ウルトロピカルな⭐️GT(ゲーム&トレジャー)島宇宙

南の島と上空の宇宙宮殿を舞台にTRPGや特撮ヒーローなどのおしゃべりブログ。今はFFゲームブックの攻略や懐古および新作情報や私的研鑽メイン。思い出したようにD&Dに触れたりも。

D&Dの盗賊と吟遊詩人の話

今さらながらアウトロー

 

アスト「そろそろ、コンパーニュに行ったアニーたちがキャラ作りを終えて帰って来ると、連絡が来た」

 

ケイP『結局、おいらたちは何もせずに留守番してただけだったッピな』

 

カニコング「全くでごわす」

 

アスト「そんなわけで、今回はD&Dの盗賊と吟遊詩人について、研鑽することにした」

 

カニコング「どうして今さら?」

 

アスト「いや、ここはゲームブックのFFシリーズの攻略記事を展開する前は、D&Dの懐古がメインで、その後、パグマイアとかT&Tなどをチラチラ見ながら、いろいろネタ語りして来た場所なんだ」

 

ケイP『詳しくは、以下の過去記事を覗いてみるといいッピよ』

 

アスト「そして、これまでクラシックD&DやアドバンストD&D以降の各種クラスを、NOVAやオレたちがいろいろ研鑽して語ったりして来たんだな。コンパニオンのドルイドから始まり、パラディン、戦士、魔法使い、僧侶、ミスティック、海賊、モンク(ついでに忍者)、ウォーロックなど、いろいろと気まぐれに」

 

カニコング「ええと、レンジャーやバーバリアンなんかがまだでごわすな」

 

アスト「そいつらは、パグマイアのプレイヤーキャラクター犬で語ったりもしたが、実のところ、盗賊(シーフ)について、いつか語らねば、と思ったまま、ここまで放置されていたんだな」

 

カニコング「なるほど、語るべくもない、と軽視されていたでごわすな」

 

アスト「お前、快盗団マーキュリー・バットのキングだった男が、そういうことを言うか?」

 

カニコング「それは過去の話でごわす。今は次元ドルイドのハイラス殿のもとで修行中で、海魔法を研鑽中のドルイド見習いでごわす」

 

アスト「お前がドルイドだと?」

 

カニコング「呪文は使えないでごわすが、ドルイド特有の変身能力を身につけたでごわすよ」

 

アスト「ほう。何に変身できるんだ?」

 

カニコング「そりゃ当然、ジャイアントクラブ(カニ)🦀とゴリラ🦍でごわすよ」

 

アスト「元々そうじゃないか。それだったら、オレだって馬になれる」

 

ケイP『チッチッチ、まだまだ青いッピ。元々、不定形の軟体宇宙怪獣だったおらは、もっとヴァリエーション豊かに変身できるッピよ』

 

アスト「そりゃあ、お前は元々、人間じゃなくてモンスターだからな。まあ、変身がどうこうって話は今はいい。それよりも、しばらく放置された盗賊と吟遊詩人について、D&D映画にちなんで語ることにした」

 

カニコング「今さらでごわす。旬は一月前でごわすよ」

 

アスト「映像ソフト化されるのを楽しみにしつつ、D&Dと言えば、次の日本語商品がこれらしい」

カニコング「フィズバンって、誰でごわすか?」

 

アスト「そんなことも知らずに、よくD&Dファンをやってるな」

 

カニコング「いや、D&Dファン必須の知識って言うほどでごわすか?」

 

ケイP『少なくとも、ドラゴンランスファンにとっては必須知識だッピ』

 

カニコング「ドラゴンランスなど過去の遺物でごわす」

 

アスト「やれやれ。FFゲームブック同様、ドラゴンランスも復刻しているのに。とにかく、フィズバンはドラゴンランスに登場する老魔術師で、ボケ老人のように見せかけてるが、実は神さまだったりする」

カニコング「つまり、神さまがドラゴンのお宝を紹介する本でごわすか」

 

アスト「とにかく、D&Dのドラゴン好きにとって必須のサプリメントと思われる。少なくとも、ドラゴンランス好きのNOVAにとっては、フィズバンの名を持つゲームサプリメントってだけで、『よし、これでドラゴンランス関連のD&D商品日本語版がついに出る。来年には待望のドラゴンランス本も期待できそうだ』とワクワクしているんじゃないか」

