「地獄の館」以来の攻略……でごわす
カニコング「今回からはしばらく、元キングであった吾輩が返り咲き主役でごわす」
アスト「ええと、前にプレイしたのは『地獄の館』だったな」
ダイアンナ「ああ。萌えヒロインがどうこう息巻いていた怪リプレイか」
カニコング「怪リプレイなのは当然。奇才スティーブ・ジャクソン氏が構築したホラーゲームブックでごわすから、リプレイが幽霊だらけの怪奇風味になるのは必然のことでごわそう」
アスト「いや、ジャクソンのせいにするなよ。あのリプレイが、あれだけカオスなことになったのは、お前が変なキャラ立てをしたせいだろうが」
カニコング「お褒めに預かり、恐悦至極!」
アスト「褒めてねえ。今度は、まともなリプレイになるんだろうな」
カニコング「フッ、この吾輩がまともなリプレイを求められていると思うでごわすか?」
ダイアンナ「……キングの称号を剥奪されたカニに王道を求めてもダメってことか」
カニコング「王の座を剥奪された吾輩が、熱帯の島を征服したトカゲの王に名誉挽回のバトルを挑む正統派熱血王道冒険譚……を期待している読者には悪いでごわすが、今回はそういう話ではない(断言)」
アスト「カニコングVS爬虫類の王……って展開にはならないのか」
カニコング「そういう王道怪獣バトル映画が見たければ、これを楽しみにするでごわす」
アスト「もしかして、トカゲ王を偉大な怪獣王にして、アカデミー賞主演怪獣の栄誉に輝いたG様になぞらえているんじゃないだろうな」
カニコング「いや、そんな畏れ多いネタにはできないでごわすよ。しかし、トカゲ王VSコング(with小猿)というシチュエーションや、密林の島という舞台設定など、本作は実にコング映画の文脈にも沿ったゲームブックではごわさんか。吾輩は、リビングストン氏のコング愛に感服したでごわす」
アスト「別に、リビングストンがキングコング好きというソースは一つもないんだけどな」
カニコング「作品を通じて、妄想を膨らませるのは読者の自由でごわす」
ダイアンナ「少なくとも、ドラゴンとか翼竜とか地底怪獣みたいなのは、リビングストン作品の定番だと思うけどね。恐竜とか怪獣好きなのは察しが付くと思う」
カニコング「とにかく、『トカゲ王の島』という作品は、熱帯の島を舞台に、現地の未開人や巨大化した熱帯生物や恐竜、そして疫病に怯えたり、サバイバルを頑張ったり、野外冒険や鉱山探索など、盛りだくさんの冒険譚でごわすよ。他の作品とあまりリンクしておらず、一作で完結した広がりの薄さゆえ、過小評価されているでごわすが、冒険物語としてのまとまりの良さでは、非常に盛り上がる作品と感じた次第」
アスト「『アランシアの暗殺者』の序盤の島でのサバイバルを、1冊丸ごと展開したような作品とも言えるか。オレとしては、終盤の反トカゲ王の旗印を掲げた鉱山奴隷の蜂起のシーンが、印象的だったと記憶するが」
ダイアンナ「へえ。圧制に対する大規模な反乱を扇動する主人公の話ってことかい? ゲームブックでは珍しい展開だと思うけど?」
カニコング「基本的に一本道で、ストーリーの完成度は高いと思うでごわすが、ゲーム的な仕掛けの要素が薄くて、単調なバトルの繰り返し……と感じさせる作品と見なす者もいよう。ただ、丁寧に物語を追って行くと、豊富なイベントが用意されていて、野外冒険としてはリビングストンの既作に当たる『運命の森』よりも進化発展しているのが分かるでごわすよ」
アスト「『死の罠の地下迷宮』同様、1984年の作品だから、これも今年でちょうど40周年か。ジャクソンが『ソーサリー』の2巻と3巻を発表した年に当たるな」
カニコング「広い未開地をラスボスのいる目的地に向けて旅する展開は、ソーサリーの1巻や3巻に通じるものがあって、海岸、密林、沼地、山岳地帯、火山といった地形の変化や、それに伴うイベントの数々など、オープンアドベンチャーとしては非常にヴァリエーションに富んだ作品とも言える。D&Dで言えば、青箱エキスパートルールをたっぷり使いこなした一大キャンペーンをたったの一作で体験できるので、野外冒険のイメージソースとして良いテキストと言えたでごわそう」
アスト「『ソーサリー』が先に盛りだくさんの野外冒険を、より派手に大掛かりに先行して発表したから、地道にコツコツ土台を積み重ねていく志向のリビングストンが後塵を拝した形になるのか」
