3版D&Dからの発展
ダイアンナ「前回はダディーが3版の追加職業として登場したウォーロックについて、解説してくれたんだな」
NOVA「D&D基本の魔法ルールである回数制限制とは異なるタイプの妖術を使う、悪魔や暗黒のイメージの強いキャラだ。攻撃技の怪光線エルドリッチ・ブラストと妖術の組み合わせで、アクティブな半人半魔的な魔法使いとして投入されたが、それが4版の基本職として抜擢された」
アスト「4版ウォーロックの概要は、この記事だな」
NOVA「3版ウォーロックは、それまでの標準魔法使いのウィザードに比べて、汎用性に欠けるがタフで継戦能力の高い攻撃特化型の魔法使いと言えた。また、妖術という形でモンスターの特殊能力を身につけ、レベルが上がるとダメージ減少の防御力も備えるようになる。よって、前衛でもそれなりに暴れられる魔法使い像の構築も可能。それが4版では、いっそう引き立つことになった」
アスト「制御役のウィザードに対して、撃破役のウォーロックという立ち位置の指定もなされたわけだな」
NOVA「複数の敵にダメージを与えたり、かく乱するのがウィザードの仕事であるのに対し、ウォーロックは前衛で強力な呪文をぶつけて、単体相手に大ダメージを与える仕様。役どころは軽戦士のローグやレンジャーと同じと言えよう」
アスト「隠密行動に長けて、奇襲攻撃で一撃必殺の大技をぶつけるキャラだな」
NOVA「D&Dのシステム史で考えると、いわゆるD20システムを確立させた3版と、戦闘要素を中心に構築整理した4版と、戦闘よりもロールプレイ要素に力を注いで原点回帰かつ汎用性を高めた5版という流れになっている。だから、4版→5版と単純に考えにくいんだな」
アスト「5版は4版の発展型ではなくて、4版が切り捨てた3版までの要素を復刻して簡略化したシステムということだったか?」
NOVA「だからシステム的難易度は、3版が最も高く複雑で、そのピーキーさがパスファインダーに受け継がれた。一方、4版はD&D原初のダンジョン探索とバトル特化のボードゲーム風システムとして、過去のD&Dとは異なるゲーム性、世界観を構築した反面、汎用性に欠ける作品となった。その斬新な改編がファン離れにつながったので、5版はシステム難易度を下げて、3版以前の分かりやすさと80年代風の懐かしさ、ストーリー志向の高さを重視するようになったわけだ」
アスト「再来年の2024年がD&D50周年だが、6版に切り替わるのかね?」
NOVA「2年後のルールブックの新版発売は発表されているが、それが6版になるか、マイナーチェンジの5.5版と言うべきものになるかは未確定だな。公式発表では5版との互換性のあるシステムを予定しているとのことだが、それよりも問題は日本語展開がどういう形で為されるかだな。これまで3版から5版まで20年以上も日本語展開してきたホビージャパン社が今月の契約切れで、D&Dから撤退せざるを得なくなった状況で、新D&Dの展開を日本ではどこが推していくのかにファンの注目が集まっている段階だ」
アスト「ホビージャパン以外に、どこがD&Dを推すというんだ?」
NOVA「現在、カードゲームのマジック・ザ・ギャザリングを展開しているのは、ウィザード・オブ・ザ・コースト・ジャパンという本社直轄のローカル支社だが、そちらがD&Dの新邦訳を展開する可能性が噂されている。ただ、日本市場を本社が重視するかどうかに掛かっているので、どうなるかは現段階で未確定だが、とりあえず50周年版ルールが発売されないことには物事も動かないと考えている」
ダイアンナ「新版はともかく、5版までの流れを考えるのには支障ないな」
NOVA「ウォーロックという職業のみに注視するなら、3版のウォーロックが4版で基本職に抜擢されて、契約相手が悪魔、大妖精、クトゥルフ系邪神の3種類のヴァリエーションとして定着し、それが5版にも引き継がれている。大筋としては、ウォーロックという魔法職が一般化していく流れだな。伝統的なウィザードに対して、21世紀の新スタンダード術師として、この15年ほどの間に発達したわけだ」