リモートNOVA『よく分かったな』

 

アスト「うわ、突然、顔を出すな」

 

リモートNOVA『ドラゴンのお宝に関する話が聞こえたものでな』

 

アスト「そうだ。そして宝と言えば盗賊。伝承と言えば吟遊詩人。今回は、快盗団マーキュリーバットらしく、盗賊と吟遊詩人話を、お前に代わって研鑽してやる企画だ」

 

リモートNOVA『なるほどな。昔のD&D話から、たっぷり語ってくれるんだな』

 

アスト「お、おお。オリジナルD&Dからな」

 

最初の盗賊は基本職ではなかった

 

アスト「さて、D&Dの基本4職は、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊というのが常識だが、この中で盗賊だけは元々、追加職業だったんだな」

 

ケイP『オリジナルD&Dの基本職は3つで、戦士、魔法使い、僧侶の3つだッピか』

 

アスト「最初のサプリメントで、パラディンとシーフ(盗賊)が追加された。つまり、盗賊はパラディンと並ぶスペシャル職業だったんだな」

 

カニコング「他に追加職業は何があるでごわすか?」

 

アスト「2つめのサプリメントでモンクとアサシンが、3つめのサプリメントドルイドが追加されたのがオリジナルのD&Dだ」

 

ケイP『オリジナルD&Dの時代は、1974〜76年までだッピね。77年からルールを整理して分かりやすくした2版のベーシックセットと、そこから拡大発展したアドバンストD&Dが登場するッピ』

 

アスト「今のD&D5版は、アドバンストの系譜を受け継ぐ5版で、オリジナルD&Dをそれ以前のゼロ版と呼称するのが一般的だな。クラシックD&Dはこのベーシックセットから独自発展した作品で、それをオリジナルと混同している男がいて、まあ昔、ちょっと齧っただけの記憶しか持たないのに、的を外した知ったかぶりが見ていて痛かったというか。話題になっているので改めて勉強させてもらいますぐらいの気持ちで臨むなら、殊勝な態度と言えるんだがな」

 

ケイP『日本語で翻訳された赤箱D&Dは、83年に本国で出た4版が85年に国内登場したもので、一応、D&Dが国内で知られるようになったのはこの時から。だから、赤箱をオリジナルと勘違いする素人は普通にいるッピが、順番としては以下のとおりだッピ』

 

・1974:オリジナルD&D

・1977:2版のベーシックとアドバンストD&D

・1981:ベーシックの3版。ここからアドバンストとは違う流れのクラシックD&Dに発展。独自にエキスパートルールまで発売。

・1983:ベーシックの4版。いわゆる赤箱。日本で最初に邦訳発売したのがこれ(85年から)。その後、青箱エキスパート、緑箱コンパニオン、黒箱マスタールールまで続くも、究極の金箱イモータルルールは残念ながら邦訳されず。

・1989:アドバンストD&D2版。91年に邦訳されるも、基本ルールと数点のサプリメントを出しただけで国内展開が続かずに終わる。残念。

・1991:クラシックD&D5版。これが94年に翻訳された文庫版。ただし、ベーシックからエキスパートレベルまでしか網羅されず、コンパニオンレベル以降の上級ルールは本国のTSR倒産の影響で(翻訳は完成していたのに)出版されずに終わった。大いに残念。

・2000:クラシックとアドバンストの路線を統合した新生D&Dの3版が始動。邦訳はホビージャパンが2002年から手がけて、以降は順調に展開を続ける。

・2003:マイナーチェンジの3.5版。邦訳は2005年から。

・2008:大変革の4版。邦訳もほぼ同時にスタート。

・2014:4版路線が大勢のユーザーに受け入れられず、懐古路線の5版で建て直しを図る。

・2017:当初、5版は英語以外で展開されないWotC本社の方針だったが、ホビージャパンの交渉もあって、この年から邦訳開始。めでたい。

・2022:ホビージャパンの邦訳契約が6月に切れて、この年の年末からWotCジャパン社が直接邦訳展開を始める。

・2024:D&D50周年。新版ルール(5.5版とも6版とも言われてる)に切り替わる予定。邦訳は現状の流れだと2年遅れかな。その前に5版のドラゴンランスサプリは出て欲しいけど、果たしてどうなるか。

