宇宙船がいきなりダメになって
NOVA『さて、天空要塞アーロックに向けてタイムワープした宇宙貴族のジャン・ミストラル。しかし、宇宙雑草に愛機《星霧号》が侵食されてしまった(1回死んだ)ので、とある惑星への大気圏突入時の高熱で焼き払おうという話になった。その前に立ちはだかる《ペルホン・レンジャー》の襲撃を切り抜け(その戦闘でふたたび死んだが)、宇宙雑草を焼き払うことに成功。しかし、地上からの思わぬ攻撃を受けて、機体は大きく破損。そのまま湖に着水したわけだが……』
アスト「宇宙船は湖の底深くに沈んでしまい、星からの脱出が難しくなってしまったわけだな。ミッション失敗か?」
NOVA『まだだ、まだ終わらんよ。冒険の旅はまだ続く。絶望した表情になったが、その時、湖から救い主が姿を現す』
ダイアンナ「あなたが落としたのは、この金の宇宙船ですか、それとも銀の宇宙船ですか?」
NOVA『いや、鉄の……って、そんな話じゃねえ。湖から現れたのは、先ほど《ペルホン・レンジャー》の宇宙船から回収した3つ首小人ロボットだ。同じく回収した謎パーツを持って、沈んだ《星霧号》から脱出して来たんだな。そのロボ、ええと名前がないと呼びにくいので、ミツクビのミックと俺がこの場で勝手に名付けよう。ミックは湖から悠々と歩み出て、こちらを無視して近くの森へ姿を消す。後を追うか、《星霧号》から必要な資材を引き上げる努力をするか、助力を乞うために近くの集落を目指すかの3択だ』
アスト「オレならミックの後を追うな」
NOVA『ああ、それが正解だが、俺はまず湖の宇宙船をサルベージできないか、と試みた。すると、鰐河馬(ワニカバ)が現れて、「しめしめ、うまそうな獲物がやって来たぞ」とつぶやきながら襲いかかって来た』
ダイアンナ「そのワニカバとやらは、喋れるのか? 知的生物なのか?」
NOVA『ただの動物にも思えるが、何だか喋るんだな。きっと、主人公は数多くの宇宙語をマスターしているんだろう。特に翻訳機を持っているという描写はないが、大丈夫、ヒーローの世界ではカバだか豚だか分からないカバトンだって喋って、屋台でおでんを食っているんだ。ワニカバだって、喋っても今さら驚くことではない。まあ、こっちはおでんじゃないから、食べられる義理はないので、頑張って水中戦(技術点マイナス2)で応戦することにする』
アスト「相手の能力値は?」
NOVA『技術点6、体力点10だな。こっちは最強の12なので、一時的に2減らされても問題はない。このゲーム、通常戦闘で苦戦したことは今のところ一度もないな。宇宙船戦闘がハードモードで死にやすいことを除けば、通常戦闘にはストレスがない。とにかく、カバトン……じゃなくてワニカバを撃退したら、他の水棲怪物の気を引かないように湖を出て、遅ればせながらミックの後を追うことにする』
三つ首ロボの向かった先は?
