励ましてくれる。そうだ、あたしにはかけがえのない冒険の思い出がある。こんなところで、あたしの冒険は終わらない!」
アスト「よし、背後霊がたくさん憑けば、勝ちルールだな。だったら、マンゴってのはどうだ?」
ダイアンナ「マンゴさんは、うちの『トカゲ王の島』攻略記事で素晴らしい背後霊として活躍したけど、リサとは面識がないので却下」
アスト「いや、リサとはなくても、父親のリーサンとは関わってくるんだよ。全くの無縁ってことはない」
リサ(ダイアンナ)「父さんの知り合いかもしれないけど、あたしは知らない」
アスト「ムッ。仕方ない。では、マンゴと思われた人物がベリベリと顔の変装をはぐと、中から何と! 謎かけ盗賊の仮面が現れた」
リサ「キャー、謎かけ盗賊さま。こんなところでお会いできるとは♪ お近づきの印に、サイン下さい」
謎かけ盗賊(アスト)「出された色紙にサインしながら、話しかける。『ところで、お前、勝手にオレの娘の名前を騙って、狂言誘拐の犯人に仕立て上げたそうだな?』」
リサ「え、あれは……自由な冒険の旅に出るためにやむを得ず……と敬愛している御仁に難詰されて、涙目になるリサ・パンツァ。このままだと、絆ポイントが1点下がるかも」
謎かけ盗賊(アスト)「そいつはマズい。ええと、ここで謎かけ盗賊の性格だと、『面白い、もっとやれ。オレはああいうおふざけで周りを困惑させるのが大好きだからな。ともにロガーン様の使徒として、楽しい謎をバラまこう』と言ったりするかな」
リサ「はい、喜んで。謎かけ盗賊さまに認めていただき、リサの精神力は爆上げ状態だ。絆ポイント6点め」
アスト「では、もう一度、謎かけ盗賊はマンゴに変装して、魔剣の精霊アス・ラルに声をかける。『おい、後輩』 するとアス・ラルはハッと飛び起きて、剣の精霊としてはレジェンドになったマンゴさんにお辞儀するんだ。『これはこれは剣先輩のマンゴさんじゃないですか。火山島での活躍の噂は聞いてます。まさか、こんなところでお会いできるとは』
「すると、マンゴは『相棒のピンチにいつまでも寝てるんじゃないよ』と説教して、アス・ラルも『そういうマンゴさんだって、しばらく寝てたじゃないですか』とツッコミ入れて、しばらく魔剣談義が続くんだ」
リバT『そんな、うちの「トカゲ王の島」リプレイを読まないと分からないネタを(苦笑)。アストさんの一人劇場を止めるために、私めも2人ほどキャラを登場させましょう』
アスト「2人も同時に出せるのか?」
リバT『はい。この洞窟のある雪山のふもとで、1人のドワーフと、それに負けないだけの髭を蓄えた大男の商人が、リサさんの噂をしています』
ビッグ・ジム『なるほど。あの娘はイエティ退治の仕事を果たして、お前さんに言付けを頼んだわけか』
アリマ『ああ、恐ろしい〈雪の魔女〉の手下から、わしを助けると、さらに洞窟の奥に進んで行った。今ごろはもう……』
ビッグ・ジム『あんたは司祭だろう。だったら、祈るのが仕事だ。自分の恩人の勝利を祈らないでどうするんだ?』
アリマ『はい、そうですね。〈雪の魔女〉の恐ろしさについつい怯えてしまって……こんなだから、いつまでも見習いから昇格できないのですね』
ビッグ・ジム『〈雪の魔女〉とやらがどれだけ恐ろしいかは知らんが、あのリサ・パンツァって娘も、俺が知るかぎり、最高の剣士だ。クマよりも恐ろしいイエティなんてものを成敗するぐらいだからな。俺は嬢ちゃんが勝つって信じてるぜ』
アリマ『そうですな。〈死の罠の地下迷宮〉を踏破したという彼女の言葉が事実であれば、きっと勝てるはず』
ビッグ・ジム『〈死の罠の地下迷宮〉だと? その情報の真偽を確かめるには、ファングの街に行った方がよさそうだ。俺たちはもしかすると、伝説の誕生に触れているのかもしれん。よし、イエティの首を持って、ファングに行くぞ。こんな化け物の首と、〈雪の魔女〉の情報は高い値で売れるはずだ』
リバT『……こんな会話をかわしながら、2人はリサさんの生還を運命神に祈ってくれます』
