ウルトロピカルな⭐️GT(ゲーム&トレジャー)島宇宙

南の島と上空の宇宙宮殿を舞台にTRPGや特撮ヒーローなどのおしゃべりブログ。今はFFゲームブックの攻略や懐古および新作情報や私的研鑽メイン。思い出したようにD&Dに触れたりも。

「モンスター誕生」攻略感想(背景準備編2)

デッドエンドの奥深さ

 

リバT『前回は、「モンスター誕生」攻略準備編として、その難易度の高さを語ってみました』

 

ダイアンナ「引き合いとして、リビングストンの作風と比べるならまだしも、アーロックのマーティン・アレンを出すのはどうかと思ったぞ」

 

リバT『いえ、解析途中に、アーロックと同じような理不尽さを感じて、仮にアーロックがクソゲーなら、「モンスター誕生」もその難易度の高さゆえにクソゲーと言わざるを得ない。だけど、実感として「モンスター誕生」は楽しめたけど、「アーロック」にはそういう楽しみ方はできなかった。その違いはどこにあるんだろう? ってことを考えての記事です』

 

ダイアンナ「で、結論はジャクソン作品には、アハ体験がある。謎を解明して達成感があるから、難しい作品にも挑戦し甲斐があるってことだな」

 

リバT『ジャクソン作品には、プレイヤーを楽しませようというサービス精神があるんですよ。意地悪な仕掛けもありますが、意地悪を意地悪と感じさせないままに、いつの間にか術中に陥っているという見事さがあって、攻略中に「やるな、ジャクソン。まんまとしてやられたよ」と感服脱帽する鮮やかさが実感できます。そして、ジャクソンの文章には、プレイヤーを騙して嘲笑うような臭いが感じられず、デッドエンドの文章も、しみじみとした死が厳かに感じられる。作者の悪意や皮肉や嘲りではなく、あくまで作品世界における死とはこういうものだという文章描写を味わい深く読める。

『これはゲームブックなら当然のことと思えば、さにあらず。実はリビングストンさんも、ジャクソンさんも、デッドエンドの文章を考えるのに、力を入れているといったインタビュー記事を読んで、なるほど、そういうところにも気を配っているゆえの職人芸だな、と感じた次第』

 

ダイアンナ「読み甲斐のある死の描写か。それは一種の文学だな」

 

リバT『主人公の死の描写を何度も読み味わえる作品って、ゲームブック以外では少ないですからね。ホラー小説だと、脇役の死は多いですが、主人公の死は一回きりで、主人公が何度も死を経験できる作品ジャンルは限られています。死を覚悟することで生を充実させるメメント・モリな経験はゲームならではのもの。ゲームオーバーさえ味わい深く堪能できるのは、ジャンルの魅力であるものの、そこに力を入れて描写している作品は、書き手のセンスの良さや真摯さを感じます。逆に、キャラの死を嘲笑う傾向の多い作者は、単純に読んでて不愉快ですね』

 

ダイアンナ「しょせんは遊び、と切り捨てるのではなく、死亡描写さえ厳かに、想像力を駆使してサービスしてみせる。これがジャクソンやリビングストンの作品の魅力ということか」

 

リバT『死亡描写が作品の肝、とまでは申しませんが、良き死亡描写がある作品は、難易度が高くて何度死んでも、味わい深さを覚えて、再挑戦したくなりますね。よし、今度はどんな死に方ができるかな、ワクワクドキドキって思える作品は、全てが手抜かりなく傑作と思えます』

 

スティーブ・ジャクソンのFFゲームブック作品史

 

リバT『それで、年末のジャクソンBOXにも期待を寄せながら、過去作を眺めてみたいと思います』(年表記は原書/邦訳の順)

 

  1. 火吹山の魔法使い(1982/84)
  2. バルサスの要塞(1983/85)
  3. さまよえる宇宙船(1983/85)
  4. ソーサリー1:魔法使いの丘(1983/85)
  5. ソーサリー2:城塞都市カーレ(1984/85)
  6. ソーサリー3:七匹の大蛇(1984/85)
  7. ファイティング・ファンタジーRPG1984/85)
  8. 地獄の館(1984/86)
  9. ソーサリー4:王たちの冠(1985/85)
  10. サイボーグを倒せ(1985/87)
  11. タンタロンの12の難題(パズル本、1985/87)
  12. モンスター誕生(1986/88)
  13. トロール牙峠戦争(小説、1989/2021)
  14. サラモニスの秘密(2022/2023予定)