ダイアンナ「では、5版ウォーロックの詳細を見ていくぞ」
呪文使いにして妖術使い
ダイアンナ「3版ウォーロックは呪文の代わりに妖術を使うキャラだったが、5版では呪文と妖術の両方を扱うようになっている。ウォーロックにはウォーロック専用の呪文体系が用意されていて、エルドリッチ・ブラストも初級呪文の一つになっている」
アスト「すると、怪光線にも回数制限があると?」
NOVA「いや、3版の0レベル呪文は最初から全て呪文書に記されているだけで、使用回数制限はあったが、5版の初級呪文(0レベル)は回数制限が撤廃され、無限回使用できるようになっている。無限回使用できる呪文の存在は4版から受け継がれた要素だ」
アスト「3版までは、呪文を使い果たした魔法使いは無力というイメージがあったが、4版以降は呪文を全て使い果たすことがなくなったわけか」
ダイアンナ「パグマイアのあたしのキャラ、ルビーも初級呪文のエレメンタル・レイは撃ち放題だったな」
アスト「なるほど、強い呪文には使用回数制限があるが、0レベルの初級または基礎呪文は何回だって使えるようにルールが改変されていた、と。これで魔法使いが呪文の節約のために何もしない、という局面はなくなって、呪文の節約のためなら0レベル呪文だけを連発すればいいゲームになったわけだ」
NOVA「魔法使いキャラが手持ち無沙汰……というつまらない局面が解消されたんだな。とりあえず、ウォーロックはいつでもどこでもエルドリッチ・ブラストを撃つことができる」
ダイアンナ「5版のエルドリッチ・ブラストは、レベルアップで同時に撃てる本数が増えるんだな。5レベルで2本の怪光線、11レベルで3本、17レベルで4本まで同時射撃が可能だ」
アスト「クラシックD&Dのマジックミサイルみたいなものか」
ダイアンナ「ただ、エルドリッチ・ブラスト以外の攻撃呪文も用意されていて、初級では接触死霊呪文のチル・タッチや毒噴射のポイズン・スプレーもあるし、仲間の攻撃を命中させやすくするトゥルー・ストライクで3版ではできなかった味方支援も可能と、できることの幅が広がった」
NOVA「ウィザードの初級呪文は16種類で、最初に3つ習得している。ウォーロックの初級呪文は9種類で最初に2つ習得、エルドリッチ・ブラスト以外は全てウィザードの使える呪文だな。逆に言えば、ウィザードが習得できる光(ライト)や、酸、電撃、火炎、氷系の攻撃呪文がウォーロックは使えないことになる」
アスト「元素系の技は、ウォーロックの呪文には含まれていないってことか」
NOVA「だから、D&D魔法使いの定番であるファイアーボールやマジックミサイル、ライトニング・ボルトなんかはウォーロック呪文に含まれていなくて、呪文リストを見ただけだと、ウォーロックの攻撃性は分からない形だな」
アスト「攻撃的な4版ウォーロックと比べても、呪文自体は地味になったわけか」
NOVA「あくまで、多彩なウィザード呪文の一部が使えるようになっただけだな。それを補うウォーロック独自の長所が妖術であり、契約相手の恩寵ということになる」
アスト「5版の妖術は何種類あるんだ?」
ダイアンナ「32種類だね。レベル2で2つの妖術を習得して、以降は2〜3レベルごとに習得数が増えて、最大8つまでの妖術が使えるようになる。最初から習得できる妖術はこんな感じだ」
・悪魔の目:暗視能力。
・運盗む五ツ星:呪文1つ分を『ベイン/破滅の予感』に置き換えて、敵3体を呪うデバフ効果を発動させる(攻撃判定やセーブにD4ペナルティー)。
・おぼろな幻:サイレントイメージ(音なき幻像)の呪文を回数無制限で使用可能。
・影の鎧:メイジアーマーを自分に対し、回数無制限で使用可能。
・感覚借用:接触した相手の感覚を、精神集中している間、共有可能。