リサ「その祈りがリサに届いて、絆ポイント8点。残り2点でクリアだよ」
アスト「う〜ん(少し思案してから)。よし、9人めはサカムビット公だ。『リサ・パンツァの行方はまだ分からんのか』と側近に捜索続行を命じながら、溜め息をつく。『南に向かったという情報は巧妙な嘘かもしれんな。北という可能性を見落としていたのは、迂闊だった。しかし、謎かけ盗賊の娘というのがリサの狂言であれば、実に大胆不敵な女よな。もう一度、会って冒険譚を聞きたいものよ。我が最高の〈死の罠の地下迷宮〉を踏破した者がつまらない死に方をしたら、それこそ我が顔に泥を塗ったに等しい。決して死なずに、リサの冒険譚の噂が聞ければ僥倖と言えよう』」
リサ「サカムビット公は、あたしを前向きに評価してくれているんだね。実は迷宮マニアにして、冒険物語マニアなのかな? いつまでも絡まれると、うっとうしいけど、ほとぼりが冷めたらあいさつぐらいしてもいいかも。絆ポイント残り1点」
リバT『サカムビット公がありなら、最後はアズール卿でどうでしょうかね。「リサ・パンツァよ。貴様は我が名代戦士として、一生、余に仕えるのだ。つまらない場所で死ぬことは許さん」とか執着してそうで』
リサ「うわあ、同じ執着でも、何だかアズール卿には毒があるのを感じるよ(苦笑)。こんな相手から絆ポイントを受け取りたくはないんだけど(涙目)」
アスト「しかし、シャリーラの支配から解放されるのに、アズール卿が味方に付いてくれるのは、心強くないか?」
リバT『「トロール牙峠戦争」に次ぐ、FFゲームブック・スーパーボスキャラ大戦って感じですね』
アズール卿『〈雪の魔女〉とやら。貴様のような田舎の小娘が、我が寵愛するリサ・パンツァを横からかすめ取ろうとは許し難い。貴様には速やかな死を与えてやろう』
シャリーラ『ほう。たかだか人間の領主風情が、不死のわたしに挑もうとは、身の程知らずもはなはだしい。そなたはザンバー・ボーンの靴でも舐めていたらいいのだ』
アズール卿『ザンバー・ボーンなど、余のアランシア支配に向けた道具に過ぎん。氷指山脈に引きこもった一吸血鬼に過ぎぬ貴様なんぞより、〈夜の王〉を凌ぐ格上とFFファンの大多数が認めている余の方が魅力的な悪キャラだというのは周知の事実。悔しかったら、FFゲームブックの3冊以上で語られるようになれ。〈雪の魔女〉の物語の続編が出たなら、ザンバー・ボーン並みに評価してやるわ』
シャリーラ『グッ。リビングストン先生、わたしにも続編を書いて下され』
リサ「た、確かに、アズール卿が味方になってくれたら、非常に心強いのは間違いない。毒を以て毒を制すと思えば……しかし、リサの心情としては、アズール卿に頼るのは、どうもなあ」
アスト「ただ、アズール卿って、そこまでリサに執着しないかもしれないんだな。『リサ・パンツァが北方でピンチ? ふん、そんな辺境で死に果てるとは、しょせんはただの盗賊に過ぎん小娘よ。余の名代には、また別の強者を探せばいい。替えなどいくらでもいる』とか言ってそうで」
リサ「それはそれで、何だか見下されたみたいでムカつくし。仕方ない、今だけ特別に、アズール卿に絆ポイントを与えるよ。アズール卿に見下された怒りのスーパーモードで、リサ・パンツァ、ここに復活を果たせり!」
復活のリサ VS 逆襲のシャリーラ
リバT『では、ディレクターとして、この私めが改めて仕切るとしましょう。紆余曲折を経て、シャリーラの呪縛から解放されたリサさん。しかし、戦場はリサさんの精神世界で行うものとします。ゲームとしてはパラグラフ339番から続く流れになりますが、状況描写だけアレンジさせてもらいます』
アスト「戦いの場所は心の中か。シャリーラの霊体と、リサの霊体が、憑依した肉体の支配権をめぐって最後の戦いを行う、ということだな」
リバT『精神世界での戦いをテーマにしたTRPGだと「ナイトメアハンター」とか専用システムも存在するのですが、FFシリーズでも夢世界と現実世界を行き来できる28巻「恐怖の幻影」なんかがありますし、わざわざ別システムにする必要はないでしょう』