 

ダイアンナ「ゲームブック以外の3作を除いても、11作か。リビングストンで、何冊だい?」

 

リバT『FFシリーズだけで17冊ですね。そのうち、10冊は社会思想社時代に邦訳され、FFコレクションで4冊が新たに邦訳されましたから、残り3冊(「死の軍団」「龍の目」「ゾンビの血」)でコンプリートです。もちろん、コレクション未収録の「フリーウェイの戦士」「恐怖の神殿」「迷宮探検競技」「甦る妖術使い」の4冊が来るかもしれませんし、一応、イアン・リビングストン名義だけどキース・マーティン作だと2014年に公表されたFF54巻「ザゴールの伝説」の扱いをどう考えるのか、ですね』

 

ダイアンナ「ジャクソンのゲームブックは、コレクション4で『さまよえる宇宙船』以外のネタが尽きるけど、リビングストンはまだまだこれからってことだな」

 

リバT『ジャクソンはずっと「ソーサリー2(カーレじゃない新作)」をコツコツ執筆中と噂はあったのですが、40周年のフタを開けてみれば「サラモニスの秘密」で、「ソーサリー2」はまた別だと。何でもジャクソンは現在、体の麻痺で執筆が困難なのを、「サラモニスの秘密」は弟子筋のジョナサン・グリーンがジャクソンの言葉を口述筆記という形でまとめ上げたらしく、ジョナサン・グリーンは1993年のデビュー以来、7冊のFFゲームブックを執筆し、今度の「サラモニスの秘密」がジャクソンとの実質共作ということになりますね』

 

ダイアンナ「すると、今後はジャクソンの代わりに、ジョナサン・グリーンの作品がFFコレクションでプッシュされる可能性があるな」

 

リバT『コレクションが続くなら、推しの筆頭に挙げられるかもしれません。ただし、今の出版元であるスカラスティック社からはまだ復刻作品が出ていませんので、実質、「サラモニスの秘密」がジョナサン・グリーンのスカラスティックでのデビュー作になります。これを機に、彼の旧作がスカラスティックでも復刻されていくなら、今後のFFコレクションを支える作家になるかもしれませんし、安田社長も解説本でそういう意欲を見せています。何よりも、ジョナサン・グリーンは2010年代に、以下の本でFFゲームブックのシリーズ史をまとめ上げた実績があって、日本では作品が紹介されていないながらも、現在のFFシリーズを代表するベテラン作家の一人ですから』

ダイアンナ「この本が翻訳されると、FFシリーズの本国での歴史が分かるわけか」

 

リバT『そちらも翻訳希望ですが、それとは別に、先日、こちらの本の翻訳が決まったという報が入りまして、SNEは絡んでいませんが、来年に出版されるとのこと』

ダイアンナ「SNE以外からでも、その辺の業界を盛り上げる動きが出ると、密やかながら確かなブームになっている感じがするな」

 

リバT『70年代〜90年代の旧世紀のイギリスゲーム界の発展史ですからね。D&Dブームから、FFゲームブック、そしてウォーハンマーその他のボードゲームにつながる流れが、イギリスのアナログゲーム界の重鎮、生ける伝説とも言われるサーの手で紡がれているという』

 

ダイアンナ「褒めすぎじゃないのか?」

 

リバT『日本では、ゲームブック作家という肩書きだけで過小評価されていますが、イギリスのアナログゲーム界の旗手であり、90年以降はデジタルゲーム業界にも進出し、アドバイザー的な立場で大きな貢献を果たしたようです。日本でも有名どころだと、この作品だとか』

ダイアンナ「と言うか、リビングストンの偉業に話が向かっているが、今回のテーマはジャクソンの方じゃないのか?」

 

リバT『それなんですけど、多作のリビングストンさんは元々ネタが多いですし、リビングストンBOXでの安田解説からもネタがいっぱい吸収されましたが、ジャクソンさんの方は今はまだ持ち上げる話題が少ないのですね。「あの伝説の天才ゲームブック作家が36年ぶりに帰ってきた!」という話題が先行しますが、小説「トロール牙峠戦争」から新作「サラモニスの秘密」までの間に、FFのデジタルゲーム化にタッチしていたり、裏方業務をコツコツこなしていたことはネット上の限られた資料からも分かるのです。それでも、あの派手に一世風靡したジャクソンが裏方からふたたび晴れの舞台に出て来た、というだけでファンのワクワクは止まらないのですよ』

