ウルトロピカルな⭐️GT(ゲーム&トレジャー)島宇宙

南の島と上空の宇宙宮殿を舞台にTRPGや特撮ヒーローなどのおしゃべりブログ。今はFFゲームブックの攻略や懐古および新作情報や私的研鑽メイン。思い出したようにD&Dに触れたりも。

「死の罠の地下迷宮」攻略IFストーリー(7)

今回で最終回だけど、その前にFFC5予測

 

ダイアンナ「前回で、リサ・パンツァの迷宮探検競技は無事にゴールを迎えたわけだが、今回は未通過ルートのイベント確認と、1人称小説風エピローグを交えて最終回にしようと思う」

 

アスト「おまけにスロムの後日譚的な話もな」

 

リバT『公式では死んだ扱いの蛮人スロムですが、当ブログのアランシアでは生きている扱いってことですね』

 

ダイアンナ「スロムのその後の物語は、FF21作め『迷宮探検競技』の主人公キャラとして採用したらいいんじゃないかなあ、と思った」

 

リバT『え? スロムが主人公ですか?』

 

ダイアンナ「ああ、密かに『死の罠の地下迷宮』の冒険を生き残っていたスロムが、サカムビット公の兄弟のカーナス卿に捕まって奴隷にされて、再びファングの地下迷宮に挑むわけだ」

 

アスト「その後、FF36作め『死の軍団』(未訳)で軍隊を率いて東方遠征するらしいが、FFコレクション5および以降で、『迷宮探検競技』と合わせて翻訳されたなら、スロム主人公のIFストーリーをプレイするのもありかもしれないな」

 

ダイアンナ「その場合は、スロム役はお前だな、アスト」

 

アスト「オレがスロムだと? 蛮人戦士はオレよりも、カニコングの方が向いていると思うが」

 

カニコング「吾輩は、『トカゲ王の島』をプレイするので、その後のことはまだ考えられないでごわす」

 

アスト「オレがスロムねえ。まずは『迷宮探検競技』がFFコレクションに登場するのか次第だな。現時点で、FFC5の予想を立ててみると、『嵐のクリスタル』『死の門』のどちらか、あるいは両方が確実に来るとして、それ以外が旧作だな。ここでジャクソンやリビングストン以外の作品から3つを挙げてみると、『サソリ沼の迷路(8)』『深海の悪魔(19)』『仮面の破壊者(23)』と言ってみたい」

 

リバT『「嵐のクリスタル」と「死の門」は、現在FFシリーズを展開しているスコラスティック社の出版作品だから妥当性が高いですね。他は、どうしてですか?』

 

アスト「『サソリ沼の迷路』『深海の悪魔』は、アメリカのスティーブ・ジャクソンの作品だが、SNEの安田社長はこれまでも米ジャクソンさんの作品はいくつも手掛けているので交渉しやすいと考える。

「どうも、FFの旧作はスコラスティック社の製品を除けば、作者と個別交渉で出版契約が為されているらしい。34巻の『魂を盗むもの』のキース・マーティンさんは故人だけど、リビングストンさんが親しかったので仲介してもらったようだ。私的翻訳の同人誌と違って、正式に翻訳出版しようと思えば、翻訳の実務以外に著者およびイラストレーターとの版権交渉というハードルがあって、これまではスコラスティック社が一つの窓口として機能していたけど、そちらからの新作が40周年記念のJL御大2作以降は出ていないので、続きがどうなるかが読みにくいのが現状だ」

 

リバT『コレクションの4までは、スコラスティック社の出版作品が予想の根拠となっていたわけですね』

 

アスト「で、旧作は個別交渉ということだと、安田社長のコネと、リビングストンさんたちのフォローで翻訳計画が練られて行くことが、雑誌記事や社長のXポストなんかでも推測できるわけだが、米ジャクソンの名前はFF絡みで出て来てないので、そちらは完全にこっちの願望込みの予測だな。まあ、単純に最初の10作のうち『イラストレーターとの交渉が成立しなくて出版が難しい』と明言されている『さまよえる宇宙船』を除くと、残っているのは『サソリ沼の迷路』だけだからな」

 

ダイアンナ「『深海の悪魔』は?」

 

アスト「米ジャクソンとの交渉が成立するなら、ついでにそちらも出せそうと思うが、米ジャクソンから2作だと、バランスが悪いかな。すると、新作家としてジョナサン・グリーンの作品も可能性が高いが、そうなると完全新訳が3作となって、それは凄いという判断になる。まあ、英ジャクソンやリビングストンのネームバリューに頼らないなら、FFC5は新作3つと旧作2つというのを売りにするのもありか」

 

リバT『ジョナサン・グリーンは、FFシリーズの歴史を概説した著作「You Are The Hero」でも21世紀の海外FFファンには名高いですからね』

 

アスト「初FFが未訳の53巻『スペルブレイカー』からだから、日本ではあまり知られていないが、安田社長も是非紹介したいとプッシュしている御仁。彼のゲームブックはどうか知らんが、少なくとも『You Are The Hero』の第2版はSNEから翻訳出版が決まったそうなので、その流れでゲームブックもジョナサン・グリーン作品の翻訳はあるかもしれない。問題は、グリーンのゲームブックが7冊もあるので、どれから翻訳されるのか全く読めないことだが」

 

  • 53巻:スペルブレイカー(93年)
  • 56巻:運命の騎士団(94年)
  • 59巻:ミイラの呪い(95年)
  • 61巻:ブラッドボーンズ(06年)
  • 62巻:狼男の遠吠え(07年)
  • 63巻:ストームスレイヤー(09年)
  • 64巻:死霊術師の夜(10年)

