ワイルドメイド・カニ子の幽霊回想
カニ子「地獄の館ケルナー邸にて、チーズを食べたワタシは意識を失い、気がつくと173番パラグラフに囚われていたのでごわすのじゃ」
アスト「その『ごわすのじゃ』はやめろ、萌えが褪める……とは繰り返し言っているのだがな」
ダイアンナ「カニコングに萌えヒロインを演らせようというのが、そもそもの間違いだったのかもしれない」
リバT『まあまあ、何事も経験、試行錯誤と言いますし、続けていれば段々板について来るかもしれません。最初は違和感ありまくりだったのが、ふとした仕草やセリフ、シチュエーションで意外な可愛さを発見し、そのまま萌え街道に落ちる可能性も……』
アスト「それこそ正に地獄道だと思うな」
カニ子「地獄を楽しみな、のエターナルでごわす。ともあれ、173番パラグラフでワタシ、ワイルドメイドなカニ子は両手両足を縛られていた。一体これは何のプレイ? と訝しく思いながらも、囚われた部屋に人がいないのが分かって、脱出作戦を練るでごわす。窓の近くに行って、ガラスを叩き割り、その破片で縛めを切ろうと思いつき、運だめしに挑戦。成功したので怪我することなく、手足が自由になったでごわすのじゃ。まあ、失敗しても体力2点のダメージだけで、意外と簡単に脱出できるのじゃが」
リバT『パラグラフの数だと、寝室の〈エラスムス〉の間スタートよりも、こちらの方がスムーズに部屋から脱出→館の探索に移れますね。部屋には鍵も掛かっていないので、抜け出すことも容易ですし』
カニ子「部屋を出ると、2階の張り出し廊下に面していて、手すり越しに1階の玄関ホールが見える構造でごわすのじゃ。廊下は左右に通じ、左手は角にドアが2つ見え、そこから右に折れている。右手はドアを1つ過ぎてから、左に折れている。ここは分かりやすいドア1つの方を先に探索しようと思って、右へ進むことにしたのじゃ」
ダイアンナ「いよいよダンジョン探索っぽくなって来たじゃないか。それでこそFFゲームブックって感じだね」
アザツェルの間
カニ子「囚われた部屋から出て、右手側にあった扉には〈アザツェル〉という表札がある。アザツェルって何でごわすか?」
リバT『ユダヤ神話に登場する堕天使アザゼル(Azazel)のことですね。ネット検索してみると、アザツェルという表記は当ゲームブックのみで一般的ではないようですが、訳者の安田社長は86年当時、あまり天使学には詳しくなかったのかと思われます。新訳でもアザツェル表記をそのまま用いている辺り、この呼称にこだわりはあるのでしょうが』
カニ子「部屋に入ると、そこは科学実験室みたいでごわすな。望遠鏡とか、壁に留められた図表、数式表、それに骸骨の標本やら、木の台机に乗せられたガラスの試験器具など。さらに詳しく調べると、ネズミのキーキー鳴く声にビクッとしながらも、机の引き出しに短剣として使えるペーパーナイフを発見。これで武器をゲットしたので、技術点マイナス3のペナルティーが解消されたのでごわす」
アスト「技術点11で戦えるなら、安心できるな」
カニ子「武器さえあれば、ワイルドメイドの本領発揮でごわすよ。それはそうと、武器入手以外の選択肢として、ガラス瓶の液体と戸棚を調べることができるでごわすが、戸棚の中には死体が2つ入っていて、恐怖点2になるので勧められない。液体は緑、赤、無色、黄色の4色あって、試しに飲むこともできる」
アスト「普通は、科学実験室にある液体を飲みたいとは思わないだろう」
カニ子「そうでごわすな。まあ、一応、攻略記事としては、飲んだ結果を書き記しておくのも一興なので、紹介しておくでごわすが」
・緑の薬:効果なし
・赤の薬:即死毒。ゲームオーバー。
・無色の薬:衰弱毒。技術点1、体力点3減少。
・黄色の薬:治癒促進薬。2回のダメージを無効化。
ダイアンナ「当たりは1つだけかい。即死毒のことも考えると、リスクが大きすぎるね」
カニ子「結局は、武器ゲットの恩恵が大きいので、他の選択肢を選ぶ気にはなれないでごわすのじゃ」
エラスムスとアポリヨンの間
カニ子「アザツェルの間の探索を終えると、何やら2人組が歩いて来て、自分が進んで来た方向に話し声が消えるのが聞きとれた。ここで自分が左右どちらから来たかによって選択肢が分かれて、解釈が少々ややこしいと感じたが、文章の記述から左から来た(229)が正解だと思う。右から来た(26)だと、最初の部屋(メフィストの間)にもう一度、入ることになってしまうから、矛盾が生じるでごわすからのう」
