マリクが遺したもの(前段)
我が敬愛する師匠マリク・オム=ヤシュの葬儀が厳かに執り行われたのは、あの巨人との対決から半年ほどが経った秋のことだった。
この私、ハーメリンの街を救ったドラゴン勇士団の団長として知られるフォーティ・ジャイアントスレイヤーが、義兄弟のウィラード・ホンク(グースとして知られる)と共に凱旋した翌日、マリク師匠は相棒のハロルド・ホゲットに伴われて、ハーメリンに帰還した。
師匠は重傷を負って、あの〈ゴルゴンの墓所〉で永遠の眠りに就く覚悟を定めていたようだったが、旧友のハロルドが駆けつけて、【癒しのポーション】を与えることで、かろうじて命を取り留めたらしい。
私は師匠は死んだものと感じていたのだが、友の絆がそれを押し留めたのだという話を聞いて、心より感動するのだった。あの日の涙は、決して花粉のせいばかりとは言えまい。
その日から半年ほど、師匠が患っていた病のために静かに息を引き取るまで、私はマリク・オム=ヤシュの正式な弟子、後継者として、屋敷に寝泊まりさせてもらい、師匠の世話をするとともに、少なからずの学びを得ることとなった。
半年とは決して長い期間とは言えないが、ハーメリンの祭りとその後の探索行、および巨人との死闘に匹敵する濃密な時間であった。
その学びの幾分かを、この拙文に書き記そうと思う。
まず、マリク師は卓越した剣客であり、冒険者であるとともに、優れた著述家、冒険伝承の研究記録者であった事実を、銘記しておきたい。
サラモニスのアカデミックな家柄の出だった師匠は、若い日に訪れた漁村でトカゲ人の襲撃に巻き込まれて、鉱山奴隷の身を経験したという。そのときに自らを解放してくれた戦乙女に感化されて、古代の遺産や伝承に強い関心を抱くようになったそうだ。
その後、火山島で知り合った農夫のハロルドやドワーフ鉱夫のヒグリーを伴って、故郷のサラモニスに帰還し、共に冒険者ギルドに所属して、さまざまな冒険を行うことになった話は長いので割愛する。このハーメリンで後に妻となる籠売りのヴェルマさんと知り合ったり、彼女の不幸な死によって冒険者生活を完全に引退して、隠者同然の生活を営むに至った話も興味深くはあるが、ここで記すべきはその後の話である。
街の有名なガイドであるビニー・ブローガンによれば、マリク師匠は「引きこもりの変人にして、鋭い眼光で人を寄せ付けない偏屈な老いぼれ」と見なされていたらしい。冒険者時代の貯えがあったので生活に不自由はしていなかったが、彼の過去を知る時計職人、墓場の供え物の花を配達している親切な令嬢など一部の住人を除けば、ハーメリンの人間はマリク師のことを「陰気な墓場の管理人にして、落ちぶれた貴族の末裔」として距離を置いていたようだ。
街の市長からは「墓守りのマリク爺さん」として、わずかながらの給金で陰鬱な仕事を黙々と務めてくれる人物と見なされていたし、奥さんの墓にぼそぼそ話しかけて気味悪がられたりしながらも、共同墓地の掃除や施設の手入れなどの作業はマメにこなしていたそうだ。
街の暗い部分を管理する仕事は大切であるが、陰鬱さと穢れに対する意識から、決してチヤホヤ持ち上げられる職種ではないし、マリク師匠も生前は決してそういう華やかな扱いを望んでいなかった。
私やグースが「巨人殺しの英雄」として称賛される際に、私が「密かにハーメリンの街を守り続けた真の英雄にして、ドラゴン勇士団の団長の師」として、師の死後に銅像を追加で建立するよう申し立てたことで、今後は師の業績も正しく知られるようになるであろう。
拙文が、師の偉大さを遺すための助けとなれば、幸いである。
マリクとフォーティの関係性
アスト「結局、マリクは死ななかったんだな」
リモートNOVA『いや、死ぬまでに半年の猶予期間を与えて、主人公との交流期間を設けてやっただけだ。マリクとしては死ぬ覚悟はできていたろうけど、ダンジョンの中で惨めな冒険者の末路として遺体を放置されたままってのも、ゲームブックの物語としてはやむを得ないにせよ、後から遺体を回収して葬儀くらいは執り行うのが自分的にしっくり来るのかな、と思った』
ダイアンナ「だけど、冒険者ってものは成功したらいいけど、失敗したら『死して屍拾う者なし』の世界観だろう?」
NOVA『隠密同心かよ、とツッコミ入れつつ、それが野蛮なタイタン世界の流儀なのかもしれないが、ダンジョンRPGでは「死体回収業」なんて商売も成り立つわけだしな。まあ、それは死体を復活させる魔術とか儀式が存在する世界観であって、FFの世界では成立する商売かは謎だけど』
アスト「少なくとも、ゴブリンの死体や巨人の死体は妖術使いの呪文で重宝されると思うぜ。GOBの呪文やYOBの呪文では、そいつらの歯が触媒だからな。ゴブリンの死体1つで、いくつの歯がとれるかを考えたら、魔法関係の客人には死体も高値で取り引きされるんじゃないか?」
ダイアンナ「死人使いなんてのもいるだろうし、死体そのものが価値ある宝と考えるものはいるだろうさ」
NOVA『そういう死者を冒涜するような邪悪な輩に穢されないようにするためにも、できるだけ死体は大切に扱い、然るべき葬儀を執り行うことが良心的な文明人のあるべき態度だと思うし、そこは物語世界を深く味わうためにも、ゲームブックの文章に書かれている以上の想像力は付与したいと思ったんだ』
アスト「でも、マリクさん、ちゃっかり生きてたよな」
NOVA『最初は、巨人との戦いの後、主人公とグースがマリクさんの遺体を回収する後日譚をイメージしていたんだが、何だか「その役はオレに任せろ」とハロルドさんが出てきて、しかもハロルドに説得されると、マリクも死ぬのを断念するというイメージが湧き上がった。俺の中の「巨人の影」では、グースと宿に泊まってから月岩山地に向かうとマリク生存ルート、宿に泊まらずに月岩山地に急いで向かうとマリク死亡ルートにつながる、という選択肢が勝手に浮かび上がった次第だ』
ダイアンナ「で、半年間の猶予期間で、主人公と師弟の関係を構築して役割終了、と」
NOVA『まあ、マリクの遺産を主人公が継承するみたいな流れを考えて、しかしポッと出の余所者の主人公がいくら巨人退治の英雄だからって、マリクの後継者を勝手に名乗って屋敷その他の遺品を受け継ぐのも無理があるかな、と。
