屋久杉の御前にて
ダイアンナ「ふう。ここが会場か」
ハイラス「クイーン・ダイアンナ。ようこそでござる。卓の準備は整っておる」
ダイアンナ「ああ、次元ドルイド殿か。他の参加者は?」
ハイラス「まだでござる。新星どのと日野木アリナ様からは少し遅れるとの連絡があったが、もう間もなく来られるはず」
ダイアンナ「それにしても、いい月だな。今が夜で助かる。昼の太陽の陽射しの下では、貧血でクラクラとなりやすいからな」
ハイラス「やはり、吸血鬼の体質はそうそう治らないものでござるか?」
ダイアンナ「バルサス・ダイアみたいに陽の光を浴びて即死ぬ、ということはないが、苦手なのは変わらないな。具体的には、陽光下で10%の行動ペナルティー、2D6のゲームだとマイナス1修正、d20システムだとマイナス2の不利な修正がかかるほどだ」
ヒノキ「なるほど、それはいいことを聞いた」
ダイアンナ「貴様、日野木アリナ!」
ヒノキ「ヒヒヒ、お主の弱点を聞かせてもらった。これで次に戦った時は有利に立ち回れる。何せ、わらわは名前のとおり、日の光を扱うことにも長けているからのう」
ダイアンナ「クッ、朱雀と言えば、南方を守護する四聖獣で、夏や炎、それに太陽を司ると聞く。まともに戦えば、こちらが不利」
ヒノキ「……と、マウントをとって見せたところで、今夜は争いを引っ込めよう。今のお主は世界の秩序を乱す害悪ではないし、何よりもかけがえのないTRPG仲間。かつてのように対立する理由は何もないはず。そうじゃろう?」
ダイアンナ「……あ、ああ。マウントをとられてムカつくところはあるが、無駄にケンカを吹っ掛けるつもりはない。あたしはこのウルトロピカルの女主人だし、貴様はコンパーニュの女主人。互いに一国一城の主という点では、対等な関係。それでいいな」
ヒノキ「コンパーニュとウルトロピカルが対等などとは片腹痛いわ。年季が違う……と言いたいが、新興勢力のウルトロピカルが今は勢いに乗っているのも事実。そして今回の神前TRPG企画アルシャード編は、コンパーニュとウルトロピカルの交流の意味も込められているゆえ、今宵のこのイベントを期に両者の間で同盟を結ぶとしよう」
ダイアンナ「同盟か。悪くはない。では、これよりウルコン同盟が成立だな」
ヒノキ「わらわとしては、コンウル同盟と言いたいが、どうも語呂が悪いのでウルコンで良いぞ。不倶戴天の仲なれど、TRPGのために今、交わらん。伝説降臨の時じゃ」
ダイアンナ「民のため……じゃなくて、TRPGのため、というのがポイントなんだな」
ヒノキ「うむ。わらわたちには家臣、もしくは家族と呼ぶべき者はおっても、別に民を支配統治しているわけではなく、君臨すれども統治せず、の原則で活動しているからのう。そもそも、わらわは神霊であって、女王ではない。さらに言えば、わらわの契約主である御仁が最近、九州の地から中京の地に旅立ったそうでな。個人情報ゆえ詳細は明かせぬが」
ダイアンナ「中京ってことは名古屋か」
ヒノキ「名古屋と言えば、怪獣映画では『モスラ対ゴジラ』(1964)が有名。その後も、モスラ絡みで何度か舞台になっておる。あとは昭和のギャオスでも名古屋城が破壊されておるな」
ダイアンナ「関係ない話……でもないのか。この地の屋久杉には、モスラの力が封じられているそうだし、何よりも……」
セイリュウinハイラス『わしが王霊として守護しているからな』
ヒノキ「おお、セイリュウ。しばらくじゃったな」
セイリュウinハイラス『そなたも息災のようだな。息子やシロは元気にやっておるか』
ヒノキ「元気じゃが、最近は出番が少ないとボヤいておった。作者がウルトロピカルばかり贔屓にするものでのう」