カニコング「舞台となる火山島の物語が、他の作品ともあまりリンクしないために、『危難の港』でNPCのマンゴが顔見せするまで、作品が忘れられがちだったという事情もあったか、と」
アスト「トカゲ王というボスキャラが、主人公とコミュニケーションを交わせない異種族だから、物語的に地味というのもあるな。しょせんはゴンチョンという寄生虫の傀儡だったわけだし」
ダイアンナ「ゴンチョン? 何だ、それは?」
カニコング「エースよ。ネタバレは良くないでごわすな」
アスト「おっと。表紙絵に載ってる、節足動物みたいな頭飾り(変なデザインの宝冠に見える)が生き物ということで、トカゲ王を無敵強化している元凶なんだ。この寄生怪物のゴンチョンが本作一番のどんでん返し的な存在で、後にゲームブック『ドルアーガの塔』でも〈ゴンコーンの剣士〉という敵キャラがオマージュ採用されている」
カニコング「だから、準備編で、いきなりラストのネタバレをするなよ。興を削ぐでごわす」
アスト「40年前のゲームブックのネタバレぐらいで、興が削がれるかよ。それより、せっかく攻略記事にするんだから、当ブログならではのオリジナリティを見せてくれるんだよな」
カニコング「フッ、それなら任せるでごわす。吾輩ならではの攻略記事で、他にないツボを突いてみせよう」
ダイアンナ「どんなツボか分からないのは不安なので、リバT、カニのお目付けを頼む」
リバT『かしこまりました、マイ・クイーン』
当記事の主人公
リバT『では、クイーンのご下命により、私めもGMめいた解説役を担当させていただきます。まず、本作の背景を読むと、前作「死の罠の地下迷宮」の直接の続編とも読めますね』
アスト「『盗賊都市』が5巻で、『死の罠の地下迷宮』が6巻で、『トカゲ王の島』が7巻。ここまで、リビングストン作品が連続して続いているんだな」
ダイアンナ「『死の罠』の方は、『盗賊都市』のトロール衛兵サワベリーの姉アイビーの登場で、世界観がつながっていることを感じさせ、後に『アランシアの暗殺者』でブラックサンドとファングの街の領主のコラボが実現したりもした」
リバT『そして、背景では〈オイスター湾〉(旧訳ではオイスター・ベイ)がブラックサンドから南へ100キロほど離れた田舎の漁村だと最初に記されています。主人公は、北のファングから南へ旅をして来て、昔の冒険仲間マンゴの暮らしている〈オイスター湾〉に到着したところから、今作の物語が開始されるんですね』
ダイアンナ「あたしのリサ・パンツァは、『雪の魔女の洞窟』に向かうために北へ向かって旅立ったけど、南へ向かう可能性もあったのか」
リバT『もしも、リーサン・パンザが謎かけ盗賊に拉致されずに、「死の罠」に挑戦していたら、その後、「トカゲ王の島」で旧知のマンゴと再会する物語に展開できたのかもしれません』
アスト「マンゴとは『危難の港』で会ってるもんな」
カニコング「しかし、リーサン・パンザは謎かけ盗賊に拉致されて、さらに南に失踪中ということが、当ブログの公式ストーリーになってしまったので、吾輩は違うキャラを用意することになった。その名は……」
アスト「その名は?」
カニコング「『地獄の館』から脱出した蟹座の聖闘少女キャサリンでごわす。技術点11、体力点は18から成長して20、運点11のキャサリンが、時空の壁を通り抜けて、アランシアの世界に降臨したでごわすジャン」
アスト「ちょっと待て。『地獄の館』と『トカゲ王の島』には全く接点がないだろう? 作者だって、ジャクソンとリビングストンで違う話だし、どうやって80年代の現代社会からアランシアにやって来れるんだよ!?」
カニコング「では、その複雑怪奇な時空転移の物語を披露するでごわす」
聖闘少女キャサリンの奇妙な冒険の幕開け
恐るべきドラマー館が、俺の目の前で燃えていた。
〈地獄の館〉の異名を持つ館の主人、ケルナー伯爵と、彼が真に仕える(執事のフランクリンズに擬態していた)地獄の悪魔(ヘルデーモン)は共に滅び去った。女神(アテナ)の加護を宿して、蟹座の聖衣(クロス)に変形した聖剣クリスナイフの力によって。
館の呪いは炎で浄化され、全ては終わった……と思われたその時、研ぎ澄まされた俺のカニ座イヤーには死者の霊魂の声が響き渡ったジャン。
『アポリョン、アザツェル、メフィスト……』
それは異界の悪魔の名前だった。まるで、邪念の主が魔界から強力な魔神を召喚するかのような声が、燃える館の中から響き渡る。
地獄の主はまだ滅びていなかったのか?