 

アスト「大体、D&Dのオールドファンは、80年代の初邦訳およびRPGブームの時期か、90年代のコンピューターゲームを通じてハマっていて、後はマニアがコツコツとホビージャパンのルール&サプリを追っかけていたものの、21世紀に入ってからは、あまり世間の話題になることはなかったんだな」

 

カニコング「どうしてでごわすか?」

 

アスト「ルールが高いうえ、ホビージャパンがコアなマニア向けの商売を基軸にしていたから、とも今は言われているな。それに対して、WotCジャパン社はもっと広い層に向けての宣伝活動を強化しているように見える。少なくとも、今回の映画は作品自体の面白さもさることながら、D&Dに詳しくない一般層への反響が凄くて、『D&D? 何だかよく分からないけど、面白そう』とアクション映画ファン、異世界ファンタジーファンを引き込むことに成功しているように思える。後は、簡単なゲームガイドがあればいいんだが」

アスト「クラシックD&Dの時代と、4版の時代は『よくわかる本』ってガイドブックが出ていたんだが、5版の時代にはそんな物はなかったな」

 

ケイP『今の時代はネットで調べるッピ』

アスト「で、こう言っちゃ何だが、うちのブログも映画の効果か、D&D記事にいろいろと反応があって、だったら記事書きするのに良い頃合いってことで、盗賊語りをしようって話になったわけだ」

 

カニコング「1つ質問があるでごわす」

 

アスト「何だ?」

 

カニコング「映画の主人公エドガンは職業:吟遊詩人でごわしたが、身を持ち崩して盗賊になったとある。日本での宣伝では、彼の職業を盗賊としているが、吟遊詩人と盗賊に一体どういう関係があるのか確認したい」

 

TRPG吟遊詩人の起源

 

アスト「オリジナルD&Dで、盗賊は後から追加された職業だったんだが、吟遊詩人(バード)はアドバンストD&Dの追加職業として登場した。その際に、吟遊詩人は転職によってなることのできる上級職扱いだったんだ」

 

ケイP『最初は戦士、それから盗賊を経て、最後にドルイドとして修行をした者が、吟遊詩人になれるッピね』

 

カニコング「何と! それなら吾輩が正に吟遊詩人への転職コースを歩んでいるではごわさんか」

 

アスト「何? お前が吟遊詩人だと!? イメージが大きく違うんだが?」

 

カニコング「しかし、吾輩は元々、戦士。そして快盗団を経て、それから現在ドルイドの下で修行中。これは吾輩に吟遊詩人になれという天の啓示に違いあるまい」

 

アスト「それはアドバンストD&D1版の話で、今の時代の話ではないだろう。アドバンスト2版からは、吟遊詩人(バード)は盗賊(シーフ)と同じカテゴリーの悪漢(ローグ)というクラスにまとめられるようになり、その段階で『魔術師系の魔法の使える盗賊の亜種、交渉能力が高い』という個性が与えられた。1版のバードと2版以降のバードは随分と違う扱いなんだ」

 

ケイP『1版時代は、歴史上のドルイドの持つ「物語の語り部」としての役割を強調した職業がバードという扱いだったッピ。その後、TRPGの吟遊詩人からはドルイド色が薄れて、もっと広い意味での語り部、そして時に呪歌という魔法もどきの技を使える職業という印象が主流になっていったッピ』

 

カニコング「ドルイドは、野生の力を扱う僧侶系の亜種。一方で、吟遊詩人はもっと都会的で、交渉能力の高い洒落たシティボーイって感じでごわすな」

 

アスト「アドバンストD&Dが邦訳されたのは1991年で、バードとかレンジャーはクラシックD&Dしか知らないプレイヤーにとっては、憧れの上級職って感じだったんだな。で、1989年登場の旧ソード・ワールドでも冒険者技能として実装されたんだが、あくまで基本職から外れたおまけの能力といった感じだった。レンジャーは飛び道具と薬草の扱いに長け、バードは敵味方を巻き込む呪歌使いという扱いにくさ。決して主流とは言い難い特殊能力だ」

 

ケイP『ソード・ワールドのバード技能は、グラスランナーとセットで考えられがちだッピ』

 

