ウルトロピカルな⭐️GT(ゲーム&トレジャー)島宇宙

南の島と上空の宇宙宮殿を舞台にTRPGや特撮ヒーローなどのおしゃべりブログ。今はFFゲームブックの攻略や懐古および新作情報や私的研鑽メイン。思い出したようにD&Dに触れたりも。

「雪の魔女の洞窟」攻略紀行(その10)

異教平原、南下中

 

リサ(ダイアンナ)「前回、あたしたちはついに〈雪の魔女の洞窟〉を脱出してから、外の世界の旅を開始した」

 

スタッブ(アスト)「それぞれの故郷に戻る旅じゃな。わしはストーンブリッジで……」

 

リバT『エルフの赤ツバメことレッドスウィフトさんは、月岩山地です』

 

リサ「2人が自然に故郷への旅だって言っているので、あたしも何だか自分の故郷に帰りたくなるかもね」

 

スタッブ「リサ殿の故郷はどこじゃったかな」

 

リサ「実はダークウッドの森の南なんだよね。近所にヤズトロモさんの塔があるところに、木の小屋を建てたりして、母さんと二人暮らしをしていた。父さんは死んだと聞かされていたんだけど、大きくなってから、実は冒険者としてフラフラ外の世界を旅してるって知るようにもなって……その辺の細かい経緯はこちらを参照だ」

リバT『お父さんのリーサン・パンザは「危難の港」の事件で、ブラックサンドの領主アズール卿の恨みを買ったので、その目を妻子からそらすつもりで、ブラックサンド付近を派手に冒険していたそうです』

 

リサ「一応、そう言い訳しているけど、単に放蕩癖が抜けないんじゃないかって気もする。あたし自身がそうだからさ。やっぱり冒険生活は楽しいし」

 

スタッブ「でも、今回は故郷に寄って行くってことじゃろう?」

 

リサ「そうだね。〈死の罠の地下迷宮〉とか〈雪の魔女の洞窟〉とか、命の危険を何度も乗り越えたんだから、ホームシックにもなっているのかも。それに、ヤズトロモさんに会いたいしね。スタッブ君には言わないけど、あたしと赤ツバメさんの〈死の呪い〉だって、ヤズトロモさんなら何とかできるんじゃないかって思うんだ」

 

リバT『ゲームブックには、そういうイベントがありませんけどね』

 

リサ「だから追加イベント案を考えた。リバTはこれを読んで、上手く話に取り入れて(メモを渡す)」

 

リバT『……なるほど。こういうことなら、上手くゲームブックと矛盾せずに済みそうですね。だけど、今回はそれだけでなく、スタッブおよびレッドスウィフトさんとのお別れがテーマだと思います。クイーンにはその辺のロールプレイをしっかりお願いします』

 

リサ「うん、脳内シミュレートはしっかりした。後は本番でしっかり演じるだけだ。涙の準備をしないと」

 

スタッブ「今回は泣かせる話になる予定じゃな。ハンカチもしっかり持って、と」

 

リサ「汗拭き用のタオルで十分さ。リアルだと夏なので暑いし」

 

リバT『暑いと言えば、やはり氷指山脈から南下中ですから、冬用装備だと汗をかく頃ですね。東方はるかに見える〈火吹山〉の赤い頂上付近の様子が〈雪の魔女の洞窟〉とは対照的に熱そうなイメージですし』

 

スタッブ「実は『雪の魔女の洞窟』って、タイトルからして『火吹山の魔法使い』と対照的に表現されているようじゃな」

 

リサ「なるほど。雪と火、魔女と魔法使いか」

 

リバT『ボスと対峙する直前にドラゴンが出現して、それぞれ氷の白竜と炎の赤竜ですし』

 

スタッブ「『雪の魔女』の方は、ダンジョンの中に川が設けられておらず、より小規模ではあったが、その分、外の世界に出たときに川を渡るイベントがあったりする。物語途中の川渡りイベントは、リビングストン作品の場合、この時期、恒例化していて、いよいよ冒険が後半に入って、クライマックスが近づいて来ていますよ、と伝える効果があるらしい」

 

リバT『生死の境を切り分けるのも川ですからね』

 

リサ「生死の境のドラマ。今回はそういう話になる予定」

 

苦難の予感

 

リバT『それでは、パラグラフ278番からの再開です。〈火吹山〉の不気味な姿が空高くそびえているのが見える背景で、あなたたちは小柄な老人に遭遇します』

 

リサ「この男の正体が、有名な火吹山の魔法使い、オルドラン・ザゴール……ということはないよね」

 

リバT『さすがに、そこまでの改変はしませんよ。ただの情報を売ってくれる親切な旅人です。金貨2枚を払って、情報を買いますか?』

 

リサ「スタッブ君、払っておいて」

 

スタッブ「今度はリサ殿が払う番じゃ。ゲームブック本編に書かれていない旅費や装備代なんかはわしらが肩代わりするが、本編に明記されているものは、自分のキャラシートから減らすように」

 

リサ「まあ、渡し守に10枚払うよりはマシかな。たかだか2000円だし。お宝情報が入ると思えば」

 

リバT『老人が提供する情報は2つです。1つは、この先、近くの池には毒が入っているので飲まないように、とのこと。そして、もう1つはより深刻なんですが、ストーンブリッジの北側に丘トロールが大勢集結していて、厄介なことに巻き込まれないよう避けて通った方がいい、とのことです』

 

スタッブ「いや、ドワーフがいるパーティ相手に、そんなことを言われて、はい、そうですか、と快く応じれるはずがなかろう。ストーンブリッジはドワーフの多くの故郷というのは、アランシアの常識じゃろうし」

 

リバT『ライバルの、西のマイアウォーターを故郷にしている者もいますがね。まあ、そちらはマイナーで、しかもずっと敵役のイメージが付いていましたが』

 

スタッブ「とにかく、故郷がピンチかもしれんと聞いて、心配じゃ。先を急ごう」

 

リサ「ああ、待ってよ〜、スタッブ君。1人でさっさと行っちゃうなんて。仕方ない、赤ツバメさん。あたしたちも急ぎましょう」

 

リバT『エルフさんはぼんやりしています。少し目が虚ろになって。今の季節だと、熱中症の初期症状みたいな感じ?』

 

リサ「それは水分補給をしないと。水筒を取り出して、飲ませるわ。間接キスになるけど、気にしない」

 

リバT『気にしないんだったら、わざわざセリフにして発言しなくてもよろしいのでは?』

 

リサ「その辺は複雑な乙女心を察してよ。愛しているわけじゃないんだけど、好きだと言った彼のことが心配なんだから」

 