セイリュウ『そういう時もあろう。しかし、今年はガメラ復活ゆえゲンブも喜んでいような』
ダイアンナ「……そうなんだよな。天空宮殿にしばらく引きこもっていたから忘れていたが、この屋久島の地は、野生の支配する怪獣ランドなんだった」
ヒノキ「どうした、ダイアンナ? ビビっておるのか?」
ダイアンナ「ビビっているんじゃない。ただ、偉大なる怪獣王さまのオーラに圧倒されているだけだ」
ヒノキ「やれやれ。神霊という立場では、わらわとセイリュウは同格なのに、ずいぶんと振る舞い方が違うんじゃな」
ダイアンナ「そりゃあ、貴様は幼女の姿ゆえ、威厳をさらしていないではないか。どこか俗っぽいというか、神霊よりも温泉旅館の女将って感じで振る舞っているわけで」
セイリュウ『人の文化に交じって暮らすには、その方がよかろう。わしが人里に出ると、圧が凄いらしくて、皆が恐れ慄くからな。うかつにTRPGのルールブックも買いに行けん』
ダイアンナ「怪獣王さまがTRPGのルールブックを欲しがるのですか?」
セイリュウ『そりゃあ、MTGでも題材にされたからな。ならば、来年のD&D50周年でも、怪獣ランドであるイコリアが冒険できる世界として採用される可能性もゼロじゃない』
NOVA「来年は、D&D50周年だが、今年はマジック・ザ・ギャザリング(以下MTG)30周年なんだな」
ヒノキ「おお、新兄さん。今、来たのか」
NOVA「ああ。もちろん、娘2人もいっしょだ」
翔花&晶華「こんばんは〜」
ダイアンナ「おお、アッキーさまに初代さまか。これで全員そろったわけだな」
NOVA「それで、ハイラス。今、MTGの話をしていたのか?」
セイリュウinハイラス『ハイラスではない。今はわしだ』
NOVA「え? もしかして、ゴジラさま? ハハア(土下座)」
セイリュウinハイラス『そう、畏まらずとも良い。それより、娘2人の前で土下座などとは何だ? 父親なら父親らしく、もっと威厳を示さんか』
NOVA「いや、お言葉ですが、娘はこの場に3人なんです。ダイアンナも、晶華の分身だから、義理でも娘ということで、以後、お見知り置きを(土下座)」
セイリュウ『いいから、面を上げよ、と言っておる』
NOVA「では、お言葉に甘えて(立ち上がる)。それで、ガイア様はどちらに?」
ガイアin屋久杉『もちろん、先ほどからここにおる。予定のゴールデンウィークから、ずっと待っておったが、ずいぶんと待たされたものよ』
神前TRPGの儀2023
NOVA「すみません、ガイア様。言い訳をしようと思えば、寄り道脱線の末に一記事分ぐらいの総括タイムになりましょうが、今は時間がただただ惜しい。言葉を尽くすは、TRPGの実プレイにして、今はただ早速、卓の準備を整えたい、と(土下座)」
ガイアin屋久杉『礼を尽くすのはいい。しかし、度を過ぎると卑屈以外の何者でもない。そなたには、ゲームマスターとして、この場を取り仕切る義務があるのでしょう?』
NOVA「おお、そうだった。今回は俺がゲームマスターなんだった。ゲームマスターと言えば、語り部、語り部とは王になる男とジェラミー・ブラシエリも言っていた。ならば……(立ち上がり)ワーハッハッハ〜、我こそは過去と未来をしろしめす時の王、令和の光、Shiny NOVA。王の御前である、控えおろう……ってな感じでいかがでしょうか?」
ヒノキ「新兄さん、アップダウンが激し過ぎる。もっと普通にできんか?」
NOVA「普通ですか。俺の普通は、寄り道脱線街道を突っ走ることですが? 今年はMTG30周年。近年のMTGは2020年に『怪獣映画モチーフの次元イコリア』でゴジラ様とコラボし、2021年に『フォーゴトン・レルム探訪』にてD&Dとコラボし、今は『機械兵団の進軍』というストーリーを展開中? 新ファイレクシアとの多元宇宙を賭けた戦いだって? 今の今まで、ちっとも知らなかったや」