疲れ果てた体に鞭打ち、もう一度、小宇宙(コスモ)を高めようと、カニ座に由来するファイティングポーズをとってみせる。
カニ座の中心にあるプレセペ星団……漢語で積尸気とも呼称される無数の星々を描くように、目に見えぬほどの高速で指を蠢(うごめ)かす。その動きたるや、素人目にはカニの五対の節足がワシャワシャと不規則に、無秩序に、おぞましい動作をしているようにしか映らないらしいが、実のところは非常に計算された動きで、威圧と調和のリズミカルな連弾を奏でているわけで、とにかく冥界の門を操作するカニ座の技の習得は大変ってことジャン。
『アバッドン、ベリアル、タティヴィラス……』
悪魔の名前がこだまする。
しかし、そのようなまやかしに気を逸らされる俺じゃない。見習いとは言え、カニ座に憧れる聖闘少女(セインティア)として、デスマスク先生のことを影からこっそり見つめ続けた、このキャサリン、積尸気の奥義を完成させるまでは耐えてみせる。
『エブリス、アスモデュース、マモン、シェイタン、ディアボラス……』
一体、どういう呪文だ?
何かの悪魔を召喚するなら、普通はどれか一つに集中するものだろう?
適当な悪魔の名前を羅列するだけで、召喚されることなどあり得ない。例えば、女神(アテナ)の加護を祈るなら、何度もその名を呼ぶだろうに、「アテナ、ポセイドン、ハーデス、アルテミス、アポロン、ゼウス……」と神さまの名前を次々と羅列しても意味がないと思うんだけど?
そんな雑念にわずらわされながらも、手慣れた動きで積尸気の星々を描いていく。デスマスク師匠なら、とっくに完成させていたんだろうなあ、と思いながら、見習いじゃ瞬時に小宇宙(コスモ)を高めることなんてできるはずがない。
それでも、多少の時間は要した上で、ついに十分な昂りに達した。
これで、すぐにも技が発動できる。しかし、カニ座の奥義、冥界破を何にぶつけたらいいんだ?
声はすれども姿は見えず。
何とか敵の小宇宙(コスモ)をつかもうとしたけれど、どうにも未熟な俺には察知できないジャン。
館で知り合った守護聖霊たちに助けを求める。
『もしかして、敵の居場所も分からないのに、小宇宙を高めたんですか?』
呆れたようなカニ子の声。
(イザとなったら、燃えている屋敷ごと冥界破を撃てばいいだけの話ジャン)
『そんな乱暴な。良い霊も、悪い霊もみんなまとめて地獄送りになってしまいます……』
(大の虫を殺すには、小の虫などいちいち構っていられないジャン)
『そんな大雑把な聖闘少女(セインティア)だから、今だに見習いから昇格できないんですよw』
『コクコク……プッ』
何だか2人そろって、バカにされたような声。
こいつら、まとめて冥界破で吹っ飛ばしてやろうか。
そう思いかけたとき、ついに敵の呪文が完成したようだった。
『バルサス!』
その名が轟いたとき、暗黒が視界を覆った。
目、目がッ!
思わず、視力を奪われたかと思ったけど、そうではなかった。
燃える館の中心に、突然、虚無のような空間が発生したのだ。
突如、湧き上がった膨大なエネルギーの渦。
何だかよく分からないけど、暗黒空間がもの凄い重力で、こちらを吸い込みにかかっている。
抵抗するためには、冥界破を撃つしかない。
だから、昂った小宇宙(コスモ)と共に撃ち放った。
メーイーカーイーハァーーーッ!