 

ダイアンナ「派手に活動した往年のアイドルスターが久々に新作を発表したようなものかな。ジャクソンがFF関係で活躍したのは1982年から、小説を発表した89年までで7年。40年の歴史では短くもあるが、その功績や影響は非常に大きい、と」

 

リバT『小説は、日本が91年にFFシリーズから撤退したために、邦訳商品が出るまで、30年掛かりました。日本では、FFシリーズの止まっていた針がゼロ年代に懐古趣味的に復刻されたりもしましたが、大きなムーブメントにはならずに鎮静化してからの10年代、ゲームブックではなくてTRPGのAFF2版が2011年に登場して、邦訳展開され始めたのが2018年。同時期に刊行された雑誌「ウォーロック・マガジン」に、うちのグランドマスターNOVAが思いきり懐かしさを喚起されて、「うおー、ウォーロックの復刻かよ。80年代が戻って来たようだ〜。あの時は、何度かセル・アーネイ企画にも投稿したよなあ。青春爆発ファイヤーだぜ」とか歓喜しながら、以降、雑誌とAFFサプリの追っかけを始めたわけですね』

 

ダイアンナ「AFF2版邦訳と、ウォーロックマガジンの創刊は、花粉症ガール誕生と同じ5年前か。そこに何かの関連は?」

 

リバT『あるでしょうね。一番、大きな理由は、平成が令和に変わる時代の節目辺りに、いろいろ来し方をブログで振り返りたくなったグランドマスターNOVAが、一人で喋っていても虚しいので、聞き手になれるアシスタントガールを所望したときに、花粉症と結びついて生まれたのがマザー翔花たちで、娘にいろいろ教育するという方向で、心に移りゆくよしなしごとを云々しているうちに、今に至ったわけですね。でも、まさかゲームブック攻略記事を「娘設定の精霊少女の分身のそのまた分身の吸血鬼女王」をメインに話していようとは、5年前には思いもよらなかったでしょう』

 

ダイアンナ「5年という月日は、短いようで長いものなんだなあ。心に移りゆくよしなしごとが、どういう展開を示すかも分からないほどだ」

 

リバT『で、2年前にFFコレクションという形で、「火吹山の魔法使い」がふたたび復刻されたりしたことから、今の流れになるわけですが、その間にまさかのサー・リビングストンの称号が生まれたり、40周年記念祭りでジャクソンの新刊が発売されたり、ただの旧作懐古から現在進行形のムーブメントの波が起こるとは、と感慨しきりです。うん、この波が(自分が体験堪能できる)FF最後の盛り上がりになるかもしれないな、とか、だったら楽しめるうちに楽しまないと、人生後から後悔する、いつ堪能するの、今でしょって気分で記事書きしているのが、今のグランドマスターNOVAです』

 

ダイアンナ「では、年末ジャクソン祭りに向けて、本題に移るか」

 

悪魔の3人の話

 

リバT『クイーンは、アランシアの悪魔の3人についてご存知ですか?』

 

ダイアンナ「去年までは知らなかったが、火吹山の魔法使いオルドラン・ザゴールも倒したし、続くバルサス・ダイアも倒した。3人めがザラダン・マーだったな。噂には聞くが、まだ会ったこともないし、どんな悪行をしたかもよく分からん。これから学ぶところだ」

 

リバT『実は、その3人とも生みの親はスティーブ・ジャクソンなんですね。厳密には、ザゴールだけはリビングストンとの共著で、どちらが生みの親なのかは断定できないのですが、その後、ザゴールを復活させたり、ザゴール小説を書いたのはリビングストンなので、40周年記念作でも、ザゴール関係はリビングストンが、残りの2人はジャクソンが絡めることになりました』

 

ダイアンナ「いわゆる持ちキャラという奴だな」

 

リバT『一説によると、火吹山(the Firetop Mountain)という地名を考えたのがリビングストンで、ラスボスが魔法使いだというアイデアを出したのがジャクソンだそうですが、それを裏付けるのがワールドガイドの「タイタン」(1986)の前書き文です。「タイタン」はマーク・ガスコイン編集ですが、監修者のジャクソン&リビングストンが前書きに名を連ねています。ザゴールとバルサスはゲームブックが初出ですが、ザラダン・マーはゲームブックに先立って、「タイタン」で名前が紹介されておりました』