リサ「精神世界だから、別のゲームの魔法なんかも使って来たんだね。心の中だから何でもあり、だと」
リバT『リサさんの背後には、10人の絆で結ばれた幻想戦士が背後霊として付き従っているものとします』
リサ「え? 謎かけ盗賊さまも一緒に戦ってくれるの?」
リバT『彼はマンゴさんの姿に変装してるってことで。絵面的には、スロムさんとマンゴさんが肩を並べて戦うとか、忍者がいたり、交易商人のビッグ・ジムがいたり、エルフとドワーフがいたり、何よりもアズール卿とサカムビット公がタッグを組んで戦うなど、いろいろな夢の共演になっていたりしますが、まあ、夢なので細かい粗は気にしないでください』
リサ「で、敵はどういう形になっているのかな?」
リバT『精神世界の中心に玉座があって、〈雪の魔女〉の赤いドレス、白いマントを着たリサさんと瓜二つの魔女が腰を下ろしていますね。今のシャリーラの理想とする姿、吸血鬼化したリサさんの未来の姿をイメージしています。その両側に吸血エルフとなったレッドスウィフト、そして吸血鬼ではありませんが目玉グルグル状態の狂戦士っぽいスタッブ、そうですね、頭をトロール殺しっぽいモヒカンにでもしますか』
アスト「それって、シャリーラの趣味なのか? ドワーフはモヒカンにすべし、とか」
リサ「赤ツバメとスタッブが変わり果てた姿になって(涙)」
リバT『あくまで、シャリーラの願望イメージですね。リアルでは、まだそうなってはいません。でも、リサさんがこの戦いで負けると、それが確定された未来になるでしょう』
リサ「敵は3人だけ?」
リバT『それだと、後ろの10人のドリームチームが何のためにいるかが分かりませんので、シャリーラがゾンビやスケルトンからなる大軍勢を召喚したりします。まあ、あくまで演出上のモブキャラたちですが、映像化すると夢のスペクタクル大活劇になりますね。少なくとも、戦隊VSシリーズ程度には』
リサ「ゲームでは、背景で適当に戦っているので、主人公はボスキャラと対峙するって形だね」
リバT『あと、赤ドレスのリサ=シャリーラは、胸元を広げて本物よりもセクシーな雰囲気なんですが、胸の中心に魂の水晶球がカラータイマーのように埋め込まれていますね。そこが明確な弱点です。そこで、選択肢が3つあって、剣で水晶球を攻撃するか、スリングで攻撃するか、脱出口から逃げるかのどれかですね』
アスト「この状況で逃げられるはずがないだろう」
リバT『まあ、そうですね。じっさいのゲームブックでも、逃げるのは無理なんですけど、剣で攻撃すると水晶球に貯まったエネルギーをまともに浴びて即死しますので、スリングを持っていなければ、逃げて手痛いダメージを受けて……その流れで戦闘が次の局面に移る形になります』
リサ「スリングは持ってるけど、赤ツバメさんに貸与中なんだよね」
リバT『それは物語上の演出に過ぎませんので、スリングは持っているということでいいですよ』
リサ「いや、夢の中ならもっと良い演出をします。父さんが横に来て、『これを使え』と言います。復活したザンバー・ボーンを退治するのに使ったフリントロック銃を渡されて、これさえあれば、シャリーラも一撃必殺できそうですね」
リバT『撃つなら、頭ではなく胸の水晶球でお願いします。頭だと、凄惨な絵柄になりますので』
リサ「さすがに自分と同じ顔を銃で撃つ気にはなれないね。胸の球を狙って、技術点判定。出目11。扱い慣れない銃器だけど、命中」
リバT『銃器という予想外の遠隔攻撃に水晶球にヒビが入り、リサ=シャリーラは顔をしかめます。しかし、致命傷には至らないようで、水晶球の前で両手をクロスすると反撃の怪光線が発射されます。運だめししてください』
リサ「そいつを受けるわけにはいかないので、慌てて回避しよう。出目10で成功(残り運点11)」
リバT『シャリーリウム光線は背景で戦っているゾンビたちの方に反れて、大爆発を起こします。カオスがどんどん転がって行く戦闘風景ですが、次は……』