『で、マリクが生前に遺書をしたためるというのも考えたが、それだとマリクが死を覚悟して旅立つみたいで、少し違うかな、と。〈ゴルゴンの墓所〉に踏み込む際には、昔の冒険を思い出しながら勇んでダンジョン探索してたろうし、死に場所を求めていたわけでもないと思う。これが最後の冒険になるにせよ、生還して満足して……というつもりだったろうさ。後事を未来ある若者に託す、という気持ちもあったのかもしれないが、そこまで主人公のことを認めるほどの付き合いはできていないし、マリクさんの目から見ても、主人公はポッと出だ。それを、自らの遺産の継承者として信頼するには、相応の時間が必要と考えて、半年間の後継者育成タイムとなった次第』
例によって、バッドエンドの話
NOVA『では、EX記事恒例のバッドエンド確認だ』
・8:リッチの洞窟の奥の壁を押すと、天井が崩れて押しつぶされる。
・20:巨人との戦いでグースが死亡。ビターエンド。
・24:巨人につかまったグースを助けようとして、自分もつかまる。上空高くに放り飛ばされ、グースともども墜落死。
・48:弱点も知らぬままに、巨人に突撃して、拳に握りつぶされる。
・50:巨人への弱点への攻撃を外して、つかまる。握りつぶされて死んだあと、上空高くに放り飛ばされる。
・69:珠を破壊したことで、中の魔力が主人公に呪いを放って殺害する。
・77:マリクを誤って殺害し、巨人を倒す手掛かりを失ったことを知って絶望する。
・97:巨人の体に剣が通じず、グースともども拳で殴り飛ばされる。
・139:宝箱のルビーの瞳を押して、ヒグリーともども火吹山の隠し宝物庫に閉じ込められる。
・144:巨人に蹴りつけられた後、踏みつぶされる。
・155:グースを置き去りにして、ダンジョンの出口を探すも、各種の罠に遮られた挙句、ネズミだらけの穴に滑り落ちて、脱出不能になる。
・184:巨人の弱点も知らぬまま、当てもなく月岩山地に入り、つむじ風を巻き起こすダスト・デビルに遭遇して、渦巻く上昇気流に飛ばされる。空中高く放り出され、頭から地面に激突して死亡。
・207:小さな穴から巨人の心臓は貫けず、グースもろとも拳に殴りつけられて死亡。直後に巨人も動きを止めて、アランシアに平和は戻るが、主人公がそれを語ることはない。
・234:悪党フラッズラーに【嵐の剣】を渡され、落雷を受けて死亡。
・235:〈ゴルゴンの墓所〉の奥に入る扉が開けられず、ハーメリンで鍵か開錠用具を探しに戻ろうとするが、巨人の襲来に間に合わず、ハーメリンの街が蹂躙されるのを止めることができなかった。
・238:〈ゴルゴンの墓所〉の移動王座の先のパズルが解けず、閉じ込められたまま脱出不能となる。
・240:デーモンの金切り声に麻痺させられて、触腕が口から滑り込み、生命力を吸い取られる。
・242:コブラクスの毒の効果で死亡。
・255:マリクを誤って殺害し、責任を感じて巨人に無謀な戦いを挑む。巨大な手に握りつぶされて死亡。
・268:アンヴィルの街で、犯罪者として地下牢に放り込まれる。
・274:巨人に対する最後の攻撃判定。失敗すると、グースともども巨人に殴られて死亡。
・287:【混沌の王冠】をかぶって、頭が締めつけられて死亡。
・318:ゴルゴンとの戦闘中に運悪く、目を開けて見てしまい、石化させられる。
・336:ハーメリンに向かう途上で遭遇したケンタウロスに、集団で矢と槍で貫かれて死亡。
・359:大岩の罠につぶされる。
・362:珠の呪いで、蛇に変えられる。
・387:岩ウジの巣穴に入り込んで、食い殺される。
NOVA『バッドエンド総数は27。7%弱で、そこそこ多いと言えるが、そのうち8つは巨人に殺される巨人エンド。他は〈ゴルゴンの墓所〉にまつわるエンディングが10個で、マリクを見つけられなかったり殺害したりしたマリクエンドが3つ。つまり、バッドエンドの7割以上が後半に集中していて、前半のハーメリン探索までは、非常に死ににくいゲームブックと言えるわけだ』
アスト「序盤の火吹山絡みまでが4つで、ここでエンディングになってしまえば、巨人が復活することもなく、ストーンブリッジが破壊されることもなかったよな」
ダイアンナ「すると、ストーンブリッジを守るためには、フォーティが序盤にバッドエンドに陥るように、悪党フラッズラーをそそのかして、【嵐の剣】を渡すように仕向ければいいってことだね」
NOVA『未来世界から、ストーンブリッジ壊滅を阻止しようと、巨人復活の元凶となる運命のフォーティを暗殺しようとする勢力が差し向けられて、13人の未来暗殺者の襲撃を切り抜けながら、何とか巨人を起動させようと主人公が頑張る話か』
アスト「いや、40周年という記念作品に、暗殺者なんて物騒なのを登場させるなよ」
ダイアンナ「タイトルが『暗殺者の影』に変わってしまう(苦笑)」
NOVA『FF3大暗殺者ゲームブックって、「宇宙の暗殺者」「奈落の帝王」「アランシアの暗殺者」の3作と思うんだ』
アスト「主人公が暗殺者として、ボスキャラを倒しに向かう話と、主人公が暗殺者に狙われる話は別物だと思うがな」
NOVA『まあ、前者だったら「バルサスの要塞」や「ソーサリー」なんかの、敵地に潜入する秘密任務を帯びた主人公もそうなるか。それはさておき、本作はバッドエンドが後半に偏り、前半はお祭りムードで死ににくいゲームと言えるし、リビングストンにしては必須アイテムの総数も少なく、非常に解きやすいゲームだという実感だ』
ダイアンナ「あれ? アイテムの数はずいぶん多くなかった? 街で買い物できる機会も多かったし、アイテムゲームだと思ったけど」
NOVA『ゴミアイテムが多くて、何が有用なのか悩ませてくれる点で、それがゲーム性を高めているのかもしれないけど、ところどころの分岐を除けば、おおよそ一本道のストーリーで、しかも間違ったルートを選んでも、それなりにリカバリーできることも多くて、「危難の港」や「アランシアの暗殺者」と比べても、簡単なゲームだった。ただ、攻略記事を書く身だと、劇的なドラマで盛り上がる作品でもなく、最適解がこうだと断定しやすくもなく、街をいろいろ散策する祭りの楽しさをどう表現するかで試行錯誤した感じだ』
アスト「その結果、運命神に選ばれたヒーロー好きで、妄想オタクっぽい戦士になったんだな、フォーティは」
NOVA『ドン・キホーテをイメージしたんだが、勝手に妄想したドラゴン剣士団(ハロルドにもらったメダルと、【竜の剣】からの連想)から、剣士じゃないグースのために、勇士団として結実。妄想だった英雄譚が実現するという意味で、いつもよりもリアリティを無視した話になったと思う』
ダイアンナ「まあ、巨人の脅威をいくら訴えても、信じてくれない街の人って印象もあるからね」