ダイアンナ「ザラダン・マーについては、『タイタン』ではどう書かれているんだ?」

 

リバT『師匠の邪悪魔術師ヴォルゲラ・ダークストームが弟子として、3人を教えたものの、弟子たち3人は共謀して師匠を黒魔術で殺害し、それぞれの野心を持って別行動をとるようになったようです。

『ザゴールは、火吹山に行き、そこを住処にしていたドワーフの部族を追い払ったそうです。彼らの一部がストーンブリッジに住み着くようになったようですが、火吹山とストーンブリッジが思ったよりも密接に関わっていたことは、「巨人の影」において語られているようですね。

バルサスは、南のぎざ岩高地にある父祖の要塞を我が物とし、闇の軍隊を編成するようになりました。近隣の王国サラモニスを脅かすようになったため、ヨーレの森の若き魔法戦士が要塞に潜入し、バルサス暗殺を目指すのがゲームブックバルサスの要塞」の物語でしたが、ジャクソンの小説ではバルサスとザラダン・マーの軍勢が武力衝突を起こし、バルサスには別の末路(異次元への追放)が描かれました。ゲームブックと小説の矛盾をどう説明するかで、いろいろ物議が醸されたようですが(パラレルワールドと解釈するのが妥当と思われつつも)、去年発売されたAFF2版シナリオの「バルサスの要塞」では辻褄合わせが行われ、「異次元に追放されたバルサスが、その後、帰還して、ふたたび柳谷に侵攻を計画するようになったので、ゲームブックあるいはTRPGのシナリオどおりに少数の冒険者が要塞に侵入して、打倒バルサスの物語に突入する」という展開です。つまり、ジャクソンの小説をゲームブックの前日譚に置き換えたんですね』

ダイアンナ「後から発表された作品が、矛盾解消のために前日譚として解釈されるのは、FFシリーズあるあるだな」

 

リバT『事件の前後関係を示した公式年表があればいいんですけどね。まあ、それで問題のザラダン・マーですが、「タイタン」における記述では、「東の月岩山地に向かって後は行方不明」とのこと。その後のストーリーが「モンスター誕生」で詳細が描かれるわけですが、本国では「タイタン」→「モンスター誕生」の順に同年出版されたのに、日本では翻訳紹介の順序が逆転しました。「モンスター誕生」が原書の2年後の88年に出たのに対し、「タイタン」は4年後の90年に出たために、ザラダン・マーという第3の巨悪への先行紹介が為されず、代わりに「ジャクソン最後のゲームブック」という宣伝文句が謳われることに。そして、後から紹介された「タイタン」におけるザラダン・マーの記述は、ザゴールやバルサスに比べて情報量が少なく、あやふやなのもゲームブックに登場前だからという事情ですね』

 

ダイアンナ「つまり、本来なら先にワールドガイドで名前を紹介しておいて、どんな奴だろう? とファンの興味を喚起させてから、実際の作品に登場したわけか。それほどの大物ということだな」

 

リバT『日本では、ザラダン・マーのお披露目が本国どおりにはならなかったうえ、作品中でもザゴールやバルサスのような直接戦闘ではなく、ザンバー・ボーンのように(必要アイテムや情報さえ入手していれば)呆気なく倒せることになり、ゲームブックとしては難解でも、ザラダン・マー本人は大したことがないという印象です。それに、ザラダン・マーよりも、プレイヤーが動かす主人公モンスターのインパクトの方が強いため、マーの魅力がいまいち語られていないようですね』

 

ダイアンナ「ザラダン・マーの魅力?」

 

リバT『「モンスター誕生」の背景、約20ページに渡る小説で、ザラダン・マーの来歴が延々と語られています。FFシリーズのラスボスは、最後に出て来て倒されるのが仕事なので、物語の出番はさほど多くありません。これがヒーロードラマだと、主人公の登場シーン以外に敵のシーンが描かれて、ライバル敵や幹部、首領などにもキャラ性が見せられるのですが、主人公視点で描かれるFFゲームブックでは、原則として主人公が見聞きしていない情報を描くと興醒めです。途中でボスと遭遇し、その脅威を見せつけてから(敗北してから)、ラストで再戦して倒すという展開も作られるかもしれませんが、基本的には脅威にさらされた被害者の証言や噂話、アドバイザー役の善の魔法使いがくれる情報、探索途中で見つかるボスの痕跡(肖像画や、部下のちょっとした発言)などからイメージを膨らませていき、そしてクライマックスで対面するわけですね』

