攻略記事ではない作品感想話
NOVA「さて、去年の年末に書こうと思って書けなかったゲームブック感想文だ。『巨人の影』みたいに地の文で行こうかとも思ったんだが、会話形式の方がしっくり来ると考えた」
ダイアンナ「主人公が、『盗賊剣士』のヒロイン、ニナの妹のミナ・ガーデンハートだから、あたしがプレイする予定だったんだね」
NOVA「だけど、実プレイして向かないと思った」
ダイアンナ「どうして?」
NOVA「吸血鬼退治の話になるからな。そして、そのボス敵とも言うべき吸血鬼マルティン・ローズが、あまり格好よくないから、吸血鬼を美化したい層にはがっかり感がある。そして、これは俺の勘違いだったんだが、タイトルの『狂える魔女のゴルジュ』が敵ボスの名前で、吸血魔女に萌える話を期待したら、そうじゃなかったんだな」
ダイアンナ「敵は魔女じゃない?」
NOVA「後書きによると、魔女とは主人公のミナのこと。行方不明の姉を取り戻すために闇の魔術の道に足を踏み入れた彼女の厳しい運命の旅を、ゴルジュ(険しい渓谷)に準えたタイトルなんだな」
アスト「主人公が狂っているのか」
NOVA「とは言え、覚悟完了した大人の女性なら狂気の冒険も楽しめるのだけど、ミナの性格は狂気というより無邪気。姉のニナと比べても、未成熟な陰キャラ少女のミナが寡黙に時を操る闇の魔術とエネルギー源となる悪夢の力を使って、吸血鬼との因縁を持った同行者の協力も借りながら、2人の姉を(上手くすれば)助け出せる話。まあ、最終的には、7人のエルフ姉妹が全員無事に再会できるハッピーエンディングが、『盗賊剣士エクストラ』で先に描かれているんだが」
ダイアンナ「頼れる盗賊お姉さんのニナから、幼い末娘ながら過酷な闇に足を踏み入れたミナに主人公を交代した形だね」
NOVA「盗賊の闇は社会的な闇であるのに対し、ミナの選んだ道は魔術の闇だ。そして、時間操作の魔術がゲームとして複雑ながら面白い。ソーサリーのZED的なパラグラフジャンプを何度も繰り返さないと攻略できない、そこそこの難易度があるシステムだったりする」
ダイアンナ「時間を操る魔術って、ダディが好きそうだけど?」
NOVA「嫌いじゃないが、このアランツァ世界では、時間操作は闇神の力を借りた禁断の術で、それを扱う者の代償は闇神と契約して肌が黒く染まること(闇エルフ化)。ただ、この闇エルフ化は、肉体面だけに及ぶのか、それとも精神面での変化も伴うのか、本編ではよく分からない。姉は取り戻したけど、自分は闇化したから共には暮らせない……という話なのかと思えば、闇堕ちしても家族は家族という描写で、ミナの物語はまだ、自分の中ではしっくりつながっていないんだ。だから、こうだという結論で感想は書けない。問題提起だけで、お茶を濁す形の感想雑文が関の山だ、と」
ダイアンナ「面倒そうな作品ってことだね」
NOVA「一言で言えば、実験作の要素が大きい作品ってことだな」
FFシリーズとは異なるシステム
NOVA「ストーリー的には奴隷化された姉2人を小物の吸血鬼から救う物語だけど、その過程で自身も闇の力と契約するダークファンタジー。その割に吸血鬼にありがちな淫靡な要素がないのは(実は『盗賊剣士』絡みだから、そういうものも期待していたのは秘密)、主人公の精神年齢が低くて、あまりエロティックな方向に関心がないキャラだから。イラストも闇はあっても、色はない方向で、子どもの暗い悪夢を描写した感じ。ただ、ネグラレーナでは、昼の光と夜の闇の二面性ギャップがポイント高いけど、ゴルジュの雰囲気は闇しかない」
アスト「話が暗いのは分かった」
NOVA「地の文が淡白で、ミナもクールに徹するキャラだから、情感を揺さぶられる場面が最初の背景と、最後の姉との再会シーンのみ。もう少し、闇魔術の悪夢に接するシーンや、吸血鬼の恐怖とか描写されても良いのに、とは思った。結局、FFシリーズだと『地獄の館』を想像する要素もあるけど、雰囲気は暗いのに主人公が驚かないキャラなので、ホラーになってない。さらにプレイヤーが感情を込めるダイス振りが一切ないシステムも、ミナの淡白ぶりを補強している」
ダイアンナ「ダイスを振らないのか」
NOVA「体力点は4点。MPの代わりになる悪夢袋は全部で7つ。金貨7枚と、歯車3つ、そして時魔法に使う7つのからくり時計(完成品3つと、未完成品4つ)が初期装備になるかな。あとは背負い袋と短剣、革鎧その他の雑貨を持っているけど、キャラクター用紙に記録する必要はない」
