♦昔なつかしい呪文懐古
ダイアンナ「今日は、時空魔術師の娘(の分身)らしく、昔の呪文の話をすることにした。ただし、あたしは詳しくないので、アストを先生役に指定しよう」
アスト「おお、ついにオレの知識が役に立つ時代が来たか」
ダイアンナ「ところで、前から気になっていたんだが、お前の年齢は一体いくつなんだ? ダディーがもうすぐ50才のアラフィフというのは分かるが……」
アスト「フッ、そんなつまらないことは忘れたな。未来に飛ばされて、そこで波乱万丈の冒険を重ねるうちに、時には老化ガスを浴びて年寄りになったり、時には命の素を飲み過ぎて赤ん坊になったり、スピードAに改造されて年齢が関係なくなったり、種々のエピソードを重ねたりしながら、しばしば設定が不整合を起こして矛盾の塊になったりした挙句、今は永遠の20代ということでオレは納得している」
ダイアンナ「つまり、実年齢が45歳にも関わらず、若作りして『永遠の24歳』を自称している1000%みたいなものか」
アスト「オレはアストであって、天津でないと〜。とにかく、オレの年齢はどうでもいいんだよ。オレがクラシックD&Dには愛着があって、今現在のD&Dやパグマイアを勉強中の若者だってことが分かれば、それで十分なんだ」
ダイアンナ「いやいや、『クラシックD&Dに愛着のある若者』って時点でいろいろ矛盾してないか?」
アスト「だったら、20代の若者はバッハやベートーベン、ブラームスなどクラシック音楽に愛着を持ってはいけないのか? 全ての若者が流行りのポップミュージックしか聞いてはいけないのか? 20代の若者は、初代ゴジラや、初代ウルトラマンや、仮面ライダー1号や、ゴレンジャーを好きになってはいけないのか? 何事も原点を尊重する若者がいても、いいじゃねえかよ」
リバT『まあまあ、アストさん。今回はアストさんが講師役なのだから、思う存分、クラシックD&Dの薀蓄を語ってください』
アスト「分かった。テーマは1レベル魔術師呪文だったな。全12種類、いや、メディアワークスの文庫版では1つ増えて、13種類になった古典的な魔法使い呪文の初歩を語ってやるぜ」
♦赤箱と文庫版
ダイアンナ「ところで、クラシックD&Dは一つと思っていたが、バージョン違いがあるのか?」
アスト「当然ある。本国では最初に出て元祖のオリジナルD&Dを1版と考えて、全部で6版ある形だが、今のAD&Dから統合された形の第5版と話を混ぜると、いろいろ紛らわしい。日本では赤箱から始まる新和版→AD&D2版→グループSNEが関わった文庫のメディアワークス版という流れで翻訳され、ここでは赤箱版と文庫版の2種をクラシックD&Dと呼称する。なお、赤箱版表紙がおなじみのこれで↓」
アスト「文庫版のルール3点がこれだ↓」
ダイアンナ「上部が光を反射して、下部が陰になっていて、光と影のコントラスト。この撮影技法は必殺シリーズを意識したのか?」
アスト「無理やりな褒め方を考えずに、単純に素人丸出しの下手くそと言えよ。オレじゃなくて、NOVAにな」
リバT『しかし、グランドマスターは文庫版ルールもしっかり保存していたのですね』
ダイアンナ「ああ、これはお宝だ。そういう認識で間違えていないんだろう?」
アスト「もちろん、価値が分かる人間にとってはな。赤箱版はクラシックD&Dの4版、文庫版は5版という位置づけになる。だがしかし、後者は上級ルールを含めて5冊出る予定だったが、結局、3冊までしか出版できなかった。翻訳は完成していたらしいんだが、そしてNOVAは残り2冊が出版できないと知って、翻訳担当者に『翻訳データを頂けませんか』と深く考えずに打診してみたらしいんだが、生憎、さらりと笑顔で拒否されたとか。まあ、後から考えると、『データが膨大すぎて、簡単に渡せる内容ではなかった』ことぐらい気付けよ、とツッコミ入れられるんだがな」
ダイアンナ「しかし、ダディーは自分で英語ルールを読めるんだろう?」
アスト「だけど、誰かが翻訳してくれた日本語ルールがある方が、楽じゃないか。一応、NOVA自身、AD&D1版のPHBを趣味で必要部分だけ翻訳して悦に入っていたらしいし、読もうと思えば読めるけど手間暇掛かるし、あえて英文ルールでのプレイに付き合ってくれる連れは持っていなかったから、実プレイに至らなかったみたいだな」
ダイアンナ「何で、アストがそんな話を知っているんだ? あたしには、ちっとも話してくれないのに」
アスト「NOVAの昔の日記の一部を読む機会があってな。90年代のあいつの仕事ぶりや日々の感想が詳細に記されていたのさ」