アスト「グラスランナーはMPがなくて魔法が使えないのに精神力が高い、という能力設定のために、MPを消費しない呪歌とは相性がいいんだな。おまけに呪歌の敵味方を巻き込む迷惑さがグラスランナーのトラブルメーカー気質と噛み合ううえ、フォーセリア最初のグラスランナーキャラであるロードス第2部のマール(最初はD&Dのハーフリング設定)が何かと歌を歌うキャラという個性付けをリプレイで提示されたからなあ」

 

ケイP『別に本家のD&Dでは、ハーフリングの吟遊詩人なんてキャラは定着していないッピが、小人の詩人ってのは日本独自のキャラ性だッピね』

 

カニコング「しかし、小人の歌手ってキャライメージは、本邦ではこれが伝統でごわす」

アスト「小美人は、TRPG的には小人というよりもフェアリー的な妖精のイメージだからな。アドバンストD&D時代では、吟遊詩人になれるのは人間かハーフエルフのみだったし、3版以降は吟遊詩人の門戸が広く他の種族に解放されたが、それ以前は意外と自由度の少ないシステムだったんだよな」

 

カニコング「モスラの小美人は、自然の声を伝達する巫女的な役回りもあって、一種のドルイド的なキャラと言えるでごわす。すると、小美人はアドバンストD&D1版時代の吟遊詩人に相当すると言えまいか?」

 

アスト「一理あるが、彼女たちには戦士としての能力がないだろうが。D&Dとは関係ないキャラを、無理やりD&D解釈するというのはどうかな」

 

カニコング「だったら、今の時代ならD&Dで小美人を再現することもできるのでは?」

 

ケイP『種族は先日出たウィッチライトのフェアリーが使えそうだッピね。フェアリーのバードで、背景情報を隠者か侍祭にすれば、小美人っぽいキャラを作れるッピ』

 

アスト「吟遊詩人は、歌と物語、そして人間社会との交渉や、自然および超自然との交信能力などで、冒険を彩るキャラクターだな。非常にエモーショナルな役どころだが、一度、話を戻して、クラシックD&Dの盗賊を掘り下げよう」

 

盗賊の進化

 

アスト「オリジナルD&Dでは基本職でなかった盗賊(シーフ)だが、3年後の2版ベーシックで基本4職に組み込まれることになる。それには、D&Dが迷宮に入って宝探しをするゲームだったというのが大きい」

 

カニコング「戦士は戦いの専門家であるのに対し、盗賊は宝探しの専門家でごわすな」

 

アスト「D&Dのシステムは元々、近代戦の戦場を再現するウォーゲームのルールの派生版だ。戦士は装甲に身を固めて敵陣に突撃し、魔法使いは強力な火砲で支援射撃をし、僧侶は医療に従事する衛生兵の役どころ。その中に盗賊の居場所はなかったんだ」

 

カニコング「偵察兵などが務まるのではないか?」

 

アスト「戦闘に突入する前ならな。役割分担で言えば、狙撃兵とかも務まるかもしれんが、元のルールが戦場での武力衝突を表現したシステムに、後付けで迷宮探検ルールを継ぎ足して行ったために、戦闘よりも探索の方が楽しいということも後から見えて来る。当初は『珍しいファンタジー世界でモンスター退治を楽しむバトルゲーム』だったのが、『迷宮を探索して、危険を突破して、お宝ゲットを楽しむゲーム』に発展する。剣と魔法のファンタジー世界の定番フレーズに、宝探しの冒険という動機部分が加わり、それを象徴する役回りを果たしたのが盗賊ってことになる」

 

ケイP『戦闘だけを考えるなら、盗賊はいらない。だけど、戦闘以外の特殊作業を担当する専門家が盗賊だッピね』

 

アスト「で、戦闘ルールは20面ダイスで高い目を出したらいいのに対し、盗賊の特殊行動は%判定で低い目を出したらいい、というチグハグさが、旧世紀の間はずっと続いたんだな。後からどんどん付け足したルールのため、整合性というものがなっちゃいないんだが、そういうカオスなところも発展著しいD&Dの魅力ということで、未開の荒野をどんどん開拓していく。整合性というものは、後から付いて来る連中に任せて、とにかく新要素をどんどん導入する。これがまあ80年代までの流れで、80年代の後半辺りから、とっ散らかったシステムの整理を試みたのがアドバンスト2版ってことになる」