アスト「サイコロを振らなくていいということは、判定はどうするんだ?」
NOVA「選択肢を選ぶだけでいい。『ハンテッドガーデンハート』の前半作品みたいに、選択ミスした際の体力点消耗だけのゲーム性だが、あれらがパラグラフ20〜50前後のちょっとした仕掛け(情報を得てのパラグラフジャンプや、選択順の変化による攻略フラグ立てなど)がポイントになっているのに対し、ゴルジュはパラグラフ数242だから、そこそこボリュームがある。が、いつものFF400パラグラフに比べると少ないが、パラグラフジャンプの仕掛けがややこしいので、ストーリー量に比べて攻略に手間どる作品と思う(作るのも手間だったろうけど)」
アスト「パラグラフ選択だけのゲームで、ランダム要素はなし。パラグラフ・ジャンプを駆使した仕掛けを解明して、正解までの道筋を見つけ出すゲームか。RPG感覚よりは、パズル的な作品なんだな」
NOVA「で、RPGっぽい要素としては、魔法の道具である時計。ストーリーの途中で、時計を完成させるための歯車を見つけ出して、使える時計を増やして行く要素が楽しいとは思う。最初から使える時計は、次の3つだ」
①枝分かれの未来時計
悪夢1つを消費。
指セーブを可能にする。(↑)マークの付いたパラグラフから元の番号に戻ることができる。未来を覗き見て、情報だけチェックして引き返すことが可能。(↑)マークの付いていないパラグラフからは戻ることができないので、使える場面が限られている。
②うたかたの齢時計
悪夢1つを消費。
自分の年齢を一時的に操作して、10代半ばの少女から、幼女もしくは老婆に変身することが可能。(†)マークの付いたパラグラフのみで使えて、+5すれば老化、−5すれば若返ることができる。でも、老化は役に立つことがない。どうして20代の大人の女性に変身するミンキーモモみたいなことができないのか。
印象的なのは序盤で、闇エルフの姿だと村で嫌われるから、まだ闇エルフじゃない幼女時代に戻って、迫害を免れることに活用できるぐらい。
③跳兎の懐中時計
悪夢2つを消費。
いわゆるZEDの魔法で、数年から数十年の過去にジャンプできる。ただし、行き先指定ができないという問題点がある。また、ZEDと違って、過去に行きっぱなしではなく、制限時間が過ぎれば元の時間と場所に戻って来るので、囚われた状態からの脱出には使えない。昔の事件の情報を探ったり、制限時間内での歴史改変程度はできる。(‡)マークの付いたパラグラフでのみ使えて、−10した番号に進む。この魔法を使わなければ、クリアできない重要ギミックの一つ。
アスト「過去の出来事を改変できるのか」
NOVA「そういう仕掛けが面白い作品ではある。(‡)マークに気づいたら、試しにジャンプすることで物語が分岐するので、フローチャート作りがちょっと大変だけどな。ルート分岐がそこそこ多いので、その中で正解を見つけ出すために、試行錯誤を繰り返すタイプのゲームだな。そして、未完成品の時計が4つもあるので、どの時計を起動可能にするかが攻略テクニックにもなる」
ダイアンナ「『バルサスの要塞』の使える魔法選択や、『運命の森』の購入アイテム選択みたいなものだね」
④夢渡りの覚醒時計
歯車1枚で修理可能。
仲間の悪夢を吸い取ることができる。吸い取った悪夢は、他の時計を起動させる魔力源にできるので、魔力を入手するのに修理しておくといい。
⑤速撃の戦時計
歯車1枚で修理可能。
悪夢1つを消費。
自分のスピードを2倍にして、戦闘を有利にする。パラグラフで指定されている時だけ使える。
ミナの戦闘能力は低いので、この魔法を使わなければ、戦闘ではほぼ確実に傷つくと言っていい。そして戦闘ばかりしていると、悪夢が枯渇するので、いかに戦闘を避けられるかが攻略テクニックとなる。
⑥時戻しの回復時計
歯車2枚で修理可能。
悪夢1つを消費。
対象の生命力を回復して、状態異常も無効化する。パラグラフで指定されている時だけ使えるが、この魔法が使えなければ、クリアできない重要ギミックの一つ。
⑦刻々の狭間時計
歯車3枚で修理可能。
悪夢3つを消費。
自分以外の全ての時間を止める。ただし、発動まで精神集中の時間がかかるので、戦闘中には使えない。パラグラフで指定されている時だけ使える。
NOVA「これらの時計を活用しながら、姉を捕まえた吸血鬼の館を見つけ出して、救出活動を頑張るゲームだな。まあ、ゲームとしてはそこそこ楽しいが、体力が4点しかないので簡単に死ぬ。基本的に戦闘は禁じ手だが、女戦士のボラミーを仲間にしていれば、戦うことも可能」
