前回、ベーシックルールの紹介をするつもりが、何だか妙な脱線をして、「1レベル戦士がタイマンで大物のレッドドラゴンを退治するなら、どういう勝ち筋があるか」という妄想にふけってしまいました。
今回は、仕切り直してエキスパートルールに話を進めようかと思ったら、「いや、ちょっと待てよ。自分は確かレッドドラゴンと戦って、名誉の戦死を遂げたことがあるぞ」と封印していた過去の記憶がむくむくと蘇ってきて、今回はそういう話です。
背景としては、大学時代に入って、特に決まったゲームサークルに入ることもなく(高校時代の友人との数ヶ月に一度ぐらいのゲームプレイや、塾教師としてのアルバイト生活、大学での研究活動=海外文献の翻訳にハマっていて、相応に忙しい生活だった)、それでも、雑誌か何かで、「ゲームマスターやります。プレイヤー募集」という投稿を見つけて、近場なら連絡をとって参加する、という経験が2度ほどあったかな。
プレイはその場限りだったので、先方の名前も住所もきれいに忘れ去ったのですが、1度目は「盗賊パンサー」を、2度目は「戦士ライノス」をプレイ。
パンサーという名前は、友人A君がかつて盗賊シャークをプレイしていたので、その続きというか、まあ太陽戦隊のイーグル、シャーク、パンサーのノリですね。今だと、アメコミの黒豹を連想するのでしょうが。
ライノスは、まあ、猪突猛進のサイですね。こちらはライブマンだったかな。まあ、キャラ名だったらサイって名前でも良かったのだけど、当時は英語が格好いいという呪縛が強かったから、サイじゃダサい、と感じたりね(親父ギャグか)。
とにかく、NOVAのD&Dプレイヤー経験は、そのわずか2回だけです。それ以外は、全部ダンジョンマスター役ばかりでしたから。そうなってしまうと、他人のゲームマスタリングの粗が気になって仕方ない、プレイヤーとして楽しめない病にかかってしまい、プレイヤーをやりたいのにプレイヤーじゃ楽しめないというジレンマに立たされて、まあ、若い頃の不器用な感じ方だったわけですな。
以上、前置き終了。
★戦士ライノスの冥土への冒険
ええと、レベルは4か5ぐらいだったかな。(追記:後まで記事を書いてみると、レベル5だったと判明しました。仲間の魔法使いがライトニングボルトを打てるレベルということで)
キャンペーンゲームをやるならレベル1からじっくり育てて、ということでしょうが、単発プレイだと、エキスパートレベルに入ったその辺りが、キャラにもできることが増えて、楽しいからお勧め、ということですね。当時のクラシックD&Dでは。
仲間にどういうキャラがいたかも忘れました。みんな死んじゃったもん。いきなりキャラが死んで、しかもパーティー全滅ってどういうことよ、ダンジョンマスター(DM)さん。
いや、さすがにその時のDMも全滅させるつもりはなかったと思うけど、だったらレッドドラゴンなんて出すなよ、と。
どんなストーリーだったか、記憶に相当の脚色を加えて再現すると、
近所にドラゴンの住むという火山を擁する、とある地域。そこでは最近、二つの国が戦争をして、一方が滅ぼされたという状況があって、結構、不穏な社会情勢だったわけですな。そこで乱世に乗じて、大なり小なり名を挙げるなり、一攫千金のチャンスを狙うなり、困っている善良な民を助けて自分の義侠心を満足させるなり、それぞれの思惑を胸に冒険者が集まった、と。
とりあえずは、ワクワクする設定だ。DMナイス。
で、名前もよく知らないまま意気投合した冒険者パーティー。
というのも、その時のプレイではDMの自宅なんだけど、プレイヤーが囲める大きなテーブルがなく、プレイヤー各人が大部屋の中の空いたところに適当に座って、自分のキャラクター用紙と、DMの語りだけ聞いて、脳内で想像力を膨らませるざっくばらんなカジュアルプレイ、と。
パーティーそれぞれ、DMからそれぞれに与えられた装備品やマジックアイテムのデータを確かめ、仲間の職業ぐらいは確認し、一応自己紹介ぐらいはしたものの、プレイ時の呼称は「戦士どの」「おい、盗賊」「魔法使い君」「僧侶さま」ぐらいの認識ですな。エルフとかドワーフといった亜人がいたかも覚えていないし、パーティーの人数も何人いたかははっきりしない。主要4職が揃っていたのは間違いないけど。
街中で大きなイベントは二つ。
商人「ヘイ、そこの冒険者の旦那たち。すごい掘り出し物はいらんかね。いや、その昔、ドラゴンを一撃で倒したという伝説の剣ですけどね。それが今だとお買い得価格で、これだけですわ」
ライノス「何だか怪しいな。それ、本物かよ」
商人「もちろん、本物ですわ。最近、街の工房が、その時の剣の性能を研究し、特殊な鉱石を使って量産できるようにしたのですわ。だから、一本だけじゃなく、何本かあって、お買い得と」
ライノス「DM、戦士の目でその剣の性能とか、鑑定できる?」
DM「知恵で判定してみて。成功した? だったらショートソード+1ぐらいの性能じゃないか、と分かるね」