 

カニコング「盗賊関連のルールは、後付けということは分かったでごわす」

 

アスト「クラシックD&Dで、最初に盗賊に与えられた能力は以下の8種類」

 

  1. オープンロック(鍵開け)15%
  2. ファインドラップ(罠発見)10%
  3. リムーブトラップ(罠解除)10%
  4. ピックポケット(スリ)20%
  5. ムーブサイレントリー(忍び歩き)20%
  6. クライムウォール(壁登り)87%
  7. ハイドインシャドー(隠れ身)10%
  8. ヒアノイズ(聞き耳)30%

 

カニコング「壁登り以外は心許ない成功率でごわすな」

 

アスト「レベル1だと、そういうものだ。なお、クラシックD&Dではハーフリングの潜伏能力が優秀で、野外では見つかる可能性が10%(つまり潜伏成功率90%)、またダンジョン内でも3分の1(6面ダイスで1、2)で成功する。ハーフリングがバックスタブ(背後からの奇襲でダメージ2倍)を持っていればいいのに、と何度思ったことか」

 

ケイP『クラシックD&Dでは、ハーフリングの盗賊っていうように種族と職業を組み合わせることはできなかったッピね』

 

アスト「AD&Dでは、ハーフリングの盗賊のムーブサイレントリーは+10%、ハイドインシャドーは+15%のボーナスが与えられているな。ただし、木登りなんかは下手でクライムウォールがマイナス15%だが」

 

カニコング「それにしても、野外では%ロールで判定し、ダンジョン内では6面ダイスで判定するなど、確かにルールの整合性が噛み合っていないでごわすな」

 

アスト「なお、ドワーフやエルフもダンジョン内の大掛かりな仕掛けや隠し扉を発見する能力をそれぞれ持っているが、6面ダイスで1、2で成功する。基本的にダンジョン内での特殊判定は%ロールでなく、6面ダイスで◯以下って判定方法を使っていたのだと思う。%ロールが後付けで実装された感じだな。シーフ以外の聞き耳判定も基本は6分の1で成功だし、耳のいいデミヒューマンは2以下で成功。シーフだけが%ロールで、レベルアップと共に成功率を伸ばしていける」

 

カニコング「最終的にはどうなるでごわすか?」

 

アスト「クラシックD&Dの最終レベルは36だが、一般に一人前と見なされるのは、レベル9から後(ネームレベルと呼称)で、それぐらいでクライムウォール以外の成功率がほぼ半々、エキスパート最高の14レベルで7割前後といったところか。ハイドインシャドーの成長伸び率が低く、14レベルでも50%越えぐらいだが、これはまあ、バックスタブの成功率みたいなものだからな」

 

カニコング「バックスタブという奇襲攻撃が、シーフを強力なアタッカーにしてくれるみたいでごわすが?」

 

アスト「クラシックD&D時代のバックスタブは、たかだか2倍ダメージなので大したことはない。AD&Dの方で、レベル5以上で3倍、レベル9以上で4倍、レベル13以上で5倍ダメージという数値になって一撃必殺感が増すが、そのための手間が大変だ」

 

ケイP『まず、ハイドインシャドーを成功させる。それから次のラウンドに、ムーブサイレントリーを成功させて、初めて奇襲成功だッピね』

 

アスト「厳密に裁定するなら、初期で2%、レベル14で30%ぐらいしか成功率がない。いわゆるバックスタブを成功させることがロマンの領域だな」

 

ケイP『なお、当時、必殺仕事人にハマっていたマスターNOVA周辺では、ハイドインシャドー&ムーブサイレントリーのコンボの他に、クライムウォールでダンジョンの扉の上の死角の壁に登り、ファイターが扉を開けて、出て来たオークとかのザコ兵士を頭上から飛び降りてきたシーフが急所一突きという暗殺ルールを採用していたッピ』

 

アスト「潜伏判定なしでか?」

 

ケイP『普通の敵は、扉を開けた頭上から伏兵が飛び降りて来るなんて考えもしないッピ。なお、マスターNOVAも他のDMの元でシーフを担当して、同じアクションを試みたら、ハイドインシャドーを要求されて、仕方なくダイスを振ったら上手く成功したので、その瞬間はヒーローになれたって思い出があるッピ』