ダイアンナ「だけど、戦わずに魔法で処理する方が望ましいわけだね」
NOVA「先に言っておくと、ゲームとしては面白い。ただ、攻略記事となると、ランダム要素がほぼないので、種明かしが露骨になってしまうのがなあ」
アスト「今までの攻略記事でも露骨な種明かしはしていたじゃないか」
NOVA「ダイスゲームは、ダイスのランダム要素がゲームの重要ポイントなんだけど、本作はそれがなくて、正解の道筋を探すのがゲームの骨子だ。そのギミックをバラすことが他人の商売を邪魔することになると感じるので、ゲームの詳細攻略はなし。でも、ストーリーの要所要所は触れておきたいな、と」
ダイアンナ「ストーリー的なネタバレは気にしないんだね」
NOVA「ゲームブックのストーリーは、ゲームギミックほど重要じゃないし、本作はストーリーを明かして興醒めになるタイプじゃないからな」
アスト「興醒めになるタイプってどんなストーリーだ?」
NOVA「推理小説の犯人明かしとか、仲間が裏切るとか、主人公が死んでラスボスを倒すのは仲間の一人とか、そんなところか。ゲームブックだと、暗殺者から逃げるのが目的だと思ったら、実は暗殺者皆殺しが目的で、ラストは別のゲームブックに強制的に挑まされるオチの作品は意外すぎる展開で感じ入ったが、普通は『悪い魔法使いを退治しに行ったら、悪い魔法使いを倒してハッピーエンド』だろう? 悪い魔法使いと言われていた相手が実は良い人で、主人公が思いがけず善人殺しという悪事を働いてしまってガーンと衝撃を受ける騙し方はしないはず」
ダイアンナ「しかし、コンピューターRPGだとよくある展開じゃないか? 王の命令に従って村に届け物をしたら、爆弾モンスターが出現して村が大爆発とか……」
NOVA「まあ、自分が勇者だと思い込んでいたら、実は勇者に憧れる記憶障害な少年とか、重要な魔法ギミックと思わせるシステムが記憶障害を引き起こさせる元凶とか、別のFFシリーズではどんでん返しが多いのが有名だが、ゲームブックではそこまでコロコロ主人公の初期設定が怒涛の如く変動するストーリーは稀だな」
ダイアンナ「まあ、雪の魔女を倒しに行ったら、あたしが雪の魔女になってしまうという話に比べたら、まだまだだね」
アスト「あの展開は、大きく改変し過ぎだろう」
NOVA「ゴルジュは、そこまでのどんでん返しはない。お姉ちゃんを助けに行ったら、ミナ自身が吸血鬼になってしまって、自らお姉ちゃんの血を吸う展開を期待したんだが、それはなかった」
アスト「あったらビックリだ」
NOVA「逆はあるんだよ。お姉ちゃんを助けに行ったら、お姉ちゃんが吸血鬼になってしまって、泣く泣く、お姉ちゃんの命が失われるバッドエンドが。ゲームブックの意外な展開の多くは、バッドエンドに集約されるんだな」
ダイアンナ「そうならないように、頑張ってハッピーエンドを目指すんだね」
面白い背景ストーリー
NOVA「実は本作のストーリーで一番興味深かったのは、ゲームプレイ中ではなく、最初の背景なんだよ。ガーデンハート家の七姉妹の過去話が描かれて、『盗賊剣士』のニナの物語も補完される。実は『盗賊剣士』と、前日譚の『ハンテッドガーデンハント』と後日譚の『エクストラ』では断片的にしか描かれていなかったガーデンハート姉妹の過去の悲劇が、ミナ視点で詳細に描かれている。
「姉妹全員の名前も、上から順番にニナ、マナ、エナ、ティナ、ドナ、ノナ、ミナで、父の名がジュノーとか、ニナの物語を追ううえでも、本作は重要な資料となる。で、ニナは末の妹であるミナだけを何とか助けることができて、他の5人を奴隷商人から助けるために、ネグラレーナの盗賊稼業に勤しむことになるんだが、ミナは姉の負担になるのを嫌って、魔法で身を立てようとするわけだな。その後、からくり都市チャマイに留学に出る」
ダイアンナ「ネグラレーナは北東で、チャマイはどこ?」
アスト「西の端の聖フランチェスコの右上だな。かえる沼の左上、還らずの森の下ってところか」
NOVA「カラーマップはこっちだな」
NOVA「ゴルジュの背景には、からくり都市チャマイの様子や、15柱の神のうち、機械や発明を司るテクア神の話、そして時を司る闇神オスクリードの話が語られる。そして、テクアのからくり技術を活用して、オスクリードの力を再現しようとしたのがモータス教授だ」
ダイアンナ「そのモータス教授が、ミナの師匠なのか?」