リバT『エルフさんは、リサさんの水筒から一口飲んで、少し楽になったようです。すまない、もう大丈夫だ、と言いながら、少しふらついている様子』

 

リサ「頑張って。ヤズトロモさんのところに行けば、呪いなんて簡単に祓ってくれるはず」

 

リバT『そうであれば、いいんだが、と赤ツバメさんは微笑を浮かべます。では、ここで運だめしをしてください』

 

リサ「6で成功(残り運点10)」

 

リバT『では、空から急襲してきた鳥人間の攻撃に気がついて、とっさに剣を振り回して、相手を牽制することに成功しました(失敗すれば2点ダメージ)。気がつくと、上空を4体のバードマンが飛びかっています』

 

リサ「あたしの中のシャリーラ知識によれば、こいつらがただのバードマンでないことは分かります」

 

リバT『確かに、技術点12、体力点8のアンバランスさ。ボスでもないポッと出のランダム遭遇みたいな敵が、いくら何でも技術点12はおかしいだろう、と考察しているサイトがありましたね』

 

リサ「実はこいつら、シャリーラが闇の魔術で生み出した改造生物、雪国の鳥人ペンギンマン。しかも、その王者コウテイペンギンマンというオリジナル設定を披露します」

 

スタッブ「ペンギンは飛べないだろう」

 

リサ「それには、こういう反例を示すわ」

リバT『冷凍怪獣ペギラですか。確か南極出自ながら、北極まで長距離飛行する能力があって、その途上の東京を氷河期にしたという、無茶な設定のウルトラQ怪獣ですね』

 

スタッブ「何でシャリーラがそんな物を作るんだよ」

 

リサ「もちろん、アランシア氷河期計画の陰謀の一環よ。若き日の過ちの延長線上と言ったところかしら、とあたしの中のシャリーラが囁いてくる。闇の魔術で試しに作ってみたけど、思ったよりも凶暴で制御が効かないから、洞窟の中の秘密の実験室で隔離していたの。だけど、洞窟が崩れたせいで、逃げ出したのね。コウテイペンギンマン、または長いので、ペギラマンと呼称する」

 

リバT『闇の魔術で改造強化されたバードマンということで、ペギラマンですね。何だかドラクエの呪文のようにも聞こえますが、戦ってください』

 

リサ「シャリーラの不始末は、あたしが何とかしないと、と妙な責任感に駆られて、立ち向かうことにする」

 

 ペギラマンは強敵で、技術点だけならネズミが変身した白竜と並んで、本作最強モンスターの一つ。

 幸い、体力が少ないので、運だめし2回で撃退に成功する。その間に受けたダメージは6点。体力点14、運点残り8という消耗した状態になった。

 

リバT『1体をかろうじて撃退すると、残った3体は恐れをなしたのか、それとも仲間を呼びに戻ったのか、東の空に飛んで行きます』

 

リサ「シャリーラ、何て恐ろしいものを作ったの。あんなのが繁殖したら、アランシアが一体どうなるか」

 

リバT『「ああいう自然ならざる生き物は、魔の力の強いところに惹かれると聞いたことがある。火吹山周辺に巣を作っているのかもな」と赤ツバメさんは説明します。「弓で支援しようと思ったが、頭がふらついて、君に当てるかもしれないと思ったら撃てなかった。すまん」と苦渋の表情』

 

リサ「気にしないで。それより急ぎましょう。スタッブ君に追いつかないと」

 

リバT『途中で、リサさんも喉が渇きます。暑さのせいか、別の理由か、水筒の水を飲み干してしまいますよ』

 

リサ「どこかで水を補充しないと」

 

リバT『ちょうどいいところに池がありましたが、オーガの体がプカプカ浮いています。気にせず、水を飲みますか? 渇いた喉を潤してくれますよ』

 

リサ「フラフラと近づきそうになったところを、赤ツバメさんが抑えてくれる。どう見ても、毒だろうって。あたしは彼に感謝しながら、スタッブ君の後を追う」

 

リバT『毒水を飲めば4点ダメージでしたが、飲まなかったので、喉の渇きに苛まれるだけで1点ダメージで済みます』

 

リサ「残り体力13点ね。仕方ないので、幸運のポーションを飲んで、喉の渇きを多少でも潤すわ(運点が13になる)」

 

リバT『2人がスタッブさんのところに追いつくと、彼は岩場で号泣しています。原作ではレッドスウィフトが気づくことで、ドワーフの死体が見つかるのですが、話の流れで状況を少しアレンジしました』

 

スタッブ「わしは嘆き悲しめばいいんじゃな。うお〜、〈鍛冶屋のモーリ〉、わしの兄貴分でバーノンのおやっさんの一番弟子よ〜。どうして、こんな酷いめに〜と、状況説明するぞ」

 

リバT『彼のフルネームは、モーリ・シルバーハートと「タイタン」に記されています。どうやら丘トロールと斧で奮戦しながら力尽きたようで、ゲームブックには記されていませんが、2体のトロールの遺体も残っていることにしましょう』

 

リサ「戦場跡の生々しい血の匂いに、喉を潤したくなっている自分に気づいて、戸惑います」

 

リバT『気づくと、赤ツバメさんの瞳も、微かに赤い光を帯びて、魔の影響がじわじわと感じられますね』

 

リサ「こんな状態で戦場に立つと、いかにもヤバいと気づきます。ええと、死体が転がっているのは目の毒なので、穴を掘って埋葬してあげようと思うんだけど」

 

リバT『意図を察したエルフも穴掘りを手伝ってくれますね』

 

スタッブ「我が兄貴分のために、そこまでしてくれる2人に感謝しつつ、埋葬の作業に励むぞ。そして、モーリの斧と兜を墓標代わりに、彼の遺した水筒で喉を潤すようにリサ殿に手渡そう」

 

リサ「赤ツバメさんに半分、飲んでもらってから、自分も飲む(体力1点回復。残り14点)」

 

スタッブ「では、先へ急ぐぞ」

 

リサ「待って。故郷のピンチに逸る気持ちも分かるけど、もう夜が近づいて来ている。あたしたちには休憩が必要じゃないかしら」

 

スタッブ「むっ、確かに。ストーンブリッジまでの距離を考慮に入れて、どう考えても、半日近くはかかりそうだと判断をつける。リサ殿やエルフの表情からも、疲れていることに気づいて、無理はさせられんと思った。わし一人なら夜を徹してでも突き進むところだが、2人に強行軍を押しつけるわけにも行くまい」

 

 こうして、あたしたちはそれぞれの不安を抱えたまま、3人揃っての最後の晩餐を共に過ごした。

 