 

リバT『無難に考えるなら、デビュー作の「スペルブレイカー」か、ウィザードブックスでの初作品「ブラッドボーンズ」でしょうが、スコラスティック社からは復刻してくれないのでしょうか?』

 

アスト「スコラスティック社からは、現段階で旧作はJL御大の復刻しかしていないからな。40周年記念後のFFシリーズ・ビジョンもどういうつもりだろうか」

 

リバT『リビングストンさんの作品も、まだ完全復刻には至ってないようですが』

 

アスト「未復刻は、『フリーウェイの戦士』『恐怖の神殿』『迷宮探検競技』『甦る妖術使い』『死の軍団』『ザゴールの伝説』『龍の目』『ゾンビの血』の8本だから、最低でももう一つはリビングストンBOXを作れる計算になるが、次にリビングストンが来るなら、『恐怖の神殿』か『迷宮探検競技』と予想するのが無難かな」

 

ダイアンナ「『フリーウェイの戦士』は?」

 

アスト「ジャクソンの『地獄の館』『サイボーグを倒せ』を採用したなら、リビングストンの非タイタン世界ものの『フリーウェイの戦士』『ゾンビの血』をプッシュしたい気分もあるが、それが氏の代表作かと言われると、やはりタイタン世界ものが優先されると思うな」

 

ダイアンナ「で、『仮面の破壊者』を予想する根拠は?」

 

アスト「AFF絡みの商品展開で、舞台となるアリオン市をプッシュしたいという理由が一つ。あと、これも安田Xポストの発言で、現在、作者のロビン・ウォーターフィールドさんとの交渉で、氏の2作め『恐怖の幻影』の版権交渉がまだまとまっていない、という発言があった。ということは、1作めの『仮面の破壊者』の交渉はすでにまとまっている? という推測ができるかもしれない」

 

リバT『確定情報とは言えませんが、可能性は高そうですね』

 

アスト「そんなわけで、総合的にあれこれ考えた結果、次のFFコレクション5の収録作品は、以下のとおりと推測する」

 

  • 67巻:死の門
  • 69巻:嵐のクリスタル
  • 23巻:仮面の破壊者
  • 21巻:迷宮探検競技(または恐怖の神殿)
  • 8巻:サソリ沼の迷路
  • (次点候補)ジョナサン・グリーンの作品(スペルブレイカーかブラッドボーンズ)

 

ダイアンナ「答え合わせは、次のGMウォーロック誌で発表されるといいね」

 

未通過の東ルート

 

ダイアンナ→リサ「では、ここから『死の罠の地下迷宮』のIF攻略だ。未通過ルートなので、プレイはしていないんだけど、イベントだけはチェックしたので、リサになった気分で探索してみようと思う」

 

リバT『ドワーフ競技監督の試練を突破して、西の扉を開けずに北へ進んだ場合ですね』

 

リサ「スロムとの別れを経て、覚悟完了したあたしは、北へ突き進むことにした(14)」

 

アスト「パラグラフ番号が縁起でもない感じだな。そちらに行くと、死んじゃう気がするんだが」

 

リサ「まあ、実際に攻略失敗するルートであることは百も承知なんだが、とにかく今は進むしかない」

 

リバT『通路は分厚く蜘蛛の巣のかかった部屋に続いています。蜘蛛の巣を掻き分けて進むと、木の箱につまづきますよ』

 

リサ「覚悟完了したあたしは、キシャーと叫んで箱を剣で叩き壊す」

 

リバT『ただの化け物じみた乱暴者じゃないですか』

 

リサ「一度クリアしたゲームの消化試合だ。テキトーに遊ばせてもらうさ」

 

リバT『キャラ崩壊だけはしないようにお願いします。叩き壊された木箱からは、大きなパール(真珠)が転がり落ちますよ。運点を1点加えてください』

 

リサ「おっと、危うく宝石を傷つけてしまうところだった。荒ぶる気持ちが宝石を見て静まったよ。それにしても部屋じゅう覆い尽くす蜘蛛の巣は鬱陶しいよな」

 

アスト「冷静に考えると、この部屋は誰も入らなかったのが明確なんだよな。女エルフや忍者がここを通過していれば、彼らの後で蜘蛛の巣を掻き分ける必要がないだろうし」

 

リサ「そうだな。つまり、あたしは前人未踏の通路を歩いているわけだ。冒険者としては気が引き締まる展開だな」

 

 

リバT『蜘蛛の巣の部屋の出口には、左右2つの扉があります』

 

リサ「まずは左を確かめよう」

 

リバT『扉はイミテーターというモンスターでした。取っ手がベトついてリサさんの手を離してくれません。そして扉の中央から巨大な拳がグニョグニョニョキンと伸びてきて、腹を殴りつけてきます。ダメージは1点。酸の瓶を持っていなければ、戦闘になりますよ』

 

リサ「最初の西ルートでホブゴブリンから入手した記憶があるが、そちらは正解じゃないので、2度めからは通っていない」

 

リバT『では、酸で相手を溶かすという選択はなしで、技術点9の相手と戦いになります。ただし、一度ダメージを与えると、イミテーターはあっさり倒されます。ニセ扉からは出られませんので、右の扉から出て行ってください』

 

リサ「左の扉はただの罠だったんだな、と思いながら、次に進む」

 

 

リバT『次も左右の選択イベントですね。通路の途中で2つの噴水があって、左右好きな方の水を飲んでもいいし、スルーしてもいいです』

 

リサ「左の水を飲むと?」

 

リバT『美味しい水ですが呪われてもいます。体力1点回復するものの、運点が2点減りますね』

 