NOVA「いや、違う。ミナは3年間の留学生活で魔法の才能に限界を感じて、それ以上の勉強が時間の無駄だと思うようになっていた。だから、大学に保管されている強力なマジックアイテムを盗み出して、身を立てようと思いつめていたんだ」
ダイアンナ「結局、盗みの世界に足を踏み入れるのか。姉のように」
NOVA「それで入手したのが、モータス教授の研究中の時魔法の道具だった。ただ、時魔法を扱うには闇神オスクリードとの契約が必要だと分かり、覚悟を決めて闇の道に足を踏み入れる。ミナの白い肌は闇の色に染まって、アランツァ世界唯一の『時の魔法使い』になった」
アスト「世界唯一の魔法使いか。凄い設定だな」
NOVA「ところが、ゴルジュの事件の3年後、モータス教授は盗まれた時計と同じものをもう一度作り、近い将来に時魔法がアランツァに広がる未来があるらしい。ゴルジュの話では、まだ研究途上だった魔法の道具をミナが盗んだために、世界唯一だっただけで、彼女が発明した魔法ではないから、後に元の発明者がさらに研究を進めたわけだな。もしかすると、ローグライクハーフにもそのうち実装されるかもしれない」
アスト「でも、闇に属する魔法だから、プレイヤーが扱うには制限がありそうだな」
NOVA「とにかく、ミナは闇の魔法アイテムを入手して、チャマイから脱走した後は、北の堕落都市ネルドに逃げ込む。闇エルフと化したミナは『悪の種族』の集まるネルドのような街でなければ、排斥されるらしい。闇エルフとしての振る舞い方を学習したミナは、拠点としている宿屋〈妖艶なる闇の使徒〉亭で、双子の姉エナとティナらしいエルフがドラッツェンの貴族の元から、最近『還らずの森』にある吸血鬼の館に売り飛ばされたという噂を聞いて、行動を開始するわけだ。旅のスタートは、パラグラフ43番からになる」
2人の仲間
NOVA「パラグラフ43番で、いきなり森に入る前に近くの村で情報収集しようという流れになる。ところが、この43番には(†)マークの付いているので、老化か幼女化を選択することができる」
アスト「わざわざ魔法を使わなくても、普通に村に入ればいいんじゃないか?」
NOVA「そうすると、闇エルフに対して怯えた村人が石を投げつけて来るんだ」
アスト「それって『モンスター誕生』であったよな」
NOVA「石を普通に避けるか、あるいは速撃または刻々の時計の魔法を使うか」
ダイアンナ「それって時計が未完成で使えないんじゃなかったのか?」
NOVA「歯車を3つ初期装備で持っているから、それで時計を完成させることもできる」
アスト「魔法を使わなければ?」
NOVA「飛んできた石が額に当たって、ダメージ1点だ」
アスト「極力、魔法を使わずに、どこまで進めるか試してみたい」
NOVA「って、攻略記事になってないか?」
アスト「まあ、飽きたらそれで終わるからさ」
NOVA「むっ。ここの正解の1つは、村に入る際に幼女化して、闇エルフから普通のエルフに戻っておくことだ。すると石を投げられることなく、村で情報を聞ける。その後は、吸血鬼に効果的な『銀のナイフ』を金貨5枚で購入するか、ノームのフェルと遭遇して金貨3枚で仲間にするか、あるいはフェルと戦ってダメージ1点と引き換えに倒すか(歯車1枚と金貨3枚を入手)という分岐になる」
ダイアンナ「仲間がいた方がいいので、あたしはノームのフェルを仲間にするよ。何ができるんだい?」
NOVA「彼は森の案内役でレンジャーみたいなもの。石弓を使って援護射撃もしてくれる。彼を仲間にしても、しなくても、パラグラフ1番に合流する流れになる。本当の冒険はここからって感じだな」
アスト「魔法で幼女化すれば、ノームのフェルを仲間にできるってことだな。幼女化しなければ?」
NOVA「老女化しても、変身しなくても、闇エルフは石をぶつけられるんだけど、逃げるという選択肢で仲間のいないままパラグラフ1番に向かうことになる。魔法で加速したなら、村人の女性の1人を人質に『吸血鬼対策に必要なもの』を要求することもできる。こっちの場合、『銀のナイフ』をただでゲットできる」
アスト「こっちに仲間はいないのか?」
NOVA「その場合、話し合いで臨むことになるな。『自分は闇エルフじゃない』と訴えることで、村の用心棒をやっている冒険者の女剣士ボラミーが現れる。彼女に姉のニナと同じ強さを感じたミナは、それでも敢えて戦うと死んでしまうということを察して、逃げるか、必死に説得を続けるかという選択をとる」
アスト「逃げちゃダメだろ。仲間になってもらいたいんだからよ」