アスト「周囲の戦闘はオレが描写しよう。それぞれの戦士がそれぞれの戦術で戦う。そんな中で、サカムビット公の武器は……デストラップだ。素早く、ゾンビたちの足元にトラップを仕掛けて、作動スイッチを押すと、そっちもドカンと爆発する」
リサ「何て早業だ。さすがは、アランシア最大の罠の達人と恐れられたサカムビット公」
リバT『いや、別に本人が仕掛けているわけではないと思いますけど。設計には口をはさんでも、仕掛けているのは職人さんたちでは?』
アスト「しかし、リサの心の中では、サカムビット公のデストラップはこんな感じなのだ」
リサ「うん、サカムビット公は凝り性だからね。自分でチェックできるところは、自分で手を入れないと気が済まないのだ」
アスト「サカムビット公の華麗なデストラップ殺法の前には、不死の怪物どもも抵抗できず、もう一度殺されて消滅してしまう。そして、おもむろにアズール卿が動き出す」
リサ「あ、アズール卿の演出はあたしがしたい。『敵の数が多いな。一体一体切り刻んでいるとキリがない。こういう時にはあれを使うとするか』」
リバT『あれとは?』
リサ「アズール卿が指笛をピューッと吹くと、どこからともなく暴走馬車が走って来て、骸骨どもを次々と跳ね飛ばして行く。そして、空中高く舞い上がったドクロが遠くにそびえるポート・ブラックサンドの城壁の逆棘に次から次へと突き刺さって、盗賊都市を飾るオブジェとなる」
アスト「馬が大活躍するシーンだな。さすがだ、アニー」
リバT『夢の中だからって、やりたい放題ですね(苦笑)』
アスト「アズール卿とサカムビット公で遊べる、滅多にない機会だからな」
リバT『しかし、いろいろ妄想を楽しむのはそれぐらいにして、戦闘は次の局面に入ります。レッドスウィフトとスタッブの似姿が、シャリーラの命令でリサさんに襲い掛かります。原作では、2人によく似たドワーフゾンビ(技8、体8)とエルフゾンビ(技9、体8)なのですが、わざわざこんなのを用意しているなんて、シャリーラさんは用意周到というか、ご都合主義が過ぎるというか』
アスト「ただの嫌がらせ幻術だと解釈したけどな。何にせよ、一連のシャリーラ戦で、唯一、能力値を持った敵とのバトルだ。オレはスタッブのダイスを振るから」
リバT『私めはレッドスウィフトさんのダイスを振らせてもらいます』
リサ「仲間の姿の敵と戦うなんてイヤだけど、本物じゃないと割り切るしかないよね」
仲間の屍を越えて
●1ラウンドめ:ドワーフ14、エルフ15、リサ19
エルフに2点ダメージ(残り体力6点)
●2ラウンドめ:ドワーフ16、エルフ14、リサ15
エルフに2点ダメージ(残り体力4点)
リサに2点ダメージ(残り体力18点)
●3ラウンドめ:ドワーフ16、エルフ14、リサ18
エルフに2点ダメージ(残り体力2点)
●4ラウンドめ:ドワーフ17、エルフ16、リサ18
エルフに2点ダメージ(エルフ消滅)
リサ「赤ツバメさん、ごめんなさい」
シャリーラ(リバT)『おお、リサ・パンツァ。お前は仲間を殺して平気なのか。非情な娘よな。それこそ、我が器にふさわしい』
リサ「平気なわけないでしょう(涙目)。愛を知らないあなたに、この涙の意味は分かるはずがない」
シャリーラ『涙の意味だと? そんなもの、とっくに凍りついたわ。わたしは涙を流さない。そんなものは必要ない。己を弱くするだけだからな』
リサ「いいえ、涙はあたしを強くする。涙の意味の分からない魔女に、あたしは負けない」
●5ラウンドめ:ドワーフ16、リサ21
ドワーフに2点ダメージ(残り体力6点)
●6ラウンドめ:ドワーフ18、リサ16
リサに2点ダメージ(残り体力16点)
●7ラウンドめ:ドワーフ15、リサ19
ドワーフに2点ダメージ(残り体力4点)
●8ラウンドめ:ドワーフ14、リサ22
ドワーフに2点ダメージ(残り体力2点)
●9ラウンドめ:ドワーフ15、リサ20