 

ダイアンナ「ボスの拠点(火吹山や、バルサスの混沌の要塞など)の描き方で、ボスのキャラ性を推し量ることもできそうだな。最初の火吹山は、オークの番兵が居眠りしていたりしていて、あまり敵襲を警戒していなさそうで、ザゴールも迷宮の主ではあるものの、統制が行き届いていない感じだった。だけど、『ふたたび』で復活してからは、自分を倒し得る冒険者の存在に警戒してスパイを送り出したり、ヤズトロモの偽者を刺客に差し向けたり、非常に警戒するようになっている。罠の致命度も格段に向上して、復活ザゴールの恐ろしさをたっぷり思い知らせてくれたようだな、ダディーの話では」

 

リバT『クイーンは、復活ザゴールと戦ったことはないのですね』

 

ダイアンナ「歴戦のダディーが苦労した話を聞くと、ゲームブック歴1年のあたしが手を出すべきではないと思えてな。それより『死の罠の地下迷宮』を先にクリアしないと」

 

リバT『そこは、しばしのお待ちを。さて、ゲームブックの中には、「運命の森」「さまよえる宇宙船」などのようにラスボスに当たる存在がいない作品もありますが、それぞれがアイテム探しと情報探しという、リビングストンとジャクソンの後の作品傾向を示しているのが面白いですね。また、ラスボス描写の手法については、研究し甲斐のあるテーマと考えますので、グランドマスターNOVAに提案してみようと思います。

『ともあれ、ラスボスについては、主人公のYou視点だけでは充分な描写ができないと考えたジャクソンは、ザラダン・マーの描写を冒頭で小説風に描くという手法をとるんですね。小説風なので章題があります。まずは、舞台となるトロール牙峠について、南のサラモニス、そのまた南のぎざ岩高地、バルサスの要塞に関する記述があって、他にも逆風平原を越えた先のチャリスやシルバートン、そしてポート・ブラックサンドなど、アランシアの地誌を考察する材料としても、興味深く読めます。つまり、リビングストンが展開したアランシアについて、「タイタン」でまとめられた世界観を踏まえた記述を、ジャクソンが初めて行ったわけです』

 

ダイアンナ「初めてだと?」

 

リバT『ええ。ジャクソンは、リビングストンとの共著で火吹山を描き、続いて、バルサスの要塞とサラモニス周辺を構築しましたが、以降はSFや現代ホラー、タイタン・シティという別ジャンルでFFの可能性を広げるとともに、ソーサリーでアナランド王国とカーカバードの荒野を作り上げることで、リビングストンの展開したアランシアとは別の道を切り開いていたわけです。よって、「モンスター誕生」はジャクソンにとって3作めのアランシア冒険譚となります。「悪魔の3人」との呼称で、ザゴール、バルサス、ザラダンの3人を別格扱いにしたのも、FF創始者の一人であるジャクソンへの敬意の表れかもしれませんね』

 

ダイアンナ「つまり、アランシアはリビングストンの世界で、一方、ジャクソンの構築したソーサリーの世界観は〈旧世界〉という別大陸を用意して、それぞれの領域を住み分ける形をとった、と」

 

リバT『ええ。そのジャクソンがふたたび、アランシアに帰って来て、サラモニス周辺の足場固めをしたのが「モンスター誕生」と受け止めることができます。そこから小説に展開していったのですが、「モンスター誕生」はザラダン・マーの物語でもあると共に、サラモニスやバルサス・ダイアについて補完する一面も持っています。「タイタン」で描かれた以上の詳細な記述で、オルドラン・ザゴールやバルサス・ダイアと共に同じ師匠ヴォルゲラ・ダークストームの下で学ぶザラダンの姿が描かれ、またザゴールにオルドランというファーストネームが付けられたのも、当作からみたいですね。「タイタン」では、ただのザゴールでしたから(後で、間違いと判明。詳細は次の記事にて)