リサ「右の水は?」

 

リバT『妖精の祝福があります。体力1点と技術点2点が回復しますよ』

 

リサ「右が当たりか。確認したら、先へ進もう」

 

 

リバT『通路の左手の壁に、竹馬が立てかけてあります』

 

リサ「この壁に、竹立てかけたのは、竹立てかけたかったから、竹立てかけた」

 

アスト「突然、早口言葉かよ。だったら、壁じゃなくて、竹垣だ」

 

リサ「竹垣なんてないだろう? 竹馬はある。しかし、アランシアには竹馬なんてあったんだな」

 

リバT『ヨーロッパにも、日本の竹馬とタイプは違いますが、川を渡ったり、ショーや祭りで使う似たような高足器具はあったそうです。古代ギリシャにも起源があるそうで』

 

リサ「へえ、そうなんだ」

 

アスト「それに忍者がいるなら、竹馬があっても不思議じゃないとは思うが」

 

リサ「とにかく、竹馬をゲットした」

 

リバT『いえ、まだです。竹馬にはしっかりと鎖が巻かれ、南京錠が掛けられています。そして札に「金貨1枚を投入口に入れれば、鍵が開く」と書かれてありますね』

 

リサ「竹馬の無人販売か。鍵開け技能で、金を払わずに、盗んだ竹馬で走り出すのも一興だが、金貨1枚なら払ってもいいか、と思った。とにかく、竹馬に乗ってブルンブルンと走り出すぞ」

 

リバT『竹馬はバイクではありませんし、ウマタケでもありませんので、ブルンブルンと鳴ったり鳴いたりはしません』

 

リサ「ウマタケ?」

 

リバT『未来の世界の秘密道具……ではなくて、謎生物です』

リサ「アランシアには、ウマタケなんてモンスターがいたのか?」

 

リバT『だから、ウマタケじゃなくて、竹馬です。少なくとも、モンスター事典にはウマタケなんて載ってません』

 

アスト「未来のモンスター事典には載るかもしれないがな」

 

リサ「とにかく、竹馬を担いで、通路を先に進む」

 

リバT『すると、通路が緑色の粘液で厚く覆われた区画に差し掛かりました。竹馬がなければ、腐食性の粘液で体力3点のダメージです。一応、シャツを脱いで、足に巻きつけて簡単な保護膜にしたのですが、シャツが溶けて足にもダメージですね』

 

リサ「竹馬があれば、ノーダメージで突破できるんだな」

 

リバT『竹馬は粘液まみれで捨てて行くしかないですけどね』

 

リサ「さらば、竹馬。短い付き合いだったが、お前のことは忘れない。あたしを粘液から守って、自らを犠牲にした竹馬の友の散り際に、滂沱の涙を流して、新たに覚悟を固めるぞ」

 

アスト「そこまで竹馬に感情移入するプレイは珍しいだろうな」

 

リサ「いつかそのうち、実は生きていた竹馬と再会できることを願いつつ」

 

 

リバT『それで、次に西と北の選択肢なんですが、西はエネルギーの見えない壁に遮られて1点ダメージを受けるだけなので、北へ向かいます』

 

リサ「こちらのルートは細かいダメージを負うだけで、あまり致命的な罠はなさそうだね」

 

アスト「この見えない壁のパラグラフ(386)は、中央ルートの編み籠老人の誘いに乗らなかった場合に通ることになる東の通路(280)につながっているんだな」

 

リサ「280のパラグラフを読むと、『南の通路は緑の粘液まみれだから危険そうなので、北へ向かう』という記述があるもんな」

 

リバT『中央ルートから東ルートには来れるけど、東ルートからは一方通行の壁に阻まれて中央には行けないようになっていたわけですね。そして、次が東ルート最後の試練です。パラグラフ218番では、通路の左壁に扉があって、中を覗き見ると、戦士の遺体が倒れています。その手元には、大きなダイヤモンドが転がっていますね』

 

リサ「それは……あたしだったら迷わず、部屋にヒャッハーと飛び込んでしまうな」

 

リバT『そして、部屋に入ったとたん、戦士とダイヤの姿は消失して幻だったことが分かり、扉が閉まり、部屋の天井がじわじわと降りて行きます。吊り天井の罠でバッドエンドになるんですね』

 

リサ「フッ、このあたしに幻影の罠を仕掛けるとはな。幻影といえば、あたしの十八番。そう、部屋に入ったと見せかけたのは、リサ・パンツァの幻だったのさ」

 

リバT『いや、幻影使いなのはプレイヤーのクイーン・ダイアンナであって、キャラクターのリサさんではないはず』

 

リサ「おっと、リサは確か罠探知のポーションを飲んだ盗賊だったんだよな。そんな罠には引っ掛からない」

 

リバT『確かにそうですね。罠探知のポーションを飲んでいれば、ここの致命的な罠にも敏感に気づいて、避けることができます。その後は、他のルートと同じ90番に合流するわけですが、結局、ダイヤモンドを入手できずに攻略失敗となるわけですね』

 

リサ「これで、未通過ルートのイベントは全て確認した。後半の地図も完成して、『死の罠の地下迷宮』の完全攻略は終了、と」

 

