そろそろ終盤
アスト「パラグラフ374番。先の見えない長いダンジョンに神経が参り始めた頃合いだな」
ダイアンナ「とは言え、『火吹山の魔法使い』や『死の罠の地下迷宮』ほどの長さはないはずだろう?」
アスト「まあ、全編ダンジョンのゲームブックと比べると、物理的な長さはないはずなんだがな。それでもダンジョン探索に妙な疲弊感を覚えるのは、何だろうな」
リバT『ダンジョンの地形に変化が足りないからじゃないでしょうか? FFダンジョン名物に、地底を流れる川というのがありまして、川を渡ることで、そろそろ物語が切り替わったと感じさせてくれます。しかし、本作のダンジョンは地形のメリハリが感じられませんし、分岐も少ない一本道ですから、延々と進み続けている感が強し』
アスト「なるほどな。あと、やはり文章の記述からして、『無限に伸びているような通路』とか、『どこにも出口はなさそう』とか、広大さを煽るような記述が目立つ。前回の『数キロもあるかと思える曲がりくねった通路』という表現(パラグラフ252)だけで、予想よりも広いダンジョンと分かるしな。こういう記述をされると、丁寧にマッピングしても仕方ないと思えて来るし、地形ではなくてイベントの順番だけを記載した簡易マッピングという形になる」
ダイアンナ「マッピングの妙によって、ダンジョンの構造を知る展開も、ダンジョン冒険の醍醐味だと思うけど、そういう楽しみ方は本作ではないんだよね」
アスト「そうそう。2つに分かれた通路が合流して、ああ、こういう風に道がつながっているのかあ、とか地図が出来上がる満足感というのが、今作ではあまりない。一つ一つのイベントは凝っていて、なかなか楽しいんだけど、全体構造としてのダンジョンにメリハリがないのが欠点といえば欠点か」
リバT『それでもゴールは近いです。パラグラフ374番は天井の見えない巨大洞窟にシーンが切り替わりますが、どこに向かえばいいのか途方に暮れたところ、天井から体長1メートル半ほどの巨大蜘蛛が落ちて来ます。技術判定を行なって下さい』
アスト「6で成功」
リバT『失敗すれば、奇襲攻撃で1点ダメージを受けて、蜘蛛に拘束されて、脱出するまでの1ラウンドはダメージを与えられないというハンデを受けたのに』
アスト「蜘蛛の抱擁なんてゴメンこうむる。普通にバトルを挑むぜ」
巨大蜘蛛の襲撃
リバT『大グモの技術点は7、体力点は8。ダメージを受けたら、特殊イベントが発生します』
アスト「2ラウンドめに危うく喰らいかけたけどな。魔剣の連続攻撃ボーナス+1で、かろうじて引き分けにしのげて、ノーダメージだ」
リバT『チッ、大グモの毒牙が突き刺さると、追加ダメージをさらに2点受けたうえで、2Dで体力判定。それに失敗すれば、体が麻痺してバッドエンド。成功しても技術点1点の減少に見舞われるところでしたのに』
アスト「イヤらしすぎるだろう、大グモ。そんな目にあわなくて良かったぜ」
リバT『大グモを撃退した後、ピートさんはこの洞窟には結局、先へ通じる出口がないことを発見しました。隠し通路もドアもありません』
アスト「どうしろってんだ?」
リバT『最後の手段は、大グモの降りて来た天井へ登ってみることです。〈壁登り〉をして下さい』
アスト「ロープがなければ詰んでいたな」
リバT『その場合は運だめしを行なって、成功するとクモが糸を張っていたので、その糸を使って登ることができますよ。運だめしに失敗すると、糸が張っていなくて出口の見つからないままゲームオーバーですが』
アスト「クモの糸なんかに生死を委ねなくて良かったぜ。ロープで天井まで登る」
リバT『天井に向かう途中で、クモの巣が張ってありまして、糸に巻かれた人間大の塊がいくつかぶら下がっています。調べますか?』
アスト「まだ生きているなら助けてやりたいが?」
リバT『粘着質の糸に絡みつかれないようにするために技術判定を行なって下さい。〈感知〉があれば、出目を2減らせます』
アスト「だったら、失敗はないな。安心して振るぜ。うむ、10で成功」