NOVA『ハーメリンの街は、ブラックサンドの物語的なオマージュであるとともに、その明るさや能天気さで対比的な街でもあるという。もう、お祭り騒ぎが好きな街という印象ができあがってしまった。まあ、平時に訪れたら、意外とスリが多くて油断ならない街なのかもしれないけど、サラモニスほど厳格で世知辛くもなく、賑やかで暮らしやすい街って感じだ。月岩山地が近いので、冒険のネタにも事欠かない感じだし、冒険者のホームタウンにも使いやすそうだと思ったな。魔術師の多い〈銀通り〉とかもあって、施設的にもなんでも揃っている感だ』
アスト「海がないから、海賊がいないぞ」
NOVA『海賊が普通に大手を振って歩いているブラックサンドの方が珍しいよッ! まあ、港町だから交易が盛んでってブラックサンドの魅力は分かる。ハーメリンの場合は、街の北にある赤水川が交通の要だったり、水源だったりするんだろうが、主要産業が何なのかが見えにくいんだよな』
ダイアンナ「月岩山地の北のふもとに、いきなり発生した街って感じだもんね。街の成立背景も語られていないみたいだから、単に田舎の祭りで街おこししているだけじゃないの?」
NOVA『自然豊かな観光都市とか、学術研究都市みたいな雰囲気があるな。月岩山地を探検する冒険者にとっては便利だが、ストーンブリッジやアンヴィルからゼンギス行きの、東の交易ルートが少し脇道にそれて、月岩山地の入り口として田舎の農村が発展した感じかな』
アスト「きっと、この村出身の英雄が何人かいて、月岩山地の怪物どもと激しい戦いを展開したんだよ。そして郷土の英雄を祭り上げる風潮ができて、英雄資料館みたいなものも作られたりしながら、文化産業の発展を志したとか。一応、火吹山も見えるところにあるし」
NOVA『自然豊かな静かな環境で、文化の香りを楽しみながら、のんびりスローライフを……って方向性か。やはり、アランシアがある程度、平和になってないと、成立しにくいコンセプトだな。月岩山地が危険な場所だったら、武力を持たない街はすぐに滅ぼされそうだし、その割に街の住人は平和ボケしてるし、この緊迫感のなさは祭りの雰囲気を差し引いても、辺境の開拓都市っぽくはないかな、と』
アスト「もしかすると、ハーメリンを村から街に発展させたのは、異世界転生した開明的な文化人英雄で、前世が近代的な都市計画の設計担当者か何かだったのかもしれん。異世界転生した英雄冒険者が、ハーメリンでのんびりスローライフを、と考えながら街おこしをして、それから時経て、自分の世界に帰ることになった?」
NOVA『アランシアに異世界転生など、公式にはないだろう』
ダイアンナ「だけど、当ブログでは、異世界転生した戦乙女のケースだってあるし、仮にハーメリンに異世界転生した英雄が関わっているなら、マリクさんが愛着を抱いて住み続けたのも不思議ではないんじゃないか?」
NOVA『まあ、それを言うなら、ゲームブックの主人公も現代人メンタルを持った異世界転生勇者みたいなものだからな。ハーメリンに公式設定が加わるまでは、仮に異世界転生した建国英雄が興した説を採用しておくか。とにかく、定期的な英雄祭がハーメリンの観光資源の一つだとしておこう。だから、街を救った英雄は称賛されて、「巨人の影」以降はフォーティ饅頭とかが売られている』
アスト「いや、饅頭よりはパイじゃないか。早食いコンテストで勝利したフォーティ団長を記念して、『チーズと玉ねぎのパイ』にフォーティ・パイと名付けられる。涙を流しながら、玉ねぎパイを食べる勇士のイラストが貼り出されたりして」
NOVA『「救国英雄の涙こそがスパイスだ」とか、妙なキャッチフレーズ付きでな』
攻略アイテムの話
NOVA『で、例によって難易度を決定するのだが、その前に本作のアイテム話だ』
アスト「リビングストン作品は、アイテム集めが攻略の中心になることが多いが、本作は必須アイテムが少ないと言っていたな」
NOVA『入手しないと攻略が詰むのは、2つ、ないし3つだけ。他はダイス目や選択肢で何とかなる……とは言え、やはり持っていた方がいいものはあるわけで、それを先に見て行こう』
★必須アイテム1「縺れの指輪」
「蜘蛛の魔女」を倒して入手。対巨人戦でバッドエンドを避けるために、絶対に必要になる。
また、蜘蛛の魔女の毒に対抗するために、「蜘蛛油」も購入していることが望ましい。なければ、技術点2を失うことになるので、「蜘蛛油」買って、「蜘蛛の魔女」を倒して、「縺れの指輪」ゲットまでが1セットと考えたい。
★必須アイテム2「開錠用具」または「金の鍵(3)」
どちらかがなければ、コブラクスの部屋に通じる扉が開けられないので、攻略不能になる。
「金の鍵」は火吹山を出た後の赤水川で遭遇する渡し守(正体は人ネズミ)を倒して入手。
「開錠用具」は、ハーメリンの街の〈煉瓦小路〉で出会うガラクタ(掘り出し物)売りの若者から購入。
金の鍵を入手して売らなければ、ルート選択の自由度は高まるが、基本的にはコブラクス戦で有用になる「金の護符」があった方がいいので、〈煉瓦小路〉を選びたい。どうしても宝石商でエメラルドを買いたいとか、美味しいスイーツや癒しの水を口にしたいとか、気のいいレプラコーンの娘に会いたいという理由があるなら、幻術師から「癒しのポーション」を買っておけば代用アイテムになるので、〈煉瓦小路〉が必須というわけではない。
代用アイテムがある場合は、アイテム単独で必須とはならないが、二つのうちどちらかが必須になるということで、必須アイテムと見なした次第。
★準必須アイテム「金の護符」または「癒しのポーション」
「金の護符」は〈煉瓦小路〉のミニダンジョンにいるドラゴン像を倒して入手。「癒しのポーション」は〈銀通り〉の幻術師から購入。
コブラクス戦でダメージを受けた場合、どちらかがないと死ぬ。
逆に言えば、無傷で倒すことができたなら必要なくなるわけで、必ずしも必須とは言えないために重要度が少し下がる。
それでも技術点10のコブラクスが強敵なのは事実なので、無傷で倒すには優れた技術点の他に、【蛇の剣】の特効+2が欲しいところである。
なお、【癒しのポーション】は後に巨人戦で負傷したグースを助けるのにも使うが、もしもポーションがなくても、グースが勝手に薬草を見つけて自力回復するので必須ではない。ただ、即座にグースを癒せなければ、多少ともペナルティを受けることになるので、ポーションは残していた方がいいのだが。