                 出口

                 ↑

              ノームのイグバット

                 l

              マンティコア

                 l

             ブラッドビースト

                  l      

   lーーーーーーーーーーーーーー90ーーーーーーーーl

   l                 l         l        ↑

  l                   l         忍者(ダイヤモンド)   l

   l                 l         l        l

  l                   l        ピット・フィーンド     l

   l                 l            l         l

  l                   l     アイビーー番犬ー        l

  l                   l            ↑   戦士と宝石の幻ー  l

   l                 l    編み籠の老人ー→ー280ーーー→l

  l                   l          l           見えない壁ーl

   l                 l     鉄の鍵の扉          l

  l                   l        l              l

   l                 l                    地底川           l

  29               291                      l             l

   l                 l             トログロダイト          l

  l                   l        罠木箱ー  l             l

   ↑                  ↑              鉄格子(鉄鉤)      粘液通路

  l                   l   女エルフーl            l

レプラカーン      lー羽根付き   ↑           竹馬

  l      l  兜   l            l

  lーーーーー316             水たまり  イミテーター  噴水

        l       I        l    l

   メデューサー43      肉食鳥の椅子    蜘蛛の巣と木箱(パール)

 (ガーネット)l        I                   l

        lーーーーーー109ー足枷男ーニセ王冠ー213

                            ↑

                      競技監督の試練

 

リサ・パンツァのエピローグ

 

 ファングの街の〈死の罠の地下迷宮〉。

 それを踏破するのは、卓越した技量と、不屈の体力と、恵まれた幸運を兼ね備えた英雄のみと言われていた。

 けれども、それだけじゃ足りない。

 このあたし、リサ・パンツァがその栄誉に預かったのは、技量と体力と幸運のみならず、人知れず助けてくれたものたちのおかげであることを忘れてはいけない。

 そう、迷宮踏破に力を貸してくれたスロムや、名前も知らないエルフの女性、それに最初に贈り物をくれた父、リーサン・パンザ。

 

 父があたしに託した〈アストラル・ソード〉や〈守護者の盾〉は、あたしの技量不足を補ってくれた。

 剣や盾に宿る守護霊は、心にうるさく干渉して来たけれど、それでも一介の盗賊に過ぎないあたしに、戦う剣士としての覚悟を植えつけてくれた。

 迷宮に入る前は怯えた逃げ腰の娘でしかなかったあたしが、恐ろしい敵に果敢に立ち向かえるようになったのは、好戦的な魔剣の影響だったろう。

 ただ、剣だけだと向こう見ずな狂戦士として暴走していたかもしれないのを、少し控えめながら理知的な気性の盾の精霊が抑え込み、あたしに冷静さを保たせてくれた。

 『理性的な狂戦士』『大胆にして狡猾な魔剣士』という矛盾した存在でいられたことが、罠だらけの迷宮を切り抜ける原動力になったことは間違いない。

 

 そして〈時間歪曲の指輪〉。

 元はロガーン神が作り出したとも、伝説の忍者が編み出した秘術を封じたとも言われていて、それを使いこなせるのは、運命神の祝福を受けた者とも、忍びの秘伝の継承者とも言われているそうだけど、今は効果を失っているみたいだ。

 時間を操作する秘術は、秩序よりも混沌に位置づけられるもので、秩序が支配する普通の街中や平和な集落では機能しないのだろう。

 ファングの街の地下迷宮や、恐ろしい魔法使いやら魔神やらの力にさらされた半分異界のような場所でこそ、秘めたる魔力を発揮するのだと思う。

 もちろん、あたしは魔法について詳しくはないから、ヤズトロモさんやニカデマスさんに確認しないと正確なところは分からないのだけど。

 ただ、お二人から聞いた昔話から、聞きかじっただけの話。

 何でも、海の向こうの別大陸にあった、スローベンって土地には時空を操作する妖術(ソーサリー)が存在していたらしいけど、それを聞いた子どものときは、ただただ無邪気に「世界って広いんだなあ」って思っていた。

 スローベンってどこにあるの? って聞いたら、ヤズトロモさんも「今は言えん」としか答えてくれなかった。本人も知らないのか、それとも小さい子に教えても理解できないからなのか。

 それでも、分かっていることは一つある。

 〈時間歪曲の指輪〉のおかげで、このあたしが〈死の罠の地下迷宮〉を踏破できたってこと。

 実力ではなくて、ズルをしたって自覚している。

 でも、あたしは女盗賊として生きてきたんだから、ズルをしたから悪いとは思っていない。卑怯でも何でも生き残ったら勝ちだし、勝った者が英雄になれるのがこの世界の理だ。

 だから、あたしを英雄として、ファングの街の人たちは称えてくれた。

 生まれて初めての経験だった。

 

 そう、リサ・パンツァは思いがけず、夢だった英雄になった。

 別に世界を救ったわけでもなく、悪い魔法使いや魔神を倒したわけでもない。

 ただ、自分が生き延びるために必死になっただけで、英雄扱いだ。

 そんな英雄を権力者が見逃すはずはない。

 あたしを迷宮に送り込んだ張本人であるアズール卿は、わずかに驚きの交じっていたものの(あたしの気のせいかもしれないけど)相変わらず蛇のような冷ややかな目で見つめ、「さすがは我が名代だ」と告げるや、傍らの盟友に「この娘の栄誉は我のものだな、サカムビット公よ」と言葉をかける。

 ファングの領主、サカムビット公の反応は、ポート・ブラックサンドの主よりも分かりやすかった。

「全く信じられん。余の地下迷宮が、このような娘に突破されるとは」

 驚愕の言葉とともに、葛藤がありありと浮かび上がる表情で、あたしを見下ろしてきたので、こちらはにっこり微笑んで、できるだけ上品に会釈してやった。

「これで、約束どおり、あたしは自由を勝ち得たのですね」

 サカムビット公は「約束? ああ、そうだな。約束は守らねばならぬ」と威厳を保つように努力を示して、それから高らかに宣言した。

「ファングの領主、サカムビット・チャラヴァスクは、余の迷宮を踏破した勇猛にして、機略に長けた冒険者……の娘の栄誉を称え、〈死の罠の地下迷宮の覇者(チャンピオン)〉の称号を授けるものとする」