リバT『失敗していれば、糸に絡みつかれて、もう一イベントあったのに。脱出に失敗してゲームオーバーの可能性もあったのに、残念です』
アスト「いや、残念なのはゲームオーバーした場合だろ。ここまで来て、そういう終わり方をしたら、目も当てられん。さすがの読者も、このタイミングでピートがそんなつまらない死に方をするのは望んでいないはず」
リバT『とにかく、危険を冒して、クモに囚われた人間を助けようとしたピートさんですが、すでに飢え死にした死体となってますね。肉は新鮮ですが、餌にしてみますか?』
アスト「何てことを言うんだ? お前は人でなしのモンスターか!? ……ってアシモンだから、モンスターだったな」
リバT『最近の特撮界隈では、人間を素材にした闇菓子というのが流行っているそうで』
アスト「さしづめ、犠牲になった人間は大グモの闇菓子ってところか。とにかく生存者がいないことを確認して、気分が悪くなる」
リバT『そんなピートさんに朗報です。死体の背負っていたバックパックから、闇菓子でない普通の食料が2食分ゲットできますよ』
アスト「食料を持っていても、麻痺した体じゃ食べることもできずに飢え死にしたんだな。そんな曰くありきの食料を持って行くのも気が引けるが、保存食に罪はない。食料2食を補充して、先へ進むぜ」
リバT『天井まで到達すると、そこからまた通路が始まっているのを見つけました』
アスト「本当に、この道で合ってるのかね。〈バジリスクの瞳〉はもっと簡単に見つかるところに隠してあって、それが盲点になっていて気付かないまま、全然関係ない洞窟を延々とさ迷い続けているような気がして来た。これがゲームブックじゃなければ、こんな不確かで道なき道を突き進む探検なんて、やってられねえと思うだろうな」
道なき道を乗り越えて
リバT『パラグラフ341番。今度の通路は、歩いているうちに空気がだんだん湿っぽくなって来て、壁がだんだん黄色いカビに覆われて行く感じですね』
アスト「ゲッ、黄色いカビかよ。D&D的には、イエローモールドという単語が思い浮かんで、非常に警戒信号を発するんだが」
ダイアンナ「何だ、それは?」
アスト「致死性の胞子を放つ黄色いカビだ。触れると死にそうになるので、松明の火で焼き払うしか手のないトラップモンスターだな」
リバT『今の版には登場しないというか、モンスター扱いではないような気がします。それでは〈感知〉をお願いしますね。〈感知〉がなければ、運だめしで成功する必要があります。失敗すれば、先に進む道が見つからずにゲームオーバーです』
アスト「本当に、〈感知〉様さまだな。何が見つかった?」
リバT『分厚いカビの下に、ドアの取っ手の一部が見えますね。〈すり〉技能があれば、そっと取っ手を操作して、無事に開くことができます』
アスト「それは幸いだ。念のため、なければ?」
リバT『カビを燃やすという選択肢と、鼻と口を塞いでドアに強引に突っ込むという選択肢がありますね。いずれにせよ、技術判定に失敗すれば、毒の胞子を吸い込んでしまい、バッドエンドですが』
アスト「〈すり〉技能があれば、無条件でクリア可能。技能がなければ、要技術判定ってところか」
リバT『まあ、技術点が12なら判定に失敗しないので、技能のありなしが関係ないのですけどね。本作を楽しむには、技術点11以下が多少なりともスリルを感じられていいでしょう』
アスト「とにかく、毒胞子を発動させることなく、器用な指先と手早い操作で扉をスッと開いて、中にサッと飛び込む」
ダイアンナ「まるでベテラン盗賊みたいな振る舞いじゃないか」
アスト「当然だ。忍べないだけで、それ以外は完璧な盗賊だからな」
リバT『では、パラグラフ69番に到達しました。ここからは迷路区画です』
アスト「地図ならあるぜ」
リバT『チッ。なければ、運だめし失敗でバッドエンドになる可能性があったものを』
アスト「運だめしに成功すればいいだけの話だが、それでも運任せにせずに、確実なアイテムゲットで、備えあれば嬉しいなってところだな」