いずれにせよ、蛇の毒に対して有効そうな蛇油がこの場で使えないことには、少し不満を覚えたりする。コブラクスの毒がそれだけ強力なのだろうが、怪我でも毒でも有効な【癒しのポーション】が凄いということになる。
だったら、どうして脱出アイテム持って駆けつけてきたマリクさんの怪我を治すのに使わなかったんだとも思うが、ストーリーの都合という事情はさておき、死期を悟ったマリクが断り、主人公がその気持ちを察して無理に癒そうとはしなかったんだろうな、と当プレイでは解釈。
これが付き合いの長い親友ハロルドだったら、マリクが何と言おうと、「こんなところで、お前を死なせてたまるか」と強引に回復させて、死ぬ気になっていたマリクも「こいつにここまで言われたら」と思い直したのかな、と自分のイメージが成立。
主人公は、グースの重傷に対しては即座に対応するし(彼が死ぬとバッドエンドというぐらいの作者の入れ込み方もある)、マリクとグースに対する扱いの違いは、過去の冒険者のマリクと、現役の若者グースの主人公視点での距離感もあるかな。先達の死よりも、同輩の死の方が受け入れ難いとか、グースは共に冒険した戦友で、マリクとはそこまで深い付き合いに至っていなかったとも言える。
ただ、NOVA個人としては、作者の意図以上にマリクに感情移入してしまったので、マリクと主人公の関係性について掘り下げたくなった次第。
★重要アイテム1「6本の剣」
本作では、最初に折れた剣と、バッドエンドの【嵐の剣】を除いて、6種類の剣を選択入手して話を進めることになる。
複数の剣を所持して二刀流とか、敵に応じて使い分けたりはできないので、どの剣を愛用するかでプレイヤーの個性も多少は出るのかなあ、と思いつつ、最後の巨人戦では4回も剣に関わる判定があるので、対巨人効果が一番高い【竜の剣】が最適解、そして【竜の剣】を得るために倒さないといけないレイス対策のために、前座の【吸血鬼の剣】を最初に購入するのがベストと考える。
次点として、ドラゴン対策の【炎の剣】から、コブラクス対策の【蛇の剣】につなげる手もあるかな、と。何となく、対爬虫類コラボって感じですな。とりわけ【炎の剣】はビジュアル的にも格好いいと思うし、トカゲ王の弱点という旧作リンクが感じ取れるのもいい。
【悪魔の剣】は、主人公がリーサンだったら是非欲しいと思ったものの、対スクリーミング・デーモン戦でしか有効じゃないし、デーモン戦は必須じゃないし、序盤の入手の際の手間が大きいので、決して推奨ではない。武器屋に押し込み強盗まがいの選択をして、返り討ちにあい、犯罪者として街の住人から袋叩きにされ、所持金も半額に減って、その後、こそこそ変装して街に潜入して、運がよければ入手できる(よくなければバッドエンド)という。入手のハードルが一番高いうえに、さほど役に立たないというマゾヒスティックな剣。
それでも、俺はダークヒーローが好きなんだ。悪魔の道のためなら過酷な試練にも打ち勝ってみせるぜ、犯罪者としてヒャッハーするのが俺の夢……とトチ狂ったロールプレイを楽しめる方ならいいのかも。
それに劣らず、マゾヒスティックな呪いの剣が【ルーンの剣】。戦闘ラウンドのたびに、体力1点が削られるということで、食料消費がとんでもなくなりそう。試しに、本プレイでの戦闘ラウンドを数えてみると、
- 人ネズミ:1回負けて4ラウンド
- レイス:2回負けて6ラウンド
- スナーク兄弟:2回負けて10ラウンド
- 大ネズミ3匹:8ラウンド
- ドラゴン:4ラウンド
- 蜘蛛魔女:3ラウンド
- リッチ:3ラウンド
- デーモン:3ラウンド
- コブラクス:4ラウンド
- ゴルゴン:2ラウンド
合計で47ラウンド。
最初の食料10食分を食べ尽くしてしまうので、これはキツい。【ルーンの剣】はまるで腹ペコの呪いが掛かっているようだ。
これで攻略するなら、避けられる戦闘を極力避けることを考えなければいけない。
【ルーンの剣】を使うと決めたなら、【竜の剣】のためのレイス戦はしなくて済むし、地下ダンジョンに入らなければ、ネズミやドラゴン戦は避けられる。最初の人ネズミ戦は少し悩む。〈煉瓦小路〉よりは〈プディング小路〉の方が体力を回復できるので、開錠用具をあきらめて金の鍵(3)でまかなうなら、人ネズミ戦を避けない方がいい。
スナーク兄弟に対しては、戦わずに金貨10枚払う方がいいと考える。敵が複数だと、ザコでも戦闘ラウンドがかさむから。
リッチとデーモンも避けられるので、結果は人ネズミ、蜘蛛魔女、コブラクス、ゴルゴンの合計13ラウンドで消耗を抑えられる。食料にして、3〜4食分。これぐらいなら、十分クリアも可能と判断して、【ルーンの剣】攻略のシミュレート終了。
ともあれ、最後の巨人戦での判定ですが、一番困難なのが最初の2D振って10以上。ボーナスが+2、+4、+6の3段階で、弱い剣(吸血鬼か炎)でも8以上出ればいい。4割ぐらいだから、不安はそこそこ大きいけど、やってやれないことはない程度の賭け。まあ、負けても技術点判定でフォローされる(それでも失敗したたら即死)のだけど、安心は担保したいのが人情ってもの。
中威力の剣(悪魔か蛇)だと6以上で、期待値だから安心できる。でも、俺の期待値は7ではなくて5だという、ダイス運の悪さをネタにする人はやはり竜の剣でないと安心できないか。
それでも2か3を出してしまえば、どんなに強い剣でも外してしまうので、ドキドキな判定なんだけど。
それに比べると、次の判定は、普通の技術点判定に出目マイナスのボーナスが加わるので、技術点が9以上あれば、どんな剣でもほぼ問題なく成功できる。2回連続とは言え、そもそも技術点判定に不安を覚える低能力だと、ここまで来るのも難しいわけで。
そして最後の判定が、技術点+2Dで16以上だと成功。
剣によってボーナスが1から3まで与えられるので、これも技術点が9以上あれば、成功確率はそれなりに大きい。技術点が8とか7のキャラは、それまでもいろいろ大変だったろうけど、まあ、気合を入れてダイスを振って、失敗したらテーブル揺らしてダイスを床に落とし、無効と裁定して、もう一度振る(成功するまで振る)ぐらいのことをしても、リビングストン先生は許してくれると思うな。
もちろん、最後の最後でバッドエンドを迎えて、最初からプレイし直すという潔さも尊敬に値する。それでも楽しめるゲームブック愛と、それほど夢中になれる若さというものが羨ましいな、と思ったり。
自分は、実プレイよりも解析の方に夢中になって、満足しがちなこの頃。でも、実プレイでダイス目にドキドキしながら、一喜一憂する感覚抜きにゲームを楽しんだことにはならないな、と。