・拒絶の怪光線:エルドリッチ・ブラストに10フィート(3メートル)の押し出し効果を付与。
・苦悶の怪光線:エルドリッチ・ブラストのダメージに魅力ボーナスを加算。
・獣の言葉:スピーク・ウィズ・アニマルズ(動物会話)の呪文を回数無制限で使用可能。
・巧言令色:説得とペテンの技能に習熟する。
・長距離怪光線:エルドリッチ・ブラストの射程を通常の120フィート(36メートル)から300フィート(90メートル)に延長。
・百面相:ディスガイズ・セルフ(変装)の呪文を回数無制限で使用可能。
・魔物の生命力:フォールスライフの呪文で1D4+4の擬似HPを得る。
・魔力を見る目:ディテクトマジックの呪文を回数無制限で使用可能。
・ルーンの守り人の目:あらゆる文字を読める。
アスト「とりあえず、14種類の技から選ぶことができるんだな。そして、レベルが上がれば、習得できる妖術の種類も増える、と」
NOVA「回数制限付きの呪文(初級呪文以外は最大4回)と、回数無制限の妖術を使いこなすのがウォーロックの役割だな。そして、呪文の使用回数はウィザードやソーサラー、バード、クレリック、ドルイドが最大22回に達するので、ウォーロックの呪文はやはりおまけ程度の扱いと言える。メインとなるのは結局、呪文と同一効果を回数無制限で行える妖術なんだろうな」
この世ならぬ契約相手と、契約の恩恵
ダイアンナ「そして、5版ウォーロックの特徴として、契約相手から得られる各種の恩恵が挙げられる。1レベル時点で、アーチフェイ(大妖精)とフィーンド(悪魔)、グレート・オールド・ワン(旧き神々)の3つから1つを選び、それぞれの恩恵を得ることができる。どの存在を契約相手に選ぶかで、ウォーロックのキャラ性も3通りに分かれるので、この契約は慎重に考えるべきだろうな」
NOVA「例えば、『妖精女王のティタニアに仕えしウォーロック』とか『悪魔メフィストフェレスと契約を交わしたウォーロック』、『イアイア・ハスターと唱えるウォーロック』などでキャラクターのロールプレイが全く異なるだろうしな。クレリックの信仰する神格と同様に、DMと要相談という形にもなる」
アスト「まあ、フォーゴトン・レルムにクトゥルフはいるのか? とか、外星人メフィラスに仕えるウォーロックというものをプレイヤーが勝手に考えた場合、DMはそれを面白いと認めるか、うちのワールドにメフィラスはいない、と却下するかは卓次第、と」
NOVA「仕える相手によって、習得可能な追加呪文も変わるからな。ウォーロックの呪文リストにファイヤーボールはないが、地獄のフィーンド契約だと火炎属性の呪文がリストに追加されるので、ファイヤーボールが習得可能になるわけだ」
ダイアンナ「妖精契約だと、スリープや感情操作系、幻惑系が追加されるな」
アスト「クトゥルフ関連だと?」
ダイアンナ「狂気系や触手、支配系の呪文が見られるな」
NOVA「あくまで追加の呪文リストは一般則であって、メフィストフェレスは炎よりも精神操作や交渉術に長けているから、そっち系の呪文が欲しいと主張すれば、DMと要相談ということになるが、『メフィストフェレス用の追加呪文リストを自分で作って来い、話はそれからだ』と自己主張の強いプレイヤーに、DMが要求するのもありだろう」
アスト「まあ、ルールの壁を乗り越えるような要望をするプレイヤーに対しては、『試しに、どんなルールやデータなら納得するのか』を確認した上で、互いの主張の妥結点をとことん話し合うのも交渉術だからな。一方的かつ理不尽な要望なら拒絶されて当然だし、好きなことを訴えるために自分側の責任のとり方、納得できる負担の分け方を話し合うのが、交渉ってものだろう」