リバT『それでは、まもなく大詰めのパラグラフ178番。宝箱のある小部屋で、部屋の奥には扉あり。そして宝箱の両側には、水晶の戦士が1体ずつ立っています』
ダイアンナ「水晶の戦士か。確か『雪の魔女の洞窟』にもいたね」
アスト「『奈落の帝王』にもいたと思う。今年になって、3度めの遭遇だ」
水晶の戦士との戦い
リバT『では、本作のほぼラスボスとも言える水晶の戦士ですが、能力値は技術点10、体力点13なんですね』
アスト「ボスにしては、それほど強くない仕様だが、こいつの最大の能力は刃のある武器(主に剣)が通じないことなんだよな。だから、鈍器みたいなものを持っているかどうかが勝負の鍵となる」
ダイアンナ「ハンマーの出番だね」
アスト「ハンマーなんてねえよ。代わりに斧だ」
リバT『斧がない場合は、剣の柄を鈍器代わりにすることができます。その場合、技術点を2点減らしてのバトルですね』
アスト「盗賊が斧を使うのはどうかと思うが、ここはスロムになった気分で、斧に頼ろう」
リバT『斧といえば、ゲッターロボというのがスパロボの定番ですが*1、最近の真ゲッターのトマホークは斧というよりも死神の鎌みたいなデザインですからね』
ダイアンナ「ゲッターの話は置いておいて、バトルに専念するんだ」
強敵、クリスタルの戦士……といえば、ファイナルの方のファンタジーっぽく聞こえますが、本作はファイティングのファンタジー。やはり、戦ってこそ華ってもの。
盗賊と言えども、斧持って戦う姿は、おなじみの冒険者然とした勇姿。
8点のダメージを受けたりするものの、運だめし2回を繰り出して、何とか競り勝ったピートでした(残り体力点9、残り運点8)。
アスト「はあはあ、何とか勝ったが、もう1体いるんだよな」
リバT『もう1体は動かないですね』
アスト「食料を食べてもいいかな」
リバT『1食だけなら』
アスト「これで体力点13で、食料は11食。本当はもう1食ぐらい食べたいが、一度に食べられるのは1食縛りだからな」
リバT『一応、1つのイベントシーンが終わったタイミングで食べられることにします。部屋を移動したときとかですね。それより、宝箱を開けてみませんか? 〈錠破り〉で開けられますよ』
アスト「もう1体の水晶戦士が怖いんだが、開けてみる」
リバT『フフフ、引っ掛かりましたね。あなたは罠を調べると言わなかった。鍵を開けた途端、電撃の罠が発動して4点ダメージです』
ダイアンナ「より、臨場感を高めるために、あたしが電撃を放ってもいいかな?」
アスト「よくねえよ(怯)。キャラの痛みをプレイヤーが味わうようなイジメはやめてくれ。妻によるDVが大目に見られる社会は間違っている。女尊男卑が続くと、男性が女性を助けることへの疑問が発生し、男女間の対立が悪化するというのが昨今のネット界隈らしい」
リバT『まあ、女性が攻撃的になり過ぎると、それはそれで男性がドン引きして、可愛さが激減して、女の方もモテなくなりますからね。電撃刑は、セクハラ発言が発生したときの罰ゲーム専用のネタにしないと、ツンデレから可愛さが失われて、ただの凶暴女キャラで人気が失墜することになり兼ねません』
ダイアンナ「うむ。男への理不尽なストレス解消攻撃は、女性自身の評価をも傷つけるってことか。なら、ここはこう振る舞うべきだな。大丈夫か、アスト。ここまで来て、キャラが死んでしまうと読者が嘆き悲しむ。さあ、しっかり食料を食べて、体力を回復するんだ」
アスト「あ、ああ。宝箱の罠にハマったことで、シーンが切り替わったと解釈するぞ。食料を消費して、体力点13に戻す。残り食料は10食だ」
リバT『では、アストさん、いえ、ピートさんにはご褒美の黒曜石の円盤を差し上げます。宝箱の中に入ってました。アイテムを取ってください』
アスト「ちょっと待て。〈感知〉ぐらいさせろ」
リバT『チッ。今度は引っ掛かりませんでしたか。黒曜石の円盤からは銀色のワイヤーが伸びていて、水晶の戦士に連動していることに気づきました』