最後の晩餐

 

「スタッブ君は何歳なの?」

 彼の作ってくれた美味しいシチュー(食材は赤ツバメさんが弓で射落とした鳥の肉。当たり前だけどペギラマンじゃない)を食べながら、あたしは親愛なるドワーフさんに尋ねた。

「何じゃ、やぶからぼうに」

「う〜ん、これまで単純に背の高さを基準に、赤ツバメさんとスタッブ君って呼んでたんだけど、実は失礼だった?」

「赤ツバが年上で、わしが年下なのは間違えておらんが、わしは50過ぎで、ドワーフの中ではまだまだ若輩者。スタッブさんと敬意を持って称されると、むずがゆい。スタッブ君でいいぞ、リサ殿」

「それだったら、あたしも20になったかならずかの若輩者なんだから、リサ殿って言われるのも、むずがゆいかも」

「リサちゃん、リサって呼び捨て、リサさん、嬢ちゃん……う〜ん、どれもしっくり来んわい。こういうのは年齢差がどうこうではなく、個人と個人の関係性じゃろう。わしと赤ツバは、魔女に奴隷として捕まっていたところを、英雄剣士のリサ殿に助けられた。自分の恩人に、殿づけするのは当然じゃろう。それとも、女性に殿はおかしいか?」

 殿って呼ばれるほど、偉い身分じゃないんだけどな。ただの田舎出の盗賊娘だし。

 だけど、このドワーフにとっては、あたしは英雄らしい。あと、ファングの人たちにとってもそうかな。自分が英雄だって言われたら、何だか不思議な気がするけど。

「スタッブ君、いや、スタッブさんは、自分のことを若輩者って言うけれど……」あたしは相手の方に話を切り替えた。「50過ぎだったら、あたしにとって立派なお爺ちゃんだよ。スタッブ爺さまって言っていい?」

「それはよせ。人間の基準で考えるな。わしはまだまだ若い」

 だけど、ドワーフって年寄りっぽいもんね。老ドワーフって感じ。

「まあ、若いと思ってはいたが……」スタッブ君、いや、スタッブさんはため息をついた。「こたびの雪の魔女の一件で、老け込んだように思えるのも事実。できれば、冒険なんぞ引退して、故郷で改めて鍛冶屋修行のやり直しをするのもいいかもな。モーリのああいう死に方を見ると、故郷を飛び出したのが失敗だったと思えてくる。モーリの横で戦っていれば、死なせずに済んだかも」

 そう悔やむように言うドワーフさんは、確かに初めて出会った時よりも老け込んだように見えた。知人の死、というものが心に与える影響はずいぶんと大きいのだろう。

 人の死は何人も見て来た。

 盗賊みたいな裏稼業で、ドジを踏んで散った知り合い。

 迷宮探検競技で、死を見とったり、殺したりした競争相手たち。

 だけど、友だちというには付き合いが短くて、共に食事をした間柄ってわけでもない。

 たぶん、あたしにとって、初めての旅仲間、友人と言えるのは、このドワーフとエルフの2人なんだろう。

 だから、別れたくはなかった。いつまでも一緒にいられれば、と思った。

 

「ストーンブリッジに着いたら、お前さん方の歓迎会……と思ったが、戦が迫っているとなれば、そういうわけにも行かんかもしれん」

 老け込んだドワーフの言葉が、ズキッと胸に刺さった。

「戦いなら、あたしも一緒に戦うよ」後先考えずに、そう言った。

「わたしは断る」赤ツバメさんの冷ややかな声が今度は耳に突き刺さる。

 どうして? そう目で問いかけると、エルフさんは厳粛な表情で、あたしを見つめ返した。

 それだけで、あたしは理解できた。

 ああ、呪いのことがあるからか。

 死の呪い、吸血鬼化の呪いは、闇と死の魔術に関係している。戦場もまた闇と死が蔓延した場所で、そんなところで死を振りまくべく剣を振りかざし続けたら……その結果は容易に想像できようものだ。

 少なくとも、この呪いが解除されるまでは、あたしと赤ツバメさんがスタッブさんの故郷を守るための戦いに、喜んで参加することはできない。

 あたしは了解の印に、エルフさんにうなずいて見せた。

 

「赤ツバにも何やら事情があるようだな」

 スタッブさんの深い声が、夜の闇に染み渡るように響いた。

「戦いと聞いて怖気づく臆病者でないことは分かっておる。大方、呪術の類で、戦えない理由でもあるのじゃろう」

「スタッブ。ぼくは……」動揺したかのようなエルフさんの声。普段はわたしと言う彼が、自分のことをぼくって言うのは、気心の知れた間柄か、冷静じゃいられなくなった場合。

「リサ殿も、赤ツバの事情を知っておるのだろう?」思ったよりも鋭いドワーフさんの舌鋒が、あたしにも向けられた。

 どう答えたらいいか戸惑っていると、

「みなまで言わんでいい。魔術や呪術のことは、わしにはからっきしだからな。相談されても何の助けにもなれんじゃろうし、心配させたくないって気持ちもよう分かる。わしも、自分の故郷の問題で、お前さん方に気遣わせたくはなかった。大切な友人だからこそ、水臭い気持ちになることもあるのはお互い様じゃ」

 老ドワーフらしい威厳を示しながら、スタッブさんはあたしたち2人の顔に、それぞれ瞳を向けた。

「2人がわしに隠し事をしているのは気づいておったが、詮索好きはわしの性分ではないからな。ただ、お前さん方がそれでわしに後ろめたく思うことはないぞ。すべてとは言わんが、わしにもおおよそは分かっている。だから、リサ殿」

 真剣な目であたしを見る。

「赤ツバのこと、よろしく頼む。わしよりも、エルフの方が心が繊細だろうからな。それに、わしの故郷はすぐそばじゃ。お前さん方と別れても、仲間はいっぱいおる。わしのことは心配せんでええ。それより、赤ツバの故郷までの旅は、リサ殿しか付き合ってやれんじゃろ」

「分かったよ、スタッブさん」

「ほれ、その言い方はやめろ。今までどおり、スタッブ君と呼んでくれんと、むずがゆいわい。人を老けさせるな」

「あたしたちの問題が解決したら、必ずストーンブリッジに行くから。戦いが待っているなら、必ず助ける。だって、この近くには、あたしの故郷だってあるんだし」

 エルフさんは何も言わなかった。話をあたしに任せてくれているんだろう。

 

「おっと、そうだった。リサ殿には、これを渡しておかねばな」

 何やら思い出したように、スタッブさん、いや、スタッブ君は背負い袋をガサガサあさり出した。

「これじゃ、これ。ファングからの土産物じゃ」

 袋から取り出したそれは人形だった。

 子供が遊ぶぬいぐるみとかじゃなくて、もっと精巧で、造形が細かくて、現実っぽいけど、それでも奇形化(デフォルメ)された感じの彫像(フィギュア)。

 彫像は、女戦士の姿をしていた。剣と盾、鎧をまとって、澄んだ大きな瞳は、まるで童話に出てくるお姫さまが騎士の装束をまとったようで、いかにも女英雄って感じだった。

「リサ殿じゃ」

 え? 

