一回の記事で話をまとめるつもりでしたが、思ったよりも長くなってしまったので、きちんと最後まで一つのお話として成立させようと思います。
考えてみれば、商業用リプレイで、パーティー全滅バッドエンドで終わった作品は見たことがないですし。
パーティー全滅ではないけど、物語のキーになるキャラが死亡して、世界が闇に閉ざされたセブンフォートレスとか、
主人公格のキャラクターが闇落ちしてしまい、彼をラスボス的立場として救いの道を模索したダブルクロスとか、
第1話で主人公格の戦士がいきなり戦死してしまい、その彼を生き返らせることが目的となったクリスタニアとか、さらに、復活した主人公が復活のために使った借金を返すために、新たな仲間と冒険を繰り広げる続編とか、
まあ、ゲームならではのハプニングを、ストーリーの牽引力に使った商業リプレイはいくつかあって、最近もソード・ワールド2.0で、主人公貴族の御曹司の没落と死から始まる話があったよなあ、と思いながら、
でも、パーティー全滅して、物語が宙ぶらりんのまま完、となった作品は読んだことがない。まあ、当たり前ですな。そういうバッドエンドって失敗なわけだし、失敗してフォローもない物語を商品にすることなどできない。『TRPG全滅リプレイ集』なんてものに需要があるとは考えられないし、わざわざ全滅した物語を記事にしたい、と考える書き手も少ないんじゃないか。
確実にニッチな分野ですね。
面白い。
世の中にそういう作品がないなら、自分が書いてやる。そんな使命感に駆られての続編です。
……花粉症で頭が正常に回らないと、ろくなことを考えないなあ。
★戦士ライノスの冥土への冒険2
亡国のお姫様を連れて、追っ手の追跡を逃れることになった、我がライノスと名もなき仲間たち。ええと、盗賊と魔法使いと僧侶だけ覚えている。他にもいたかもしれないけど、みんなドラゴンの炎で消し炭になったもんだから、物語には登場しなくても問題ない。
いや、そのときに一人ぐらい生き延びていたら、もしかするとドラゴンを倒せたかもしれないのにさ。
とにかく、ドラゴンの洞窟に潜るのは最後の手段と考え、他に安全な逃げ道を探してみるわけですが、森に逃げては追っ手の待ち伏せを受け、街道を進むのは論外で、もうDMの「早くダンジョンに入れ」という悪意、いや、運命の導きに従い、いやいやダンジョンに入るわけです。
この場合、死の神の導き、といった方がいいのかもしれませんが。
なお、いきなり脱線ですが、最近また、じっくり読んだドラゴンランスの英文シナリオ集。
これは小説『ドラゴンランス戦記』の初期の冒険を再現できる代物で、87年に富士見文庫から刊行されていった小説本の人気が高いうちに和訳されることを期待していたら、まあ、無理だったわけで、90年代に4つのシナリオがセットになって出ていたのをホビーショップで見つけたから、その際に衝動買いしたもの。
最近、本棚の奥に眠っていたのを発見して、英語の日々のトレーニング用に読んでいたら、分かったこと。
最初のシナリオでは、失われた神々の遺産を求めて、黒竜の巣食う廃都ザク・ツァロスを探索するのがクライマックスになるわけですが、そこにたどり着くまでは自由に野外マップを旅できるんですな。
だから、小説とは違う流れに進むことも可能で、まあ、ドラコニアンという竜人が戦争の準備をしたり、侵攻してくる中を縫って、安全なところに逃げようと旅する一行が、周囲をじわじわと取り囲まれていくうちに、やっぱりザク・ツァロスへ行かないとどうしようもないという状況に追い込まれる、あるいは誘導される、と。