 

アスト「確率の低いギャンブルで運よく当てたら、そういう喜びは大きいものがあるな」

 

ケイP『問題はダメージダイスが低くて、D8の出目が3で微妙に相手を倒し損ねたことだッピね。筋力ボーナスのないキャラだったので、6点ダメージしか与えられず、その後、攻撃したファイターが普通に8点ダメージを与えて撃退』

 

シーフ(NOVA)『すまない。仕留め損ねた』

 

仲間のファイター『いいってことよ。上手く連携できたおかげで倒せた。アシストあってこそだ』

 

アスト「やはり仲間とのコンビプレイがあった方が、盛り上がるな」

 

ケイP『3版以降の挟撃ルールは、そういうシチュエーションを演出するためのシステムで、これさえあれば、わざわざ壁に登って敵が来るのを待ち伏せしなくても、盗賊の奇襲攻撃を活用しやすくなったッピね』

 

カニコング「しかし、盗賊は打たれ弱いゆえ、奇襲攻撃が失敗した時のリスクが大きいではごわさんか」

 

アスト「盗賊のHPは魔法使い並みのD4で、鎧はAC7の革鎧と敏捷性ボーナスで2ぐらい良くなってAC5。大体、チェーンメール相当か」

 

ケイP『ファイター、クレリック、その他デミヒューマンはAC3のプレートメールを装備できて、盾のボーナス1も合わせてAC2が普通。つまり、盗賊よりも15%ぐらい防御力が高いッピね』

 

カニコング「昔はACが低い方が良かったでごわすな」

 

アスト「3版以降はAC10を基準に加算されるようになったからな。今の基準だと盗賊のACは15で、重装戦士のACは18。敵の攻撃ボーナスとD20の出目を足してAC以上なら命中と、分かりやすくなったシステムだ。昔のルールは、簡単に言うなら相手のACと自分の出目(および修正値)を加えて20なら命中というシステムだった。AC0に命中(To Hit)させる出目(THAC0)を事前算出するなり、初心者は命中表を見るなりしながらプレイしていたものだ」

 

ケイP『出目12。THAC0が16だからAC4まで命中……って感じだッピね』

 

アスト「それだと盗賊には当たって、戦士には当たらないってことだが、算出に引き算が入るのがプレイアビリティーを下げていたんだな。今だと、THAC0が16ってことは攻撃ボーナス+4相当だから、出目12だと4足して16。AC16以下なら命中となって、初心者にも感覚的に分かりやすい」

 

カニコング「やはり、防御力が高いほどACの数値が低くなるってのが、感覚的に分かりにくいと思うぞ」

 

アスト「旧世紀のD&Dが穴ボコだらけの不完全なシステムだったから、逆にインスパイアされたゲームデザイナーがもっと良いもの(整合性とか、リアリティーとか、より刺激に満ちた世界観とか、D&D未開拓のジャンルとか)をあれこれ考える余地があったんだな。おかげで80年代から90年代に多種多様なTRPGシステムが誕生し、関連業界を大いに活性化させた」

 

ケイP『そしてゲームのシステムだけでなく、物語の世界観を膨らませる土台にもなって行ったッピね』

 

物語の素材や蘊蓄資料としての発展

 

アスト「戦士を突き詰めると、各種武器のデータとか、防具との相性、古代から現代までの戦場の歴史とか、王と諸侯の関係性も含めて統治の知識が浮き彫りにされる。魔法使いだったら、魔法文明をどのように描くかの想像力だな。僧侶だったら、キリスト教文化の神と悪魔の知識に始まり、多神教の神話とか精霊、土俗信仰との文化論を掘り下げられる。そして、盗賊は世俗の裏社会や町人の暮らしなどを考察する材料になる」

 

カニコング「戦士が権力者に近づく上昇志向を意識しているのに対し、盗賊はレベルアップすればするほど影の世界に近づくのがクラシックD&Dでごわすな」

 

アスト「職業ごとのゴールが明確だもんな。戦士は城を築いて、騎士や王侯を目指す。魔法使いは塔を建てて、自らの魔法を研鑽しつつ、弟子を育成する。僧侶は教会組織の中で出世する。盗賊はギルドの長として裏社会の顔役になる。それ以外だと、永遠の旅人として冒険のネタを求めて、ひたすら放浪するのもあり……というのがコンパニオンルールで……」