★重要アイテム2「ゴブリンの耳垢」
何でこんな物が重要なんだとツッコミ入れたくなるけど、これがないとデーモンを倒せないからね。
まあ、倒せないなら倒さずに済む別の(簡単な)ルートを選べばいいので、必須にはならないのだけど、それにしても音波攻撃を防ぐために、こんな物を耳に入れるなんて、どういうセンスなんだろうね。
爪の垢なら煎じて飲みたい相手もいると思うけど、耳垢なんて人間であっても、好きな異性だったとしても、少しなあ。まあ、膝枕してもらって、耳掃除してもらえるようなシチュエーションに萌える御仁もいるかも、だけど、それは耳掃除フェチであって、耳垢フェチではないだろうからな。
それにしても、ゴブリンの歯ならともかく、耳垢なんて店に売ってるんだ〜と思ったなあ、マジでパラグラフ317番を初めて見たときは。
他にも、オークの鼻水とか、カエルの唾液とか、一体、何に使うんだろうと無駄に想像力を掻き立てられる〈正直なジョン〉さんのセンスに、民間治療の世界の奥深さを感じたり。
あと、謎なのが【円盤人水】。円盤人のどこから抽出したエキスなのか知らないけど、稀少な【円盤人水】を求めて狩るような好事家がアランシアにはいるのかな、と思うと、円盤人も大変だなあ、と思うばかり。飲むとナイフ投げの精度が上がったりするのかな? あるいは側転をする際の成功率が上がるとか、転倒しても上手く回転受け身をとってペナルティ抜きで立ち上がれるとか、いろいろと効能を考えたくなった今この瞬間だったり。
★重要アイテム3「真鍮のランプ」
アイテムネタ話としては、これが最後。
対ゴルゴン戦で存在感を増した魔人トウィクシル。原作では、石化の影響を受けずにゴルゴンを見ることができる能力を与えてくれる。もしかすると、ただの石化封じの保護魔法かもしれないけど、当プレイでは「視力並みに発展した魔法の嗅覚を付与する魔法」と変に解釈。
ここで昔のアニメで「ハクション大魔王と娘のアクビ」を思い出すと、ランプの魔人にも成長した大人と未成熟な子どもがいて、大人は契約を重んじて強力な魔法を使うけど、子どもの魔人はたった1回ぐらいしか魔法を使えないので出し惜しみするとか、いろいろ発展途上の性格を考えたり。
そして、主人公をにわかに花粉症設定にしたのも、実はハクション大魔王ネタにつなげようとか、クシャミをしたら、トウィクシルがリアクションするなんてネタも考えてはみたのだけど、書いてみるとやはり扱いにくいと感じて、深まらない設定になったり。思いつきの勢いで、吟味が足りないとこうなりがち。
まあ、執筆タイミングが春だったら、花粉症リアルタイムでもっとネタが思いついたのかもしれないけど、今回は秋に大きく体調も崩れず、妄想も飛躍せず。
トウィクシルは退屈に耐えられずに、あれこれ話しかけてくる子どもっぽい性格だけど、ワクワク冒険物語に接すると注目して黙って見ている子。だから、主人公が冒険しているとおとなしい感じ。魔法使いからすると、ランプの魔人だから大きな仕事をさせようとするけど、子どもだからちょっとした用事しか頼めない。だけど、子どもらしく好奇心旺盛なので、「いっしょに何かを調べよう」という仕事を与えると、発見することに夢中になるとか、生意気な小学生を連想したり。
グースがいなければ、ヒーロー願望の強い妄想主人公と、それを面白がるツッコミ魔人の凸凹コンビというのも面白いな、と思うので、フォーティの次の冒険の機会があれば、トウィクシルのランプもいっしょに参加させたいな、と。
難易度の話
★巨人の影(難易度3)
・ラスボスが強い(◯):本作のラスボスは4体の巨人だけど、イベント戦闘なので通常の戦闘ルールではない。T&Tで言うところの「敵の攻撃をかいくぐっての特殊攻撃(セービングロールを活用)」に相当。
『盗賊都市』のザンバー・ボーンもそうだけど、こういう敵は能力値表記もされていなくて、強いか弱いかの評価がし難い。そして、イベント戦闘という意味では、ゴルゴンも2ラウンドないし3ラウンドで決着がついてしまい、戦った感が薄い。
すると、ボスとしてガチでやり合った敵では、前座のコブラクスが本作の「まともに戦った最強ボス」になるわけで、「技術点10、体力点10」という能力はそれほど強くはなくても、「一度でもダメージを受けると毒で即死」というギミックのせいで、ほどほどの緊迫感が。コブラクスとゴルゴンの連戦というのも印象強いし、何よりもイラストの怪物然とした両者の姿が雰囲気出してる。
巨人のイラストが表紙絵でしかなく、本文にないのも失点。しかも錆びると、足に切りつけるだけで転倒、即死的な呆気なさで、こんなものかよ、と。鳴り物入りでスゴい敵って雰囲気で登場したら、あっさり倒されて肩透かし。
そんなわけで、世界への脅威度の割に、自分の中ではコブラクスの方がボスキャラという印象が強く、ゲームとしては普通程度の強さと認定。決してザコではないので、Xにはならない。
なお、本作の最強能力値のキャラは、技術点11、体力点12のマリク師匠。年をとって体力が落ちてると解釈してるけど、体力があれば、ザゴールに匹敵する強さじゃないかな、とか。何よりも、倒すとゲームオーバーになるという点で、倒すに倒せないという設定。敵でもないのに、技術点11の人間キャラって稀でしょう。スロムでも技術点10、体力点12だし。味方NPCで技術点11という師匠と、一度でもきちんと冒険をともにしたかった。
・全体的に罠が多くて死にやすい(◯):バッドエンドはそれなりに多いけど、配置が後半に偏っていて、ハーメリンの陽気な雰囲気もあって、死にやすいという印象が本当にない。間違えてここに来ると問答無用で死ね、的な悪意がほぼなくて、きちんと情報を得ていれば、普通に避けられる仕掛けしかない。
理不尽な初見殺しで、どうしようもないクソトラップがほぼなくて、死ぬ罠でも「まあ、そうなるだろうな。納得」と思える罠しかない。一番理不尽だと思ったのは、序盤の人ネズミのボートを購入しても損をするだけだったり、徒歩で広野を進んでいると遭遇するケンタウロスが川に飛び込んで逃げないと即死させてくることぐらい。
罠はそこそこあるんだけど、死にやすくはないってことで普通の◯。
・パズル構造が複雑(X):たまに分岐があったり、ちょっとしたパズルやリドルもあるけど、複雑すぎて解けないというレベルでは全くない。