 それから、サカムビット公は盟友に向けて、こう尋ねた。「ええと、アズール卿よ。この娘はそなたの名代とのことだが、名は何と言ったかな?」

 知らないのかよ。

 あたしは気づかれぬ程度にそっと舌打ちした。

 しょせんは上流階級の人間だ。あたしのような下賎な者の名は記憶に留める価値もないのだろう。

「我が名代の名は……」アズール卿はしばし沈黙し、「本人の口から名乗らせましょう。娘よ、名乗るがいい」

 こっちに振って来た。

 どうやら、こいつも覚えていなかったらしい。

 やれやれ。 

「あたしの名前はリサ・パンツァ!」

 2人の領主だけでなく、ファングの市民すべてに聞こえるように周囲を見渡してから、声を張り上げる。それから、少し言い淀んだ後で、はっきり告げた。

「あたしの父は大罪人とされたリーサン。先日、謎かけ盗賊に拉致されたと聞くが、その父の罪を注ぐことをアズール卿に約束し、父とあたしの自由を取り戻すために迷宮を踏破した。この栄光はアズール卿に捧げるが、卿は約束どおり父とあたしの自由を保証していただきたい!」

「良かろう」アズール卿は素直にそう応じた。しかし……「お前は我が所領、ブラックサンドで盗賊として数々の罪を犯した。ならば、父親の罪は免除するにしても、お前自身の罪はブラックサンドの法で裁かねばならぬ」

 こいつ、ずるいぞ。

 あたしは盗賊都市の親玉の目をまっすぐ睨みつけてやった。

 すると、領主の視線は狡猾そうに和らいだ。

「しかし、我にも温情というものはある。恐るべき迷宮を突破した勇敢なる名代に、我が従者として仕える栄誉を与えよう」

 こいつの従者だって? 

 こっそり忍者を雇って、迷宮の中であたしを処刑しようと目論んだ奴に、忠誠なんて捧げられるもんか!

 いくら金を積まれようとも、こいつに従うなんて生理的に受け付けない。

「ちょっと待ちたまえ、アズール卿」サカムビット公の言葉が、厳かに響いた。「ここはファングだ。ブラックサンドの法よりも、ファングの法が優先する。〈迷宮探検競技〉の覇者には、金貨1万枚とともに、チアンマイでの永久自由特権が与えられることは貴卿も承知であろう。リサ・パンツァの処遇は余が決める。娘よ、壇上に上るが良い」

 あたしは戸惑ったものの、アズール卿よりもサカムビット公の方がまだ信用できると思った。少なくとも、フードに包まれた暗殺者の雇い主よりも、表情を読むのが明確な迷宮競技の主催者の方が公正に見える。

 この場はサカムビット公の庇護に従う方が、賢明だと判断したあたしは、壇上に上ると公の前で膝まづいた。今の主人はアズール卿ではなく、サカムビット公であることを多くの市民に示すように。

「偉大な英雄を膝まづかせるのは性に合わんな」サカムビット公はにっこり微笑んだ。「立つが良い、リサ・パンツァ。余は媚びるものよりも、強く誇り高いものが好きなのだ。余の手をとるがいい」

 領主が差し出した手を、あたしはつかんだ。

「英雄には英雄にふさわしい処遇がある。さあ、ファングの市民よ。リサ・パンツァを称えよ。彼女の偉業は、このチアンマイの王座を明け渡しても構わないほどの価値だとな。実権はなくとも象徴として、この冠を授けよう」

 サカムビット公があたしにかぶせてくれたのは、チアンマイの統治者の冠……というほどの大仰なものではなくて、それでも競技の覇者(チャンピオン)にふさわしい月桂冠

 こうして、あたしはアズール卿の支配を逃れ、ファング領主の賓客として、しばらく過ごすこととなった。

 

新たなる旅立ち

 

 アズール卿とサカムビット公の間で、どういう話し合いが持たれたか、あたしは知らないけれど、卿はまもなく自領のポート・ブラックサンドに帰って行った。

「このファングにいる限り、彼はそなたに手を出せんよ」

 晩餐の席で、サカムビット公はあたしにそう言った。

 あたしは生まれて初めて着るような豪勢なドレスを着せられ、居心地の悪さは覚えたものの、必要以上の礼儀作法は求められなかった。

 代わりに、迷宮をどのように踏破したかの武勇譚を求められたので、記憶に残っている限りの話を語って聞かせた。

 父が託した剣や盾、指輪の話は秘密にして、時間を操作する秘技については適当に辻褄合わせをしたり、ぼかしたりしながらも、ただスロムたち敗者と呼ばれた者に対しては、「彼らが道中協力してくれたから、迷宮を踏破できたのだ。彼らの功績についても、しっかり称えて欲しい」と主張した。

 サカムビット公は神妙な表情になって、「迷宮の中で死んだ者とて、惜しむべき強者はいるということだな。その者たちの名はしっかり石碑に刻んである。だが……そうだな。競技者を模した銅像を立てて、敗者のドラマを芝居に仕立てることを検討してみよう」

 そういうことじゃないんだって言いたい気持ちはあったけれど、迷宮マニアである領主に訴えても、残酷な競技の厳しさを緩めることはしないだろう。

 サカムビット公は、公正だけど冷酷な男、決して優しくはないけど理不尽でもなく、己の筋はしっかり通す面を持っていて、何よりも人心をつかむのに長けている。恐怖で人を縛るのではなく、飴と鞭の使い方をしっかりわきまえているのだ、と思えた。

 この危険な迷宮探検競技だって、参加者はあたしのようなケースを除いて、自分の意志で自発的に試練に挑んだのだ。一部の生存者を奴隷のように強制労働させる現場の対応はあるけれど、その運営について、あたしにどうこう言う資格はあるのだろうか?