アスト「つまり、うかつに円盤を取っていたら、水晶の戦士ともう一戦しないといけなかったんだな」
リバT『いいえ。即死です。黒曜石の円盤に集中しているピートさんに、不意に動き出した水晶の戦士が頭上から剣を突き刺すバッドエンド』
アスト「酷いな」
リバT『それを避けるには、〈感知〉で罠に気づくか、それとも〈すり〉で仕掛けを動かさずに円盤をかすめ取るかのどちらかです』
ダイアンナ「つまり、〈感知〉か〈すり〉が絶対に必要ってことだね」
リバT『〈感知〉でトラップに気づいていれば、〈すり〉がなくても能動的にワイヤーを切断することが可能ですが、その場合は即死ではなく、水晶戦士ともう1戦を行うことになります』
アスト「結局、〈すり〉があれば、戦いを避けられるってことか」
リバT『ええ。〈すり〉技能を使うことで、円盤とワイヤーを適切に引き離すことができて、水晶戦士を起動させずに、円盤をゲットできました』
バジリスクの瞳
リバT『さて、いよいよ最後の部屋です。パラグラフ316番。ドアを抜けた先の小部屋の真ん中に、黒い石でできた台座があり、その上に巨大な黄色い石が載せてあります』
ダイアンナ「なるほど。確かに表紙絵の赤じゃなくて、黄色だな。喜んで手を伸ばすぞ」
アスト「こらこら。勝手にオレのピートを操作するな。罠があったらどうするんだ?」
ダイアンナ「その時は、アストが嘆き悲しむな。あたしは痛くも痒くもない」
アスト「だから、そういう本音を遠慮なく発言して、自分の気分が一時的に良くなっても、リアルだと人間関係を壊すだけだ。本音を言ってスッキリするのは、フィクションのキャラだったら共感を呼ぶけれど、リアルだと所詮は品性を捨てた暴言でしかないわけで、品性と理性を捨てた本能むき出しな発言は知性とは言うまい。本音が正論で万人に受け入れられるとは思わない方がいい。あくまで、ネタとしてウケているのと、リアルで共感しているのとは別物だろう」
リバT『まあ、一時的なスッキリのために、相手の尊厳を破壊した暴言を日頃から口にしながら、それでいて相手に自分の気持ちが分かってもらえないと被害者意識に駆られるのが、一部のSNS界隈と言えましょうか』
アスト「まあ、ギャグや芸だと割り切って、ネタと分かって暴言を口にするんだったら、まだマシなんだけどな。本音で暴言を口にしているなら、あまりにイタい。とにかく、相手の嘆き悲しみに接して、自分はそれを見ながら何の痛惜も感じず、むしろ喜んで楽しむ姿を示すことを、世間ではサイコパスという。他人の痛みに共感できない、しようともしない態度は、強くも見えるが、身勝手すぎて信頼は得られそうにないな」
ダイアンナ「だったら、どうしろって言うんだ?」
アスト「とりあえず、キャラを勝手に動かさないでくれ。ここは慎重に振る舞うべきところだろう。まずは、シーンが変わったので、飯を食う(体力点17、残り食料9食)」
ダイアンナ「さっきから食べてばかりだな」
アスト「終盤で体力がいっぱい削られたんだから、当然だろう。で、宝石の周りをよくよく観察する」
リバT『天井から一筋の光が漏れていて、宝石の上に降り注いでいます』
アスト「セーブして、宝石をとると?」
リバT『光に触れた途端、全身が燃え上がって死にます』
アスト「ほらな。無警戒に突入すると、最後の最後でバッドエンドを迎えるところだ。大体、何のために円盤を入手したと思うんだ?」
ダイアンナ「光を遮るためか?」
アスト「そういうことだ。光が危険だと察したピートは、黒曜石の円盤で光を遮ろうとする」
リバT『それが正解です……が、最後の最後で技術判定を行ってください』
アスト「これで6ゾロを出してしまえば、どんなに慎重に振る舞っても、天運に見放されたことになるんだな。(コロコロ)」
アスト「ふう、一天地六で出目は7。これで無事に致命的な光を遮って、宝石〈バジリスクの瞳〉をゲットだぜ!」
リバT『しかし、よくよく見ると、その大粒の宝石は粗雑な作りのガラス玉でした』