ヒノキ「おおい、新兄さん。今夜はアルシャード・ガイアをプレイするのではなかったのか? よりによって、MTGの世界に寄り道してどうする? TRPGがMTGに侵食されると、また、いつぞやの冬の時代に戻ってしまいかねんぞ」
NOVA「うっ、それは困る。俺はそれよりも、これが気になってるんです」
ヒノキ「なるほど、MTGに指輪物語コラボがあると言うのか。しかし、だからと言って、今する話ではなかろう」
NOVA「ええ。俺のMTG知識は90年代のドミニア時代で止まっていて、翻訳元がホビージャパンから、2006年(9版から10版の間)にタカラトミーに代わり、2012年からWotCジャパンに代わったという歴史も知らなかった。いや、ホビージャパンからWotCジャパンに代わったのは知っていたけど、その間にタカラトミーが入っていたことを最近知ったわけで。もう、初翻訳された95年の4版から追加カードのクロニクル、アイスエイジ、ミラージュしか記憶になく、購入もしていない。
「その後は、D&Dサプリメントで『ラヴニカ』ってタイトルのワールドガイドがあって、『イコリア』でゴジラ様が出て、『フォーゴトン・レルム』とコラボして……その程度の知識しかありません。で、今年30周年って話を聞いて、にわか勉強中でして、公式サイトで紹介されているだけでも現在、18の次元があると知って、へえ、そんなにあるのかあ、と感心しているところです」
ヒノキ「ほぼ、素人みたいなものじゃな」
NOVA「ええ。俺がMTGに関心を持っていた時期は94年から97年の3年少しぐらいですね。30年の歴史を持つゲームの草創期の3年ほどしか知らないわけですから、語るにはしっかり勉強し直さないといけません。昔とった杵柄にもならない程度の知識で、偉そうなことは言えません。ドミニアの世界が、今はドミナリアという一つの次元名に変わっていることも最近知ったところですし、ちょっと知識補完したいと思っていますが、それは今じゃない。何にせよ、多元宇宙というテーマを研究するには、MTGにもアンテナを向けておこうと考えた次第」
ガイアin屋久杉『なるほど。つまり、時空魔術師は今、多元宇宙の研究をしていて、こことは違う外なる次元の異変を察知した。それに備えて、対策を講じているということですね。かつて、この地は外宇宙から飛来したスペースGのせいで、土地が荒れ果て、見るに耐えない有り様でした。しかし、我が遠き娘、翔花がスペースGを倒し、その後、次元ドルイド・ハイラスが精力的に元の自然を取り戻す活動を果たしてくれたおかげで、今のように平和で緑豊かな地に復興できた。そのことは感謝しております、時空魔術師よ』
NOVA「いや、俺は何もしていませんよ。全ては翔花とハイラス、それにセイリュウG様や、今、コンパーニュにいるシロ君、それにリトル君が頑張ったおかげです。俺はただ物語を紡いだだけというか、その辺のエピソードは『コンパーニュのバトル創作(新・屋久島編)』を参照してくれたらいいってことで。時期的には2019年の話です」
ガイアin屋久杉『語り部こそが王になる。今はそういう時代のようですね。つまり、そなたは王として遇しなければならない。それに日頃、翔花が世話になっている。昨年夏の神前TRPGの儀において、翔花たちの成長が見られたことは喜ばしい経験でした。今後とも、よろしくお願いしますよ』
NOVA「おお、俺なんかのために、大地母神さまが感謝と礼を尽くしてくれるとは。こちらこそ、今夜の物語披露の儀、楽しんでいただけたら、と存じます。ところで一つ、物語の鑑賞者向けのメタ的注意事を」