NOVA『ミックの後を追う。1日かけて後を追う、と描写されているにも関わらず、その間、主人公が休息をとって、食事をしたというような丁寧さがない辺りが、雑な文章だと思う。FFファンタジー定番の生活感あふれたリアリティーが本作には感じられなくて、波乱万丈のB級SFアドベンチャー、危機また危機の落ち着かない選択肢の嵐が特徴だな』
アスト「すると、またも選択肢か?」
NOVA『3択が多いな。ミックの姿を見失って、道は右か左か真ん中に分かれている。当たりは左(354)だが、あまり考える手がかりを与えてくれず、進んだ先のサプライズを楽しむタイプのゲーム(たまに理不尽に即死する)。
『で、右に行けば、酸の川に入ってしまい、体力を2減らすものの「酸に効く薬草」が入手できる。
『まっすぐ進むと、昔に捕まえたことのある3人の犯罪者(姿は宇宙クラゲ)が「ここで会ったが3年め」って感じで襲いかかって来る。殺し屋クラン、盗賊ノアド、冷酷ロドという名のクラゲ異星人が6連発超大型分子破壊銃(ブラスター)を手に、いや触手に持って、攻撃して来るのを迎え撃たなければならない。まあ、技術点は9、8、6なので、12の俺からすればザコだったけど』
アスト「主人公の技術点が9点以下なら強敵じゃないか」
NOVA『熟練の冒険者で、宇宙貴族まで上り詰めた設定だぜ。本作の場合は、技術点が9+1Dの半分という安田社長の提示した「死の罠ハウスルール」でもいいんじゃないか、と思う。ただ、それでも宇宙船戦闘は、機体の性能差が固定値で能力ドーピング不可な仕様なんだが。とにかくクラゲ犯罪者3人衆を成敗して、先に進む。すると、何だか巨大な結晶体宇宙戦艦が見えた。よっしゃラッキーと喜んで近づくわけだ』
ダイアンナ「湖に沈んだ《星霧号》の代わりに、新たな船が手に入るチャンスかもしれないんだね」
NOVA『パラグラフ271番には、「デルフォンの妖精シェイネに会ったことがあるなら171へ」という指示があるんだが、そんな妖精は知らないので、これは先に集落を訪れるべきだったか? と未通過パラグラフを気にしながら、まあ後からチェックしようと宇宙船に近づく。なお、もう一つの選択肢はさっき進まなかった354番だな。ともかく、今は宇宙船だ、と近づいたら、2体のミュータント(頬と大腿部から腕が突き出したとは、奇怪なデザインだ)と遭遇。戦いになって、まあ、やっつけたんだが、宇宙戦艦は厳重に見張られていて近づけないことが判明。仕方なく、354番へ向かったんだ』
アスト「試行錯誤でうろちょろしながら、結局は354番に行くのが正解、と」
NOVA『354番では、ミックがミュータントに襲われていたので、助けてやった。これでミュータントとミックは敵対関係にあることが判明。ミックはこれまでこっちが味方であると認識していなかったらしく、ここで初めて口をきく』
ミック『おぞましきミュータントから助けていただき、ありがとうございます。あなたは親切なお方だと分かりました。そして宇宙船が沈んで難儀していることも。私はジェドバーグ洞窟におられるご主人様のところへ戻りますので、あなたもご案内しましょう。ご主人様なら、あなたのお力になれるはず』
NOVA『というわけで、ミックに連れられて、何時間も歩いて、ジェドバーグ洞窟とやらにたどり着いたわけさ』
セイウチ王クリル・ラビットの話
NOVA『三つ首ロボットのミック(NOVA命名)のご主人様として紹介されたのは、セイウチのような顔の人間型種族クリル・ラビットさんだ。最初、クリル・ラビットは種族名だと勘違いしたんだが、個人名らしい。セイウチなのにラビットとは、これいかに? と思ったが、今年はウサギ年なので、ちょうどいいか、と思い立つ』
アスト「でも、原書が出たのは1988年だろ? ウサギ年は関係ないはず」
NOVA『その年は辰年だな。ついでに邦訳が出た1991年はヒツジ年なので、ウサギには関係ない。セイウチは英語でウォルラスなので、「お前の名前はどこから来たのか?」と問いたい気持ちにウズウズ駆られたが、きっと話が長くなりそうなので、つまらない質問は控えることにして、まずは相手の話に耳を傾けるとしよう』
クリル『余はこの辺りの洞窟群と、このロボットの支配者だ。そして、かつてはこの惑星全体の支配者だったのだ。数年前に、戦争の妖精シェイネが巨大な宇宙戦艦に乗ってデルフォンからやって来るまではな』