「他にも、競技の運営について改善できることがあれば、意見を言って欲しい」

 サカムビット公は、あたしにそう告げた。

 あたしに踏破された迷宮を、より完璧な難攻不落の改良版(競技者にとっては改悪版)に仕立て直したいとのことだ。

 もしも、その提案に応じていれば、次はあたしがドワーフやノームのイグバットみたいな競技監督になるのかもしれない。

 しかし、あたしにそのつもりはなかった。

 サカムビット公に従えば、街の責任ある貴族的立場として贅沢な暮らしができるのかもしれないけど、そういう自由のない縛られた生活は、あたしの夢ではない。

 世界は広い。

 このアランシアだって、あたしがまだ見たことのない場所はいっぱいあるのだ。

 

 ダークウッドの森しか知らない田舎者が、都会に憧れて、ブラックサンドの闇を覗き込んだ。

 そして、今度は迷宮の闇に踏み込んで、そこから運命の神に導かれたりもして、死の罠から生還することができた。

 もう、これ以上、迷宮に縛られたくはない。

 だから、あたしは機を見て、ファングの街を抜け出した。

 一通の置き手紙を後に残して。

 

『ファングの領主サカムビット・チャラヴァスク様

 我らの英雄リサ・パンツァは、運命の神ロガーンに選ばれて、〈迷宮探検競技〉の覇者となりました。

 しかし、我が神は新たな冒険を与えるために、強き英雄を欲しています。

 よって、リサ・パンツァは返していただきます。

 貴公には運命神の邪魔をしないよう警告します。

 もしも警告に従うなら、運命神はあなたとファングの街に祝福を与えるでしょう。

 公正な振る舞いには、良き運命があらんことを。

 ロガーンの従者、謎かけ盗賊の娘より』

 

 

 こうして、リサ・パンツァは父親に続いて、謎かけ盗賊の関係者に拉致されて、失踪したことになった。

 次に父親の姿が見出されるのは南の地。

 一方、娘の向かったのは氷指山脈の向こうの北の果て。

 それぞれの冒険が運命神によって紡がれることになるだろう。

 

生還した蛮人の話

 

 自分は……生きているのか?

 意識を取り戻した男は、自分の体を確かめた。

 傷の痛みはない。

 コブラの毒も、サソリのハサミや毒針も、そしてガラスの破片で手酷くついた傷も、何の痕跡も残っていない。

 まるで迷宮に入る前のような健康体だ。

 どこかの誰かが癒してくれたようだが、その者はここにはいないようだ。自分以外に転がっているのは、ただ一つ、ドワーフの死骸のみ。身につけていた鎖帷子は、剥ぎ取られた後のようだ。

 男は自分と同行して来た娘の姿を探したが、近くにはいないのを確認してから、ようやく部屋の出口から先へ進む決断をした。

 娘がいるなら、きっとこの先だろう。

 助けるにせよ、競争相手として戦うにせよ、後を追わないといけないのは同じだ。

 迷うことなく、先行した娘の痕跡をたどることにする。

 

 途中で水たまりがあったが、娘が飛び込んだようだから、後を追うために水に潜ると、浮上した先に通路があった。

 娘は的確に正しい道へと誘ってくれているようだ。

 運命の神か精霊に祝福されているようだったからな。

 あるいは娘自身が女神の化身なのかもしれん。

 どういうわけか自分を癒してくれたのが彼女だ、と確信めいた思いがあった。

 もしかすると、惚れたのか?

 一瞬、そう感じた後、即座に打ち消す。

 もっと豊満なのがいい。

 しなやかだけど華奢で小柄な肢体は、童女のようで守ってやりたくはなるが、褥を共にするにはふさわしくない。力を込めて抱くと、それだけでポキリと折れてしまいそうだ。

 共に冒険をするのなら、もっと肉を食べさせないとな。

 

 女の死体が転がっていた。

 あの娘か?

 華奢な体格から、そう錯覚したが、顔を見てすぐに分かった。

 もう一人の競技参加者、妖精めいた女だ。

 ドワーフ同様、こういう亜人は信用できん。人と異なる文化風習や価値基準という意味で、ゴブリンやオークといった連中と何が違うというのだ? 

 もちろん、人にも信用できん悪人がいるように、亜人にも信頼できる者はいるのだろう。

 だが、欲深いドワーフや、狡猾な黒妖精としか会ったことがない以上、こういう奇妙な連中を信用する理由がない。

 それでも、死者の尊厳を冒涜するつもりはなかった。

 死んだ亜人は、生きている亜人よりも信用に値する。亡者にでもならない限り、こちらに危害を加える恐れはないからだ。

 勇敢に戦って散ったと思しき女に、死後の安らぎを。

 部族の神と精霊に冥福を祈ると、さらに道を進んだ。

 

 弓小人の群れを強引に掻き分け、飛んでくる矢をものともせず、川に飛び込み、渡った先で開いた扉から何とか脱出した先で。

 通路の曲がり角には縄の付いた籠が転がっていた。

 東に伸びているが、そっちに誰かが向かった足跡はない。

 縄の伸びた先を見上げると、天井に開いた穴に通じているようだ。

 娘はどうにかして上の穴を通ったのか?