リサ「スタッブ。よくも、あたしを2回も殴ったわね。赤ツバメさんは加減してくれたのに」
スタッブ(アスト)「すまない、リサ殿……と心の中で詫びつつ、ハンマーは加減が効かんのじゃ〜と叫んで退場する」
リバT『気がつくと、周囲の喧騒も止んで、10人のドリームチームと、不死者軍団はどちらも消え失せていました。後に残されたのは、赤いドレスのリサ=シャリーラと、本物のリサ・パンツァさんです。リサさんのイメージカラーは何色でしたっけ?』
リサ「そうだね。目は涙目で充血して赤いけど、それ以外の色は……夜明けの日の光の黄色と、青空の青にしておくわ。服のメインカラーは青で、ところどころ黄色いアクセントが入っている感じ」
リバT『例に挙げた画像が、いまいちアランシアとは異なるイメージに見えますが、リサさんの青と、シャリーラの赤がそれぞれオーラとなって、ぶつかりながら渦巻く感じですね』
リサ「だけど、それまでは2つの色が混じって紫になったりもしていたのが、今は青が赤を拒絶しているように交わらない。清浄な青が赤い血を洗い流すように圧倒する感じで」
シャリーラ(リバT)『くっ、どうして、そなたはわたしを拒み続けるのだ? その心の強さの秘密は一体!?』
リサ「あなた、あたしが運命神ロガーン様に導かれているって事実を忘れてない?」
シャリーラ『ロガーンだと!? これがそなたの神のやり方だと言うのか!?』
リサ「トリックスターの神だからね。どんな奇策を使うか、そう簡単に読めないって寸法よ。それに、さっきも見たように、あたしは謎かけ盗賊さまに認められた。人呼んで、〈謎かけ盗賊の娘〉の1人ってことよ」
アスト「とうとう、自称するんだな。狂言じゃなくて」
リサ「だって、謎かけ盗賊さまがじっさいに認めてくださったもの。『面白い、もっとやれ』って」
リバT『あくまでリサさんの夢の中で、ですけどね。ともあれ、それを聞いたシャリーラは「謎かけ盗賊!? 何それ?」って反応です』
リサ「あなた、あたしと一つになろうって言うのに、謎かけ盗賊さまも知らないわけ? こんな雪と氷の世界に引きこもっているからよ。まったく、話にならないわね」
シャリーラ『仕方なかろう。私が生まれた時には、謎かけ盗賊など存在しなかった』
アスト「確かに、『雪の魔女の洞窟』の原書は84年で、邦訳は86年。一方、『謎かけ盗賊』の原書は86年で、邦訳は90年だから、シャリーラが知らないのもうなずける話だ」
リサ「とにかく、今の世間のトレンディーは謎かけ盗賊さまなの」
リバT『トレンディーって言葉が流行ったのも、90年代の頭の話なので、今は死語だと思いますよ』
リサ「まあ、FFゲームブックのブームが80年代の半ばから90年代の初頭に入る前の昭和末期だからね。それが30年以上経った令和のこの時代に旬のネタとして語れるだけで、奇跡ってものよ。そんな奇跡を前にして、時代遅れの〈雪の魔女〉があたしに勝てる道理がない」
シャリーラ『うう、言葉の意味がよく分からんが、とにかくすごい自信だ』
アスト「そのセリフの元ネタ(キン肉マン)も、80年代のブームだが(ゲームブックとほぼ同時期)、何だか今が新たな旬になってるもんな」
リサ「では、シャリーラが困惑しているのを見計らって、あたしは盗賊らしく器用な指先で、懐から2枚の金属板を取り出すの。星と四角の札よ」
シャリーラ『それは、わたしの好きなカードゲームの札! 何をしようと言うのだ?』
リサ「不毛な水掛け論と心の戦いをこれ以上、続けても仕方ない。ロガーン信徒らしく、決着はゲームでつけましょう。この勝負であなたが勝てば、あたしはあなたのものになる。あなたが負ければ、あなたはあたしと仲間2人、赤ツバメとスタッブを洞窟から解放して、自由に旅立たせる。これでどう?」
シャリーラ『そんな条件で、本当にいいのか? そなたの札は完璧ではあるまい。丸が足らん』
リサ「確かに、あたしの札は完全じゃない。だけど、3枚中2枚あれば、十分勝機は見出せるわ。あたしには幸運の星がついているからね」