目前で、地獄のエネルギーと、冥界のエネルギーが激しくぶつかり合うのを感じた。
轟音とともに屋敷が崩壊する。
衝撃とともに、俺も吹き飛ばされて、にわかに発生した次元の狭間に飲み込まれて行く。
こうして、ドラマー館はこの世から消滅し、俺も地獄送りは免れたものの、バルサスという名の悪魔の故郷である異世界に飛ばされることになったわけジャン。
マンゴとの出会い
カニコング「以上が、キャサリンがアランシアに迷い込んだ経緯でごわす」
アスト「確かに、『地獄の館』の2階には、バルサスの名前が書かれた扉があったけどさ」
カニコング「『地獄の館』の異界の悪魔を召喚する魔力と、聖闘少女の冥界送りの秘技がぶつかれば、その激突で彼女がアランシアに飛ばされても納得ができるというもの」
アスト「まあ、今の世の中、トラックにはねられただけで、簡単に異世界転生できるらしいからな。オレも時空魔術で未来に飛ばされた経験がある以上、『地獄の館』の世界から、アランシアに飛ばされることぐらいは許容してやるとするか」
カニコング「要は、どれだけ無茶な理屈でも、物語として面白ければ、読者は納得してくれるでごわす」
ダイアンナ「面白ければね。で、アランシアに飛ばされたキャサリンはどうなったんだい?」
カニコング「〈オイスター湾〉の浜辺に打ち上げられて意識を失っていたキャサリンは、運良く通りかかったマンゴに拾われて、世話になったでごわすよ。そして、〈オイスター湾〉が火山島のトカゲ王の手下に襲撃されて、若者たちが鉱山奴隷として連れさらわれた話を聞いたキャサリンは、命の恩人のマンゴに一宿一飯の恩義を返すため、さらに女神(アテナ)の正義を果たすために、邪悪なトカゲ王を倒すべく敢然と立ち上がったでごわす」
アスト「しかし、キャサリンはよく異世界のアランシアにすぐに順応できたもんだな」
カニコング「そりゃ聖闘士の世界観では、古代ギリシャや北欧神話のファンタジー世界は当たり前でごわす。火山島と言えば、デスクイーン島やカノン島などのケースもあるし、トカゲ人も要は暗黒聖闘士みたいな連中でごわそう」
リバT『なお、「トカゲ王の島」が社会思想社から初めて翻訳出版されたのが1985年12月で、同時期に「聖闘士星矢」の連載がジャンプ誌上で開始されています。その意味で、トカゲ王と星矢はリアルタイムに同時期の作品と言えるわけですね』
アスト「同時代作品の縁か。とにかく、浜辺に打ち上げられたキャサリンをマンゴが助けた縁で、彼の村を襲ったトカゲ王から捕まった村人を助ける話につながるわけだな」
カニコング「地獄の悪魔さえ倒した聖闘少女だから、たとえ異世界だろうと、女神(アテナ)の加護の元、必ず悪を倒すでごわす」
リバT『ああ、この世界の女神はアテナではなくて、リーブラですから』
カニコング「リーブラは正義と真実の神と聞く。ならば、属性としてはアテナとそう隔たってはいないでごわす。アテナ信仰が、この地ではリーブラ信仰として伝わっているのだろう、と考えて、リーブラを通じてアテナの小宇宙(コスモ)が届くと思う」
リバT『普通は世界が変われば、信仰の形態も大きく変わるのだとは思うのですけどね。ただ、「トカゲ王の島」ではそれほど神々の物語が前面に出て来ない作品ですので、女神アテナ信仰も個人の妄想、ただの物語フレーバーという形で処理させてもらいます』
カニコング「まあ、何でもいい。要はトカゲ王を倒して、この地を平和にして、自分の世界に帰ればいいのだろう。そのために聖闘少女が召喚されたのだと、自分の都合よく考えておくでごわすよ。それ以上、ややこしく考えるのは苦手だからな」
リバT『では、マンゴさんの漕ぐ小舟に乗って、火山島に向かうところから冒険が始まるってことで、パラグラフ1番につづく』
(当記事 完)