今回のライノス(故人)の冒険も、成功できなかったドラゴンランスの亜流程度に考えてみると、何だか格調が増すような気分。
ライノス「やはり、この洞窟を抜けないとどうしようもないようだな」
DM「そうだね。では、ダンジョンに入るでいいかな」
ライノス「ああ、隊列は、と」
その辺はプレイヤー経験が少なくても、DM経験があれば迷宮探索の作法は十分心得ております。盗賊に明かりを持たせたり、各自の装備品を確認したりしながら、てきぱきとダンジョン探検に突入。
そして途中省略して、DMがクライマックス前に用意してくれたであろう休憩部屋で回復したりしてから、ついにドラゴンの部屋に足を踏み入れます。
DM「では、君たちの前にレッドドラゴンがいるよ」
ライノス「ちょっと待てよ。いきなり、目の前にいるの? 何の前振りもなし? 煙の臭いとか、周囲の気温が上がっていく様子とか、そういうのは一切なし?」
DM「じゃあ、そういう雰囲気を感じながらまっすぐ歩いてきたということで、今、ドラゴンと対峙しているわけだ」
ここで、もう少し粘って、ドラゴンと対峙する前の準備時間を確保すれば良かったんだけど、まあ、ライノス(ぼく)としても、DMの描写不足をなじるような形になっていたので、ちょっと遠慮して、DMの物語の続きを聞くことにしたのですね。
DM「ドラゴンは君たち、突然の侵入者の登場に、警戒心と若干の好奇心をしのばせて発声する。『卑小な人間風情が、我が住処に何用だ』」
盗賊「いや、俺たちはしがない、ただの通りすがりで」
ドラゴン「こんなところを通りすがる奴がいるか」
確かに、ごもっとも。まあ、この辺のやり取りはお約束ギャグということで。
ドラゴン「大方、わしの蓄えた財宝を狙いに来たコソ泥の類いだろう」
僧侶「コソ泥だって」(盗賊に視線を向ける)
魔法使い「確かに、そうですね」(盗賊を見る)
盗賊「いや、ちょっと、そりゃ否定はできないけどさ」
ドラゴンの前で、コントを始める冒険者たち。まあ、その辺は関西人の魂ってもので。
ドラゴン「お前たち、ふざけているのか?」
ライノス「とんでもない(と、ドラゴンに答えておいてから、DMに)ここからプレイヤー発言ね。みんな、ちょっといいかな。ここは各人バラバラにしゃべっていても、話がうまくまとまらないと思うんだ。一応、リーダー役の俺が代表として、交渉役をやろうと思うんだけど、任せてもらえないだろうか」
僧侶「何か考えがあるのか」
ライノス「とりあえず、時間稼ぎを試してみる。今のまま、全員が固まっていれば、ドラゴンブレスで皆殺しになるだけだ。俺が喋りながら、ドラゴンの目を引きつけている間に、魔法使いは姫さまと一緒に後ろに後退。盗賊は、ハイド・イン・シャドーで影に隠れられないか試してみて。僧侶さんは……」
僧侶「ぼくは残るよ。みんながみんな、一斉に後退すればドラゴンにバレるし、いざという時に回復役が近くにいる方が安心だろう?」
ライノス「うーん、回復呪文の効果範囲は接触だからな。じゃあ、移動距離の届く範囲にいて。20フィートか30フィートだったと思うけど」
僧侶「プレートとか荷物が重いから、20フィートだ」
ライノス「じゃあ、それぐらいの距離で」
盗賊「あのう、俺、明かりを持ってるんだけど、隠れる時の邪魔にならないかな、これ」
ライノス「その場に適当に置いておけばいい」
DM「(しびれを切らして)あのさ、そろそろ、待たされているドラゴンの堪忍袋の緒が切れそうなんだけど」
ライノス「じゃあ、今までの会話はアイコンタクトで指示したということで(笑)」
DM「ずいぶん都合のいいアイコンタクトだなあ」