アスト「最初の部屋の右手に向かったのだから、文章どおりだと左から来たので間違いないだろうが、ドアを開けて部屋に入る際に左右の向きが逆になるから、解釈違いが起こるということだな」
カニ子「東西という記述なら間違いようがないのでごわすが、左右は自分がどちらを向いているかで見方が変わるでごわすからな。ともあれ、ここは173番から来た場合、229番に向かうのが正解と考えるのじゃ。229番は〈エラスムス〉と表札が記されてある」
ダイアンナ「寝室の名前だね」
リバT『エラスムス自身は宗教改革期のカトリック司祭にして神学者。「愚神礼賛」などの著書で教会に対する風刺を示すことはあっても、ルターの教皇批判に対しては反対し、プロテスタントに味方することはなかった人物です』
アスト「組織の内から問題提起を示しつつも、キリスト教の分裂までは意図せず、望みもしなかったわけだな」
カニ子「ともあれ、173番からはエラスムスの間に入ることができないでごわすのじゃ。厳重に鍵が掛けられているからのう。仕方ないので、さらに廊下を進むと、突き当たりで花嫁衣裳に身を包んだ美女の幽霊に遭遇する。恐怖点が1増えた。ここでヒッとくぐもった悲鳴を漏らすのが萌え要素でごわすな」
アスト「ごわすの時点で、萌えが雲散霧消するから無意味だ」
カニ子「う〜む。萌えとごわすを両立させるには、どうすればいいものやら」
ダイアンナ「萌えもごわすもどうでもいいから、美女幽霊の話を聞こうじゃないか」
美女幽霊『ああ、やっとあなたを見つけることができたわ。すぐに聞いてもらいたいことがあるの。さあ、部屋に来てちょうだい』
カニ子「美女のお誘いとあらば、このカニ子、百合の花咲くことを期待しつつ、部屋に入るでごわす」
アスト「お前は何を期待しているんだ?」
リバT『なお、幽霊の誘いに乗らなければ、技術点10、体力点4の透明妖怪の襲撃を受けて、恐怖点がさらに1点加算されますね。誘いに乗ることを推奨します』
アスト「誘いに乗らない場合のペナルティーが大きいなら、誘いに乗らざるを得ないか」
カニ子「誘われた突き当たりの部屋は、アポリヨンの間でごわすのじゃ。アポリヨンとは?」
リバT『ギリシャ神話の太陽神アポロンが、キリスト教の世界観では凋落して奈落の破壊神と化した者みたいですね。また、蝗の化身アバドンと同一視されることもあるとか。本作では、アポリヨンとアバドンは別扱いですが、女性の寝室で重要な情報が与えられるという共通点があります』
カニ子「うむ、アポリヨンの間の女幽霊の話は心して聞くように」
美女幽霊『この館の主人はドラマーの伯爵ケルナーと言いますが、別名を〈夜の黒僧〉ともいう邪悪な存在です。おそらくあなたも地獄の悪魔の生け贄にされるでしょう。彼らは今日、たまたまここを訪れたこの地の美しい乙女を捕らえ、今晩、生け贄にするつもりです。こんなことは止めないといけません。それを止めるためには、クリス・ナイフを見つけることです。それだけがケルナーの弱点です。たぶんナイフは……』
カニ子「しかし、幽霊は最後まで伝えることができなかったのじゃ。巨大な2頭の幻の番犬グレートデンの襲撃を受け、その霊体は無惨に噛み千切られ、スーッと消失してしまったでごわす」
ダイアンナ「助けることはできなかったのかい?」
カニ子「そうしたいのはやまやまでごわしたが、魔力や霊力を持たない生身のメイドでは、いかにワイルドであっても、亡霊の世界には関与できなかったでごわす。同じ幽霊と化した今なら、ワイルドゴーストパワーで犬にも負けない霊力を発揮できたものを」
アスト「幽霊や悪魔を倒すには、霊刃クリス・ナイフが必要なんだな」
カニ子「幻犬とともに消失した美女幽霊の無念を晴らすために、屋敷の捜索を続けるか、それとも恐怖に怯えて一目散に1階に向かい、玄関ホールから入り口ドアを開けて外へ飛び出すか、の選択肢が与えられるでごわすが……」
アスト「そう簡単には逃げ出せまい」