NOVA「まあ、敢えて一人旅という選択もできるし、大筋としてボラミールート、フェルルート、一人旅ルートの3つの遊び方ができる。専用キャラシートには、入手できる装備品リストや仲間リストというのが記載されていて、ちょっとしたネタバレにもなってるし、チェックマークを入れるだけで冒険の進行を把握できるようになっている」
ダイアンナ「キャラクターシートは大事だよね。どんな能力値があってとか、どういうシステムとかを感覚的に分からせてくれる」
NOVA「まあ、FFシリーズのキャラクターシートは割と淡白だけどな。項目が『技術点』『体力点』『運点』『金貨』『食料』『所持品』が基本だが、リビングストン作品だと入手アイテムが多すぎて『所持品』欄に収まりきらないのが常態だから、結局、別のメモやノートが必要になる」
アスト「作品によっては、『魔法』とか『乗り物』とか特殊な項目や別シートが用意されていて、いつもと違うシステムだと何だかワクワクさせてくれるな」
NOVA「そうか? いつもと違うと『うわ、何だか面倒くさそう』と思うんだが」
アスト「年寄りかよ。若いときはそうじゃなかったろう?」
NOVA「まあ、若いときはいろいろなシステムを知るのが純粋に楽しかったからな。しかし、今は定番システムだと安心できるし、新しいシステムを見ると少しプレイのハードルが上がる。そのハードルを少しでも下げるのが、キャラシートの大事な役割だと今ごろ実感しているのが今日この頃だ。良いキャラシートの用意されているゲームは良いゲームと考える」
ダイアンナ「それだけ大切なものなのに、キャラクターシートに関する蘊蓄研究ってあまり聞かないんだが?」
NOVA「興味があれば、ネットで『キャラクターシート』で画像検索してみるといい。いろいろなゲームのシートが見られて、ワクワクするぞ。リアルで履歴書を書くのは面倒な作業だが、自分のキャラ履歴をシートに書き込むのは結構楽しいのは俺だけだろうか」
アスト「で、ゴルジュのキャラシートはどうなんだ?」
NOVA「画像を載せてみるか。キャラシートに著作権があるのかは知らんが、『研究活動の一環としての引用』に該当すると判断した」
アスト「仲間欄には、もう1人、マイトレーヤというキャラがいるみたいだな」
NOVA「ああ。最初の村で加入するボラミーかフェルの他に、もう1人、というか、もう1体のゴーレムがいて、期間限定で助けてくれる。吸血鬼の館に入る前の寄り道として、森に亡きからくり師の研究施設(時計塔)があるんだが、そこで起動させることができるんだ。長時間の使用はできないので、ボラミーやフェルほどの仲間感はない。キャラシートに記載されていなければ、仲間というよりアイテムみたいな感じで受け止めていたろうし、初プレイでは発見できなくて、クリアしてからマイトレーヤってどこで仲間になるのかパラグラフをパラパラめくって探していたものだ。ほとんど隠しアイテムみたいな扱いだと思ったな」
ダイアンナ「キャラシートに書かれてある情報を手掛かりにして、あれこれ探すことをしたんだね」
NOVA「さすがに、1回のプレイで全部をチェックできないのがゲームブックってものだからな。まあ、同じ場所を行き来できる双方向型のゲームなら、バッドエンド以外は一通り回ることもしやすいんだが。そして、プレイ中の選択肢で、『ボラミーが仲間にいるなら◯◯へ』『フェルが仲間にいるなら⬜︎⬜︎へ』『一人なら△△へ』という項目を時おり見るので、大きく3ルートの物語になることが分かる。最初はパラグラフ1番で、そういう選択肢が出るので、そこまでの話がシステムに慣れるためのチュートリアルであり、仲間キャラによる分岐がこのゲームのポイントの1つとも感じさせてくれる」
アスト「で、誰を仲間にするのが正解なんだ?」
NOVA「どちらでもクリアはできるんだが、メインルートはボラミーだと思う。前衛剣士として役に立つ。フェルは後衛援護役で、からくり仕掛けが得意なノームなので盗賊っぽい役回りや裏知識担当だな。どちらも吸血鬼との因縁があるので、最初はミナに頼まれて付いて来るって感じだけど、だんだん個人の目的ともつながって来て、その辺は彼らの過去を探るのが楽しくもある」
攻略話は避けて
NOVA「さて、手癖でパラグラフ解析した内容を語るのも一興だが、詳細は省いて大筋だけに留める。このゲームブックは、FFシリーズに比べると、主人公が無色無名の冒険者じゃなくて2次創作的な自由度が少ないのと、ランダム要素に乏しいので解析しきると読者にとって興醒めになり過ぎるだろう、という配慮だ」