ダイアンナ「人の日記を盗み読むなんて、お前という男は見下げ果てた奴だな」
アスト「快盗としては、褒め言葉だと受けとっておくぜ」
ダイアンナ「で、ダディーの女性遍歴については書かれてあったのか?」
アスト「そんなことをあいつが書き残しているわけないじゃないか。安田社長の発言が耳に突き刺さったとか、水野さんから今後のロードスの展開の可能性を聞いたとか、90年代のあいつの感じたことはいろいろ書いてあったがな。そのうちの一部は、ブログの回想ネタになっていたりするわけで」
ダイアンナ「ダディーの90年代の趣味&仕事日記か。それもまた、お宝だな」
アスト「当人にとっても、大事なお宝だと思うぜ。大切に本棚に保存されていたぐらいだしな。まあ、魔法使いの本棚というのは、呪文書や研究内容など秘められた知識の宝庫だというのは、RPGの常識だろう。時には、それがシナリオ攻略の重要な手がかりを示すことにもつながるわけで」
ダイアンナ「よし、あたしもそのお宝本棚をあさりに行くぞ」
リバT『ダメです、マイクイーン。そんなことをすれば、どれほどグランドマスターがお怒りになるか』
ダイアンナ「それもそうか。ダディーに絶縁されて、ここから追い出されることになれば、あたしの存在そのものが歴史から抹消されても文句は言えない。魔法使いの秘密を覗き込もうなど、命がいくらあっても足りない愚かな所業だ。この件で犠牲になるのは、アスト一人でいい」
アスト「おい。オレが犠牲になってもいいと言うのか?」
ダイアンナ「ダディーを敵に回すようなことをした、お前の自業自得だろう。とにかく、ダディー個人の秘密の話は抜きにして、今は趣味の話に専念しよう。そう、クラシックD&Dのお宝呪文の話だ」
アスト「ああ、80年代に出た赤箱D&Dの系譜、そして90年代に出た文庫版の系譜。もしも、文庫版が上級ルールまで出版されていたとしたら、緑箱のコンパニオンルールや黒箱のマスタールールはもう用済みとして処分され、当ブログの記事ネタにはならなかったかもしれない。文庫版が未完で終わったからこそ、緑箱や黒箱が大事に保管され、中途半端に満たされなかった想いが今の当ブログ記事執筆の原動力になっているとも思えば、完成品だけが時代を作るとも言えないのかもな。未完だからこそ、そこに情念が湧くとも言えるだろう」
ダイアンナ「確かに、完全に満たされてしまえば、それ以上は何も生み出さなくなるのかもな。『満足した豚よりも、不満足なソクラテスの方がいい』とは誰の言葉だったかな」
リバT「イギリスの哲学者J・S・ミルの言葉ですね。ただし、言葉の意味合いはずいぶんと異なりますが。ミルが言っているのは、幸福の価値基準の違いについての話であって、低俗な欲求よりも精神性の高い欲求の方に重点を置いた主張です。低俗な欲求が満たされた社会よりも、精神的に高みを目指す社会の方がより良い社会だということ」
ダイアンナ「ずいぶんと詳しいんだな」
リバT『ミルの著書に「自由論」(On Liberty)がありますからね。自由を旨とする私めにとっては、必須の書です。こちらで読めますので参考までに」
アスト「って、何でTRPGの記事なのに、政治哲学の資料に話が及んでいるんだよ? ここは哲学講義の場になったのか?」
リバT『いえ、深い理由はありません。単に、私めのキャラ性を示しただけで。速やかに話を戻しましょう』
ダイアンナ「とにかく、クラシックD&Dにも日本では2種類あるということだな。そして、後から出た方は、魔法使いの1レベル呪文が1つ多い。では、そこから見ていくか」
♦アナライズの呪文
アスト「文庫版で追加された呪文の名前は、アナライズだ。マジックアイテムの効果を分析する鑑定呪文で、赤箱版にはこういう物がなかった」
ダイアンナ「じゃあ、どうやって鑑定していたんだ?」
アスト「試しに使ってみるか、高レベルの魔法使いに鑑定してもらうかだな」
ダイアンナ「高レベルの魔法使いは、どうやって鑑定するんだ?」
アスト「レベル15以上の魔法使いが使えるロアー(伝承知識)という呪文があるんだが、正直そこまでキャラの成長を待っていられないよな。AD&Dでは、1レベルからアイデンティファイ(鑑定)の呪文が使えるわけで、そこから引用されたのが、アナライズということになるか」
リバT『あるいは、追加ルールで採用されたエルフの魔法使い用の1レベル呪文にアナライズがありまして、そちらが元ネタかと思われます』