カニ子「ああ。玄関口には山羊頭の血まみれ悪魔が立ちはだかっていて、恐怖点3のショックをもたらして来る。正面玄関からは出られないので、慌てて引き返して1階の探索を続けることになるが、2階の探索が不十分なままに1階に降りても、脱出はできないのでごわすのじゃ」
アスト「だったら、ここは慌てず騒がず、2階の探索を続けるべきだな(パラグラフ257)」
メフィストとバルサスとディアボラスの間
カニ子「アポリヨンの間は張り出し廊下の突き当たりになるので、そこから引き返すでごわすのじゃ。メフィストの間は、ワタシが捕まっていた部屋でごわすが、もう一度入ろうとすると、ガラスの破片が引っ掛かって開きにくいでごわすな。強引に開くと、窓ガラスが割れて外の風雨が吹き荒れて、ロープの切れ端が落ちているのが目に付く。必要だと思うなら、ロープを持って行くこともできるが、果たして使う機会があるのでごわそうか」
アスト「入手できるアイテムは、念のために持って行くのがセオリーだがな」
カニ子「では、ロープの切れ端をゲットしたのじゃ。その上で改めて、廊下の先へ進むでごわす。右に折れる曲がり角の左側と正面にドアがあり、左側は〈バルサス〉の表札が、正面には何も書かれていないのじゃ」
リバT『念のため、メフィストは有名な悪魔メフィストフェレスに基づくもの。ゲーテの「ファウスト」なんかで有名ですね。有名な外星人のメフィラスさんの由来としても知られています。バルサスの方は、お馴染みゲームブック由来で、作者スティーブ・ジャクソン氏のセルフパロディーでしょう』
ダイアンナ「知っているキャラの名前が出て来ると嬉しくなるし、部屋に入ってみたくもなるね」
カニ子「それが罠でごわすのじゃ。バルサスの間に入ると、カーテンの裏に隠れたゾンビの不意打ちを受けて、体力2点のダメージをくらい、恐怖点も2点加算されるのでごわす。技術点7の雑魚なので、武器さえ入手済みなら難なく倒せる相手じゃが、ファンタジーと違って恐怖点が厄介でごわすのう。おまけに、このゾンビを倒さないと部屋から出られぬと来ている。部屋に閉じ込められたと知って、恐怖点をさらに1点加算するケースもあって、宝箱だと思ったのは、単に部屋から出るためのカギに過ぎぬわけで、何も入手できないイベント。よって2度めにはスルー推奨の部屋でごわす」
ダイアンナ「バルサスの間にはゾンビね。もう一つの扉は?」
カニ子「そちらは小さな廊下になっていて、左側に〈ディアボラス〉の表札付きのドアが。行き止まりには窓が見えるでごわすが、その窓に重要な手がかりがあるのじゃ。ガラスに『アバッドンにモルダナが(88)』というメッセージが記されていて、後々使う機会があるわけで」
アスト「覚えておこう。ディアボラスの方は?」
リバT『ラテン語で悪魔の意味。ギリシャ語ではディアボロス。他にもディアボロとかディアブロとか、いろいろなフィクションで使われておりますね』
カニ子「そちらも恐怖点を溜めるような罠でごわすのじゃ。中に入ると、フッと一息つけて体力点を2点回復できるでごわすが、首なし幽霊が出現して恐怖点2点に見舞われる。何かを言っているので、話をよく聞こうと耳を傾ければ、呪いの言葉を囁かれて、さらに2点の恐怖を加算されるだけなので、正気を保ちたいなら、バルサスとディアボラスはスルーして、ガラス窓のメッセージだけをチェックするのがよろしかろう」
ダイアンナ「いろいろ調べ回ると、体力よりも恐怖点の蓄積でゲームオーバーになるのが、本作なんだね」
カニ子「いや、ワタシが死んだのは恐怖点のせいではごわさんが。バッドエンド・パラグラフに見舞われたのじゃ」
アスト「そう言えば、今回はまだバッドエンド・パラグラフはチェックしてないな」
カニ子「ゲームとして、まだクリアもしていないのに、先に全てのバッドエンドをチェックするのは興醒めでごわそう。今回ばかりは、バッドエンド・パラグラフとゲームの難易度は後述すべし」
アスト「そうか。まあ、ホラー作品の作法に従うか。カニ子がどうやって死んだのか、期待するぜ」
カニ子「人の死に様を期待するなんて、アストさんは性格が悪いのでごわしますわね」
アスト「『ごわしますわね』って何だよ!? 素直に『性格が悪いのですね』と詰られたなら、こっちも罪悪感の欠片ぐらいは持てるものを、『ごわしますわね』って口調のカニメイドが命を落とそうが、どうだっていいって思うぞ」