ライノス「ショートソードかあ。俺、ロングソード+1持ってるし、いらない」
盗賊「だったら、俺が買うぜ。俺は魔法の剣を持っていないから、戦力の足しになるしな」
その後、街でならず者に絡まれている高貴そうな女性の一行を親切心で助けてやると、彼女が亡国のお姫様だということが判明。追っ手から逃れて国を脱出するのに協力してくれ、と頼まれたので、「困っているお姫様を助けるのは勇者の使命。あわよくば、国を再興して、その暁に取り立ててもらえる可能性も……」と、多少の親切心と相当の打算から、依頼を受諾しちゃいます。
DM「姫さまの言う脱出ルートは、ドラゴンの住む伝説の火山地下の大洞窟だね。そこなら、追っ手も来れないだろうということだ」
魔法使い「ちょっと待ってくださいよ。ドラゴンなんて、我々に勝てるのですか?」
盗賊「心配するな。俺はさっきドラゴン退治の伝説の剣を買ったからな」
ライノス「おい、それって、ただのショートソード+1だろ?」
盗賊「俺のキャラはそんなことは知らない。いい物が手に入ったと思い、大事に磨いてる」
僧侶「ドラゴンかあ。色は?」
DM「伝説では、赤らしいね。ここ十年以上の間、姿を見せていないらしいけど」
ライノス「って、伝説では倒されたんじゃないのかよ。まだ生きてるってのか?」
DM「さあ、何しろ、姿を見せていないからねえ。街の人に聞いても、これ以上のことは分かりそうにないよ」
ライノス「プレイヤー知識だと、レッドドラゴンはHD10だ。我々はレベル5前後だから、まず勝てない。俺レベルの戦士が5人ぐらいいれば何とかなるかもしれないけど、犠牲者は確実に出るよな」
盗賊「大丈夫。俺の剣でサクッと一撃……」
魔法使い「昔話の夢物語は後回しにして、現実的に考えましょう。わざわざ危険から逃れて、より厄介な危険に踏み込むのはどうかと思うんですけど」
僧侶「そうだよね。避けれる危険は避けた方がいい。ましてドラゴンなんて」
ライノス「白とか黒、せいぜい緑ぐらいだな。『ロードス島戦記』という昔聞いた物語では、確かレベル7か8ぐらいでブルードラゴンと戦ったらしいし、それなら妥当だろうと思うけど」
DM「ロードスかあ。懐かしいなあ」
ここでプレイは一時中断し、各人のD&Dとの馴れ初めなど話したり、ゲーム知識を披露し合ったり。
魔法使い「ここはリーダーに決めてもらいましょう。戦士さん」
ライノス「俺? いつの間に、俺、リーダーなの?」
魔法使い「だって、TRPGでは、戦士がリーダーってのが常識じゃないですか」
ライノス「いや、それは分かるけどさ。リーダーかあ、うーん。よし、やってみよう。ええと、ドラゴンが生きているかどうか周辺情報を歩いて探り、ついでに、できればドラゴンの洞窟とは違う脱出ルートが他にないのか当たってみる、というのはどうだろうか。それで本当に止むを得ない状況になったら、DMの用意しているドラゴンの洞窟ダンジョンに仕方なく足を踏み入れるのもやぶさかではない、ということで」
DM「さっきからメタ発言多いなあ。そんなにややこしく考えなくても、素直にダンジョンに入ったらいいのに」
僧侶「いやいや、いくらD&Dでも、ドラゴンがいきなり出てくるのは想定外だよ。ダンジョンに入って、ドラゴンと出会うのは面白そうだけど、邪悪な赤相手だからなあ。せめて、中立の白と青だったら、交渉で切り抜けるってことも考えられるけど」
盗賊「みんな詳しすぎ。とりあえず、さっさと話を進めようや。戦士の意見でええんちゃう?」
魔法使い「まあ、問題ないと思いますね」
ライノス「ありがとう。それじゃ、追っ手を避けながら、ドラゴンの洞窟の周辺を歩き回って様子を見る。DM、これでいい?」
思えば、この時、パーティー各人の戦闘能力をきちんと把握していれば良かったんですね。
自分がリーダーだったら、それを提案してみるのも良かったのかもしれないけど、それぞれのプレイヤーは、自分の能力のことしか気にしてなかったし、こちらも、魔法使いや僧侶がどんな呪文を覚えているのか、DMからどんなマジックアイテムを託されていたのか、いろいろ知らないことが多すぎた。
もちろん、ロールプレイ優先なら、呪文に詳しくない戦士が仲間の魔法使いや僧侶の専門分野に干渉して、あれこれ口出しするようなプレイは間違っていると思うし、
ゲーマー志向なら、ルールに詳しい人間が、キャラのロールプレイとは切り分けたところで、味方の戦力を把握して、押し付けにならない程度の提案をするのはあり、と思います。
まあ、その時は、互いのゲーム知識の披露もしながら、初対面のパーティー同士の不思議な連帯感はできていたので、自分のキャラの能力ぐらいは把握しているだろうとか、DMも初対面なんだから、そこまで無茶な展開はしないだろう、という安心と信頼、そして油断がありました。
しかし当時のD&Dでは、システム的にそういう油断は往々にして身を滅ぼします。経験者は語る、と(つづく)