ジャン『すると、あの結晶体の宇宙戦艦はシェイネの物だったのか』
クリル『そう、彼女の宇宙戦艦はドルーグ湖の近くにある。彼女のミュータント部隊は、余の多くの臣民を殺害したり、捕らえて奴隷に変えたりした。あるいは、魔法と称する複雑な生化学技術によって、邪悪な怪物に変身させられたりしている。生き残った我らは、秘密の洞窟に逃げ込んで、反撃の機会を待ち望んでいたのだ!』
ジャン『宇宙戦艦を奪う協力なら、喜んでしますよ。こちらは秘密の任務の途中で、どうやら彼女の戦艦の奇襲攻撃で愛機《星霧号》を撃ち落とされたみたいですからね。この報復をしてやらなければ、腹の虫が収まりません。そして連中の宇宙戦艦を奪って、《星霧号》2世と命名して、もう一度、使命の旅に戻る。それができるなら、喜んで手を貸しましょう』
クリル『おお、異星の勇者よ。なかなか大胆な作戦を考えるが、そなた一人で敵の巨大戦艦をどうやって動かすつもりだ?』
ジャン『うっ。それはご先祖さまなら強大な思念パワーで敵の乗組員をみんな洗脳支配し、正義の部隊に編成することもできたかもしれないが、そこまでの偉大な力は俺にはない。やはり、敵の戦艦は《星霧号》の代わりにはならないのか』
クリル『そもそも、余の研究によれば、あの宇宙戦艦を動かすには、デルフォンの魔法と称する不可思議な精神技術と、解析困難な操縦マニュアル、そして数十年から数百年に渡る訓練期間が必要となろう』
ジャン『って、そんなに必要なんですか? 訓練するだけで人生が終わってしまうじゃないですか』
クリル『それだけ、連中の異質な文明や技術を理解し、修得することは困難だと言いたいのだよ。それとも、そなたは実は伝説の魔法使いか何かだと称するつもりか?』
ジャン『遠い異世界の俺なら、時空魔術とか言霊魔術とか、いろいろ修得しているのかもしれませんが、今の俺はただの《エンスリナの騎士》。魔法と称する奇術は一切使えません』
クリル『そうだろう。ならば、現実逃避はやめて、我らは我らにできることをしよう』
ジャン『力の限り暴れることですね』
クリル『勇気と無謀を履き違えるな。そなたの頭は何のためにある?』
ジャン『頭突きのため……ではありませんよね。では、陛下、何かの作戦がおありですか?』
クリル『あるとも。まずは、敵の宇宙戦艦の機能を一時的に抑制するための干渉装置を取り寄せた。余のロボットにそれを運ばせていたのだが、《ペルホン・レンジャー》の妨害にあったようでな。それを、そなたが救い上げてくれたそうではないか。我らの希望をつないでくれたこと、たいへん感謝しておる』
ジャン『ヒーローとして当然のことをしたまでです』
クリル『では、お礼に何かを差し上げたいのだが』
ジャン『1人で操縦できる高機能な宇宙船を1隻。今の俺に必要なのはそれです』
クリル『ならば、時間環を操作して、そなたの宇宙船を復活させるとしよう』
ジャン『そんなことができるのですか?』
クリル『1Dで3以上出せばな。1と2なら、残念ながらゲームオーバーじゃが』
ジャン『うおー、(コロコロ)よし、6が出た』
NOVA『……と言うことで、クリル・ラビット陛下の超科学技術が上手く発動して、《星霧号》は攻撃されて不時着する前の新品状態で、洞窟の入り口にPONと召喚されたんだ』
アスト「って、それは魔法じゃないのか?」
NOVA『よく言うだろう。「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」って』
アスト「アーサー・C・クラークだな。しかし、そんな超技術を持ちながら、クリルさんはデルフォンの侵略に勝てなかったんだな」
NOVA『デルフォンの魔法は、彼らの科学文明とは相性が悪かったんだろう。相手の魔法を抑制する方法を解析するまで、攻撃が一切、魔法の障壁を貫通できなかったんじゃないか? TRPGの「ナイト・ウィザード」なんかでも、現代兵器が魔法使いには無力だという理屈が構築されている』
ダイアンナ「魔法が科学を凌駕する世界観ってことだね」
NOVA『ぶっちゃけ、アーロックの世界観って、SFと称しながら科学的ではなくて、テキトーな何でもあり奇天烈ワールドとしか思えないんだな。まあ、SFRPGで言えば、トラベラーじゃなくて、こういう感じだ』