丸(技術)と四角(体力)と星(幸運)と
雪の魔女との最後の決着。
それはゲーム好きの彼女がとっさに発案した3枚の金属板を道具にした、ジャンケンもどきのギャンブルでした。
丸は星に勝ち、四角は丸に勝ち、星は四角に勝つというルールで、主人公は洞窟の探検中に入手した札しか出せないという。もしも、金属板を1枚も入手していない場合は、その場で即座にゲームオーバーに至ります(剣で挑んで返り討ち)。
そして、勝てる札を持っていない場合もゲームオーバー確定です。
もちろん、ゲームブックですから、何を出せばいいかは決まっています。最初に四角を出せば勝ちで、丸であいこ、星で負け。
あいこの場合は、次に魔女が「あいこなら自分の勝ち」とルールを勝手に変更して、星を出して来ます。2回めは丸を出さないとゲームオーバーです。
星と四角しか持っていないリサさんは、最初に四角を出して勝つ以外の選択肢がありませんが、そこはそれ、ロガーンの啓示により(笑)、パラグラフ選択の正解が分かっていれば絶対に勝てる。1人遊びのゲームブックならそれでよくても、物語としては「これが正解です」と明かすだけでは非常につまらないと思ったので、いろいろ設定を考えました。
それぞれの札の意味と、シャリーラにとって、このカードゲームにどういう意味があるのかなど、物語を膨らませるための改変。元々、彼女は性格の悪い魔女で、主人公を悪意のゲームで痛ぶるのが好きな嗜虐的なところがあります。このカードゲームも、とっさに自分が有利になって、プレイヤーを心理的に痛ぶるためにアドリブで発案したのが原作ですが、当記事では「彼女が好きなカードゲームで、彼女の属する文化では神聖なもの」という扱いにしました。そして、原作よりも知的で真摯、だけど世間知らずで、ロガーン神のトリックには騙されてしまう面を持っている、というシャリーラの物語をどうぞ。
シャリーラ『先に確認するが、ルールは心得ておるな』
リサ「ええ。あなたはあたし。そのための知識をあたしに植え付けたんでしょう? でも、あたしはあなたじゃない。あなたほど完璧じゃないのは札が証明しているもの」
シャリーラ『よく分かっておるではないか。そう、そなたは完璧ではない。だから、わたしを受け入れて、一つになることがそなたの得にもなることを理解したであろう。このカードゲームは、そなたなりのケジメということだな。理解した』
リサ「どうとでも受け取ってくれていいわ。勝負は厳正に、ズルはなし。ロガーン神にかけて誓える?」
シャリーラ『誓おう。そなたも我が死の神にかけて誓うといい。勝負に負ければ、わたしと一つになって、その身を不死の世界に捧げる、と』
リサ「負けたときにはそうすると誓います。勝ったときは、あたしと仲間、3人の自由を保証して」
シャリーラ『勝者の権利は認めよう。ルールの確認はもういいな』
ここで、カードの意味の再確認ですが、丸は完全性の象徴で、FF的には技術点を意味します。FFのルールでは、運以外は技術点で、おおよそあらゆる行動を判定するようにできています。TRPGのAFFだと、技術点に細分化されたスキルを加えて、キャラのヴァリエーションを増やすとか、2版ではゲームブックの主人公ほど元の技術点が高くないので、スキルを加えて、ようやく専門分野でゲームブック主人公並みの成功率を確保できるとか、知識関連は魔術点で判定を代用できるとか、細かい差異はありますが、いずれにせよ、技術点の高さが一番、攻略難易度に大きな影響を与える、と。
次に四角が体力点で、星が幸運点を意味していると解釈しましたが、ではどの形が、どういう理屈で勝ちと負けを決めるか。
丸が星に勝つのは、同じ判定でも、運だめしは判定の場合に運が1点下がるのに対し、技術点判定は何のペナルティもなく、行える。明らかに技術点の方が優位です。運だめしは、それだけで運点が減るペナルティなので、運点の回復が保証されていない作品だと、運だめしは極力避けて通れ、という「冒険物語では非常につまらない攻略方針」になってしまい、残念感が増す、と。