NOVA「そして、そこまで話し合いに付き合うことにメリットや楽しさを期待できる相手かどうかは、交渉ごとの第一歩だな。相手が望む楽しさや未来像に、将来の可能性として受け入れてもいい余地があると考えられてこその妥結だろうし、結局のところ、楽しさやメリットという点で共感できない相手、話が噛み合わない相手とは、共に遊び、付き合う理由すら成立しないという」
ダイアンナ「ゲームでも契約相手を選ぶというのは、そこに何らかの魅力やメリットを感じるからだろうな。そして、それぞれの契約相手の詳細は後に回して、3レベルになったウォーロックは『契約の恩恵』という贈り物をもらえる。これも3種類あって、鎖、剣、書だ」
NOVA「俺がウォーロックなら、迷わず書の契約を選ぶな。『影の書』という魔道書を手に入れて、好きなクラスの初級呪文を3つ追加で取得できる。例えば、ウォーロックでありながら、明かりのライトや、クレリックの導き呪文ガイダンス(仲間の行動にD4ボーナス)、抵抗力アップのレジスタンスなんかを習得できる。さらに、妖術取得で『影の書』に記載できる呪文を増やすことができるので、呪文重視のウォーロックには必須アイテムだと思うな」
アスト「とりあえず、無制限で使える呪文が3つも増えるだけでも美味しいな。剣の契約だったら?」
ダイアンナ「魔法の武器を召喚できる。または冒険中に入手した武器を新たに契約武器にできる。妖術の『影の鎧』に身を固め、『魔物の生命力』でHPを補強し、積極的に前衛で戦うウォーロック向きの契約だ。剣の契約用の妖術で、レベル5で2回攻撃を可能にするものもあるし。複数回攻撃は戦士系の特権で術師系や盗賊系には認められていないが、剣の契約ウォーロックは戦士に準じる武器戦闘力を備えることが可能だと」
アスト「魔法戦士の方向性か。鎖の契約は?」
ダイアンナ「インプや小妖精などの使い魔を召喚できるんだな。使い魔の力を借りた妖術もある」
アスト「有能な使い魔だったらいいな。成長したらバイスみたいな相棒になるような」
NOVA「使い魔の多くは透明化能力を持っているので、隠密行動のできるスパイとしては非常に優秀だ。戦闘能力はたかが知れているが。ダンバインのチャム・ファウなんかが付いてくると思えば、ロールプレイが面白いことになりそうだ」
妖精との契約
ダイアンナ「では、ここから契約相手ごとの詳細を見てみよう。妖精契約をしたウォーロックは、1休憩につき1回、魅了または恐怖の効果を与える『フェイの威風』能力を得る。妖精の魅力がオーラとなって放たれるんだな」
アスト「ラブラブオーラか。そいつはいいな。オレも妖精と契約したくなった」
ダイアンナ「お前はあたしと契約しただろう?」
アスト「これが恐怖のオーラって奴か」
ダイアンナ「……(ただの冗談であって、本気じゃないと思おう)。それで6レベルになると『霧隠れ』の能力で、ダメージを受けた瞬間に、透明化と60フィート(18メートル)までの瞬間移動を行える」
アスト「それは凄いな。まるで忍者みたいだ」
ダイアンナ「10レベルになると『魅了返し』の能力で、魅了に対する完全耐性を得て、しかも魅了してきた相手を逆に魅了できるんだ」
アスト「自分に惚れさせようとした女の子の魅力に、自分がまいってしまうわけか。ラブコメだと、たまにある展開だな」
ダイアンナ「14レベルになると『昏き惑乱』の能力で、相手を幻の世界に引きずり込むことができる。最大1分間、相手は幻想世界に迷い込んだような気持ちになって、無力化してしまう」
アスト「魅了と何が違うんだ?」
ダイアンナ「『フェイの威風』は10フィートの距離で、1ターン(10秒)だけだな。一瞬、ぼうってなる程度だと思っていい。『魅了返し』はカウンター技だから、そもそも相手が魅了を仕掛けて来ないと返せない」
NOVA「そして『昏き惑乱』は60フィートの距離で、1分=6ターン有効だからな。見せる幻によっては、催眠術みたいな仕掛けを施すことも可能。その辺はプレイヤーとDMの融通次第だろう。10秒だけの魅了は一目惚れみたいなものだが(マンガでは1コマ程度、赤面する)、1分間の呪縛だと数ページに渡る仮想妄想が展開されることも演出によってはありだろう」