マルチバースな寄り道話
アスト「また、おかしなレトロTRPGを持ち出しやがって」
NOVA『異種族いっぱいRPGとして一部のオールドTRPGマニアに有名な「ファンタズム・アドベンチャー」の作者トロイ・クリステンセン氏が作ったSFRPGだな。1991年に発売されて、知る人ぞ知る作品の一つ。まあ、最近、マーベルが出したマルチバースRPGとは別物なので注意』
アスト「とにかく、SF世界に魔法が登場しても、何でもありのマルチバース的世界観だったら許されるってことだな」
NOVA『そうなんだ。アーロックも、もしかするとFFシリーズ初のマルチバース風世界観を志向したのかもしれないって趣きがある。しかし、マルチバース展開を魅せるには、やはりコアとなる物語世界は馴染みのある舞台が望ましい。多元宇宙といっても、主人公が所属する一般的な世界から見て、風変わりな世界に視野が広がっていくから、受け手は主人公と一緒に驚いたり、ワクワクできるのであって、最初から何でもありのメチャクチャぶりを披露されて、「どうだ、すごい多彩な世界だろう?」と押しつけられても、受け手の思考と感情がついていかないわけで』
アスト「クリル・ラビットの超科学技術と、デルフォンの戦闘妖精シェイネの魔法文明の対決劇って、上手く見せれば、非常に面白そうな設定にも思えるな」
NOVA『ああ。実のところ、アーロックは能動的にプレイするゲームでなく、物語として受け身に見るなら、すごいSF超大作的な要素(と結構な量の脱力要素)がてんこ盛りに思えるんだ。盛りだくさんなアイデアを次から次へと闇鍋風にごちゃ混ぜにして、読者のお腹の膨れ方を一切考慮せずに、どんどん食え、と押し流して、吐き気さえ催すレベルの作品と見受けられる。小分けにすると、面白い可能性に満ちているんだけど、全体は整合性の伴わない壮大な実験作としか言いようがない。アイデアは豊かだが、いかんせん、素材の味を引き出すことには失敗していて、食べ終わっても、ああ、美味しかったとはなり難い作品だ』
アスト「そういうことはクリアしてから言えよ」
NOVA『いや、クリアはしてないが、途中でゲームとしてプレイするのがイヤになって、先に雑ながら攻略フローチャートだけ作って、全イベントはチェックしてしまったんだ』
アスト「いつの間に、そういうことを?」
NOVA『まあ、俺もずっとネットで記事書きしているわけじゃないからな。職場で仕事をする。その合間の休憩時間なんかに、サイコロは振れないが攻略ノートとゲームブックを持ち込んで(自営業の恩恵である)、ストーリーの流れはおおよそチェックした。そして、本作のゲームとしての欠点が宇宙船戦闘以外にもあることを理解した』
アスト「まだ欠点があるのか」
NOVA『本作のゲーム上の欠点として、よく挙げられるのが、宇宙船の破損が回復しないのと、体力点が回復しないことなんだが、それはルールをよく読んでおらず、初期FFの知識のままで本作をプレイしたため、と言える』
ダイアンナ「初期FFの知識?」
NOVA『火吹山やソーサリーでは、冒険の途中で食事ができるパラグラフが用意されているんだが、運命の森以降は、いつでも食事をして4点回復できる仕様なんだな。大体、10食分の食料が用意されているゲームはよほど低い能力でない限り、40点も回復できれば、一つの冒険で十分なはずなんだ』
ダイアンナ「道中のイベントで、食料を全部失ったりしない限りはね」
NOVA『本作は道中の体力消耗が激しいゲームだが、通常戦闘での敵の技術点はさほど高くない。最高で10が1体で、8や9が強敵。多くは7以下で、技術点10以上あれば通常戦闘は余裕だろう。本作で死ぬ危険が高いのは宇宙船戦闘と、パラグラフの選択による突然死(つまらない死が結構多い)。
『だけど、ラスボスの技術点が6という異常な低さで、たぶん、体力点の消耗が激しすぎて死ぬケースは稀だと考える。技術点が9以下とか、原体力点が15以下で10前後のまま回復を怠った場合は除くが。道中で、食料を食べるように指定されないと食事できないと思い込んでいる指示待ち人間は除いて、体力の回復ポイントが皆無なことはゲーム上の問題点とは思わない』
アスト「じゃあ、何が問題なんだ?」