 

ケイP『マスタールールに入ると、神々(イモータル)への道が示されるッピね』

 

アスト「一介の冒険者→英雄→領主や権力者、もしくは永遠の旅人→現世を超えて神への道という壮大なキャンペーンが示され、それと同じような経緯をキン肉マンがたどっているのもフィクション史的に楽しい」

 

カニコング「キン肉マンはD&Dでごわしたか」

 

アスト「スーパーヒーローを目指すダメ超人が、実は王子だったという出生の秘密を知り、僥倖で超人オリンピックに優勝するも、多くのライバルと知り合う中で、改めて師匠と出会い、真の実力を高めて死闘の末に正義超人の代表格に上り詰める。その後、悪魔超人との戦いを通じて、異世界への入り口や、自分の王家の秘密を知る流れになり、神の系譜につながる完璧超人や王位争奪戦を経て、ついに王になる。ここまでがエキスパートルールからコンパニオンルールに至る過程だな」

 

カニコング「で、今はマスタールールの戦い(神の世界への誘い)が行われている?」

 

アスト「一方、星矢はまあ、最初から神の代理戦士として定義されているため、クラシックD&D的ではないのだが、受肉した神々の地上の平和と覇権をかけた戦いはAD&D1版から2版に移る過程のフォーゴトン・レルム的というか、ある意味、ギリシャ神話の英雄伝説イリアスとか)を現代風に蘇らせた感はある」

 

ケイP『ドラゴンボールも神さまが登場しているッピ』

 

アスト「あっちは東洋的というか、神さまが絶対的な存在じゃなくて、通過点の一つでしかなくて、神の起源が宇宙人とか、それより強い人造人間とか、バイオ生物とか、昔話風のファンタジーからSF世界にシフトしていったな。まあ、近年の『超』以降は、また本当の神とか、上位神が出て来て、世界の構造が螺旋状に『神→外宇宙の多元世界→また科学』とローテーション的に繰り返す形で、もはや新鮮味を感じなくなっているが。最初の宝探しアドベンチャーの方が、オレの好みだな」

 

カニコング「物語の世界構造を考える上での参考文献にも使えるでごわすな、D&Dは」

 

アスト「ジョジョはどうだかな。神父が出て来て、天国がどうこう言って、世界が刷新されたが、これはゲームシステムの版上げに近い物語と思うな。第3部でスタンドルールを導入して、人間VS怪物から超能力者同士の死闘にテーマが移り、世界旅行、ご町内の事件解決、マフィアの暗闘、監獄生活と家族愛と世界改編劇、と物語構成が次々と切り替わっていく。D&Dで説明するのは難しい素材だ」

 

カニコング「D&Dと言えば、よりストレートに影響を与えたBASTARDはどうでごわすか?」

 

アスト「BASTARDはD&Dから素材ネタを引き写しはしたが、世界観は自己流のごった煮ファンタジーだからな。大魔法使いと邪神復活という大風呂敷を広げて、派手な演出を売りにしたのはいいが、世界構造がただのバトルの背景という感じで、主人公周り以外の権力者(王とか大臣連中とか)がモブ化していて、深みがない。まあ、エログロ満載のバトル漫画だから背景はテキトーなフレーバーでいいのかもしれないが、あれを元に小説文章化しようと思えば、基盤となる土台を自分でしっかり構築しないと、底の浅い薄っぺらなものにしかならないと思う」

 

カニコング「ずいぶんと辛口批評でごわすな」

 

アスト「BASTARDは、当時のD&Dから大きく影響を受けたが、作品内容はD&Dが本国で批判の的になって、否定しながら神経過敏になって行った方向に無遠慮に突き進んで行ったからな」

 

カニコング「どういうことでごわすか?」

 

アスト「80年代のD&Dは、『暴力的で、頽廃的で、反宗教的な悪魔のゲーム』の風評を払拭しようと懸命だった一面がある。だけど、日本のBASTARDは思いきり、そういう方向に突き進んでいたからな。有名な『ビホルダー鈴木土下座衛門騒動』がなくとも、いずれ内容面でTSRの逆鱗に触れた可能性は大きい」