カニ子「カニ子が死んだら、新キャラ・コニカで再プレイいたしますのじゃ」
シェイタンとマモンの間
リバT『さあ、そろそろカニ子さんの死が迫って来ましたわね』
カニ子「分かるのでごわすか?」
リバT『ええ、地獄の館の経験者の多くは、あそこが死の袋小路の入り口だと分かっていますから』
アスト「ああ、あれか。ずいぶん昔のことだから、だいぶ記憶から抜け落ちていたが、何となく分かる」
ダイアンナ「あたしには分からないが、どういうことなんだ?」
アスト「そうだな。アニーに分かるように言えば、バルサスで図書館を通過しなかったり、ガンジー対策アイテムをゲットできなかったら、どうやっても攻略不可能状態に陥るってことだな」
リバT『地獄の館ですと、2階の探索が不十分な状態で下に降りてしまうと、攻略に必要な情報が入手できずに詰んでしまう、ということですね。そして、とある部屋に入ると、たとえ、その場の危機を逃れても、強制的に階下に追い込まれ、袋小路に陥って、じわじわとゲームオーバーに追い込まれるという生き地獄を味わうのですわ』
カニ子「それってゲームブック初心者がプレイするには、難儀でごわさんか?」
リバT『大丈夫。何回も死ねば手掛かりが集まって、きっと解けますし、「モンスター誕生」ほどは仕掛けが凝っていませんから。いざとなれば、ヒントぐらいは差し上げますし』
カニ子「ううっ(涙目)。仕方ないでごわすな。とにかく、2階の張り出し廊下に沿って歩くと、1階に降りる階段に到達した。その向かい側には表札のない扉があって、中に入ると物置きになっていたのでごわすのじゃ」
リバT『物置きの奥にも扉があるのですね』
カニ子「その前に、物置きをよく調べると、武器になる肉切りナイフと、ニンニクと、白ワインが見つかるでごわすが、白ワインを飲むと毒が入っていてゲームオーバーなので飲まないように気をつけて、ワタシは肉切りナイフとニンニクを持って奥の扉を開いたのじゃ」
リバT『すると、左に〈シェイタン〉の間が、正面には〈マモン〉の間があるのですね』
アスト「〈シェイタン〉は、シャイターンとも呼ばれ、イスラム教(トルコ語)の悪魔を意味する。語源はサタンと同じだとか」
ダイアンナ「〈マモン〉は確か、キリスト教の七つの大罪のうち、強欲を司る悪魔だったな」
カニ子「本当に、エラスムス以外、悪魔とか黒魔術関係の言葉ばかりでごわす。とにかく、ワタシは先に〈シェイタン〉の間に入ったのじゃ」
リバT『順番的には〈マモン〉の間に先に入ることが推奨ですがね』
カニ子「どうしてでごわすか?」
リバT『〈マモン〉の間でゲットできる「ルビー付きの指輪」が、〈シェイタン〉の間で使えるからです。「ジョージからマーガレットに贈られた結婚指輪」みたいですが、1834年と銘打たれて、その指輪をもらった直後に彼女は変死したと思われます』
ダイアンナ「ああ。肖像画の女か」
リバT『この辺の背景はいろいろ想像の余地がありますが、確定情報はありませんね。とにかく、この結婚指輪を持っていると、いろいろ面白いことになります』
カニ子「そうだったのでごわすか。その部屋は何だかポルターガイストが発生して、無駄に恐怖点とダメージを被ることが分かったけど、指輪は発見できなかったでごわす」
リバT『入室直後に部屋を調べて、小箱を調べないといけないのですね。最初に声をかけたり、写真に気をとられると、すぐにポルターガイスト現象が発生して、指輪が入手できなくなります』
カニ子「なるほど。とにかく、ワタシは指輪を見つけることなく、〈シェイタン〉の間に入った。そこで館の主人のケルナー卿と対面するのでごわすが、吸血鬼の正体を表して、カニ子を誘惑するのじゃ」
アスト「何てこった。こんな萌えとは程遠い、ごわす娘を誘惑するなんて、本当に趣味が悪いな、ケルナー卿」
カニ子「生前は、田舎口調だけど可愛い萌えヒロインだったのでごわしますわよ。メイドとしての作法も心得てますし」
ダイアンナ「田舎のワイルドメイドが吸血鬼に噛まれて、ごわす娘になったのかい?」
カニ子「いや、吸血鬼には噛まれていないでごわすのじゃ。何しろ、ニンニクを持参しておりましたのでな」
アスト「そう言えば、さっきニンニクをゲットしていたな」
カニ子「ケルナー卿の誘惑に乗らず、ニンニクを突きつければ、この場は何とかしのげたのでごわす」