 

ダイアンナ「つまり、83年に『バルサスの要塞』を書いた後、FFの世界を広げていったジャクソンが、改めてリビングストンの展開したアランシア内で、自分の担当地域のサラモニス周辺を掘り下げ始めたのが86年の『モンスター誕生』。それからゲームブックを終了宣言して、小説の『トロール牙峠戦争』を89年に発表した後は、FFというブランドの表舞台からは影を潜めていて(その間の密かな動向を、年末BOXの安田解説で紹介していただければ嬉しい)、それから新作『サラモニスの秘密』で復活ということか」

 

リバT『ゲームブックでのザラダン・マーの顛末と、小説での異なるストーリーの矛盾を、ジャクソン自身の新作でどのように扱っているのかも気になるところです。リビングストンさんが近年、ザンバー・ボーンやアズール卿について改めて掘り起こしたように、ザラダン・マーについて新たなる情報が描かれることを、日本の多くのFFファンはワクワク待ち望んでいるはず。まあ、バルサス・ダイアの矛盾はTRPGシナリオで一応の整合性が付けられましたが、これもジャクソン自身がどう受け止めるかにも注目したいところです』

 

ダイアンナ「なるほど。FF素人のあたしにも、今度の新作『サラモニスの秘密』の何に期待すべきか分かった気がするぞ。30年以上止まっていた物語世界の歴史が動くかもしれないってことだな。そりゃあ、どんな秘密があるのか、詳しいファンならワクワクして仕方ないことだろう。……それにしても、背景準備が長いな(苦笑)」

 

リバT『冒険を始める前に、長い背景情報を読むことになる「モンスター誕生」の感覚を味わってもらいましたの』

 

『モンスター誕生』の長い背景

 

リバT『ゲームブックを楽しむのに、長い背景設定が必要か、というと賛否両論が80年代にもあったわけですが、要するに、ただゲームを楽しむだけなら、主人公がどんな奴で、誰に依頼されて、冒険の目的は何かが分かればいいわけです。しかし、80年代はTRPGでも背景世界の構築が主流となり、世界の雰囲気を堪能することがフィクションの王道となっていた時代です。物語の奥に広がる架空世界の魅力、そしてシリーズ化に伴う歴史構築に多くのクリエイターやマニア志向のファンが夢中になっていった時代。

『もっとも、その後、壮大すぎる世界観はマニアしか寄りつかず、世界よりも多彩な個性のキャラクターの魅力で売る作品が90年代の作品傾向になり、キャラと世界の一体化から、世界や物語と切り離されたキャラの一人歩きに発展します。不可分だった世界とキャラの関係が、キャラだけ切り取られて別の作品世界とコラボするクロスオーバー、あるいは異世界転移が21世紀の定番となる。またキャラの類型化、記号化が盛んになって……というのは、FFゲームブックから外れた考察になるので自制して、とにかくFFシリーズでも20巻前後から背景情報が長くなり、主人公のキャラ設定も「剣技に長けた典型的な風来坊冒険者、無色透明なYou」という設定から離れ、個性的な特殊能力や背景をもった独自性ある主人公像を時に強調するようにもなります』

 

ダイアンナ「ええと、『サイボーグを倒せ』のシルバー・クルセイダーみたいなものか?」

 

リバT『非ファンタジー作品では、特殊任務に従事する公的な職業のキャラが多々見られますが、ファンタジー関連だと、16巻の海賊船長、20巻のサムライ、28巻のエルフの夢使い、29巻の盗賊ギルド志願者などが変わり種ですね。しかし、まあ、24巻である本作の正体不明のモンスターほど個性的な存在はいないでしょうが』

 

ダイアンナ「無色透明の風来坊冒険者から、作品ごとの個性的な背景を持った特殊職業、しかし、それにも増して特殊なモンスター主人公か」

 

リバT『ただ、やはり本作の特殊な点は、最初の背景説明が全て敵役のザラダン・マーの来歴紹介や彼の野望絡み(世界征服の助けとするため、エルフの魔術の秘密を解き明かす)に当てられて、主人公の情報は全くに近いほど、記されていないところですね。ここまで、主人公のことが語られず、敵キャラに焦点を当てた背景説明は他に類を見ません』

 

ダイアンナ「アーロックは、ル・バスティンについて詳しく書かれてあったと思うが?」

 