ヒノキ「作者としての読者向きの注意ってことじゃな」
NOVA「この『神前TRPGの儀2023』は、一回の記事で完結しないことは明らか。よって、何日、あるいは何週ぐらいに及ぶ話になることは間違いない。まあ、何ヶ月ってことにはならないはずだけど。ただし、TRPGの1回のセッションがそれほど長く続くはずもないし、そもそも俺が屋久島に何週間も滞在していると私生活に支障が出ることも明らか。そこで時間設定だが、どれほど長い連載記事であろうと、このセッションは5月半ばの一夜の夢物語ということで、リアルタイムと物語時間のズレがあることはご了承いただきたい」
晶華「つまり、ここでどれほど寄り道脱線したとしても、外の世界では一晩の出来事ってことね」
翔花「それじゃないと、ニチアサが見られなくなっちゃうもんね」
ヒノキ「まあ、物語世界とリアルの時間のズレは、どこにでもあることじゃからのう」
NOVA「ただし、記事書きしている間に、見聞きした物語のネタは混ざるかもしれません。その場合は、5月15日のNOVAが未来から何やら電波を受信したんだな、と解釈していただければ」
晶華「今は、ライダー世界でも、ウルトラ世界でも未来人がいっぱい活動しているもんね」
ヒノキ「というか、わらわの担当キャラが未来から来たバイクロボじゃからの」
NOVA「では、前置き雑談や読者向きの注意事はこれぐらいにして、いよいよ神前アルシャード・ガイアのプレイを始めるとしますか」
ガイアin屋久杉『時空魔術師の語るガイアの物語、楽しませてもらいますよ』
ガイアのキャラ紹介
NOVA→GM「さて、今から俺はゲームマスターNOVAだ。プレイヤーは翔花、晶華、ヒノキ姐さん、ダイアンナの4人。キャラクターはコンパーニュで4月に作成しました。そのデータと顛末はこちらを参照だ」
翔花「でも、一応、ここでもキャラクターの自己紹介をした方がいいのよね。わたしがプレイするのは、伝説の超絶美形ルーンナイト少女の飛彩ユイ。世界の平和を脅かす奈落を退治するのがお仕事よ。普段は食べるの大好き中学2年……じゃなくて高校1年生。バイクに乗れる年齢ってことで、14歳から16歳に年齢設定が引き上げられたんだった。とにかく、ガイア様の恩恵を受けた守護騎士キャラってことで、所属組織アイギスから密命を受けて、クラスメートの神名アキラちゃんのボディガードなんかもやっています」
晶華「はい。その神名アキラを担当するのが私。神名はシンメイではなくて、カミナと読む。シンメイだったらアオレンジャーさんだけど、弓は撃たない。代わりにギターを鳴らします。ええと、クエスターだった両親がいたんだけど、中学2年のときに奈落のせいで行方不明になりました。アキラは魔法使い(マジシャン)の父さんと、音楽家(ミュージシャン)の母の才能を受け継いで、魔法と音楽の力で奈落に立ち向かいます。今の悩みは、私の音楽がどうも奈落を引き寄せるらしくて、日常での音楽活動が魔術師連盟から禁止されていること。私の音楽を邪魔する奈落は許せない……ってことで、普段はJKとして学業に励みながら、クエスター活動を頑張ってます。奈落退治を続けていれば、行方不明の両親の手掛かりがつかめるかもしれないと思って」
ダイアンナ「そのアキラちゃんの音楽に魅せられた、半吸血鬼の美女があたしだ。名前はディオーネ・ジョセフィン・ブランシュタード。アキラちゃんのボディガードのために、普段は高校のALT(外国人指導助手)なんかをやっている。そして、戦闘では魔力を宿した呪符を中心に戦う呪符使いで、夢はアキラちゃんの音楽の力で世界を支配すること。それを邪魔する奈落は許せない、と」