 ドワーフさんの言葉が、あたしには衝撃だった。

 だって、この人形はちっともあたしに似ていない。あたしよりも顔つきが可愛くて、スタイルも良くて、何よりも気品がある。

「ファングの街で、〈迷宮探検競技〉の初代踏破者リサ・パンツァの似姿として出回っているのが、それじゃ。ずいぶん見事にアレンジされておるのう」

「へえ。そんな物が売っていたのか」赤ツバメさんが興味津々で覗き込んでくる。

「お前さんは呪術のことで頭がいっぱいで、何も見えておらんようじゃったからな」

「本物は、これより目が細くて、つり目気味で、キリッとしている」細かく解説を加えるイケメンエルフ。恥ずかしいからやめて。

「スタイルは……豊満なのが人間の好みとは聞いたことがあるが、少し盛り過ぎだな。いかにも不自然だ」イヤミかよ。

「だけど、エルフの目からは、本物の方が好みだな」

 えっ?

 人形より、あたしの方を褒めてくれてるの?

 このイケメンエルフが?

 顔が熱くなるのが分かる。

「まあ、本物を知ってるわしらには、この人形が嘘の模造品……にもなっていないことは分かる。あくまで空想の産物じゃとな」

 ドワーフさんの言葉で、あたしは落ち着いた。

「あ、でも、これが世間のリサ・パンツァだとしたら、あたしがファングに入ってもバレなかったかもしれないわね。全然、似てないんだし」

「う〜ん、どうじゃろうか?」スタッブ君は首をかしげた「細かい造形の違いはあるが、全体的な雰囲気が、この人形もリサ・パンツァの本質らしさをつかんでいると思うんじゃ」

「どういうこと?」

「芸術の話は性分ではないが、優れた芸術家は魂の目で世界や対象の本質を観察する、と聞いたことがある。このリサ殿は、その魂の目で見たリサ殿の本質を表現したようにも思える。つまり、誰かがリサ殿本人を見て、写実的にではなく、直観的な印象で抱いたリサ殿の姿を映しとったようにも思えてな」

「誰かって誰よ?」

「そこまでは知らん。時間があれば、造形師を探り当てることができたかもしれんが、わしはそういう専門ではないからな。何日、聞き込みをせねばならんことか」

「直観的な印象って……」

「気品あふれる女英雄、華麗な姫騎士として、リサさんを見た人物がいるんだろう」

 赤ツバメさんの言葉に、あたしは少し考えて、ふと合点がいった。

「あ、そうか。これはお芝居か何かの登場人物なんだよ、きっと。あたし本人ではなくて、あたしを演じた役者の姿だ。だから美化されても当然。う〜ん、世間で言うところの英雄譚って、こんな風に美化されているんだろうね。本物に会ったら、がっかりだとかさ」

「本物の魅力は、ぼくたちだけが知っていればいいさ。ありがままのね」

「わしらにとっては、本物の英雄リサ殿の姿は美麗な偶像にも匹敵する輝きを放っておる」

 2人の仲間にそういう風に言われて、あたしは顔から火が吹きそうだった。

 〈雪の魔女〉には味わえなかった気持ち。

 

 スタッブ君があたしにくれたその人形は、今でもあたしの宝物だ。

 この人形を見ると、あの夜の3人そろっての夕餉、幸せな鳥肉の味も蘇ってくる。

 

さよならスタッブ

 

リバT『では、その夜、最後の晩餐を終えた一行は、いつものように交代交代で不寝番を務めながら、それぞれの休息の時を過ごします。野営中に何もなかったかどうか、運だめしをして下さい』

 

リサ「運は13に回復しているから、何が出ても成功だよ。(コロコロ)9。うん、幸運のポーションを飲んでいて正解だったな(残り運点12)」

 

リバT『成功したら、何も起こりません。失敗すれば、人狼(技8、体10)に襲撃されるところでしたが』

 

リサ「吸血鬼化の呪いを受けた者たちと、人狼ワーウルフ)の戦いかあ。何だかB級ホラーっぽい展開になっていたろうね」

 

リバT『無事に野営が済んで翌朝、旅を急ぐスタッブさんを先頭に、あなた方は普段よりも速いペースでストーンブリッジへ急ぎます。そして、もうすぐ昼食時だというところで遠くの空に煙が上がっているのが見えました』

 

スタッブ「わしの故郷が! 脇目を振らず、駆け出すぞ!」

 

リサ「もう、無謀なんだから。すぐに後を追いかける」

 

リバT『スタッブさんは、すぐに村に進軍する6体の丘トロール小部隊を発見します』

 

スタッブ「たかが6体。相手にとって不足なし。斧を振りかざして突撃〜!」

 

リサ「やれやれ。2体はあたしが引き受ける。血に飢えた衝動で瞳を赤く燃やして、切り掛かる」

 

リバT『丘トロールの技術点は9。体力点はそれぞれ10と9。2体同時に戦闘となります』

 

リサ「ソロでやると、ダイスを振る回数が多くなって、面倒なのね。2体同時に攻撃できればいいのだけど」

 

リバT『戦闘記述は略式で行きます』

 

 3人の仲間がそれぞれ2体ずつの丘トロールを相手どる。

 これが、あたしたち3人そろっての最後の戦いとなった。

 あたしの剣を振るう手は、自分で思っていたよりも重くて鈍い。旅の疲れが抜けていないってのもあるけど、それよりも死の呪いの影響だ。自分で自覚する以上に消耗していたのだろう、普通ならかわせる攻撃すら避けられずに痛打を受けてしまう。

 2体がかりの攻撃をさばききれずに、もはやこれまで、死を覚悟しようかって思ったとき、激怒のドワーフが斧を振りかざして、あたしの前の1体を仕留めてくれた。

 残る敵は1体。これなら何とか。

 そのままスタッブ君は、あたしと同様に苦戦していた赤ツバメさんの援護に向かい、

 獅子奮迅の働きを示したドワーフの猛攻の甲斐あって、あたしたち3人は倍の数の丘トロール部隊を全滅させることに成功した。

 