基本的に一本道のストーリーで、街もダンジョンも迷わせる仕掛けは本当にない。初見はメモも取らずに、読書として読み進めるだけで最後まで物語を味わえたし(アイテムだけは、持っていることにしてズルをしたけど。さすがに金銭管理とかアイテム管理をメモ取らずに記憶だけで処理するのは無理)、基本的に嘘をつかずに正直に話せば物語はきれいに進展するし、人を見捨てるとか悪事を働くような選択肢を選ばなければ、そうそう酷い目にあうこともない。
パズル的な仕掛けに徹した同時発売の『サラモニスの秘密』と比べて、本当に対照的な、分かりやすいストレートな作品。個人的なサプライズは3点のみ。
「火吹山の隠し宝物庫って、そんなところにあったのか」
「マリクさんって魔法使いじゃなかったの?」
「えっ!? ストーンブリッジ壊滅ってマジですか?」
ゲームじゃなくて、ストーリー面でのサプライズで、パズル的な仕掛けは関係ない。
・ゲームシステムが難しい(X):いつものリビングストンで、オーソドックス。少し違うのは、最後の巨人戦のギミック戦闘にもつながる「剣の選択システム」かな。愛用の剣をどれにしようか見繕うストーリーは、何が有利かなども考えながら新鮮かつ面白いと思った。
個人的には、「革手袋を入手していれば、【嵐の剣】が使えるようになる」といったような、条件づけが伴えば、もっと面白くなると思ったけど。この剣を使いこなすのに必要なアイテムとか、それを入手するためのルート選びとかあって、剣の種類ごとに最適ルートが変わるシステムだと複数回プレイしたくなるけど、そういうシステムの複雑化はリビングストンの本分じゃないと思うし、オーソドックスなシステムで、シリーズの歴史を感じさせる懐旧的なストーリー、そして思いがけないサプライズ展開で冒険のドキドキワクワクを今もなお感じさせてくれることが、御大ゲームブック作家の持ち味だと思いつつ。
・フラグ管理がややこしい(◯):アイテムがいっぱい。その中で何が有用なのかを見つけ出す。リビングストン作品のゲーム性は、その数多いアイテム集めに基づいていて、冒険中にどんどん拾い集めるアイテムの数々、背負い袋(キャラクターシートもしくは攻略ノート)がガラクタだらけになってしまうことで、アナログゲームならではの収集癖を満たしてくれる。
本作は拾い集めるアイテムよりも、店で購入できるアイテムがいっぱいで、金銭管理も重要になる。最終的には、コブラクスを倒して金貨100枚とか(花瓶の中に入っている。どんなサイズの花瓶だ?)、市長からもらえる金貨200枚とか、FFゲームブックの基準では結構な報酬が入って来て、最初の金貨50枚からさらに膨れ上がった財産って感じ。まあ、『死の罠の地下迷宮』の金貨1万枚という莫大な報酬とは比ぶべくもないけど、金貨300枚と街の壊滅を救った英雄としての名誉、そしてマリク師匠の家屋敷と収集した伝承資料の数々を継承できたと思えば、個人的に満足。
って、お金の話はさておき、某サラモニスの貧乏な底辺生活と比べて、同時期発売の本作はリッチな気分を味わえる、これまた対照的なゲーム。もちろん、選択肢によっては一文なしになって攻略に支障をきたす可能性もあるけれど、ここまで大胆にお金が動くゲームブックもFFでは珍しい。買い物の機会が多い都市冒険で、しかも祭りという時期もあって、普段よりも街が賑わっている(まあ、こっちは普段を知らないわけだけど)し、いつもよりも財布の紐が緩い……のかな。
技術点が高いキャラだと、追いはぎが出現すると逆にカモ出現と喜びながら返り討ちにして、戦利品ゲットを楽しむことも可能。一般市民を恐喝するのは官警に捕まるけど、後ろ盾のない旅人だったらどうとでもなると考えたのか、しかし法の庇護を無視するような振る舞いをしたら、弱肉強食の餌食にされる危険は悪党ほど思い知るべきで。
とまあ、都市ならではの振る舞い方を考えつつ、ゲーム攻略としては、どこでどのアイテムが購入できるかを、買う買わない関係なく、メモをとるのが面倒と言えるかな。アイテムリストを書き写すだけで楽しめるかどうかで、この種のアナログゲームに資質があるかどうかが決まると思う。ただ、リビングストンゲームはアイテムの数だけがネックで、その活用に特別なギミック(パラグラフジャンプとか)が必要になるケースが少ないので、◯にはなっても◎にはならないと判断。
個人的には、買い物ゲームよりは、冒険中に拾い集める原始的ゲームの方が、ゲームブックは好き。外れアイテムが多いリビングストン作品では、せっかくお金を出して買ったアイテムが何の役にも立たないことを知って、無駄な買い物をしたことにストレスを感じるもので(苦笑)。拾い集めたアイテムが役に立たないのは受け入れやすいんだけど。
NOVA『ということで、原点回帰したかのように簡単な難易度3の作品だ』
・8:火吹山の魔法使いふたたび、モンスター誕生
・7:地獄の館、天空要塞アーロック、サラモニスの秘密、奈落の帝王
・6:バルサスの要塞、危難の港、サイボーグを倒せ、死の罠の地下迷宮
・5:さまよえる宇宙船、アランシアの暗殺者、真夜中の盗賊
・4:雪の魔女の洞窟
・3:火吹山の魔法使い、魂を盗むもの、トカゲ王の島、巨人の影
・2:盗賊都市、運命の森
アスト「『巨人の影』は『火吹山の魔法使い』や『トカゲ王の島』と同じ難易度ということか」
NOVA『基本的に一本道で迷う要素が少ないことと、敵の強さが総じてあまり強くなく、それなりに強い敵には攻略手順(アイテム入手でザコ化したり、無理に戦う必要がなかったり)が用意されていて、平均程度の技術点(9や10)でも何とかなること、アイテムに関しては必須アイテムの少なさで、あれば有利、なくてもフォローされることが多くて、とにかく普通に正直者で、仲間想いのいい奴であれば、街の人の多くも親切に情報をくれたりする。スリやインチキ賭博師、追い剥ぎや蜘蛛魔女みたいな曲者も中にはいるが、戦うべき相手の少なさで、いつものリビングストンよりは緊迫感が薄い感じがある』
ダイアンナ「巨人が暴れて、アランシアの危機だと言ってる割に、それを気にしている人間が少ないというのが、やはり緊張感を削いでいるんだよね」
NOVA『これが、たまたまハーメリンの街がお祭りという時期だからか、それとも、この時代のアランシアが総じて平和を満喫しているような未来になったのか、現時点では分からないよな。大体、FFゲームブックの世界観って、世界を闇に包もうとする悪者が出現して、君だけが世界を救う英雄だみたいな煽られ方をして、世界もしくは地域を救うための冒険を始めることが多く、社会思想社のリビングストン作品では、最初の「火吹山」と「死の罠の地下迷宮」「迷宮探検競技」だけがそうでない物語だ』