アスト「妖精契約ウォーロックは、精神攻撃が得意だと」
悪魔との契約
NOVA「悪魔の話は俺がしよう(ニヤニヤ)」
アスト「何をニヤニヤしてるんだ!?」
NOVA「いや、地獄の悪魔契約って楽しいぞう。まずは1レベルで『暗黒の祝福』能力を得て、自分が相手のHPを0にするたびに一時的HPを得る。相手の生命力を吸収して、自分が強くなるんだな」
アスト「正に悪魔だな」
NOVA「レベル6になると『暗黒の恩寵』能力で、自分の能力判定やセービングスローに+D10ボーナスを得られる」
アスト「信者には優しいんだな、悪魔って」
NOVA「ああ、願ったことを達成しやすくしてくれるのは親切かもしれんが、逆に言えば、後から恩を着せられる可能性もあるな。レベル10になると『魔物の抵抗力』で特定ダメージを半減する耐性を付与。レベル14になると『地獄送り』の能力を得て、相手を攻撃してヒットを与えると、瞬時に下方次元界に送り飛ばすことができる」
アスト「それって、一撃必殺ってことか!?」
NOVA「送り飛ばされた相手は、悪魔でない限り、恐ろしい経験をしてフラフラになって次のターンの終わりに再び帰ってくる。おそらく、こちらでは10秒ほどしか経っていないが、地獄では何時間も彷徨い続けていたのかも知れん。あまりに過酷な体験を見てきた恐怖に10D10の精神効果ダメージを負うという」
アスト「ダメージもさることながら、例えば前衛の壁戦士がいきなり地獄送りにされた場合、戻って来る前にパーティーの隊列が崩れて、酷いことになってないか?」
NOVA「1分間の魅了状態と、10秒間の地獄送りのどっちがキツいかなあ、と高レベルウォーロックの恐ろしさを思うと、楽しくなるなあ」
アスト「過酷な未来に送り飛ばされた身としては、他人事に思えんのだが」
NOVA「飛ばされたきり帰って来れない術と違って、帰って来れるだけマシという考え方もある。レベル14のキャラが戦う相手だから、HPもそれなりに豊富だろうし、10D10の期待値が55点だから、それ以上のHPがあれば即死は免れるかも」
アスト「しかし、そういう技を使うキャラは『一度、地獄を見てみるか?』が決めゼリフで、受けて生還したキャラは『地獄還りの○○』って二つ名で呼称されるんだろうな」
彼方の邪神との契約
NOVA「さて、次も俺が語るわけだが、こいつはあまり笑えないな。異質の狂気はいささか専門外というか、違うゲームだろうって気がしてな」
アスト「しかし、D&D5版のクトゥルフ対応ルールがホビージャパンから出るそうじゃないか」
NOVA「出るという話だけ聞いたが、続報がないので、今後のお知らせ待ちという状況だ。ともあれ、1レベルのクトゥルフ信者は『精神覚醒』の能力で、他の者とテレパシー的会話をすることができるようになる」
アスト「誰かの声が頭に入って来るってことか」
NOVA「まあ、よくあることだけどな。次にレベル6は『エントロピーの守り』だ。相手の攻撃に不利をつける呪いをかけ、相手が失敗すると自分の攻撃に有利がつく。誰かの不幸を自分の幸運に変える技だ」
アスト「相手がミスらなければ、無意味な技ってことか」
NOVA「意外と地味に思える効果だな。3版の同名妖術とは異なる効果だ。続いてレベル10だと『思考遮蔽』の能力を得るが、心を読まれるのを防ぎ、精神ダメージに対する抵抗を得る。そして、敵が自分に精神ダメージを及ぼしたら、それと同じダメージを相手に反射する。この技と、悪魔契約者の『地獄送り』がぶつかると面白いことが起こりそうだな」
悪魔崇拝者『地獄へ行け!』
邪神崇拝者『(1ターン後)ただいま。思ったよりつまらなかったぞ(ダメージ半減)。ほれ、地獄の光景をお前にも見せてやる』
悪魔崇拝者『ぐはっ、これが地獄だと!?(精神ダメージを返される)』