ダイアンナ「ネタバレをどこまでしていいか、判断に迷っているってことだね」
NOVA「ストーリー的なネタバレなら、ボラミーが実は吸血鬼マルティンが人間だった時期の娘だとか、フェルが吸血鬼の館で雇われた仕掛け職人の孫とか、そんな話を打ち明けてもらうシーンがあって(各々とのフラグを立てた場合のみ)、道中でいろいろなフラグを立てて行かないと、最後まで進められないタイプのゲームだ。
「森の奥で探索できる場所は、本命の吸血鬼の館以外に、フラグ立てに必要な『闇エルフの里』と『時計塔』がある。ミナは闇エルフの姿なので、仲間と一度別れて単身、闇エルフの里に向かうんだが、立ち振る舞いが闇エルフらしくないのでスパイと見なされて、時魔法を駆使しなければバッドエンドだ。しかし、時魔法を駆使して情報を得れば、パラグラフジャンプの情報が手に入る。必要なのは、未来時計だな」
アスト「得られる情報はどんなものだ?」
NOVA「姉が吸血鬼館の秘密の地下拷問室に囚われている(地下に降りたときにパラグラフ番号を半分にする)とか、時計塔の裏口の情報(正面玄関にいるときにパラグラフ番号を倍にする)とか、パラグラフジャンプの材料をくれるわけだが、裏口情報はなくても何とかなる」
ダイアンナ「と言うと?」
NOVA「正面玄関を体当たりで開けることもできるし(ダメージ1点)、ボラミーがいれば彼女が体当たりするのでダメージも受けない。一方で、拷問部屋の情報も攻略必須ではないので、結論として『闇エルフの里』は行かなくてもいい、という話になるな」
アスト「攻略必須情報が何かを探り当てることが、ゲーム性と言えるが」
NOVA「そうだな。攻略必須情報と言えば、パラグラフ131番で時魔法を使うと、からくり神テクアと対面することになって、怒られてしまうんだな。『盗んだテクアの道具で、闇神の魔法を使うとは不遜だ』という理屈で。だけど、神の3択質問にうまく答えると、優秀さを評価されて加護をもらい、手持ちの時計が『精密』の能力を得る」
ダイアンナ「すると、どうなるんだ?」
NOVA「跳兎の魔法による過去移動が、自分で跳躍する時期を設定できるようになる。これができないと、行き先がランダムな魔法は役に立たないので、攻略不能状態になるわけだな」
ダイアンナ「他に隠し情報はあるか?」
NOVA「う〜ん、個人的に興味深いのは、ミナの悪夢の世界で、『第8のからくり時計:沙羅双樹の予知時計』をゲットできることか」
アスト「ああ。最初の7つ以外の追加魔法か」
NOVA「と言っても、その内容は最初の未来時計のアッパーバージョンに過ぎないな。(↑)マークがなくても、指セーブで戻って来れる。便利だが、必須アイテムではない」
ダイアンナ「他には?」
NOVA「パラグラフジャンプの情報を過去で得ていなければ、ボスの吸血鬼を倒すことはできない。結局、このゲームでは戦闘でのゴリ押しができないので、幾重ものフラグを立てることで正解の道を見つけ出す仕様だが、仲間がボラミーか、フェルか、自分一人かで攻略方法が少し変化するのが面白い。フェルがいれば〈吸血鬼殺し〉という名の銃が手に入るし、ボラミーがいれば吸血鬼の弱点情報が手に入る。自分一人でも、弱点は探れるが余分にダメージを受けるので不利だが、不可能ではない。そして、吸血鬼を倒した後が問題だ」
アスト「姉の救出だな」
NOVA「姉の1人のティナは吸血鬼との対決前に救出済みなんだが、エナの方が血を吸われて吸血鬼化していたんだ。彼女を助けるためには『時戻しの回復時計』が使えないといけない。吸血鬼になって時間があまり経過していなかったから、元のエルフに戻すことができたわけだな」
アスト「それでハッピーエンドか」
NOVA「もう一つ、水中でサメに襲われるイベントがあって、選択肢を間違えると即死だったりするんだが、まあ、5択中の正解1つを選べば、ハッピーエンドだよ」
ダイアンナ「一発で正解を当てるのは難しいじゃないか」
NOVA「そういう時の指セーブだろう? ともあれ、姉2人を助けたミナの物語は時魔法を駆使することでハッピーエンドだ。『どうして肌が黒くなったのか?』という姉の問いに対しては、『いろいろな冒険を重ねてきたから日に焼けた』という理由で、納得してもらえた。他に『魔法の副作用でこうなった』という理由も本文中で語って来たし、闇神との契約も、もしかすると、からくり神テクアとの契約で上書きされるかもしれない。まあ、ミナの物語の続編が出れば、その辺も掘り下げられるのだろうけどな」