アスト「それ以外だと、『運命の森』は例のハンマーを見つけないと、トロールとの戦争でストーンブリッジが大変な目にあうって話か。『盗賊都市』はシルバートンの街がザンバー・ボーンに脅かされているし、『トカゲ王の島』は漁村オイスター・ベイの若者が火山島に拉致されて助けに向かうところからスタートだな」
ダイアンナ「『雪の魔女の洞窟』は隊商の護衛だった主人公が、偵察任務とイエティ退治から始まるけど、世界を氷漬けにしようとする雪の魔女の話を聞きつけてからが本番だったね。物語の途中で、目的が切り替わっていく作品はここからかな」
NOVA『アランシア物じゃない「フリーウェイの戦士」は、街を維持するための燃料を別の街から輸送する任務だ。届け屋稼業としては珍しい作品で、ネタ的には現役戦隊のブンブンジャーに通じるものがあるし、途中でガソリンを入手するためのレースに挑んだり、近未来カーチェイス物として独自の立ち位置になる(もはや年代的に近未来の話じゃなくなったけど)。
『続く「恐怖の神殿」と「甦る妖術使い」は、世界の脅威となるボスのマルボルダスとラザックを倒すために、ヤズトロモさんから使命を授かる話で、勇者が邪悪を追討する定番だな。そこから飛んで「火吹山ふたたび」も依頼主が違うけれど、アンヴィルの住人から復活したザゴールを倒してくれと頼まれ、ヤズトロモさんの助言を求めることで、割と同工異曲。
『ただ、さらに飛んで「危難の港」は「雪の魔女」タイプ。最初はただの宝探しから始まって、途中で世界の危機が分かって、ヤズトロモさんの指示で、捕まったニカデマスさんを助けて、最後はヤズトロモさんの塔の前で世界の命運をかけた決戦に至る』
アスト「物語としては、最初のただの冒険者が大きな事件に巻き込まれて、勇者への道を昇っていく過程が面白いな」
NOVA『残飯漁りの落ちぶれ冒険者がたまたま見つけた宝の地図がきっかけで、しかも宝の話はガセネタで次にどうしようかと思ったら、空から石工のおっさんが降って来て、世界の危機を知らせるという、かなり唐突な運命の紛糾がビックリな話だ』
ダイアンナ「前半と後半が全然違う雰囲気の話に急展開するもんね」
NOVA『続く「アランシアの暗殺者」も序盤の無人島サバイバルから、暗殺者に狙われてのサバイバルに切り替わって、こっちから暗殺者を狩らなければ生き残れないゲームに転じていく。このストーリーの目的の切り替わりや転がり方が面白いというか飽きさせない感じに仕上がっている。13人の暗殺者をこっちから探し出して、狩って回る話だと知ったときはリビングストンさん、何て面白い! と久々のアハ体験で感じ入ったなあ』
アスト「で、本作は?」
NOVA『序盤に火吹山に潜って、巨人復活するまでがワクワク面白い。そこからハーメリンでのマリク探しは何だか違う話になっていて、雰囲気のギャップが大きいな。まあ、40周年祭りの記念作品だから、祭りがメインで巨人は祭りの山車みたいなものと割りきればいいんだけど、「世界の危機に遊んでいていいのか?」ってジレンマは付きまとった。一本の作品で、街→ダンジョン→広野→街(ミニダンジョン)→山地→ダンジョン→野外で巨人と決戦と、舞台が次々切り替わっていく面白さはあって、「危難の港」とはまた違った集大成的な趣きはある。ただ、マリクさんの扱いだけは不満材料なので、そこはしっかり補完したくなった次第』
ダイアンナ「巨人よりも、マリクさんの物語にツボを突かれたんだ、ダディは」
マリクが遺したもの(後段)
……以上が、マリク師の若き日の冒険のあらましである。
師はサラモニスの冒険者ギルドに所属していた。ハーメリンを含む北の地の自由な風来坊冒険者と違って、サラモニス王国の冒険者は王立の派遣組合に所属する、半分公務員みたいな職業として成立しているそうだ。
王国の騎士団や街の兵士には扱いにくい、民間の細々とした事件の解決や、魔の胎動に関する事案などは冒険者が要請されることがある。例えば、鉱山の中に謎の怪物が出現して、屈強の鉱夫たちでも処理できない場合。騎士は洞窟探検の訓練など積んでいないし、兵士だって街の警護はできるが、鉱山まで遠征するのは給金に見合う仕事とは言えない。武器で戦うことはできても、怪物の正体を突き止めたり、洞窟の闇の中に潜む敵の気配を察知したり、怪物の持つ毒や特殊な技に対処したりするのは、少数精鋭で個々の技能に長けたプロの集団でしか果たせない。
例えば、私、フォーティとグースは、それぞれ剣と弓を扱うのが得意だ。私が接近戦をこなし、グースが弓で支援射撃をする。グースだって必要に応じて手斧を使って、接近戦をこなすことはするが、彼の力を完全に活かすには、誰かが前衛に立って敵の攻撃を引き受け、グースが距離を置いたところから弓を放ち、怯んだ敵を我が愛剣で切り裂くのが効率いい。
騎士団は、同じ能力を持った騎士たちが槍で一斉突撃したりすることで、数の力で圧倒するのが強みである。しかし、敵が空を飛ぶ魔物であった場合、騎士の槍は届かない。え? 槍を投げればいいのではないか、と? 残念ながら騎士の持つ突撃槍は、投げ槍とは異なる形態で、軍隊では弓兵または投槍兵という別の部隊を編成しなければならない。
つまり、軍隊はある限られた戦術のプロフェッショナルであり、個々の役割を離れた融通を効かせることは部隊の規律を乱す元になるゆえ、戒められるべきものだ。
一方、冒険者は少数集団ゆえに、臨機応変さと、異なる役割を組み合わせる戦術を習得している。よって、鉱山で怪物が出現した場合は、鉱山に詳しいドワーフの戦士が選ばれ、彼を中心に怪物に詳しい魔法使い、治療術の使える薬草師、調査活動の得意な斥候などがチームとして編成される。あるいは、元々、そのように編成された仲間グループが派遣されることが多い。この辺はギルドの所属メンバーや手空きのメンバーの状況にも関わっているが、何せ私はサラモニスに行ったことがないので、マリク師の記述を頼りに読み解いているだけなのが現状だ。
いずれ、サラモニスに行って、冒険者ギルドの実態を確かめたいと思うが、ハーメリンにもそういう制度を取り入れることができないか考えておきたいところだ。
現在、ハーメリンは英雄となった冒険者の何人かを宣揚し、その中に私自身も加えてもらっているのは誇らしきことである。