晶華→アキラ「ディオーネさんは奈落から助けてくれた恩人なんだけど、私の音楽で世界征服なんてマジないし。彼女の行き過ぎた妄言と過保護な愛には辟易としています。それでも、私の音楽のファンなのは間違いないので、嫌いではないんだけどね。私のために、隣の人を追い出して豪邸を建てちゃうような人だし」
ダイアンナ→ディオーネ「それはあたしじゃなくて、GMのダディが勝手に設定したことだ。あたしはそこまでするつもりはなかったんだが」
GM「その方が面白いからな。エンタメにおいて、面白さは何よりも重要だ。どうすれば話が面白く膨らませられるか、そして上手く整合性を保ちながら紡ぎ合わせることができるか。創作家なら、既存の作品の手法をあれこれ研究して自分の世界に上手く取り入れるのが道と知れ」
ディオーネ「とにかく、あたしはアキラちゃんの音楽のために、故郷の屋敷を引き払って、大金を注ぎ込んで隣に移り住んで来た貴族の当主だ。有閑貴族の趣味人の鑑とでも言おうか」
翔花→ユイ「クエスターじゃなければ、ストーカーの罪で処分したいところだけど」
ディオーネ「え? もしかして、ユイちゃんはあたしのことが嫌いなのか?」
ユイ「わたしのバイクを無断借用するし、わたしにも音楽をやれと無理に勧めて来るし、正直うっとうしい」
アキラ「うん、うっとうしい。何よりも過干渉なのよね〜と、ディオーネさんへの悪口でユイちゃんと盛り上がってます」
ディオーネ「ガーン。そこまで、うっとうしがられていようとは……」
ヒノキ「JKの悪口トークは凄まじいものがあるからのう。それはともかく、わらわの担当キャラは未来から来たバイクロボのニンバー19(ナインティーン)じゃ」
ユイ「愛称はニンニンね」
ヒノキ「マスター・ユイ。ワタシの愛称はニックです……と、その都度、修正しているのじゃが、一向に聞き入れてもらえない関係じゃ」
ディオーネ「ニックネームがニック。面白い言葉遊びだな」
ヒノキ→ニック「そのようなつもりはない」
GM「バイクに変形するロボがニックだと、これも思い出すな」
ニック「そのようなつもりも毛頭なかったのじゃが、結果的にキャラ被りしてしまったようじゃのう。まあ、カラーリングは赤ではなく、青系ということで差別化しようと思う」
NOVA「別にイラストがあるわけじゃないので、セリフでの役割演技で差別化すればいいだろう」
ニック「うむ。ロールプレイとしての一人称は、カタカナ表記のワタシで、ですますの丁寧口調で話す」
ディオーネ「『わらわ』と『のじゃ』は封印するってことか」
ニック「時々、素が混じることがあるかもしれんが、基本的にはクールで丁寧なロボ口調を心掛けたいと思う。とにかく、ワタシはマスター・ユイをサポートするために、未来から送られてきた正義のスーパーロボットでございます。未来の勇者であり、救世主であるマスター・ユイを守ることが我が使命であり、存在意義と言ってもいい」
ユイ「よろしくね、ニンニン」
ニック「ですから、ニンニンではなく、ニックと呼んで下さい、と何度も申し上げているではありませんか」
ユイ「ニックだったら、肉みたいで美味しそうじゃない。ジュルリと食べたくなっちゃうから却下」
ニック「さすがに、ワタシは栄養ではないので、食べても美味しくありません」
GM「という4人でプレイするわけですが、ご理解いただけたでしょうか」
ガイアin屋久杉『勇者のユイと、楽士のアキラ、呪符使いの半吸血鬼ディオーネと、バイクロボのニックですね。風変わりな4人チームだとは思いますが、それでどういう物語を紡ぐのですか?』
シナリオの選択
GM「はい。今回の神前TRPGに当たっては、どのシナリオを使うか悩んだのですが、結局、次のサプリメントに掲載のシナリオクラフトを使うことにしました」