ダイアンナ「何だと!? ここまで苦労して、入手した宝石が偽物だというのか? あたしのこれまでの苦労は一体……(ワナワナ)」
アスト「って、おいおい、アニー。苦労したのはプレイヤーのオレと、キャラのピートであって、お前は何の苦労もしていないじゃないか」
ダイアンナ「さっき、他人の痛みに共感しろって言ってなかったか? だから、ピートの悔しさを我がことのように受け止めて、いっしょに悔しがっているんだ。そこを批判されても困る」
アスト「う〜ん、共感せずに他人をいたずらに傷つけるのも問題だが、過剰に共感しすぎるのも問題だな。まあ、フィクション界隈だと、キャラの心情に共感する人間の方がファンとして好ましいのも事実だが、当の本人を差し置いて、勝手に悔しがられるのもなあ」
ダイアンナ「しかし、あたしがピートの立場なら、せっかく試練を切り抜けてゲットした宝石が偽物だったと知ったら、あたしを騙した奴らを殺しても飽き足らないと思うぞ。宝石の恨みは何よりも恐ろしいことを奴らにも知らしめてやらないとな」
リバT『それでは、クイーンの怒りを冷まさせるためにも、最終パラグラフの400番に進みます』
〈バジリスクの瞳〉の小部屋
↑
水晶戦士と宝箱の部屋
↑
黄色いカビの通路→迷路区画
↑
大グモの縦穴(374)
試験の終わり
偽物の宝石をピートが呆然と眺めていると、部屋の向こう側に隠されていたドアがとつぜん開いた。
そしてギルドの幹部を引き連れたマスターシーフのラニックが、笑みを浮かべながら歩み出てきた。
ラニック『その通り、〈バジリスクの瞳〉は偽物だ。それどころか、今夜の仕事もすべて作り事だったのだ』
ピート『なるほど。薄々そんなことだと思ってましたよ。この試験が、何もかも仕組まれていたっぽいことはね。だけど、この宝石が最後の最後で、こんなチャチなガラス玉とは。せめて、もっと一流の工芸師に造形させませんかね。それとも我らがギルドは予算不足なんですか?』
ラニック『言うではないか、若造。だが、確かにそうだな。お前の才能を見くびった細工師はこう言ったのだ。「どうせ最後までたどり着くような奴はいませんって。だったら、最後のお宝は手を抜いても問題ないでしょう」ってな。どう思う?』
ピート『そういう手の抜き方をする職人は、到底、一流とは言えませんね。ギルドに恥をかかせた罪で処刑するのが妥当か、と』
ラニック『なるほど。それがギルドの幹部として、お前の最初の決断ということか。ならば、その始末はお前に任せる。好きにするといい』
ピート『って、本当にオレがやっちゃっていいのですか? 本気で言ったんじゃありませんよ』
ラニック『本気にせよ、冗談にせよ、今夜の試験に合格したお前は、これから責任ある立場となったのだ。この私の直属の部下として、重要な仕事を任せることもあるだろう。それだけの才覚と機転、天運、そして不撓不屈の精神を示したのだからな』
ピート「すると、オレはギルドの正式なメンバーになれるんですね」
ラニック『何か勘違いしていないか? お前は徒弟として活動を始めたときから、ギルドの正式なメンバーとして認められている。今夜の試験は、幹部昇格のためのものであることは周知の事実……って聞かされていなかったのか?』
ピート「幹部? そんなの聞いてませんって」
ラニック『ならば今、言った。お前は叔父の偉業に恥じぬ手腕をもって、叔父の後を継ぐ資格があることを証明してみせた。年若いお前のことを妬む者が、もしかすると伝えるべき情報に細工をしたのかもしれんな。そういう不正行為こそ処罰せねばならんようだ。とにかく、若き徒弟ピートよ。お前はこのラニックの直属の従者として、召し抱えることにする。今後とも修練に励み、持てる才覚を我がギルドのために発揮することを期待しているぞ』
こうして、一人の若き見習い盗賊が、ブラックサンドの盗賊ギルドの重鎮幹部に抜擢されることとなった。
後にピートは、有名な英雄リサ・パンツァの盗賊時代の先輩教師〈不忍(しのばず)のピート〉として知られるようにもなるが、それはまた別の物語である。
(当記事 完)