そして、英雄祭で上演される芝居(有名なリサ・パンツァの物語や、サラモニス近辺を舞台としたトロール牙峠戦争、火吹山の魔法使いザゴールの知られざる伝説など)を見て、冒険者というものに憧れるも、どうすればそうなれるか分からないままの若者も数多いと思われる。
私自身、たまたま偶然の運命に導かれて、冒険らしいことをしているうちに、例の巨人の件で運よく勲しを挙げたに過ぎない。恩師マリクの賢人としての知恵がなければ、強固な巨人の装甲を斬ることあたわず、無謀な突撃の末に空しく散っていたろう。
師は亡き奥方への哀しみのあまり、街の公職からは遠ざかっていたが、その見識は膨大な文章として記録され、ただ隠遁生活を送っていただけではなかった。師の冒険者としての見識がこのまま失われることは街にとっても、世界にとっても、未来の冒険者に憧れる若者たちにとっても大いなる損失であると考えるゆえ、私は師の後継者として、その資料を街の心ある魔術の研究家たちや歴史伝承家に提供するとともに、「マリク研究館」の設立を提案したい。
私の夢は、そこから「サラモニスの冒険者ギルドのハーメリン支部」を立ち上げることであるが、それには莫大な資金と維持費がかかることが想定されるうえ、私は剣士であって商人ではないゆえに、それに詳しい人間の助力や応援の声が必要である。
もちろん、「ハーメリンの英雄祭」を冒険者ギルドが宣揚することで、街のさらなる発展に寄与することは間違いないが、まずは師の遺した師自身の冒険記録や、師が集めた冒険の伝承本を保管し、整理できる見識豊かな人間を募集し、話し合っていきたい。
それに賛同してくれる研究者有志と、出資希望者は、我が勇士団の広報担当を志願してくれたビニー・ブローガン女史に連絡をとっていただきたい。彼女は、生前のマリク師を正しく理解していなかった不明を恥じて、この私、フォーティとドラゴン勇士団の力になることを約束してくれた。
私は、この街では新参者に過ぎないが、街の亡き名士たちの墓を長年、管理して、死者の眠りを妨げるおぞましい悪霊を人知れず封印し続けてきたマリク師匠、その人柄や功績に敬意を抱いて、街のために尽くしたいと考えている。
一応、今後の勇士団の活動予定について、追記しておく。
まず、我が心の友として巨人退治に貢献してくれた、陽気なグースことウィラード・ハンクは、街の近くの丸太小屋に住み、彼の師となったハロルド・ホゲット氏の農場を共に経営するようになっている。
ホゲット氏は、マリク師の古くからの友人であり、元冒険者であるが、今は犬や馬などの獣の調教と畑仕事を生業としている。私の計画を伝えると、「マリクの名誉のためなら」と賛同してくれた。
グースは、狩りと薬草採集が本業であったが、ホゲット氏に師事しながら、農作業も学んでいる最中である。石の門近くの宿屋兼酒場〈欠けた岩と満月亭〉は、私とグースが初めて出会った夜に泊まった場所であるが、毎月の第1風曜日にそれを記念して勇士団とその支援者の祝宴を開いている。我々の活動に興味があれば、覗いてみるのも一興だろう。だが、店に迷惑をかけるような不埒な行いをした者は、我が愛刀で斬るのも辞さないので、羽目は外さないでもらいたい。
勇士団の大事な仲間である、ランプの魔人トウィクシルは今なお熟睡中である。彼の前の持ち主であった〈銀通り〉の魔術師によれば、そろそろ魔力も完全に充填されて、目覚めるはずだと言ってくれたが、その「そろそろ」というのが具体的にいつなのかがはっきりしない。
ただ、トウィクシルが目覚めたタイミングを見て、私は一度、ハーメリンを旅立とうと考えている。目的地はポート・ブラックサンドをトウィクシルは望んでいたが、あんな盗賊都市に好き好んで行くほど私は酔狂ではない。
それよりも、やはり向かうべきはサラモニスだろう。ハーメリンから西に向かい、アンヴィルやストーンブリッジの再建模様を見て、そこから南下すれば、ラルゴからチャリスまで行き着ける。〈ダークウッドの森〉を大きく迂回する旅で、そこからさらに南下すれば、〈ヨーレの森〉に行き着ける。
その森に住む大魔法使いの最も若い弟子ディートンという魔法戦士が、マリク師の昔の冒険仲間の1人だと聞いている。何でも、悪名高い妖術師バルサス・ダイアの討滅にも大きな役割を果たした1人だそうだが、バルサスに関してはいろいろな噂が混じっているので、真実がよく分からないのが実情だ。
1人の魔法戦士の手で暗殺されたと記す書もあれば(その魔法戦士がディートンとも、別人とも言われる)、冒険者集団の協力で退治されたとも、ライバルのザラダン・マーの刺客の手で異世界へと放逐されたという話もあって、事実がどれで、創作がどれかは私にも判断できないでいる。
直接ディートン殿に会えれば、事実関係がはっきりするのだろうが、彼と会うためには魔術の匂いが分かるトウィクシルの鼻が頼りになると考える。全てはトウィクシルが目覚めてからになるだろう。
そして、ディートン殿はサラモニスの街の冒険者ギルドにも所属していたそうだから(マリク師の先輩に当たるそうだから、今でも現役かどうかは分からないが)、彼に頼めば他所者の私にもいろいろとギルドの組織事情について教えてもらえることを期待する。
いや、別にディートン殿を通さなくても、直接、サラモニスの冒険者ギルドを訪ねた方が早いのかもしれないが、ハーメリンからサラモニスに手紙を送ると、「冒険者ギルドの内情は、サラモニスの国家事業の重要機密であるため、軽々しく他所者に知らせるわけにはいかない」という返事が戻って来たわけで、思ったよりも閉鎖的な組織かもしれないと考えている。
あるいは、何か手続きが必要で、対応を間違えたか。
噂によると、サラモニスという国は、ハーメリンや北の諸国よりも官僚制度がまかり通っていて、私のような田舎者には扱いが悪いと聞く。
ハーメリンの街の巨人退治の勲しなどは、向こうでは語るに値しない些事なのだろうか。
マリク師がサラモニスを出て、ハーメリンに移り住んだのも、やはり硬直した組織に居心地が悪くなったため、とハロルド・ホゲット氏は言っていたし、もしも冒険者ギルドがそういう組織であったなら、ハーメリンに導入するのも考えものだと思っている。
いずれにせよ、噂だけで、自分の目で見ないことには判断できないこともあるだろうし、ホゲット氏の知っているサラモニスの姿もずいぶんと前の話だそうだし、近い将来、サラモニスへ向けて旅立ちたいと考えている。
それまでに、「マリク研究館」の設立だけは流れを作っていきたいものである。
ハーメリン市議会宛ての文書草案
フォーティ・ジャイアントスレイヤー筆
(当記事 完)