アスト「続編の予定はないのか?」
NOVA「一応、長姉のニナと再会してから、残り3人の姉を探すのがミナの次の目的とエンディングで語られている。ただ、ニナが聖フランチェスコ市に隠れ住んでいるという話が、『盗賊剣士エクストラ』の最終シーンと矛盾しているようにも思えるが。ニナがネグラレーナから逃げ出す際には、7人姉妹が全員合流しているからな」
ダイアンナ「確かに、最後の1人を身請けする金が貯まったから、ネグラレーナの盗賊ギルドから足抜けしようって話だったもんね」
感想総括
ゲームとしては、時魔法というギミックと、それに伴うパラグラフジャンプが非常にトリッキーで、技巧に富んだ作品だ。
作者の後書きによると、『時間を操る魔法をゲームブックの形で活用するのに、いろいろ試行錯誤した』との苦労話があって、ゲームとしての謎解き、フラグ探しが面白い作品である一方、攻略の自由度がほぼない束縛感を覚えた。
自由度の非常に高い都市冒険の『盗賊剣士』とは明確に異なるゲーム性であり、ストーリー性でも無色透明な盗賊剣士(うちではボクラーノと命名することになった)と違って、時の魔法を扱う闇エルフと化したエルフの少女ミナという、固定された主人公という作品。そのミナというキャラに感情移入できるかどうかがポイントだが、自分は残念ながら彼女にさほどの魅力を感じなかった。
確固たるアイデンティティの欠如と、未熟さ。これがミナ・ガーデンハートの現状である。
姉のニナが「クールなエルフの女盗賊」として、『盗賊剣士』のメインヒロインとしてPCの若き盗賊剣士を導く役どころを果たした。ここでのニナは、誇り高く強(したた)かで、大人の女性として描かれている。
その後、彼女の主役編である短編『ハンテッドガーデンハート』で、賞金稼ぎから単身、雪中の絶望的な逃避行をおこなう姿が描かれ、弱みを見せる場面があるものの、若き盗賊剣士との邂逅で窮地を切り抜ける。互いに命を助け合った男女の相棒感が、この後の物語につながるフレーバーとなる。
そして、『盗賊剣士エクストラ』で、ニナは主人公の前に立ちはだかるラスボスとしての姿を見せる。個人的な事情のために、盗賊ギルドの金を横領した彼女はギルドの裏切り者として、主人公に粛正されるか、それとも愛情を確認しての逃避行に出るのか。
正史としては、主人公とともに聖フランチェスコ市に旅立つのがニナの未来だが、その際に彼女が大切にしていた妹たちが全員救われた様子が描かれ、そこで肌の黒い末の妹ミナも登場する。
ニナの初登場は2011年だそうだが、そこから12年を経て、ミナの物語が発表された形。そして、ミナは姉のニナとは対比的なキャラとして描かれている。
長姉に対する末妹。
クールな大人の女性に対して、未熟で悪夢に怯える少女。
独り立ちして盗賊仲間からの信頼も篤いエルフ美女に対して、自分が足手まといだとコンプレックスを抱いて、泣き癖のある鬱屈した性格のうえ、闇神と契約して呪われたために迫害される身となった陰の少女(美少女という記述はないし、本文中でもそういう反応をされていない)。
ミナを表現するのは「か弱いエルフの少女」で、大切な姉たちのために「強くならなくちゃ」と悲壮な覚悟を決めて、闇に踏み込む決断をした健気な娘。
だけど、腕っぷしは弱く、魔法の才能もなく、頼れるのは機転と強い意志、そして他人から盗みとった画期的な発明である「時の魔法」のみ。この魔法が曲者で、世界初でミナ自身、扱いに長けているわけじゃない。試行錯誤を重ねて、未完成な術を完成に持ち込む過程がゴルジュの冒険である。
熟練の女盗賊であるニナに対して、ミナは「闇エルフ化の呪いを受けた、時の魔法使い」という肩書きこそ与えられるが、それは彼女のアイデンティティとして確立されたものではない。
闇エルフの定義は、闇神との契約をしたエルフ、もしくはその子孫たちとされている。ミナは「姉を助ける力を求めて、時を司る闇神オスクリードと契約」したことで外見は闇エルフとなったが、闇エルフの村長ネフェルロックからは「闇エルフではない」と扱われ、自分自身でも「魔法の副作用で黒くなっただけ」だから、闇エルフと自認していない。
一方で、吸血鬼マルティン・ローズからは、「闇神と契約したんだから、お前がどう思おうと闇エルフだ」と断言され、ガーンとショックを受ける。
つまり、ミナはどっち付かずな存在なのだ。
一方、「時の魔法」についても、ミナが自分で発明したものでないうえ、自分には魔法の才能がないと諦めて、苦しまぎれに「盗んだ魔法」だったから、自分で「時の魔法使い」と自信を持って言い張ることはできていない。