 こういう時は鼻を働かせるといい。

 目を閉じて集中すると、上の穴から血の臭いが感じられた。

 まちがいない。

 穴の上で戦いがあったのだろう。

 ならば、穴に登るのが正解だ。

 籠に付いた縄を引っ張ってみる。

 しっかり固定はされているみたいだ。

 簡単な昇降機のような仕掛けなのだろう。

 誰かが上から引っ張り上げるような作りだろうか。

 その誰かと娘が戦った後なのなら、上から引き上げてもらえるなどとは期待できない。

 だから、自力で縄を登ることにした。

 程なく上の穴から、小部屋に出て、倒れ伏しているトロールの死体を見出した。

 背中を一突き。

 熟練の忍びの技だ。

 非力だが、機敏な娘ならできなくはない。ましてや鋭利な魔法の剣を身に付けていたならば。

 見た目よりも危険な娘なのはまちがいない。

 いくら手負いで意識が朦朧としていたとしても、自分を打ち負かした女なのだ。

 そう、おそらく自分は彼女に負けたのだ。

 しかし、とどめは刺されなかった。

 優しさゆえか、未熟で非力なゆえか、その両方か。

 そして、どうやら、このトロールもとどめを刺されなかったらしい。人を越えた強靭な生命力ゆえ、その傷跡がじわじわと塞がっていくようだった。

 今は無力だが、力を取り戻した後は確実に脅威となりそうな大柄の亜人をどうするか、少し迷いはした。

 トロールは女だったからだ。

 豊満な肉体は少し大きいが、顔さえ見なければ、好みとも言えた。少なくとも、自分が力いっぱい抱きしめたからと言って、折れることはないだろう。

 だが、ささやかな劣情は、息を吹き返した巨体の女亜人の言葉で吹き飛んだ。

「グギギギギ。あの娘、よくもこのアイビー様を騙したね。呪ってやる〜」

 口は災いの元とはよく言ったものだ。

 意識を取り戻しかけた女トロールの恨み言を聞いた瞬間、その首に斧を叩き込むのに迷いはなかった。

 いくらトロールが強靭とは言え、頭と体が分かれては、復活もできまい。

 娘の仕損じの後始末をして、後顧の憂いを断つと、さらに先へと進んだ。

 

 そこにいたのは巨大な怪獣だった。

 娘はどうなったのだ?

 もしや、この地底の悪魔に食い殺されたのか?

 いくら、あの娘がしたたかで、見た目よりも強いとは言え、この化け物に打ち勝てるとは思えない。

 そう見てとって、娘の仇討ちを決断した。

 なあに、一度は死んだ命だ。戦場で強敵と戦って討ち死にすることは、誉れである。

 地底怪獣、相手にとって不足はない。

 獣の吠え声に負けぬほど、大きく戦の雄叫びを上げるや、蛮人は斧を振りかぶった。

 

 激闘は長く続いた。

 力と力がぶつかる激しい戦闘。

 ここに観客がいないのが残念なぐらい、歴史に残す価値のある熱い攻防を蛮人は制した。

 大きく息を喘がせ、男は生き残った幸運を部族の神と精霊に感謝する。

 娘との戦いの後で、傷が癒やされていなければ、到底勝ち目はなかったろう。

 だが、これで娘の仇は討った。

 どこかに遺品でも転がっていないか、と見渡したところ、足元の砂の中に鉄の輪を見つけたので、興味を持って引っ張ってみる。

 落とし戸が開いて、中には上質の盾が見つかった。

 娘の持っていた盾にも劣らぬ上物に満足した男は、ひとまず背中に背負う。

 斧を主体にした戦闘スタイルゆえ、盾を使うのは慣れていないが、時には攻撃だけでなく、防御を考える必要もあるかもしれない。とりわけ、こういう地下迷宮のような長期戦では、攻撃一辺倒ではいずれ力尽きもしよう。

 

 腹が減った。

 地底怪獣の肉は食べたら美味しいだろうか、と試しに尻尾を齧ってみたが、やはり火を通さないとダメなようだ。

 食料となるものがどこかにないだろうか、と期待しながら、男は先に向かうことにした。

 戦で死ぬのは誉れだが、空腹で飢え死にするのは誉れとは言わない。

 

 そして、まもなく、男は自分の誤解に気づいた。

 忍者の死体が転がっていた。

 遺体の傷跡から、娘の魔剣と察することができたのだ。

 どうにかして、あの娘は地底怪獣から逃れて、迷宮を先に進んだのだろう。

 ならば、自分は後を追うだけだ。

 空腹ゆえ、半ば絶望に陥りかけた思考を前向きに切り替えて、娘の後を追い続ける。

 毒の沼池に潜むグロテスクな血獣を蹴散らし、

 マンティコアの死体を少し齧って、生でも食えそうだと判断して多少の精力を回復し、

 ノームの死体を横目にしながら、

 ついに男は開いた扉から外の世界の空気を吸うことができた。

 

 日の光は歓迎してくれなかった。

 寒々と照らすは月明かり。

 観客が誰も迎えてくれぬ凱旋を一人寂しく、しかし誇らしさも多少は混じって、男が向かったのは食堂を備えた宿だった。

 金ならある。

 探索の最初に領主から賜った金貨が2枚。

 それで一晩の食事と宿代ぐらいにはなるだろうか。

 力さえ回復すれば、肉体労働でも傭兵でも酒場の用心棒でも何でもして食いつなぐことはできるだろう。

 そうしているうちに、どこかで一攫千金の冒険の機会があれば、喜んで乗り出そう。

 