リサ「受けたダメージ総計は6点で、残り体力は8点。思ったよりも傷ついてしまったわね」

 

スタッブ「すぐに村へ入るぞ。回復は安全地帯についてからじゃ」

 

リバT『ストーンブリッジの村は厳重警戒態勢ですが、スタッブさんがトロールの首を持って、中に入れてくれるように叫ぶと、旧友のドワーフさんが総出で出迎えてくれます。仲間の2人もいっしょに村に迎えられ、休息できる宿まで案内してもらえます』

 

リサ「お金はいっぱい持っているんだけど、宿で寝泊まりして体力回復はできないのよね」

 

リバT『ゲームとしては、自前の食料で何とかして下さい』

 

リサ「1食食べて、残り1食(涙目)。何とか体力12点まで持ち直したわ」

 

リバT『宿では、スタッブさんの旧友の1人、ビッグレッグと名乗る屈強のドワーフさんが村の現状を解説してくれます。丘トロールは6体ずつの小部隊を定期的に派兵して、こちらを消耗させようと狙っていること。こちらも村のドワーフの総勢力を結集させて、一気に状況打開を図りたいが、ジリブラン王の持つ伝説の戦槌(ウォーハンマー)が一羽の鷲に盗まれて、ダークウッドの森の上空から落とされて行方不明になっているそうです』

 

リサ「その話、あたしに解決させてくれないかしら。というか、遠い記憶で解決したと思うの」

リバT『ビッグレッグさんは、訝しげな目をリサさんに向けます』

 

リサ「あたし、分かるわ。あなた、ハンマー探しの旅の途中で、残念ながら命を落としてしまう。そこで出会った冒険剣士に、後を託して、ヤズトロモさんのところに行くよう伝えなさい。そうすれば、過去のあたしがきれいに(1キャラ死んだけど)事件を解決してくれるわ」

 

リバT『「何を言ってるのか、訳が分からん」とビッグレッグさんはつぶやきます。トロールに頭を殴られて、おかしくなったのか?」と、スタッブに尋ねますよ』

 

スタッブ「失礼なことを言うな。リサ殿はこう見えても勇者じゃよ。今のは大方、未来視の力で見えた予言か何かだと思う」

 

リバT『「未来視? 過去のあたしと言っていたではないか。過去なのか、未来なのか、どっちの話だ。錯乱してるとしか思えん」と困惑するビッグレッグさん。それから気を取り直して、「わしはこれよりハンマー探しの旅に出ようと思う。スタッブ、帰った早々で悪いが、共に来てくれんか?」

 

リサ「いやあ、あたしからスタッブ君を奪って行かないで〜(涙目)」

 

リバT『「リサさん、落ち着け」とレッドスウィフトさんが、そっと抱き寄せます』

 

リサ「抵抗せずに、そのまま受け入れます。自分が仲間との別れに際して、思いの外に過敏になっていることに気づいて、うまく自制できない。ちょっとヒステリックな反応になっている。でも、ビッグレッグさんは、あたしの目には、まるで死に神のように見えます」

 

リバT『まあ、「運命の森」によると、彼の仲間は待ち伏せにあって全滅したそうですからね。彼といっしょにハンマー探しの旅に出ることが、死亡フラグになっているという』

 

スタッブ「それでも、わしはモーリの死を見ているから、ビッグレッグを一人で旅立たせようとは決して思わんじゃろう。ビッグレッグの要請に応じて、『おお、ジリブラン王のハンマーはわしらの手で、必ず取り戻さねばならんな。そのために、この日、このタイミングで、わしは村に戻って来たのだと思う。これも運命じゃとな』と悟りきったかの笑みを浮かべる」

 

リサ「そんなことを言わないで。旅立つのはいいけど、誰か別の人と連れになってよ。ビッグレッグさんだけはダメだから。行くなら、せめてピンチの時には、ビッグレッグさんを置いて逃げるって……言うわけないよね。スタッブ君の性格だったら」

 

スタッブ「おお、ドワーフの漢にはな、たとえ死ぬと分かっていても、果たさねばならない義理人情ってものがあるのじゃよ。そうじゃ、リサ殿には、この【エルフのブーツ】を渡しておこう」

 

リサ「そんなのいらない。それを受けとってしまえば、攻略失敗が確定してしまうし。お願いだから、その【エルフのブーツ】を使って、上手く偵察活動を行なって、クロスボウによる不意打ちを何とか回避して〜」

 

リバT『具体的なアドバイスをいろいろしていますが、パラグラフ211番には、確実な未来がこう書かれています。「スタッブはビッグレッグと連れ立って宿屋を出ていき、それが陽気な老ドワーフの姿を見る最後となった」と』

 

スタッブ「はっきり死んだとは書かれておらんが、残念ながらリサ殿とはここで今生の別れのようじゃ。今のところ、他のゲームブックでスタッブが再登場したという話を聞かん以上、まあビッグレッグの連れとして人知れず、命を落としたのじゃろう。スタッブはここでハンマー探しの旅に出て、本作から退場を宣言する」

 

リサ「未来が分かっているのに、止めることも、変えることもできない自分の状況に涙を流します」

 

2人の旅路

 

リサ「スタッブ君と別れた以上は、もうストーンブリッジに残る意味がないので、赤ツバメさんと速やかに出て行くことにします」

 

リバT『村のドワーフさんたちは、王のハンマーがないせいか一部のヤル気ある戦士を除けば、全体的に陰鬱ムードで、部外者のあなたたちにも取り立てて関心を持ちません。一応、形式上は、丘トロールに気をつけて、と声をかけてくれますが、華奢な人間の少女剣士にも、フラつき気味の病弱そうなエルフにも、戦士として何の期待も寄せていないようですね』

 

リサ「これがスロムみたいな屈強な大男だったら、期待の英雄扱いされていたんだろうね」

 

スタッブ→アスト「ドワーフはマッチョ崇拝なところがあるからな。技よりもパワー、肉を斬らせて骨を断つ持久戦法だから、敏捷重視な軽戦士を高くは評価しないんだろう」

 

リバT『これって、冒険と戦争の戦い方の違いもあるんですね。冒険者は基本的に少人数同士の戦いがメインになりますから、敵の人数が把握しやすい。例えば、10人の敵がいるなら、10人に気を配ればいいわけです。まあ、途中で敵の増援が来るにしても、何十分も延々と戦い続けるケースは稀です。冒険者の戦いは、長くて10分も戦えば、決着はつきます。そこではスタミナ配分もあまり考える必要はないでしょう。