現状では、便利な小道具の力に過ぎない。
今後の物語で、「時の魔法使い」として成長する姿が描かれるか、また闇神の影響に引きずり込まれて精神的に不安定になるのか、あるいは、からくり神との契約で闇の呪いが昇華されるのか、それを見るまではミナ・ガーデンハートはこういうキャラである、と断言できないと思う。
最初から割と完成されていた姉のニナと違って、未熟さと、自分のものではない力と外見に翻弄される不安定な少女、それが現状のミナである。
今後は別視点からミナのキャラが描かれるのか、あるいは『ゴルジュ2みたいな続編』でミナの掘り下げが行われるのか、それを待って、彼女のキャラ性について改めて考えたい。
今はまだ「盗んだ時計の魔法を振り回して、危なっかしい道に踏み込む暴走族めいた思春期の陰キャラ少女」でしかなく、根は家族思いの良い子なんだけど、姑息で小狡くて、目的のためには手段を選ばない傾向があったりするわけで。
いろいろ迫害された過去もあったりで、正直、どういう倫理観なのかも、今回の物語からは窺い知れない。家族愛しか見えて来ない感じ。
2人の仲間、ボラミーとフェルとの関わりについても見ていく。
ボラミーに対しては、ミナは姉みたいな感覚を覚えている。剣士として頼り甲斐のある、面倒みのいい女性だが、吸血鬼化した父親から弟を置き去りにして逃げ出した過去がある。ミナが家族のために吸血鬼に挑むという決意を聞いて、自分の過去の因縁を克服するために同行するわけだが、ミナの一途な想いと勇気は美点として映ったのだろう。
一方のフェルは、森の案内人としてミナに雇われるノームで、割とビジネスライクなところがある。祖父がからくり発明家で、吸血鬼の館で働いていた事情もあって、そういう闇からは距離を置きたい心情だったけど、闇を排除したい正義感も持っていて、「金をもらったし、仕方ない、付き合ってやるか」と言いつつ、親切に関わってくれる。でも、「祖父は祖父、自分は自分」と肉親の情や他人との関わりにおいて、あまりベタベタしない距離感を望んでいて、クールなレンジャー的なキャラ。
ボラミーも、フェルも、どちらもミナの持ってる属性(少し鬱屈した肉親愛と、他人との近づき過ぎない距離感)と共通する面があって、物語的には付き合うキャラとの絡みで、登場人物のイメージも変わって来るから、どちらのルートを選ぶかでミナのイメージも変わるかもしれない。
そして、一応のボスキャラである吸血鬼マルティン・ローズ。
後書きによると、彼は「還らずの森」の吸血鬼の中では小物に過ぎず、森の奥には吸血鬼の集団が暮らす「城」が存在するとか。
マルティンは、弱い自分を克服するために、自ら望んで吸血鬼になる研究をして、森の奥の吸血鬼の一族との契約を申し入れた新参者とのこと。
過去に戻ると、吸血鬼化する前のマルティンを呆気なく殺すことも可能だけど、そうすると彼の館も現代では消失していて、彼が奴隷商人から血袋としてミナの姉2人を購入した経緯も消滅するため、本作の物語では姉2人を探すことが不可能となってゲームオーバー。
ボスが力を付ける前に倒してしまうと、ボスが生きてきた影響がことごとく消えてしまい、かえって取り返しようのない失態が生じる展開が面白い。
いずれにせよ、元々は弱かったマルティンが力を付けたことで、何だか性格がサディスティックになって、しかもレベルが低いから魅了する能力も持たず、暴力的な手段にしか訴えることのできない、搦め手のない吸血鬼という残念なことに。
それでも物理戦闘力の弱いミナには厄介な相手なので、吸血鬼の弱点となるアイテムや情報を見つけていなければバッドエンドに。
なお、『ローグライクハーフ』には去年の終わり頃に、異種族PCの一つとして「吸血鬼」になるルールデータがネット公開されたので、そちらも紹介。
感想としては以上ですな。
ゲームのギミックとしては凝っていて、発展途上型主人公としてはコンプレックス持ちの陰キャラという、ゲームブックでは割と珍しいキャラ。あまり、感情移入には至りませんが、今後の成長した姿が描かれるなら、面白いかも、と思います。
そして時間移動とかを組み込んだストーリーは、その錯綜した内容を面白いと思うか、面倒だと思うかで本作の評価が変わるかも。
パラグラフ構造が複雑なので、ゲームシステムはFFシリーズよりも単純化した可能性がありますね。
このシステムで続編が出れば、改めて再評価をしたくも。
(当記事 完)