NOVA『運だめしを要求されることが多いのに、運点が一切回復できないことだ』
アスト「運が一切回復しないだと?」
NOVA『その時期のFFは運点が回復しないのがデフォなのかと思って、「最後の戦士」や「奈落の帝王」もざっと流し見してみたが、運点の回復パラグラフはあった。本作だけが、運は全くの使い捨てだと見受けられる。体力は10食分の食料で賄えるので良しとして(もちろん、それ以外で一晩休んだから回復とか、薬で回復とかあればもっといいのだが)、運が回復しないのはFFゲームブックでかなり厳しいのではないか。もう、これは運だめしをさせられること自体が、本作攻略の上で、相当にリスクが大きいと判断せざるを得ない』
ダイアンナ「ダディーのキャラは、運点が9だったよね」
NOVA『1回か2回の運だめしなら大体成功できるだろうが、3回め辺りから失敗の可能性が急に高くなったりする。運だめし失敗が即死につながるパラグラフで、攻略上避けられないものがあれば、それに備えて運は無駄遣いするべきでない、と判断する。本作ぐらい運が重要なFFゲームブックも稀なんじゃないかなあ。使い捨ての能力値としての運点と、宇宙船戦闘におけるプレイヤーのリアルラックと』
魔女シェイネへの反攻作戦
NOVA『話を戻そう。アーロックの世界観は、別次元からの来訪者が頻繁に出現し、魔法文明と科学文明の衝突があり得るマルチバース風味だと判明した。まあ、作者のマーティン・アレンが思いつく限りのアイデアを、整合性とかバランスとか一切無視して混ぜこぜした一大B級実験作と言えよう。だから、ゲームとしてプレイさえしなければ、非常に刺激的な物語の素材としてコミカルな、かつダイナミックな活劇ドラマとして受け止めることもできる』
アスト「ゲームとしては、いろいろ雑ってことか」
NOVA『作者としては、次から次へと意外な展開を盛り込んで、プレイヤーを楽しませようとしているのかもしれない。しかし、ゲームとして能動的にプレイしようと思えば、緩急のリズム感覚が必要だと思う。アクションゲームなら、次々と襲いくる障害を切り抜けてのダイナミズムも楽しいが、ストーリーゲームの場合はじっくり状況を把握したり、反芻する間が欲しいし、絶えず忙しく選択肢を突きつけられるのは作者に無理やり選ばされている感覚があって、障害を切り抜けてホッと息をつく間を与えて欲しいなあ、と考えたりもするわけだ』
アスト「それでも、撃墜された《星霧号》が不思議な科学の力で時間を逆流して復活したんだろう? そのまま宇宙へ旅立つといいじゃないか」
NOVA『任務を優先するなら、そうすべきなんだが、クリル王に対デルフォン反攻作戦への支援を要請されてしまってな。対宇宙戦艦の干渉装置の効果は短時間しか持たないそうだ。地上からの攻撃で宇宙戦艦を破壊できなければ、機能を回復した相手が空中から反撃して来るだろう。そうなった場合に、上空から《星霧号》で急襲して、戦艦を着陸に追い込んで欲しいそうだ』
ダイアンナ「地上と空中からの両面攻撃ってことかい。なかなか良い作戦じゃないか」
NOVA『ストーリーは悪くない。しかし、ゲームバランスが水を差したんだよ。クリル王の部隊は数百人もいて、レーザー銃、パルス銃、分子破壊銃、熱戦銃、火炎筒、真空手榴弾など多彩な銃火器で武装している。ただし、歩兵ばかりで機動兵器が一切ないのが問題なんだな。機能を回復した戦艦の相手は《星霧号》頼りとなったんだが、結局、負けてしまったんだよ(涙目)』
アスト「また、負けたのか」
NOVA『これが俺の、本作3度めの死である。敵艦の性能は、前に戦った《ペルホン・レンジャー》と同じ。こちらの操縦能力は5に上がっているが、同値だったら敵先攻というルールで戦ったから、期待値どおりだとこちらが負ける戦闘だったんだ。このルートだと、《ペルホン・レンジャー》と《デルフォンの宇宙戦艦》の2回の宇宙船戦闘をクリアしないといけないんだが、俺の計算では勝率4分の1。
『同値がプレイヤー先攻だったら、《ペルホン・レンジャー》さえ倒せれば、デルフォン艦には有利な状態で戦えるので、物語的にもそちらの方が美しいのだと思う。これだけ反攻作戦でストーリーを盛り上げておきながら、敵母艦を2分の1の確率でしか倒せないのでは、それはRPGではなくて、シューティングゲームの感覚なんだと思う。運悪く負けるという可能性はあるにしても、普通なら勝てる程度の難易度にしておかなければ、ストーリーさえ楽しめなくなる』