ニック「新兄さんの自作ではないのか?」
GM「有り物がいっぱいあるのに、自作する必要はあまり感じなくてね。で、『エブリデイ・マジック』は16年前のサプリメントなので、ここでシナリオのネタ明かしをしても、FEAR社の商売の邪魔にはならんだろう、という判断です」
アキラ「ソード・ワールド2.0の『ミストキャッスル』よりも前の作品なのね」
GM「で、シナリオクラフトを使いこなせば、用意された10種類のストーリーパターンテンプレートに基づいて、ダイスを振るだけでシナリオが自動生成されていくという。言わば、GMレスでもプレイができるというゼロ年代の画期的な発明なんですよ。ある意味、『ミストキャッスル』もGMなしでプレイできる、ランダムイベントが売りのシナリオでしたが、その先駆者とも言えるわけですな」
ディオーネ「GMなしでもプレイできる。それなら、何のためにダディはここにいるのだ?」
GM「裁定役? あるいは、ランダムイベントの曖昧な内容を解釈して、物語の整合性を保つための語り部と言おうか。ただし、決まったストーリーを俺が用意しているわけではないので、プレイヤー発言によるアドリブを重視する方向性で。セッション中のランダムイベントと、プレイヤーの発言やアイデアでストーリーの細部が変わっていくので、俺にもどういう話になるか、予想が付きません。まあ、上手く落ち着くようにリアルタイムで考えはしますがね。とにかく、ある程度は言ったもの勝ちになりますので、みなさんも面白いストーリーのために協力して下さい」
ユイ「うん。主役はわたしたちなんだから、これはわたしたちが王になるための物語ってことね」
GM「いや、王にはなれないと思うけど、勇者になる物語なのは確か。そして、今回プレイするストーリーテンプレートは最初、『異世界からの脱出』にしようか、と考えていましたが、キャラ作りをしている間に、やっぱりつまらない、と思ってボツにしました」
ニック「確かに、それじゃ、つまらんのう。わらわたちはそれぞれ個性的な背景を持つキャラばかりじゃが、そういう背景に関係なく異世界に飛ばされたんじゃ、キャラ設定がちっとも活かせん」
GM「ええ。異世界に飛ばされて、そこからの帰還を目指すストーリーは、『アリス』や『オズの魔法使い』、それに『ナルニア国物語』、さらにドラえもん映画など昔からファンタジーの定番で、さらに異世界で勇者になったり王になったりして、現実と異なる成功、人生やり直し願望を図るのも、昨今のなろう系の定番と言えましょう。まあ、異世界の造形がオンラインゲームとか、テンプレ的なよくあるファンタジーゲーム風味で、割とご都合主義的なのが現代風なんですが、とにかくワンパターンな感じでつまらないです」
アキラ「要するに、私たちがソード・ワールドでプレイしている妖精郷だもんね。今さら、異世界に行って帰って来るだけの話なんて、飽き飽きよ」
GM「逆に言えば、キャラの背景とかは最初から深く考えずに、物語を立ち上げることができるというメリットはある。とりあえず、異世界に飛ばされて世界法則を主人公が一から勉強し直す形で物語は展開できる。世界観は後付けで広げて行くことが可能なので、ある意味、原初のTRPG的な創作スタイルである」
ユイ「今は違うのね」
GM「今のTRPGは、最初から舞台となる世界観は提示していて、キャラクターをその世界の住人らしく設計できるようにしているからな。『今回のシナリオは異世界転移ものです』と最初から言っていて、キャラ作りするならともかく、そういう指定なく背景設定をしっかり構築したんだから、シナリオもそれに合わせたストーリーテンプレートを選ぶのが道理。すなわち、今回選んだストーリータイトルはこれだ」