リバT『だから、アーロックはモン誕と対比できるのでしょうが、大きな違いがあります』

 

ダイアンナ「何だ?」

 

リバT『アーロックは、敵役のル・バスティンについて詳しく説明するとともに、主人公についても詳細に書いてあって、しかも、その情報が本編の冒険にはほとんど関連付けられていない、行き当たりばったり感が大きいもので、「残念な敵役が姑息な悪事がバレて王様に追放されたので、復讐のために要塞に立てこもって銀河を脅かす戦争の準備をしていたら、英雄的な実績を誇る宇宙貴族の主人公が討伐に差し向けられた」という背景なんですが、装飾過多で情報量が盛り沢山な割に、焦点がブレているというか、結局、物語世界の雰囲気に浸れない描き様なんですね』

 

ダイアンナ「ル・バスティンという討伐対象が、いかにも恐ろしいというような書き方ではなく、はた迷惑な小悪党にしか描かれていない、と」

 

リバT『ただ、その小悪党ぶりを強調して書くものだから、ある意味、人間味が溢れて、主人公よりも魅力的に感じられてしまう。主人公勇者が、肩書きや経歴は仰々しくもストーリー本編ではマヌケな行動をとらされる傾向が強く、感情移入がどんどん削がれてしまう(2人称視点で、Youが主人公のFFゲームブックでは非常に稀なケース。主人公を通じてゲーム世界を見るFFの物語において、感情移入を絶たれることはゲームへの没入度において致命的でさえある)のに対し、ジャクソンのモン誕では、主人公について背景では全く触れられていない(これはこれで稀なケース)にも関わらず、モンスターの視点で世界を見る没入感覚は芸術的とさえ言えます』

 

ダイアンナ「よく分からないな。背景情報が与えられていないのに、没入できるとは?」

 

リバT『それは、背景の最後に、このような文章で締められているからでしょうね』

 

 以上が「モンスター誕生」をとりまく世界の説明だ。その大半は大して役に立たないだろうし、きみを迷わせるための情報が含まれているかもしれない。冒険をはじめればわかるだろうが、きみには理性などというものはほとんどなく、きみの行動は本能に支配されている。きみがなる怪物の本能にだ。しかし、冒険を進めていくにつれて、きみは自分の運命が定められていることを知りはじめ、疑問を感じだすことだろう。自分は何者なのか? どこからやってきたのか? なぜここにいるのか?

 その答えは、きみが怪物として選ぶ道にしたがって異なっている。

 

リバT『自分が何者か分からない。記憶を奪われた怪物として、その謎を突き止めるのが冒険の目的なんですね。プレイヤーの好奇心を痛烈に引き起こす文面です。そして、背景に記された死霊術師ザラダン・マーと自キャラの因縁や、背景情報が「大して役に立たない」と書かれつつも、非常に巧妙に冒険に関わって来ます。プレイヤーの持っている情報は、主人公モンスターの持つ知識とは違っているにも関わらず、モンスターが探索を続けるうちに、次第に自分や世界のことを理解し、推測できるようになって行く過程は、奪われた記憶が回復していくようなゲーム内錯覚を呼び起こし、能動的な謎解きの興奮を喚起させるんですね。つまり、ゲーム内で謎が解けて行くうちに没入感覚が高まっていき、背景情報と冒険内の出来事が密接にリンクして行く。ああ、こういうことだったのか、と良質のミステリーを読み解くような快感を覚える。これが本作の醍醐味ですの』

 

ダイアンナ「つまり、背景情報がしっかりとした伏線として、本編につながって来るということだな」

 

リバT『ですから、背景を最初に全部読むのもいいのですが、ゲームの攻略途中に、あるいはゲームの攻略後に背景を読み返すと、ああ、こういう風につながっていたのか、上手いなあ、と感じ入れるわけですね。そういう体験を擬似的にできる攻略記事を目指せたらいいな、と』

 

 

ケイP『……そんなわけで、ようやくモンスター役のおいらの登場だッピ。ここまで長文を読んでくれた方には、待たせて悪かったな。おいらもずいぶん待ったが、次回からいよいよ伝説のゲームブック「モンスター誕生」の攻略開始だッピ。果たして、おいらは生き延びることができるか? その答えはダイス目と運命の選択次第だッピ』

(当記事 完。次回から攻略本編へ進む)