アスト「地獄の悪魔と混沌の邪神の崇拝者どうしの戦いってのは、恐ろしすぎないか?」
NOVA「そして邪神崇拝者のレベル14は『隷属者作成』の能力で、接触した無力な対象を魅了状態にして、自分と邪神の信者に洗脳することができる」
アスト「プレイヤーキャラの所業とは思えないな」
NOVA「どちらかと言えば、NPC用に指定した方がいい能力だよな。まあ、闇堕ちした堕天使の軍隊に所属して、地獄の戦場アヴェルヌスでヒャッハーと暴れまわることのできる公式シナリオもあるからな。環境さえ許せば、邪神崇拝者プレイも可能なんだろうな。話のネタとしては面白いが、これ、どうやってプレイしたらいいのかと悩む題材だ」
アスト「ウォーロックを扱うには、注意が必要だな」
NOVA「そういう倫理観の真っ当なプレイヤーに向けて、サプリメントには天上界の聖なる存在や天使なんかと契約したセレスチャル・ウォーロックや、影の世界の魔剣と契約したヘックスブレード・ウォーロックが用意されている」
アスト「悪魔や混沌神よりは、プレイヤーキャラとして扱いやすいかもな」
秘奥義
ダイアンナ「さて、契約の話はダディーがいろいろ語ってくれたが、最後に秘奥義の話をしよう。ウォーロック呪文はウィザードと同様に、最大レベル9呪文まであるんだが、普通に扱えるのはレベル5までで、レベル6以降は秘奥義と称され、通常呪文とは別枠に扱われる」
アスト「ええと、0レベル呪文は回数無制限だったな。他の呪文はどうなってる? 最大4回と聞いたが」
NOVA「これがウィザードなら、例えば中間の10レベル時点で、1レベル呪文4回、2レベル〜4レベルのそれぞれが3回、5レベル呪文が2回で全部で15回呪文が使える計算だ。ウォーロックの10レベルは2回しか使えない。レベルごとに2回ではなくて、1〜5レベルの習得呪文をまとめて2回しか使えないんだ。習得数は10個なんだが、その中で1日2回しか使えないんだな」
アスト「その時点での妖術は?」
NOVA「5つ習得できて、無制限に使える」
アスト「つまり、習得数は呪文が10で、妖術5つ。呪文の方がヴァリエーションがあるが、使用回数がごくごく制限されている、と。ウィザードは呪文に一元化されているけど、ウォーロックは異なるルールをいろいろ覚えないといけなくて、ややこしそうなことはよく分かった」
ダイアンナ「それでレベル6以上の秘奥義呪文の話なんだが、レベル11で6レベル秘奥義が、レベル13で7レベル秘奥義が、レベル15で8レベル秘奥義が、レベル17で最大の9レベル秘奥義が習得できる。ただし、秘奥義の習得数は各レベル1回で、使用回数も1日1回のみ。通常呪文とは別枠だな」
NOVA「秘奥義の数も含めると、最大20レベルに達したときに5レベルまでの通常呪文4回と、秘奥義4回で、8回の呪文を使える計算だ。さらに20レベルに達すると『呪文復活』の能力を得て、契約相手への1分間の祈りで呪文使用回数が回復するので、1日の呪文使用回数が倍増する計算だな」
アスト「使いこなすと、いろいろ使えて楽しそうなんだが、それぞれ異なるルールだから、初心者には大変そうだな」
NOVA「確かにそうだな。個人的には、5版の魔術師系はソーサラーが一番簡単で、ウィザードは伝統的な魔法使いだから昔からのD&D経験者には分かりやすく、ウォーロックが一番難解だと思っている」
アスト「ソーサラーがウィザードよりも簡単だって理由は?」
NOVA「選べる呪文の数が、要点を押さえつつ、ウィザードよりも少なめなのが1点。そして、ウィザードは毎日使う呪文を準備しておかないといけないけれど、ソーサラーは準備なしで好きな呪文を臨機応変に使える。まあ、ソーサラーは独自の能力『魔力点』を使った呪文修正能力が肝かもしれないけど、ソード・ワールドにおける戦闘特技《魔法拡大》みたいなものだから、ソード・ワールドからD&Dに鞍替えする場合は、ウィザードよりもソーサラーの方が馴染みやすいと思う」