 宿に向かう途中で、2人組の酔っ払いとぶつかった。

 空腹で注意力が足りていなかったらしい。

「馬鹿やろー、どこに目を付けているんだ〜」自分からぶつかっておいて、勝手に倒れた男の片割れがわめいている。

「悪いな。あいにく片方の目が不自由なものでな」悠々と応じてやる。相手が素面(しらふ)なら、自分の巨体を見て怖気づき、ケンカを吹っ掛けることもないだろう。

「せ、先輩、よしましょうよ。相手が悪いですよ〜」まだ素面に近い酔っ払いの片割れが、相方をなだめるように声掛けする。一人でも冷静な連れがいたら、酔っ払いも冷静さを取り戻せるだろう。

「立てるか、友人」にっこりと笑みを浮かべて、手を差し伸べてやる。「ケガをしていても慰謝料は払えんが、見たところ転んだだけのようだな。このオレも迷宮を出て来たばかりで、ボロボロの身だが、倒れたお前を立ち上がらせることぐらいはできる。さあ、この腕につかまれ」

「バカにするな。一人で立つぐらいできらあ」酔っ払いはふらついた足取りで、何かの後輩らしい相棒の支えを受けながら、かろうじて立って見せた。

 そして、精一杯の威厳を保とうと、下からこちらを睨みつけて凄もうとする。「あんた、迷宮から出て来ただって? いつの話をしてやがる。迷宮探検競技は三日も前に終わったぜ。勝ったのは、そう、勝ったのはブラックサンドから来た小娘だ。聞いてくれ、俺はあの娘に賭けたんだよ。そして見事に大穴を引き当てた。リサ・パンツァ様々だってもんだ」

 酔っ払いの先輩は、酔った者特有の感情の起伏の激しさを見せて、大笑いした。

「こっちは、蛮人コンビのどちらかに賭けたんですけどね〜」素面に近い後輩が付け加える。「名前は何て言ったかな? フロム? クロム? ヌロム?」

「オレの名前ならスロムだ」

「そうそう、そのスロムって人だ。あなたに賭けたんですよ。だけど、外してしまった。どうしてくれるんですか〜」理不尽な言いがかりを付けてくるこいつも、やっぱり酔っ払いらしい。

「どうもしない。お前の賭けの話など、オレには関係ないだろう」

「バカだな、お前は」酔っ払いの先輩が連れに上から目線で話しかける。「この男がスロムのはずがないだろう? リサ・パンツァ以外の連中はみんな迷宮内で死んだんだ。サカムビット公がそう発表したのを聞いてなかったか?」

「オレは生きている。正真正銘のスロムだ」

「はいはい、よく似た役者が迷宮探検競技の小芝居をしようって話だろう? それとも幽霊が今頃のこのこ化けて出やがったのか? まあ、どうでもいいさ、ここで会ったのも何かの縁。金がないなら、俺が奢ってやる。少なくとも、辛気臭い後輩と飲むより、面白い話ができそうだ」

「先輩、辛気臭いって酷くありませんか?」

「だって、そうだろうが。蛮人が見かけ倒しとか、リサ・パンツァはきっとズルをしたに違いないとか、そんな話で酒が上手く飲めるか。もっと、リサたんを褒め称えろよ。あのキュートなお尻がたまらないとかよ〜」

「先輩、聞いてて恥ずかしい話はやめて下さい」

「よし、決めた。俺はあのリサたんを元にした人形を作るぞ。今のブームに乗れば、バカ売れ間違いなしだ」

「だったら、ぼくはスロム人形を作ります。お願いです、役者さん。モデルになって下さい」

 どういう会話の流れかよく分からないが、酔っ払いに状況を説明しようとしても無駄なので、この場は話を合わせることにした。

 どうも迷宮探検競技は3日前に終了し、勝ったのはあの娘リサ・パンツァだったらしい。

 そして、受け入れ難い事実だが、自分が死んだことにされている……。

 世間に流布したこの誤解をどう晴らせばいいのか、よく分からないが、この場ですべきことは一つだ。

 このおかしな酔っ払い2人の酒飲み話に付き合って、さらなる情報を集めること。

 

 人形作り職人の徒弟2人の世話になって数日。

 その間に、後輩徒弟の人形のモデルになったり、

 リサ・パンツァの見た目とか装備品とかの話を先輩徒弟に仕方なく語ってやったり、

 彼ら2人の彫像工房で親方職人に見込まれて力仕事の手伝いをしたり、

 過酷な迷宮とは比較にならない、のどかな日常を男が過ごしていたころ(どうしても、自分が正真正銘、本物のスロムだという事実を信じてもらうには至らなかったが)、その事件は起こった。

 サカムビット公の賓客として、館に滞在していたという噂のリサ・パンツァが失踪したというのだ。

 何でも「謎かけ盗賊の娘」と名乗る賊が館に侵入して、リサを運命神に捧げる生け贄として連れ去ったらしい。

 サカムビット公は激怒し、リサを崇拝する先輩徒弟は嘆き悲しんだ。

 リサがどこに行ったのか、噂が乱れ飛んだ。

 信憑性のある噂は、「謎かけ盗賊とやらは、盗賊都市の領主アズール卿の仕組んだ狂言で、サカムビット公にリサを奪われた形のブラックサンド領主が裏で手を回したらしい」というもの。

 リサを助けるために、盗賊都市に乗り込むか。

 そう決断すると、男の行動は迅速だった。

 

 こうして、一人の蛮人が、ファングの街から姿を消した。

 彼が生還したスロムという真実は、ファングの住人たちは信じていない。

 ただ、リサとスロムのセットになった人形が少数ながら限定販売されて、一部の好事家の間で珍重されたという。

(当記事 完)