『しかし、戦争では敵の数が少なく見ても何十人単位ですし、場合によっては何百、何千と桁違いに数が跳ね上がって来ます。そうなると、自分が何人を相手どらないといけないのかが把握できなくなります。その中で大事なのは、とにかく打たれ強さとスタミナです。軽戦士の蝶のように舞い、蜂のように刺す俊敏戦術ではすぐに疲れて、最後まで戦闘力を維持できません。さらに、敵味方が周りに群がる乱戦状態だと、敵の攻撃を回避する空間もありませんからね。必然的に重装甲のタフマッチョな打たれ強い戦士が、戦場の華となるわけですよ』

 

アスト「戦場での軽戦士は、機動力を活かした奇襲攻撃や、伏兵として潜みながら敵陣の中核を狙うか、遠隔狙撃兵などピンポイントで運用されるべきで、ドワーフトロールのパワー戦で、リサやレッドスウィフトみたいな俊敏タイプは元々、活躍しにくいようになっているわけだな」

 

リサ「ましてや、あたしも赤ツバメさんも体調的に本調子じゃないから。まずは、死の呪いを何とかしないと、本領も発揮できないことが先のトロール戦でよく分かった。一応、村でお水だけ補充させていただいて、でも食料の補充はできないよね」

 

リバT『いくらお金があっても、戦争前夜の村で糧食を売ってくれる余裕は普通ないでしょうね。平時とは経済感覚が大きく変わって来ます』

 

リサ「分かった。役に立たない余所者は、コソコソと旅立つよ。この村の救世主は、あたしじゃなくて『運命の森』の主人公だ。それはリサ・パンツァとは違う物語ってことで」

 

アスト「ところで、見習い司祭のアリマ・センは帰って来ていないのか?」

 

リバT『ああ、それは本筋に関係ない裏情報ですが、実は彼、数日前にストーンブリッジに帰って来ました。その時には運良く、丘トロールはまだ活動を開始してなくて、この周辺は平和だったのです。だから、彼は安全に、南のヤズトロモさんのところに向かうことができたわけです』

 

リサ「途中でのたれ死んでいないって聞いて、プレイヤーとしては安心したよ。とにかく、アリマさんは今、ストーンブリッジにいないってことだね。さあ、あたしたちもこれからヤズトロモさんのところに向かうか。ここからゲームブックにない特別イベントになるから」

 

アスト「ゲームブック通りだと、パラグラフ211でスタッブと別れて、その2つ先の38番でエルフが〈死の呪い〉の話を告白して、その次にあっさり死んだりするからな」

 

リバT『つまり、たったの数パラグラフで3人パーティーが離散してしまい、主人公1人旅に戻るわけですね。ゲームとしては衝撃サプライズですけど、ドラマとしては淡々と話が進んで、想像力に満ちた感情移入しやすいプレイヤーさんの脳内だけで、仲間とのお別れシーンが味わい深く膨らんで行った、と』

 

リサ「リビングストンさんもシチュエーションだけは劇的だけど、ドラマ演出の手法は現在の作品ほど高みに達していない、と」

 

リバT『要は、主人公が無個性のドラクエタイプですからね。ドラマにしようと思えば、主人公にも残飯漁りの腹ペコキャラとか、暗殺者に狙われることになる無人島サバイバルギャンブラーとか、同じ剣士でも独特なキャラ付けが求められます。単に冒険心旺盛な旅の剣士ってだけでは、ドラマの主体にはなり難いです』

 

アスト「それでもNPCが積極的に主人公に絡んで来るから、ドラマになってるわけだな。まあ、この時期ではNPCとの出会いと束の間の絡みと別れで、ゲームブックの可能性を試行錯誤的に広げている最中で、世界観の構築とキャラドラマの深化を作品ごとに向上させている、と」

 

リバT『同時期のコンピューターRPGだって、そうじゃないですか。最初は無個性カニ歩き勇者だったドラクエが、仲間キャラの個性を売りにしたのって、4からですよ。それまで4年はかかりました』

 

リサ「本作は火吹山から2年後なんだね。4年後(86年)は何だっけ?」

 

リバT『21巻の「迷宮探検競技」がリビングストンですね。ドラマチックとしては、その年のジャクソンの24巻「モンスター誕生」が頂点になるでしょうが、他には23巻「仮面の破壊者」からがFFシリーズの次の時代の旗手みたいに評価されておりました』

 

リサ「今も、FFC3(リビングストンセット)とFFC4(ジャクソンセット)の、次の旗手になるかもしれないね」

 

アスト「レジェンドの次は、ニューホープ(新たな希望)ぐらいのサブタイトルかな、と予想したりする。80年代当時の期待の新人と、現代FFの期待の新人を混ぜ合わせたりして」

 

 

リサ「話を戻すよ。ここから先はゲームブックを踏まえたうえでの、リサ・パンツァ独自のドラマだ。まず、ストーンブリッジからヤズトロモさんの塔を目指す」

 

リバT『クイーン独自のシナリオ展開ですね。まずは「運命の森」の時と同様に、運だめしをしてください』

 

リサ「ピンゾロが出たので華麗に成功(残り運点11)」

 

リバT『これが「運命の森」だと、ハンマーの柄と頭をゲットせずに森を出た場合、もう一度、ヤズトロモさんの塔に引き返して再スタートできるわけですが、運だめしに失敗すると、山男の集団から矢を浴びて死亡エンドです。本作の場合は、ストーンブリッジから南下した場合に、運だめしに失敗すると、丘トロールの3人組に見つかってしまうんですね』

 

リサ「赤ツバメさんに1体を任せて、あたしは2体相手にするんだけど、先ほどは2体相手に6点のダメージをくらったし、避けられる戦闘なら避けたい気分なわけだ。正直、FFゲームブックで2体同時戦闘だと、無駄にダイスを何度も振らないといけなくて、面倒さが増すし」

 

アスト「ダイスを振っているだけで無邪気に楽しめた初心者の時代が懐かしいよな」

 

リバT『一応、トロールを倒すと、技術点+1の鋭利な名剣を入手できるんですけどね。原技術点を超えられないようでは、あまり嬉しくない、と』

 

リサ「とにかく、トロールの監視網を抜けて、赤水川の流域に沿って歩いていると、パラグラフ38番。お互いに死の呪いの効果が発動し、赤ツバメさんが告白する。熱で目眩がし、心臓がドキドキして、リサ・パンツァは生まれて初めての恋というものを知るわけだ」

 

アスト「いや、恋じゃないだろう? 呪いで死にかけているんだろう? 勘違いしてるんじゃねえ」

 