リバT『ニンニクを使わず、うっかり相手の言葉に応じたり、武器で攻撃しようとしたり、指輪を使ったりすると、たちまち吸血鬼の視線の虜になって、血を吸われてゲームオーバーになってしまいますね』
カニ子「指輪もバッドエンド直行のトラップだったのでごわすか?」
リバT『ええ、この指輪は吸血鬼の魔力が篭っていて、身につけた者を支配下に置くようです。おそらくジョージなる人物が吸血鬼で、マーガレットは吸血鬼の餌食になった。マーガレットの弟のケルナーは、姉の仇のジョージを討ち取りはしたものの、自らも噛まれて吸血鬼と化したのではないか、と私めは推測します。
『もちろん、ケルナー卿自身がジョージという可能性も考えられますが、弟が姉に結婚指輪を贈るのも不自然ですからね』
カニ子「ともあれ、ニンニクをゲットしていたワタシは、吸血鬼の誘惑を退けることができたのでごわす。その後、ケルナー卿は奥の扉から逃げようとするので、ワタシは追撃しようとしたら、ケルナー卿は2体のゾンビを召喚した。だけど、ワイルドメイドなワタシは手にしたナイフでたちまちゾンビを切り刻んで、ニヤリと微笑んだ。ケルナー卿は悲鳴を上げたので、ワタシは片手にニンニクを、もう片手にゾンビどもの腐肉の付いたナイフを高々と掲げて、ジリジリとにじり寄った」
アスト「どっちがホラーの化け物か分からねえよ! 吸血鬼が怯えているじゃないか!?」
カニ子「入って来た扉は、鍵が掛かっていて開かないみたいなので、ワタシはケルナー卿を牽制しながら、奴が逃げようとした奥の扉に飛び込んで行った。そこは秘密の階段になっていて、ワタシは階下に飛び込んで行ったのでごわす」
カニ子の末路
ダイアンナ「まさか女主人公がラスボス以上の狂気を示して、怪物化するとは思わなかったぞ」
リバT『本当に「モンスター誕生」ですわね』
カニ子「人間、恐怖点がある程度溜まると、狂気が発動して暴走したりもするものでごわす」
アスト「それにしても、ニンニクとナイフを振りかざして、吸血鬼の伯爵を脅かすメイドとはなあ」
カニ子「ワイルドだろう?」
アスト「〈悪魔の短剣〉を振り回した腹ペコ剣士並みにな」
カニ子「それにしても、一つ疑問があるでごわす。ここでは、吸血鬼=ケルナー卿ということで話を進めているでごわすが、作品中では吸血鬼とケルナー卿とが同一人物とは記されておらず、ただイラストだけで同一キャラだと分かるのみ。どうして、吸血鬼をケルナー卿とは書かなかったのでごわすか?」
リバT『それはパラグラフ分岐のゲームブックだからですね。大抵のプレイヤーは、この吸血鬼と遭遇する前に、ケルナー卿と面談していたり、館の主人の情報を得ていたりしますが、ごく稀にケルナー卿の名前を一切聞くことなく、ここまで到達することが可能です。
『具体的には、最初に裏口に回って台所で、いきなり2人の従者に話しかけて、下手な発言で不審感を抱かれて、気絶させられて173番送りにされた場合、ケルナー卿との晩餐シーンはカットされます。その後、美女幽霊から情報を聞くこともなければ、館の主人の名前を知らないまま、吸血鬼と対面することになるわけで』
カニ子「なるほど。何も知らないまま、ラスボスと対面するという情弱状態でごわすな」
リバT『ラスボス……情弱状態……ま、まあ、そうですわね(今はまだネタバレは控えておきましょう)。それで、階下に降りて行ったカニ子さんはどうなりました?』
カニ子「ああ、それでごわすな。そこには踊り場があって、さらに下に続く階段と、扉があった。扉から入ると、不思議な鏡を発見した。鏡の中の世界、ミラーワールドっぽいところに迷い込んでみた結果、大きな物音を立ててしまい、ケルナー卿に仕える邪教徒集団に見つかって、多勢に無勢、抵抗虚しく投獄されて突然のバッドエンドを迎えたでごわす。こうして、ワイルドメイドだったワタシの冒険は終わったのじゃ」
アスト「吸血鬼を脅かすことはできても、数の暴力には勝てなかったのか」
ダイアンナ「2人めを作って、やり直すんだね」
カニコング「カニ子の後継者はコニカ。しかし、彼女もあっさり死んで、今は3人めのキャンサーの聖闘士キャサリンで挑んでいる最中でごわすよ。彼女たちの冒険は、次回のお楽しみに」
(当記事 完)