ライノス「まあね。では、ドラゴンの前に堂々と踏み出して、高らかに訴えるとしよう。おお、偉大な竜の種族の王よ。汝は我らをコソ泥と疑うておろうが、コソ泥なら御身の前にここまで堂々と姿をさらすことはあろうか。我らは御身と交渉に参った」
ドラゴン「下賎な人間風情が、我と交渉とは片腹痛いわ。とっととこの場より立ち去るがいいわ」
盗賊「立ち去っていいのか? 出口はどっちに?」
DM「もちろん、ドラゴンが示すのは、君たちが入ってきた方だ。ただ、その反対側、ドラゴンの背中側にもう一方の通路が開いているのが見えるね」
盗賊「だったら、そこまで上手く逃げ延びればいいわけか」
DM「そんなに都合よく行かないよ。ドラゴンは君たちの前に立ちはだかり、背後の通路には通さない構えだ」
ライノス「それなら続けて言うよ。おお、偉大な竜王よ。御身は我らを下賎な者と侮るが、我らの中には人の世の王国の王女が随行しておられる。王女は諸々の事情があって、国を追われ流浪の身に陥っているが、御身の噂を聞いて、庇護に預かれぬか、あるいは、この場を逃れて洞窟の奥の地へと向かえぬか、と考えておられる。王女の敵は、軍勢を揃えて御身の洞窟を今や荒らそうと企てておる。我らは御身を害するつもりは毛頭なく、むしろ御身の敵が侵入するのを警告に参った次第。もしも、御身が王女の願いを聞き届けて、御身自身にも害なす敵を共に倒そうとするならば、いや、ここを通してくれるだけでも構わない、さすれば王女と我らは感謝して、王国の財宝の一部を御身に進呈しようぞ」
DM「ちょっと、よく、そんなに舌が回るなあ(感心したのか、呆れたのか)」
ライノス「いや、一応、小説家志望なんで、騎士道文学なんかを研究しました(笑)」
僧侶「それにしても、そんな約束、勝手にして大丈夫か? 王国の財宝の一部とか……」
ライノス「王国は滅びたんだろう? だったら、その財宝は誰が持っていると思う?」
僧侶「敵国か。もしかしてドラゴンを敵国にけし掛けようとしている?」
ライノス「うまく行けばね。ま、当面はこの場をしのげればいいだけなんだけど」
盗賊「戦士どの、お主も悪よのう」
ライノス「いや、俺はローフルだし、約束事は守るつもりだよ。それに嘘はついていないと思うんだけどなあ」
DM「分かった。ドラゴンは君の交渉に興味を示して、こう言った。『王国の財宝か。ならば、前報酬として、何らかの品は持参しているのであろうな。それを示すがいい』」
ここで交渉が行き詰まります(苦笑)。誰も、ドラゴンに渡すような価値ある品物なんて、用意していないわけで。
ライノス「(仲間に)何か持ってる? 自分が持っているマジックアイテムは、武器とか鎧とかだけだし」
僧侶「ぼくも回復アイテムしか持ってない」
魔法使い「呪文の巻物とか、そんなんじゃダメですよね」
盗賊「ああ、俺、いいもの持ってるぜ」
ライノス「おお、さすがは盗賊。何かのお宝か?」
盗賊「いや、違うって。俺が持っているのは、竜退治の伝説の剣だ。これなら交渉材料にぴったりだ」
思うに、何でこの場で誰も姫さまに訊ねようとしなかったのか。姫さま、ちょっと影薄すぎ。
そして、盗賊の発言が、我々に破滅をもたらすことに。
ドラゴン「竜退治の剣だと? やはり、貴様らは嘘つきのゴロツキどもであったか。我の命を狙いに来たか。そうはさせん。貴様ら、皆殺しにしてくれよう」
怒りに駆られた真っ赤な目を獲物たちに向け、巨大な顎がガバッと開き、灼熱の炎の予兆が煙となって渦巻き始める。そして、地獄の業火が放たれようとした。
(つづく)
次回、死闘と、全滅、その後の反省会まで書いて、この物語を完結させるつもり。