四角が丸に勝つのは、体力点が尽きると結局、死んでしまうわけで、技術点がいかに高くても、冒険中のイベントや強敵との戦闘でダメージを積み重ねて、ゲームオーバーになるのは、体力点の問題。最も頻繁に変動する能力で、技術点は大事だけど、体力点はもっと大事という考えも一理ある(特に、体力点を消費して魔法を使うソーサリーのようなルールでは)。まあ、どんなに技や知識を蓄えても、死んだら冒険の成功者とは言えないってことで。
星が四角に勝つのは、運だめし一発で、体力点の残りとは関係なく、いきなり死亡というケースが、FFシリーズでは本当にしょっちゅうあるわけですね。初期はそれほどでもなかったわけですが、リビングストン作品では『死の罠の地下迷宮』以降、運だめし失敗による即死エンドが顕著に増えています。体力はいっぱいあっても、運が減ってくれば非常にドキドキしながら、どこかで運が上がるイベントに出会わないかなあ、と。
以上の、能力値と連動させて、カードゲームのルールと理屈を構築してみたわけですが、物語の結果はどうなったかと言いますと、当然のように四角を出したリサの勝ちです。問題はそのゲームの結果をどう物語に落とし込むか。
リサ「あなたが丸で、あたしが四角。どうやら、あたしの勝ちね」
シャリーラ『納得できん。どうして、そなたは星ではなく、四角を出したのだ? 四角より星の方が強いのは明白だし、そなたもあれほど幸運の星を吹聴しておった。星はそなたの象徴ではなかったのか?』
リサ「理由はいくつかあるけど、一つは、あなたが丸を出すと確信していたからよ。あたしがあなたなら、丸を持たない相手に対しては、負けないように星を出す。だけど、あなたはそういう堅実な手よりも、自分の完全さ、あたしに対する優位をひけらかすためにも、必ずあたしの持たない丸を出すと予測した。あたしの読みと、あなたに仕掛けた心理的誘導が功を奏した結果ね」
シャリーラ『心理的誘導だと?』
リサ「あなたの弱点は、思考が凝り固まりすぎて、柔軟さに欠けることなの。年を重ねたからか、世間に出ずに引きこもってばかりだったからか、その両方だかは分からない。だけど、他人の気持ちを察することができないでしょ?」
シャリーラ『そんなもの、【服従の首輪】を付ければ、他者の考えを読むぐらい造作もなく……』
リサ「あたしには【服従の首輪】が付いていない。だから、あなたはあたしの気持ちや考えが読めなかった。あなたがもしも、あたしの肉体を支配している際に、自分に【服従の首輪】を付けていれば、あなたは目的を達成できたかもしれない。だけど、あなたはそうしなかった」
シャリーラ『当たり前だ。すでに奪った体に【服従の首輪】を付けて、どうする?』
リサ「そうすれば、あなたがより容易く、あたしの心を掌握できたって話。でも、勝ちを確信したあなたは、あたしがしぶとく抵抗するってことを想定できていなかった。今まで抵抗される経験が少なかったからでしょうね。抵抗する者は、相手の気持ちを想像することもなく、力で排除してきたから。自分が圧倒的に優位な状況で、言葉巧みに相手を操作することはできる。だけど、あたしみたいに対等な相手に駆け引きを仕掛けるには、あまりにも経験が足りていなかった」
シャリーラ『そなたがあたしと対等だと?』
リサ「そう仕向けたのは、あなた。あなたはあたしに知識と経験、思考を植え付けようとした。己の器として一体化を容易にするために。だから、あたしはシャリーラのように考えることができる。今も、あなたをどう言葉で追いつめて、苦しめて、服従させて支配しようか考えているあたしがいる。あたしはシャリーラ、あなたにそうさせられてしまったの。悲しいことに(涙目)」
シャリーラ『それなら、何故に泣く? そなたがわたしなら、一つになれて喜ぶべきところではないか』