リバT『いいえ。クイーンのシナリオだと、勘違いではないのですよ』

 

アスト「どんなシナリオなんだよ。メモを見せてみろ。(じっくり覗き見て)なるほど、こんな展開は、リビングストン先生は書けんわ。というか、当時はお子様レーベルだったFFゲームブックじゃ書けねえ。主人公キャラが女性じゃないと成立しないし」

 

リサ「いや、男でもBL展開はありだろう」

 

アスト「まだ男女のストレートな愛で、ドラマチックに展開する方が受け入れやすい。大体、リサはエルフに愛ではなく、仲間として好きなんじゃなかったのか?」

 

リサ「そう、そのつもりだったんだ。だけど、スタッブ君と別れて、心にぽっかり穴が空いたような寂しさを覚えて、そこに今にも命を落としかけている男女の2人きりのシチュエーション。秘密を共有し、互いに憎からず想っているカップルが『川辺で草の上に倒れ込む』(パラグラフ38)……という文章が書かれたら、エロスとタナトスドラマツルギーが発生しても不思議ではない。いや、発生しない方が不思議だ。あたしは、リサ・パンツァはイケメンエルフの彼と最後の情事を重ねたい。このシチュエーションに、レッドスウィフト役として付き合ってくれないか、アスト?」

 

アスト「レッドスウィフト役は、リバTだろう? オレを巻き込まず、2人で触手プレイでもやってくれ」

 

リバT『それじゃあ、百合触手じゃないですか。やはり、クイーンが愛情を表明する相手に相応しいのは、アストさんしかいません。「盗賊剣士」でボクラーノとニナ・ガーデンハートの愛情関係を演じたお2人ですから、赤ツバメとリサさんの愛情劇を演じることを、読者さんは心待ちにしています』

 

アスト「絶対ウソだ。ゲームブックの攻略記事を読みに来て、いきなり恋愛劇が展開されたら、普通は???と反応するぞ。読者の需要はそこにない。とっとと赤ツバメには死んでもらって、話を先に進めようぜ」

 

リサ「つまり、赤ツバメのロールプレイを拒む、と?」

 

アスト「だから、オレは剣の精霊アス・ラルなんだって。アス・ラルは剣だから、殺しはするが、恋とか愛には興味ない。そういう話なら付き合ってやる」

 

リサ「……分かった。だったら、ここからの演出は、小説風味のラブロマンスだ。やっぱり、生の象徴たるエロスと、死そのもののタナトスを描くことこそが、最も哀しき悲恋のドラマに帰結するゆえに」

 

愛と死の交錯点

 

(いよいよ、最期の時が近づいて来たようだね)

 シャリーラの勝ち誇ったような言葉が、ふらついた頭に響き渡る。

 やはり〈雪の魔女〉は消えていなかった。

 ただ、一時的にあたしの奥底に隠れ潜んでいただけ。

 そして今のあたしは彼女を拒めるほど強くはなかった。

 〈死の呪い〉に蝕まれ、仲間の1人と寂しく別れ、もう1人の仲間は今にも死にかけている。

 洞窟のときは、冒険中に出会った多くの絆が心の助けになった。

 涙の意味を理解しない魔女に対して、涙を流せる自分の心の熱さが武器になり、盾になった。

 だけど、シャリーラは決して愚かではない。

 自らに欠けていたものがあると認識すると、あたしの中に深く根を張り、あたしの心からいろいろ学び取ろうとしていた。

 あたしはそれを止めることができなかった。

 あたしと共に旅をし、あたしと共に仲間の大切さを感じとり、あたしと共においしいシチューの温かさを味わった。

 あたしの中のもう1人のあたしが、今のシャリーラだった。

 限りなくリサ・パンツァ、あたしに近づいた、かつての〈雪の魔女〉は、今や〈不死の魔女〉シャリーラとして、大望の一体化を図ろうとしている。

 シャリーラはあたし。

 あたしはシャリーラ。

 懸命にリサ・パンツァに縋りつこうとするも、あたしは自分の魂に語りかける。

(スタッブ君との別れは辛かったよね、リサ)

 否定できなかった。

 シャリーラの言葉はあたしの言葉。

 シャリーラの想いはあたしの想い。

 今のあたしは、リサのことを隅から隅まで理解していた。

 友の絆も、涙だって、シャリーラとリサを分かつ壁にはならない。

 今のあたしだったら、リサの持ってる仲間意識も、喜怒哀楽も、涙の意味も否定することなく、共感し、受け入れ、己がありのままの感情として振る舞うことができるだろう。

 それほどまでの魂への浸透力。

 それほどまでの心の一体化。

 シャリーラのリサに対する執念に、あたしは怯え、慄き、誇り、敬服さえ覚えていた。

 自分の完璧な分身を目にするのは、ドッペルゲンガー(瓜二つの自分に化けた魔物)のようで恐ろしい。ドッペルゲンガーを見ると、人は死ぬという。

 だけど、リサ・パンツァとしては、そこまで自分を研究し、執着して愛してくれる相手がいるってことは、誇らしくもあった。人形とは違って、ありがままの本物の自分を知ってくれる愛好家(ファン)を得た気分で、むずがゆさも覚える。

(本物の魅力は、あたし、リサ=シャリーラだけが知っていればいいさ。ありがままのね)

(リサ=シャリーラにとっては、本物の英雄リサ・パンツァの魂は美麗な偶像にも匹敵する輝きを放っておる)

 友だちの言葉をなぞるように、あたしはリサの、あたしを受け入れない残滓に囁きかける。

 究極の自己愛にも聞こえる甘美な囁きに、リサは悶え、惑い、拒む気持ちが萎えていくのを感じた。

(一つになってもいいじゃない? もう、ほとんど同じなんだからさ)

 屈服したあたしが、まだ抵抗しているあたしを誘惑し、優しく包み込もうとする。

 違いはただ一点。

 シャリーラは死んでいて、あたしはまだ生きている。

 だけど……それもまもなく終わる。

 死の呪い、もしくは不死の祝福がリサ・パンツァの肉体を覆い、変えようとしていた。

 ヤズトロモさんなら何とかしてくれる、と思ったけれど、どうやら間に合わなかったようだ。

 その事実に愕然とするとともに、あたしは勝ちを確信した。洞窟の中では、リサ・パンツァを理解できていなかったために、負けを認めざるを得なかったが、最後に勝つのはこのあたし。だって、あたしは欲しいものはどんな手段を使っても手に入れる性分だからね。