ダイアンナ「戦闘前にセーブしておいて、負けたらもう一度セーブしたところからやり直して、勝つまで戦うとか?」
NOVA『ゲームブックで、そういうコンティニューはしたくないんだけどな。あるいは、宇宙船戦闘で「戦闘中の運だめし」ができればいいと思ってもみたんだが、できないし、そもそも運点が回復しないので無駄遣いも禁物だからな。とにかく、白けた気持ちで再プレイを始めた。ついでに、まだ通っていないパラグラフをチェックするつもりでな』
集落への寄り道
NOVA『再プレイは勝手が分かっているから、タイムワープ→雑草駆除のためのワープアウト→《ペルホン・レンジャー》撃退→湖への不時着までのイベントを難なくこなした。初戦でまた負けて、死亡回数を増やす可能性はあったが、何とか死亡回数は3回のままで抑えられた。そして、ここから違うルートを選ぶことになる』
ダイアンナ「ミックの後を追うのではなくて、集落を目指すんだね」
NOVA『先にシェイネに会っていれば、ストーリーが変わるかもしれないって思ってな。クリル王に協力するルートと、シェイネに協力するルートに分岐したら、少し面白いと思ったが、そんなことはなかったぜ』
アスト「結局、シェイネは敵なのか」
NOVA『集落に行ったが、荒れ果てていて人っ子一人見当たらない』
アスト「そりゃあ、シェイネのミュータント部隊に殺されたり、捕まったりしていたからな」
NOVA『集落周りでは、野生の鳥と戦ったり、生きてる棒に襲われてダメージを受けたりするようなイベントもあったが、通りのそばにあった小屋で一晩過ごすことができた。この宿泊で体力点を少しぐらい回復できれば良さそうなものを、この作者はプレイヤーをねぎらって回復してやろうって真心を一切持っていないものと思われる』
アスト「シェイネには、どうやったら会えるんだ?」
NOVA『小屋で眠る。夜中に外で物音が聞こえる。窓から外を覗くと、突然ミュータントに襲われ、殺される。ゲームオーバーだ』
ダイアンナ「窓から外を見るだけで殺されてしまうのか。酷いな」
NOVA『死亡パラグラフ数は凄いことになりそうだな。とにかく、シェイネに会いたければ、窓から覗き見るのではなく、小屋の扉を開けて、堂々と外に出るといい(108)。そこには金と水晶とガラスでできたドレスを着た、金髪で美しい妖精がいるんだな。本作唯一の萌えキャラだと思う。他に女性キャラは一切いなかったはず。
『しかし、シェイネ様、あなたに忠誠を……と尻尾を振る間もなく、彼女の瞳に見つめられると、体が動けなくなってしまった。そして、額と頬と大腿部に軽く触れられると、何やら呪文をかけられたようなんだな。そうして、シェイネは去って、こちらはようやく金縛りが解けたわけだ』
アスト「変な呪いをかけられたのか」
NOVA『その後、村を出て、ミックを追うルートと合流することになる。しかし、シェイネに呪いをかけられた場合は、彼女の宇宙戦艦に向かってはいけない。呪いが発動して、ミュータントと化してしまい、ゲームオーバーになるからな』
ダイアンナ「シェイネには会わない方が正解ということか」
NOVA『呪いを解くには、ミックを助けてクリル王のところに連れて行ってもらう。すると不思議な化学の力で薬草を調合して、呪いを解いてくれるんだ。そんなわけで、感謝の気持ちを込めて、《星霧号》も復活したジャンはクリル王の反抗作戦に協力することにした。夢の中では戦いに敗れた気もしたが、大丈夫、それはただの夢だったということで、今度こそ《デルフォンの宇宙戦艦》を撃墜することに成功した。
『クリル王の喜びの声、「邪悪な魔女シェイネをついに打倒した。そなたには誠に感謝する。旅の無事を祈ろう。達者でな」という通信を聞きながら、返礼に《星霧号》を宙返りして見せると、宇宙空間へ飛び立つ。これで、この不時着惑星でのイベントは終わりだ。めでたしめでたし』
アスト「なかなか面白い話じゃないか」
NOVA『上手く文章を再構成できればな。ただ、実際の文章は、一つのイベントを達成した余韻を与えてくれず、すぐに次の選択肢を押しつけて来るんだ。前方から救難信号が届いたので救助に向かうか(137)、それとも光ワープでアーロックに向かうか(182)だ』