アスト「ソーサラーの話は別の機会にしろ。今はウォーロックの秘奥義の話をアニーにさせろよ。詳しい人間が出しゃばって、初心者の研鑽を台無しにするようなマネをするな。マニアの悪い癖だ」
NOVA「そ、そうだな。ううっ、ゴメンよ、ダイアンナ。さあ、続きをどうぞ」
ダイアンナ「続き……って言われてもな。秘奥義は各レベル1つしか習得できず、1度しか使えない。何を習得するかで非常に迷わないか?」
NOVA「まあ、レベル11までプレイしていたら、キャラクターのイメージやパーティー内での役割も固まっていると思うから、後から悩めばいいだけの話だけどな」
アスト「とりあえず、6レベルの秘奥義にはどんな物があるんだ? それが分からないと、話を聞いてる方もさっぱりだ」
ダイアンナ「ああ、6レベルだと、次の8つから1つを選ぶ」
・アーケイン・ゲート:転移門を作って瞬間移動する。移動距離は500フィート(150メートル)まで。
・アイバイト:魔眼の術。見つめた相手を眠らせたり、恐怖状態にしたり、不調状態にする。
・カンジャー・フェイ:妖精召喚。
・クリエイト・アンデッド:アンデッド創造。
・サークル・オブ・デス:死霊ダメージを与える範囲攻撃呪文。
・トゥルー・シーイング:全ての幻や偽りを見抜く真実の目。
・フレッシュ・トゥ・ストーン:石化呪文。
・マス・サジェスチョン:12体までの集団に提案の形で、行動を促す。自殺的な命令は拒まれるが、合理的あるいは善意的な言葉を装うことで集団催眠にかけられる。
アスト「戦闘で役立つなら、サークル・オブ・デスか石化呪文が強力そうだな。死人使いに憧れるならアンデッド創造だろうが、仲間にはあまりいて欲しくないな。それよりも妖精召喚がいいだろう。プレイヤーが話術に自信ありとか、交渉キャラをプレイしたいならマス・サジェスチョンが美味しくて、他はどうだろうな。仲間に何ができるかとか、自分がそれまでに何の呪文や妖術を覚えているかにもよるから、結局のところは実際のプレイで決まって来るもんじゃないか?」
NOVA「そうだな。キャンペーンの物語で、幻を操る敵がレギュラー悪として登場するならトゥルー・シーイングが有効だろうし、それぞれの呪文が有効な局面を考えることはできても、実際にそういう局面が訪れるか、あるいは自分で局面を作ることができるかも含めて、考える材料は多い。その上で、自分のキャラ立てとして、どういう呪文を使えるかを考えるのは楽しそうだ」
アスト「それで結局、ウォーロックの最強の呪文は何かね? クラシックD&Dなら、メテオスォーム(流星雨)という象徴的な大技があったが」
NOVA「そうだな。HP100以下の1体を即死させるパワーワード・キルは強力だが、殺すだけなら呪文じゃなくても可能だし、それよりも恐ろしいのはインプリズンメント(幽閉)の呪文だと思うな。相手を次元牢獄に封じ込めたり、永遠の眠り(死の意味ではない)に陥れたり、宝石の中に封じ込めたり、いろいろな封印ヴァリエーションが呪文説明に記されているが、解呪されるまで永遠に封じられたままというのは恐ろしくもあり、物語的に面白くもある。D&Dの場合、死んでも復活できる呪文はあるので、単純な死よりも『異世界に封印されて帰って来れない』方がストーリー的インパクトは強いと思うなあ」
アスト「確かに、どこか分からない未来に放逐されるとか、永遠の監獄なんてものに封じられるのは、精神的にもトラウマになりそうだ」
NOVA「ファンタジー世界のラスボスって、大抵『長年の封じ込められた恨み』がどうこう言って、関係ない今の時代の世界を滅ぼそうと八つ当たりして来るもんなあ。言わば、封印系の魔法って『未来のラスボス製造呪文』だと考えると、それだけでも恐ろしいと思うんだ」
ダイアンナ「封印された邪神の解放とか、ウォーロックにとっては定番って感じのエピソードってことか」
(当記事 完)