 リサの本質をつかむことなんて、その気になれば、簡単なことさ。

 あたしを諌めることのできた妹の、遠い娘なんだからね。

 赤の他人ってわけじゃない。運命によって結ばれた縁と知ったからには、何を賭けても己がものにしたいじゃないか。

 

 リサは泣いていた。

 スタッブ君を失ったことに。

 シャリーラは人の不幸を嘲ることも、人の悲しみを揶揄することも、勝ったと高笑いすることもなく、いっしょに悲しみ、泣いてくれた。

(あのドワーフの忠節はあたしに向けられていた。そのことは間違いない。だけど、それ以上の忠節が故郷の仲間たちに向けられていた。裏切ったんじゃなくて、優先順位の問題。そのことは分かっているよね)

 分かっていた。

 それでいて、わがままな想いがリサにはあった。

 この3人の仲間で、ずっと永遠に、いっしょに冒険できたらいいなって。

 子どものようなわがまま。

 だけど、あたしには未来が見えた。過去かもしれないけど、ビッグレッグが死に、その仲間が共に死に行く姿を、あたしは幻視できた。

 幻視する力はあっても、その運命を覆す力はなかった。

 みすみす、死に向かって邁進する仲間を止めるに止められず、無力なあたしはただ去り行くドワーフを涙で見送ることしかできなかった。

(気持ちは痛いほど分かるよ。こんなことになるぐらいなら、あのドワーフの心を縛り、永遠の忠節をあたしに誓わせるよう、力で支配していれば良かったのに。それこそが彼の不幸を止めて、永遠の幸せを確保する手段だってことは、理解しただろう)

 リサ・パンツァは分からせられた。

 力が欲しい。

 だって、失うことはこんなに辛く、悲しく、痛いものだって知ったから。

(だから、せめてエルフだけは、愛する男だけは永遠に側に置いておこうよ。あたしが望めば、その想いは叶う)

 うん。

 リサ・パンツァはその言葉を喜んで受け入れた。

 愛と涙の味を知った魔女として、あたしは死にゆくエルフと一つになりたかった。

 死ぬ前に一夜の契りを交わし合って、死んだ後も、ずっと永遠に一緒にいられるようにする。

 リサとシャリーラの想いは一つになった。

 

 その夜、あたしは女になった。少女から、大人の女への痛くて甘美な儀式。

 生まれてはじめての男が、憂いを帯びた表情の妖精めいた美形の異種族だなんて、考えたこともなかった。だけど、なんだか幻想的(ファンタジック)で、蠱惑的(ロマンティック)な少女の恋に酔いしれた。

 赤ツバメさんは優しく、あたしの想いを拒まず、受け入れてくれた。この最後の一夜を共に過ごすパートナーとして、あたしに愛の手ほどきをしてくれた。

 人とエルフ、この結びつきが何を生み出すか、考えもしなかった。だって、あたしたちはもうすぐ死ぬのだし。

 未来があるとしたら、それは吸血鬼としての不死の生。そうなった暁には、あたしたちは別の存在になっているのだから、行為の最中に先のことを考えても仕方ない。

 死への絶望に突き動かされた暴走する愛情で、あたしたちはお互いを貪り合い、高め合い、堕とし合い、最後の生を満喫し、自然のままに、本能のままに命を燃焼し合った。

 〈雪の魔女〉には味わえなかった気持ちを、あたし、リサ=シャーリラはたっぷりと楽しむことができた。

 

「リサ・パンツァ。君とこうなるとは思っていなかったな」瞳に赤い光を明滅させながら、赤ツバメさん、いや、我が愛するレッドスウィフトはぽつりとつぶやいた。

「あたしとじゃ……不満?」しおらしい乙女のように、あたしは不安を装った。

「君の方こそ、初めての相手がぼくで良かったのかい?」

 答える代わりに、あたしは口付けで意志を示した。しばらく経ってから、息継ぎをするかのように、想いを言葉に乗せる。

「好き。仲間としてじゃない。これから共に過ごすパートナーとして、一緒に過ごして行きたい。この気持ち、受け入れてくれる?」

 あたしはまっすぐ彼の瞳を見つめ、魅了の魔力を働かせるつもりで、可能な限りの誘惑を試みた。

 赤ツバメさんは、一瞬、愕然とした瞳であたしのことを見つめ、息を喘がせながら、問いかけた。

「君は……どっちなんだ? リサ・パンツァ? それとも……魔女?」

「両方よ、ラーレル・アノーリエン」魔女が知ってる彼のエルフ名で呼びかける。「リサはあなたを愛し、シャリーラもそなたを愛している。あたしのことは愛してくれないのか? 魔女になったあたしのことは嫌い?」

 赤ツバメさん、レッドスウィフト、〈赤速〉、そしてラーレル。

 多くの名で呼ばれる彼は、名前と同じに混迷した複雑な想いを乗り越えて、あたしを強く抱きしめてくれた。「君のことを嫌いになんてなれるはずがないだろう、リサ・パンツァ。ぼくの愛する魔女よ。一生、離したくない。このまま殺したいほど愛してる。君といっしょなら死んでも構わない」

 彼の告白を聞き入れながら、あたしは勝利の笑みを浮かべた。シャリーラの名前は呼ばれなかったことに、微かな不満を感じはしたものの、大した問題ではない。リサ・パンツァとシャリーラは一つなんだから。

「死ぬときはいっしょよ」あたしは妖艶にささやいてから、にっこり付け加えた。「そして、その後で永遠をともに過ごすの。神の祝福の元でね」

「……頼む。ぼくたちの約束を果たしてくれ、リサ・パンツァ。ぼくは自然の輪廻から切り離されたくはない。ぼくをぼくのままに旅立たせてくれ」

「……そうして、スタッブ君みたいに、あたしを遺して去っちゃうの?」あたしはここぞとばかりに涙を瞳にたたえて見せた。彼の心を、自然への敬慕よりも、あたしに惹きつけるように。

「ぼくは……」ラーレル・アノーリエンは答える前に、突然、沈黙した。

 死の呪いがとうとう、彼の命を飲み込んだ。

 

 愛する彼の死に、あたしは溢れ出す涙を止めることができなかった。

(当記事 完)

 

リサ・パンツァ

・技術点12

・体力点12/20

・運点11/13

 

・食料残り1食

・金貨:248枚

・所持品:アストラル・ソード、時間歪曲の指輪、幸運ポーション、背負い袋、戦槌(ウォーハンマー)、【勇気のお守り】(技術点+2)、スリングと鉄の玉1つ、金の指輪(冷気抵抗)、ドラゴンの卵、酸除けの盾(技術点+1)(青字は今回入手したアイテム)

・特記:ダークエルフの【健康ポーション】を飲んだ