アスト「ああ。ガゼッタにエルフ用の追加呪文があったらしいな。しかしまともな鑑定のできるのがエルフだけ、というのも問題だから、版上げする際に正式採用されたってことかもな」
ダイアンナ「エルフ専用魔法か。そういうのもあるんだな」
アスト「古いネタだが、ここでの話題ネタにしてもいいかもな」
リバT『だけど、今は基本の魔法使い呪文に専念するとしましょう』
♦その他の呪文
アスト「残り12種類のうち、シールド、スリープ、チャーム、ディテクト・マジック、マジックミサイル、ライト、リードマジックの7種は、これまでの記事で話題に挙がってるみたいだな。だから、ここでは残り5つの話をしよう。まず、分かりやすいのは、リード・ランゲージ。言語読解の呪文だな」
ダイアンナ「翻訳魔法か。情報収集には便利そうだな」
リバT『それも、リードマジック同様に、現在は遺失呪文になったみたいですね。知識系の技能でも代用できるようになりましたし』
アスト「昔は何でもかんでも呪文の力を借りなければ特別なことができなかった魔法使いが、今では呪文以外の特技や技能も活用できるようになったわけだな。大体、呪文の力に頼らなければ言語解読もできないなんて、賢者の名が廃るってもんだろう」
ダイアンナ「だけど、やはり解読に時間が掛かるなら、瞬時に未知の言語を読める呪文があるに越したことはないんじゃないか」
アスト「それがな。クラシックD&Dだと、レベル4以上のシーフ(盗賊)が80%の確率で、あらゆる普通の言語を読めるようになるんだよ。つまり魔法使いよりも盗賊の方が書物による情報収集のエキスパートになったりもするわけだ。盗賊が言語解読できるなら、魔法使いがわざわざリード・ランゲージの呪文を習得する必要性が激減するよなあ」
ダイアンナ「魔法使いは呪文の力なしで、言語解読できないのか?」
アスト「魔法使いは呪文の力に頼らなければ、何もできないのがクラシックD&Dなんだ。ただし、ガゼッタおよび文庫版になって技能ルールが追加されたことで、能力値判定を正式なルールとして使いやすくなった。技能の習得ボーナスは魔法使いの得意な知力なので、他の職種より豊富な技能で個性化を図れるしな。芸術家の才能を持った魔法使いも、獣医な魔法使いも、変装が得意な魔法使いも、足跡追跡が得意な魔法使いも作ることができる」
ダイアンナ「それって、別に魔法使いじゃなくても、他の職業でもできることだろう?」
アスト「まあな。だけど、技能ルールが定着した3版以降だとルールも整備された結果、それぞれの職業ごとに習得しやすい技能が別々になったために、盗賊向きの技能を魔法使いが習得するのは割と困難だったりする。結局は、職業ごとの向き不向きがいろいろあるんだが、クラシックD&Dの技能ルールはそこまで厳密なものじゃないので、意外と多芸な魔法使いも作れてしまうという」
ダイアンナ「すると、歌って踊れるアイドル魔法使いも?」
アスト「歌唱のスキルはあるけど、舞踊のスキルが用意されていないんだな。まあ、DMが許可すれば、アイドル魔法少女もできなくはないかも。そこまで自由度の高いプレイを公式で示さないうちにクラシックD&Dは展開が終了したけれど、大雑把な技能ルールでいろいろ遊べたかもしれないわけだ。
「まあ、基本のD&Dの紹介が文庫版では不十分だったのと、20世紀の段階ではそこまで日本の萌え路線をD&Dに投入するのはリスクが高かったのかもな。ロードスやBASTARDさえ許可されなかった時代だから、公式があまりD&Dで羽目を外すわけにもいかず、多くの可能性の芽を摘んでしまったとか」
リバT『だけど、日本の当時のD&Dファンが、このシステムでアイドル萌え路線をやりたかったとは思えませんが。それって、旧世紀末から21世紀初頭にかけてFEAR社などが作り上げてきた新世紀スタンダードな風潮かもしれませんよ』
ダイアンナ「しかし、呪文の話のはずがスキルの話に流れてしまったな」
アスト「おっと、いけねえ。残り4つか。防護呪文のプロテクション・フロム・イーヴィル(邪悪からの防御)は、僧侶も同じ呪文を覚えるので、あまり初期から覚えたいとは思わないな。強いて言えば、将来、召喚系の呪文を覚えたときに、魔物と交渉契約時に身の安全を図るための保険にはなるかな」
リバT『高レベルになると、初期では重要だったスリープやチャームが敵に通用しなくなるので、1レベル呪文は補助系や、違う意味合いを持つトリッキーな使い方を模索するようになりますね』