リサ「それでも、あたしはリサ・パンツァだからよ。あなたはリサのことを分かっていない。リサがシャリーラのことを分からせられた程にはね。あなたは自分が完全だとのぼせ上がっているけど、住んでいる世界が狭いってことね。自分の領域では全てを支配しているつもりだけど、ブラックサンドの盗賊たちのことを想像したことはある? アランシアの各地の村で平和に暮らしている農夫や狩人たちのことは? あなたに見えていないことはいっぱいあるの。あたしには、あなたの弱点がいっぱい見える。それを分からせられたから」
シャリーラ『そうか。つまり、わたしは自分の最大の敵を自ら作り上げてしまったのだな』
リサ「敵? いいえ、敵ではないわ。だって、あたしはシャリーラだから、自分を敵だと思えないもの。ただ、あなたの歪み、世界への悪意はそのまま引き継ぎたいとは思わない。だから、あなたの全てを抱え込むつもりはない。あたしにできるのは、あなたの一部を受け入れるだけ。それで良ければ、愛してあげる」
シャリーラ『わたしを……愛するだと? そなたが?』
リサ「ええ。あなたが愛を知らないから、愛に憧れ、それを求めていることは分かっている。あなたの涙は凍りついているかもしれないけど、愛に涙は付き物なの。あなたを想って、泣いてくれる相手が、あなたにはいる? それこそ、あなたが求める愛の真実よ」
シャリーラ『そなたは……わたしのために……泣いてくれると申すか?』
リサ「あなたのため。そして、あたし自身のためでもあるわ。だって、泣けない女になるつもりはないもの。それが、あなたと一つになれない理由」
シャリーラ『涙が、わたしを阻む壁になっていたとはな。思いもしなかったわ』
リサ「それと、あたしが四角を出した理由なんだけど、スタッブ君の象徴だからよ。あたしの好きな星じゃなくてね」
シャリーラ『ドワーフの! どうしてじゃ?』
リサ「あなたがよく知らない相手だからよ。あなたは生命を持たなくなって久しい。大地の恵み、生命の営み、肉の温かさや美味しいシチュー、そういうものが四角の意味なの。あなたが遠い昔に捨て去ったものだから、あなたにとっての盲点だった。相手の心理的盲点を上手く突くのは、こういうゲームの基本よ」
シャリーラ『なるほど。もう十分だ、リサ・パンツァ。たかが小娘と侮っていたが、わたしが与えた見識を吸収しながら、よくもそこまで舌が回る。そなたの才覚は、わたしが御し得るものでないことはよく分かった。そなたの勝ちだ。今は敗北を認めよう。友と仲良く旅立つがいい』
リサ「え? シャリーラ、もしかして……」
シャリーラ『勘違いするなよ。わたしは不滅。今は消えても、そなたの中に残り続けよう。刻印は植えつけたからな。此度の件で、ますますそなたが欲しくなったわ。しかし、今のそなたではない。この先、未来でもっと経験を積んで熟した折に、もう一度、尋ねるとしよう。我と一つにならんか? と。そなたの成長を心待ちにしているぞ。それまでは、しばしの休眠に入る。そなたの生は短かろうが、死が近づきつつある時に、また会おう。フフフ』
こうして、あたしとシャリーラは表面上の和解を遂げた。
だけど、シャリーラが含みを持って眠りに就いた意味を、あたしは知っていた。
死の呪い。
あたしとエルフに仕掛けられた彼女の罠が、遠からず、あたしに涙を流させて、シャリーラを喜ばせる結果になることを、あたしは感じとっていた。
彼女の嗜虐性はよく理解している。それでいて、彼女は愛に飢えて、純粋だ。
矛盾の多いような魔女だけど、それがシャリーラ。あたしの一部になった遠い姉。後で調べて分かったんだけど、確かに母の先祖は、シャリーラの妹に遡るらしい。
あたしは一人っ子だから、姉のことなど知らないし、シャリーラのことをお姉ちゃんとは決して思いたくないけど、おばさんというには世間知らずなところを多分に持ってるし。
もう、この田舎娘のあたしに世間知らずって言わせるんだから、相当なものよ。
そんなあたしとシャリーラの複雑な因縁の物語は、まだ少し続く。
広大なアランシアの旅とともに。
(当記事 完)