※放たれた野獣
GM「どこかの研究施設、もしくは異世界から恐ろしいモンスターが逃げ出して、君たちの住む街を脅かしている。君たちは被害が拡大する前に、BOSS敵である野獣、ビーストと呼称しようか、の居場所を突き止めて、退治しないといけない」
ユイ「はい、質問」
GM「何だ?」
ユイ「そのビーストは奈落に関係しますか?」
GM「十中八、九は関係する。だから、君たちに指令が来たりするわけだ。アルシャードをプレイしていて、敵が奈落に関係なかったら、最初の仮面ライダーの物語なのに敵がショッカーの怪人でないぐらい違和感だと思ってくれていい」
アキラ「南光太郎さんが、怪事件を全てゴルゴム、もしくはクライシスの仕業と考えてもいいようなものね」
ユイ「つまり、今回の野獣はバグナラクの仕業と考えていいってことね」
GM「バグがつくか、虫タイプかどうかは知らんが、敵の正体は今からダイスで決まる。飛彩ユイ、D6を振りたまえ」
ユイ「1」
GM「野獣の出自は、フューネラルコンダクター社らしい」
ユイ「え? それって、奈落退治に協力してくれる正義の秘密結社よね。表の顔は葬式屋さんで、社員のブラックロータスさんとはコネを持ってるし」
GM「どういう背景事情があるかは、プレイ中に明かされるとして、次に神名アキラ。それと、ディオーネ・J・B、君たちがそれぞれD6を振れ。それで、野獣の正体が決まる」
アキラ「2」
ディオーネ「6」
GM「ええと、表を見ると、捕縛を解いた少年もしくは少女とあるな」
アキラ「ちょっと。野獣じゃなくて、人間相手ってこと?」
GM「コードネームがビーストと呼ばれた奈落人、スペクターっぽいな。葬儀屋のFC社に捕まえられていたが、護送中に逃げられたってことかな」
ユイ「その場で始末してしまえば良かったのに。スペクターなんて生きて捕まえていても、奈落を除去して元の人間に戻せないんでしょ?」
GM「基本的にはな。だけど、もしかしたら元に戻すための研究が行われているかもしれない。とりあえず、FC社は割と奈落相手には冷酷非情なところがあるから、殺すことは殺したんだと思う。そして、死体を処理しようと移送している途中で、死んだビーストが思いがけず復活して脱走したって、ところじゃないかなあ」
ニック「なるほど。そうやって、表の結果からGMとプレイヤーが妥当なストーリーを提案、構築していくのじゃな。わらわもダイスを振らせてくれんか?」
GM「ならば、依頼主を決めましょう。D6をどうぞ」
ニック「3」
GM「ユリウス・ナインライブズ? これはダメですね。ボツにします」
ディオーネ「確か、世界征服を考えるヨーロッパ系財閥貴族だったな」
GM「その通り。ナインライブズ一族は、クエスターにとっては敵対組織になる。奈落そのものではないけど、奈落の力を利用して力を得るために暗躍している連中だ」
ヒノキ「むしろ、今回のビースト復活と逃走劇にナインライブズの連中が関わっているのではなかろうか」
GM「そうかもしれませんな。ナインライブズは九本尻尾の狐、フォックステイルの一族が主な構成員でして、日本の狐は比較的温厚な土着神として祭られているんですが、ヨーロッパ系の狐は狡猾な陰謀家気質として暗躍している設定。ビーストというコードネームも、もしかすると狐に関係しているのかも」
ユイ「狐狩りの時間ってことね」
GM「依頼主というよりも、敵の背景が構築された気がしますが、改めて依頼主は俺が適したものを決めます。アイギスの折田志緒理お嬢さまから飛彩ユイに狐狩りの指令が届いたところから物語を始めることにします」
(当記事 完。次回につづく)