アスト「扉を閉ざすホールド・ポータルも、より強力なウィザード・ロックが使えるレベルだと、いまいち使いでが悪いんだよな。ダンジョン内で休息を取る場合に、敵の侵入を防ぐために使うことは分かるんだが、持続時間が2~12ターンというのが問題だ。たったの20分から最大2時間ってんじゃ、夜を明かすには心許ない」
ダイアンナ「敵を部屋に閉じ込めるのには有効じゃないか?」
アスト「あるいは敵集団の半数が部屋に入って来たところを、扉を閉めて相手を分断するという戦術はありかもな。ゴブリンスレイヤーでは時々見かけたような気がするが」
ダイアンナ「あと2つか」
アスト「ベントリロキズム(腹話術)の呪文は、トリッキーかつ人気のある呪文の一つだった。何しろ『ホビットの冒険』で灰色のガンダルフがトロールを口ゲンカさせるのに活用していたし、ロードスでもディードリットの使う精霊魔法ウィンドボイスと名を変えて使用されている。少なくとも、ファンタジー小説を読むようなTRPGファンは、この呪文をどう使うか印象的な実例を有名作品から提示されていたわけだ」
ダイアンナ「クラシックD&Dファンは、呪文の奇抜な使い方をあれこれ模索していたんだな」
アスト「ああ。使い方のよく分からない呪文をどう活用するか、アイデアをあれこれ披露し合うのがマニアックなTRPGファンの嗜みだったような気もする。しかし、最後の一つ、フローティング・ディスクだけは、どうも使い道が分からなかった」
ダイアンナ「フロッピー・ディスク? 確か、データを記録する媒体じゃなかったか?」
アスト「今どき、そのネタが通じる若者がどれだけいるのか。ええと、浮かぶ円盤って意味で、透明のお皿が術者の腰ぐらいの高さにフワフワ浮かんで、重さ500ポンド、約225キログラムまでの物品を持ち上げ、支えることができる。術者といっしょに動くこともできるので、ちょっとした荷物運びには使えるか」
ダイアンナ「225キロまで持ち上げられるって、結構凄くないか?」
アスト「凄いかもしれないが、持ち上げたからどうするってんだ?」
ダイアンナ「持ち上げた後、上から落とす。崖っぷちでやれば、相手は大ダメージだ」
アスト「そんな崖っぷちまで相手を運んで行けるなら、普通に突き落とすこともできそうなもんだが」
ダイアンナ「すると、荷物運びか」
アスト「効果時間が1時間だから、ダンジョン探索していると、あっという間に時間切れだ」
ダイアンナ「重い物を持ち上げるなら、引っ越しで家具を運ぶ助けにはならないだろうか」
アスト「引っ越しの手伝いをするようなシナリオなら役立つかもな」
ダイアンナ「タンスの下に転がったコインを拾うときにも使えそうだ」
アスト「ちょっと高いところにあって手が届かない品物を取る際に、仲間をフローティング・ディスクに乗せて、補助するってのもありだが、要するに脚立代わりかな」
ダイアンナ「重い物を持ち上げて支えるのに便利ってのは、日常生活だと結構、考えられそうなのに、冒険でそういう局面が意外と思い浮かばないのは何故だろうな?」
アスト「透明なディスクの上に乗せた物がフワフワ浮かび上がるというのは、手品とか、特撮映画の撮影とか、登下校時の荷物運びとか、冒険と関係なさそうなところでは使えそうなのに、冒険中だと、閉まりかけた落とし戸を完全に閉じないようにするとか、重い宝箱を持ち上げてみるとか、特別なケースに限られそうだ」
リバT『キラメイジャーの名乗りポーズや、フィギュアスケートのペア競技のように、相方を支えるのが必要な場面では使えるでしょう』
アスト「だから、そんな場面が冒険中にどれだけ発生するんだって」
リバT『せめて、自分がフローティング・ディスクに乗ることができればフワフワ浮かべて楽しそうなんですけどね』
ダイアンナ「フローティング・ディスクの上に脚立を乗せる。その脚立を自分が登って行けば、ディスクも自分の動きに合わせて上昇するので、どんどん高く登って行くことはできないだろうか?」
アスト「できるかも知れないな。DMさえ納得してくれれば」
リバT『その場合、難しいのは降りる手段ですね』
ダイアンナ「脚立にロープを結びつけて、ロープを伝って降りるなら何とかなると思うが。イザという時にはフェザーフォール(羽毛落下)の呪文で安全に着地することも可能」
アスト「残念ながら、クラシックD&Dにはフェザーフォールはないんだ。まあ、いい。こうやって思考実験を重ね、ブログ記事のネタとして楽しく語り合えただけでも、フローティング・ディスクの存在価値はあったってもんだぜ」
ダイアンナ「では、次は僧侶魔法と、できればエルフ魔法の話でもするかな」
(当記事 完)