 

ケイP『TRPGという遊びが「健全な想像力や創造力を掻き立て、チームプレイの大切さをゲームの物語を通じて学習することができ、歴史文化への興味や勧善懲悪の倫理観などを推奨する」というのは、D&Dの宣伝文句にもなっているッピね』

 

アスト「元々は、そんなゲームじゃなかったけどな。『武装した野蛮な無頼漢が、モンスターだらけの暗い洞窟に踏み込んで、お宝を略奪するハック&スラッシュな暴力ゲーム』とか、『黒魔術や異教信仰を推奨し、現実を顧みなくさせるカルト宗教じみた集まり』とか、風評被害も大きく、新しい若者文化が世間の理解を得るための熟成期間がそれなりに必要だったんだ」

 

ケイP『80年代のD&D公式展開は、「新たな神話や英雄伝説の創造と、ワクワクする冒険物語を体験する画期的なゲーム」を目指していたッピね』

 

アスト「善人にも、悪漢にもなれるゲームなんだけど、クラシックD&Dやアドバンスト2版は意識的に悪の要素を基本ルールから削って行った面があるな。暗殺者のアサシンや悪の種族と言われた粗暴なハーフオークを除外して、お行儀のいい知的遊戯への脱皮を図ろうとした形跡がある。最も悪人と思われがちな職業のシーフでも、ロビンフッドの物語やアラビアンナイトのアリババの物語を例に挙げて、プレイヤーキャラの盗賊は義賊的なキャラクターとして扱っている」

 

カニコング「善人でも、悪人でも自由に演じれるゲームから、『プレイヤーキャラは善人もしくは中立推奨』とルールブックに明記するようになったでごわすな」

 

アスト「もちろん、ダンジョンマスターの側は悪キャラも作ったり、使わないといけないので、そういう制約の限りではないんだが」

 

リモートNOVA『ところで、そろそろ文字数が1万字越えなんだが、そろそろ話を終えないか?』

 

アスト「ううっ。まだまだ話のネタはいろいろあるので、続きを語ってもいいか?」

 

リモートNOVA『語りたければ、どうぞ、と言っておくが、一つツッコミ点がある』

 

アスト「何だ?」

 

リモートNOVA『ロビンフッドは確かに義賊だが、アリババは盗賊ではないぞ。確かに「アリババと40人の盗賊」という物語はあるが、実際には「アリババVS40人の盗賊」って内容で、要は盗賊団の隠れ家からお宝を盗み出した善人アリババが、復讐しようとする盗賊団を(主に従僕娘の機転で)運よく返り討ちにするような話で、アリババ自身は泥棒ではない』

 

アスト「盗賊団から宝を盗んだのは泥棒ではないのか?」

 

リモートNOVA『殺し屋を運よく殺してしまった善人は、殺し屋と呼ぶべきなんだろうか。いや、人殺しであっても職業としての殺し屋ではないと思うので、盗賊の隠しているお宝をゲットしたのは、職業としての盗賊ではないと俺は考えるがな』

 

アスト「つまり、アドバンストD&D2版に書かれたシーフの例に挙げられているアリババはミスだと?」

 

リモートNOVA『購入してから30年めを過ぎて、今さらながら、そういうミスに気づいてしまうとは思わなかったぜ。きっと、ルールの書き手が「アリババと40人の盗賊」というタイトルから、アリババが盗賊団の首領と勘違いした可能性が高い』

 

アスト「とにかく、D&Dのルールブックには物語蘊蓄の題材が昔からいろいろ込められていたってことだな」

 

リモートNOVA『そりゃあ、D&Dとかウルティマとかをプレイしてなければ、ケルトの神話とかに興味を持って調べることもなかったろうしな。AD&D2版のルールブックに、この職業クラスの元ネタは史実や神話伝承の◯◯に由来するなんて書かれていて、改めてこの時期のTSRは知的遊戯への誘いを目指していたんだなって分かる次第だ』

 

カニコング「しかし、盗賊の話からは大きく逸脱してしまったでごわすな」

 

アスト「まあ、歴史伝承や物語について考えるのは、吟遊詩人の仕事だからな。そこまで逸脱していないんじゃないか」

(当記事 完)