一難去ってまた一難
アスト「もちろん、救助活動が優先だよな。ヒーローなんだから」
NOVA『もちろん、アーロック行きを優先したさ。使命は大事だろう。ただでさえ予想外の時間を浪費してしまったんだから、これ以上の寄り道はできない』
アスト「そんな冷たいことを言ってると、バチが当たるぞ」
NOVA『ああ、そうかもな。結局、すぐにジャンは4回めの死を迎えることになった』
ダイアンナ「確か5回は軽く死んだって言ってたね」
NOVA『死亡回数は当ブログのFFシリーズでは最高になるだろうな。5回から後は数えるのをやめて、ダイスを振ってのゲームプレイではなくて、読んでパラグラフ解析する形に切り替えたし』
ダイアンナ「解くのをあきらめたのか?」
NOVA『いや、先に正解ルートを確認してから、悠々とプレイするって手法だ。攻略本を自分で作ってから、それに従ってプレイするってことだな』
アスト「普通のやり方じゃないだろうが」
NOVA『そうか? まあ、裏技に近いだろうが、パラグラフをしっかり解析するのに手間暇かけてるからな。先にメイキング映像を見てから、作品本編を後から見るような楽しみ方かもしれん』
ダイアンナ「先に速読でパラパラと流し読みしてから、後からじっくり味わいながら熟読するようなものか」
NOVA『とにかく、救助に向かうと「宇宙ステーションルート」に入り、アーロックに向かうと「ヴァリオーグルート」に入る。ヴァリオーグと戦う方が難易度が高くて死ぬ』
アスト「ヴァリオーグって何だ?」
NOVA『アーロックへ向かおうとすると、次のような文章が流れるんだ』
運の悪いことに、通信機がカリカリと鳴って、君の主人ヴァークス王の声を吐き出す。
NOVA『王様からの緊急連絡を「運の悪いことに」とか「吐き出す」って書いてるんだぜ。少しは敬ってやれよ、と思うが、どうも作者の本音では、この王様は問題行動ばかり投げつけて来る厄介者らしい。独特のユーモアなのかは知らんが、マジメに文章を読むと、結構イラッとさせられることが多いな。プレイヤーキャラの死を嘲ってみたりとか』
アスト「王様からの緊急連絡で、アーロック行きが妨害されるってことか」
NOVA『早急に解決すべき別のトラブルが持ち上がったんだな。第57次元から《スターファイアー・ヴァリオーグ》の戦艦が1隻現れて、太陽からエネルギーを補給して、このまま放置すると太陽エネルギーが枯渇してしまうから、その前に破壊してくれ……って一方的に命令だけして通信を切りやがった。こっちに拒否権は与えてくれないらしい』
アスト「太陽エネルギーを収奪しに現れた高位次元からの侵略者か。厄介な相手だな」
NOVA『厄介も厄介。文章を読むと、「ほとんど無敵といってもいいほど強力であり、たった1隻で大艦隊に匹敵するほどの戦力を有している」そうだ。そんな相手に、たった1機の宇宙船で何ができると? 王様は俺に死ね、と申すか? とにかく、このルートを選ぶと、ヴァリオーグの戦艦および艦載機を相手に絶望的な戦いを強いられる。初見でこの戦いに挑むと、まともには生き残れないと思えるほどの試練だな』
ダイアンナ「それを何とかしてこそのスーパーヒーローって奴だろう?」
NOVA『この作者は、ゲームブックでシューティング・アクションゲームの感覚を味わって欲しいらしい。機体を操作しながら、敵艦の行動パターンを探り、回避行動と敵の弱点の見極めを行い、見事な操縦テクニックで巨大な敵艦を仕留めるプレイをパラグラフ選択のゲームブックで無理やり再現しようとした、と見受けられる。試みとしては面白いが、シューティングゲームって死んで覚える傾向が強いし、ストーリーをじっくり味わいたいゲームブックファンとしては、シューティングゲームの感覚を持ち込まれて無茶振りされてもなあ、と思わざるを得ない』
アスト「それでも、攻略はしたんだろう?」
NOVA『最も被害が少なく、攻略できるパラグラフは見つけたが、ダイスを振っての実プレイはしていない。いきなり殺されたので、ゲームブック攻略のためには、このルートは通らないのが最適解という結論は得ている。むしろ、「宇宙ステーションルート」の方がまだ攻略しやすいと思ったので、次回はそっちに向かうことにする』
(当記事 完)